狂犬と消失少年   作:火の車

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湊友希那

 心臓が動き過ぎて逆に止まりそうだ。

 

 なんせ、今から左目を見られた湊友希那の前に行くのだ。

 

 親の事、この間の店員の事を考えると、呼吸がしずらくなる。

 

チュチュ「__あ!湊友希那!」

陽介(......なんか、嬉しそうだな。)

 

 チュチュは嫌いと言ってたが、絶対にこれは好きだな。

 

チュチュ「止まりなさい!ロゼリア!」

友希那「あなたは、RASの?」

パレオ「はい!チュチュ様とパレオです~!」

紗夜「何の用ですか?また、ぶっ潰すですか?」

あこ「え!?こわっ!?」

燐子「だ、大丈夫だよ......」

チュチュ「今日は私が直々に挨拶に来たのよ!」

 

 チュチュは物凄いどや顔でそう言った。

 

友希那「挨拶?わざわざありがとう。」

チュチュ「ふふん!もっと感謝しなさい!」

リサ「あはは~、ありがとね~。」

 

 てか、すごいな。

 

 さっきまでライブをしてたバンドが目の前でそろい踏みしてる。

 

友希那「それと、後ろの彼はあなた達の仲間かしら?」

陽介「!」

 

 まぁ、気付きますよね。

 

 流石に無視するは駄目だし、俺も挨拶しとこ。

 

陽介「はじめまして。出水陽介です。」

チュチュ「私のもう一人の従者よ!」

陽介「......居候です。」

友希那「あなた、その眼帯......」

陽介「......」

 

 流石に気付くよな。

 

 前は眼帯がなかったにしても、この辺りで左目に眼帯をつけた男なんて一体、何人いるんだろう。

 

友希那「あなた、あの時の?」

陽介「人違い、って言っても通じないですよね。」

友希那「えぇ。だって。」

 

 湊友希那は持っていたカバンから俺が今つけてるのと同じ眼帯を出した。

 

陽介「な、なんで!?」

友希那「この前ぶつかった時、あなたから落ちたの。」

陽介「まさか。」

 

 そんなところにあるなんて。

 

 あの時は焦りすぎて周りが見えてなかったのか。

 

友希那「これは一応、返しておくわ。」

 

 湊友希那は俺の方に近づいてきた。

 

陽介「っ......」

 

 後ずさってしまう。

 

 近くに人が来るのが怖い。

 

 俺を近くで見て、気味悪そうな顔をするのを想像するのも怖い。

 

友希那「なんで逃げるの?」

陽介「それは......」

紗夜「さっきから失礼ではありませんか?目も合わせませんし、その上、落とし物を拾ってもらった相手から逃げるなんて。」

陽介「そ、それは......」

 

 呼吸が上手くできない、冷や汗も止まらない。

 

 視界もグラグラしてきた。

 

チュチュ「ちょっと、やめなさい!」

陽介「ちゅ、チュチュ......?」

 

 庇うみたいに、チュチュが俺の前に立ってる。

 

リサ「これは、訳アリってかんじだね。」

紗夜「ですが、これは......?」

パレオ「ようさん、大丈夫ですか?」

陽介「だ、大丈夫。ありがとう。」

 

 呼吸が戻ってきた。

 

チュチュ「陽介は、私たち以外とはほとんど話せないの。あまり近づかないであげて。」

あこ「話せないって?」

チュチュ「......あまり、話すことじゃないわ。」

 

 チュチュは気を使ってか、俺の事を話そうとしない。

 

 パレオもだ。

 

友希那「あなた、陽介と言ったかしら?」

陽介「は、はい......」

 

 湊友希那は俺に近づいてきた。

 

陽介「っ!!」

友希那「落ち着いて。大丈夫よ。」

 

 彼女は優しい声でそう言った。

 

 元々、声が綺麗なのも相まってすごく、落ち着く感じがする。

 

友希那「恐らくだけれど、人が怖いのは、その左目からよね?」

陽介「......はい。」

友希那「大丈夫。私はあなたの目を気味悪がったりしていないわよ。」

陽介「!」

 

 彼女は俺の頭に手を乗せて、撫で始めた。

 

友希那「大丈夫、大丈夫。」

陽介「......」

 

 なんでだろう。

 

 普通だったら、こんな距離、絶対に耐えられないのに。

 

 逆に安心感が生まれてくる。

 

友希那(恐らくだけれど、この子は......)

 

 彼女は慈愛に満ちた目をしてる。

 

 その目はまるで......

 

チュチュ「陽介!?」

パレオ「どこか痛いんですか!?」

陽介「いや、痛くない。」

チュチュ「じゃあ、なんで泣いてるの!」

陽介「?」

 

 俺は自分の頬を触った。

 

 濡れてる?

 

陽介「......雨か?」

チュチュ「いや、涙よ。」

友希那「ふふっ。」

陽介「?」

友希那「面白いわね、つい、笑ってしまったわ。」

 

 彼女はそう言うと、仲間の方に戻って行った。

 

友希那「眼帯は返したわね?」

陽介「はい。ありがとうございました。」

友希那「それじゃあ、また会いましょう、陽介。」

陽介「機会があれば。」

友希那「また、そこの二人についてライブに来るといいわよ。それじゃあ、また。」

 

 彼女は少し笑ってそう言った後、仲間と帰って行った。

 

 俺はその背中を茫然と見ていた。

 

チュチュ「だ、大丈夫なの?」

陽介「あぁ......」

パレオ「彼女がロゼリアの湊友希那様ですが、いかがでしたか?」

陽介「不思議な人、だった。」

 

 近くに来ても、不快感がまるでなかった。

 

チュチュ「湊友希那は平気だったの?」

陽介「あぁ。」

チュチュ「......そう。」

 

 チュチュは少し複雑そうな顔をした。

 

 どうしたんだろう。

 

チュチュ「今日は帰りましょ。」

パレオ「はい!」

陽介「分かった。」

 

 俺たちはチュチュの家に帰って行った。

__________________

 

 ”ロゼリア”

 

リサ「__それにしても、不思議な子だったね~。」

 

 帰り道、リサはそう口を開いた。

 

 陽介の事だ。

 

紗夜「それにしても、あの態度は何だったのでしょうか?」

あこ「うーん。りんりんみたいに人見知りとか?」

燐子「す、少し違うかも......あれは本当に怖がってたような......」

友希那「気付いていないの?」

リサ「え?」

 

 友希那の意外な発言にリサを始めとしたメンバーは驚いた声を上げた。

 

紗夜「どういう事ですか?」

友希那「多分、彼は対人恐怖症よ。」

燐子「対人、恐怖症......?」

友希那「えぇ。この間ぶつかった時、彼はひどく慌てていたわ。多分、自分が怖がられてると思ってるのよ。そして。」

燐子「......?」

友希那「......彼、多分、親がいないわ。」

リサ、紗夜、あこ、燐子「!?」

 

 友希那の一言に他のメンバーの肩が跳ねた。

 

 親がいないというのは、普通の感覚ではありえないからだ。

 

友希那「居候って言っていたでしょう?あくまで想像なのだけれど。」

リサ「じゃあ、対人恐怖症だとしてもさ、なんで友希那は大丈夫だったの?」

紗夜「そうです。私なんて話しかけただけで怖がられましたし。」

燐子「それは、氷川さんが......悪いです。」

紗夜「え?」

あこ「あれは紗夜さんが怖かったですね。」

紗夜「......」

 

 紗夜は黙り込んでしまった。

 

友希那「......なんでかしら?」

あこ「友希那さんの不思議な力、とか?」

友希那「ありえないわ。」

燐子「でも、さっきの友希那さんは......とても、優しく感じました。」

リサ「分かる分かる!もしかして友希那、一目ぼれした?」

友希那「違うわよ......」

 

 友希那はため息をつきながら、否定の言葉を口にした。

 

友希那「ただ......」

 

 友希那は目をつぶった。

 

友希那(あんなに、おびえた顔をした人間を初めてみて、可哀想に思った。)

リサ「友希那?」

友希那「......なんでもないわ。」

 

 そう言って友希那は歩きだした。

 

友希那(もう一度、会う事があれば......)

 

 友希那はそう思いながら、歩いた。

 

 ”二人”

 

友希那(出水陽介。)

陽介(湊友希那。)

 

陽介、友希那『__彼女(彼)は一体何だったんだ?(のかしら?)』

 

 この出来事から、陽介の運命の歯車はゆっくりと動き出していった。

 

 良い方にも、悪い方にも......




”今回の友希那”

リサ「ねぇ、紗夜ー?」

紗夜「はい?」

リサ「今回の友希那の事なんだけどさ。」

紗夜「はい?」

リサ「なんか、母性を感じたんだよね。」

紗夜「母性?」

リサ「何となくだけど。」

紗夜「......そう言えば。」

リサ「だよね!」

紗夜「ですが、湊さんが?」

リサ「友希那も女の子なんだよ!」

紗夜(それはそうですが。じゃあ、それを引き出した彼は一体?)
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