いつの間にかハイスクールD×Dの木場君?   作:ユキアン

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第16話

 

二人から預かった戦闘服に術式を刻み込んでいきながら、聖剣の位置を確認していると、どうやら一カ所に合流してから何処かを目指しているみたいです。多少気にしながら作業を進めていき、二人分が完成した所で聖剣使い達が何処を目指していたのかが分かる。

 

 

 

駒王学園。

なんでそこに行くのかな。また部長達が面倒な事をしてないと良いんだけど。

寝ている二人を起こして戦闘服に着替える様に指示を出す。ルゥには教会の守護を頼む。もしかするとここに襲撃を仕掛けてくる可能性があるからだ。

準備が終わった二人と共に駒王学園の傍まで転移する。

 

 

 

 

 

学園の傍に転移すると、既に結界で覆われていて校門の所に会長達がいた。

 

「会長」

 

「木場君ですか。そちらがリアスの言っていた教会からの?」

 

「そうです。状況はどうなっています」

 

「報告にあったコカビエル一派がグラウンドで何かの儀式を始めています。その影響が周囲に出始めていたので今は私の眷属達で結界を張っています」

 

「部長達は?」

 

「それが、直前にリアスが釣りを行われて、そのまま眷属達と共に交戦に入ってしまいました」

 

くっ、明らかに狙われていたみたいですね。それにしても他の眷属に連絡する余裕はあるのに僕には一言も無しですか。まったく、上からの命令にも従えないとは。

 

「魔王様達に救援は?」

 

「既におね、セラフォルー・レヴィアタン様に。リアスの方もサーゼクス・ルシファー様に行っているはずです」

 

「分かりました。それでは会長達はこのまま結界の維持をお願いします。それからこの魔剣を。持っていれば魔力にブーストを行ってくれます」

 

「ありがとうございます。シトリーの名に賭けて結界は維持してみせます」

 

「頼みます。ゼノヴィアさん、紫藤さん、行きますよ」

 

「「はい」」

 

一時的に結界に穴を開けてもらい、学園に侵入する。そのまま一直線にグラウンドに向かうとケルベロスと同年代のエクソシスト達に部長達が追いつめられていました。まったく、世話の焼ける人です。

 

今にも部長を喰い殺そうとするケルベロスの体内に魔剣を産み出し、そのまま壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)で爆殺します。

 

「まったく何をしているんですか」

 

「祐斗!?」

 

「「「「「祐斗さん!!」」」」」

 

「木場、来てくれたのか」

 

「何かあれば連絡する様に言っていたでしょう。それから、上から目障りなんですよ、コカビエル。ただ生き延びただけの堕天使風情が」

 

体内の重力制御の魔剣に魔力を通して大導師の重力結界っぽい物を発動させてコカビエルを地面に叩き付ける。

 

「くっ、これは!?」

 

「ゼノヴィアさん、紫藤さんはコカビエルを。一定以上の高さには飛ばしませんが援護はしませんよ。二人で出来る所までやってください。ただし、命は大事にして下さいよ。生きていればいくらでも治療してあげますから」

 

「「はい」」

 

二人が聖剣を抜き放ち、地面に叩き付けられたコカビエルと交戦に入る。

さて、僕は聖剣の方をどうにかしましょうか。

 

「バルパー・ガリレイ、貴方には聖剣強奪の容疑がかかっている。抵抗する様なら排除せよともね」

 

「来たか、贋作者(フェイカー)よ。聖剣を穢し者よ!!」

 

贋作者(フェイカー)?」

 

贋作者(フェイカー)という呼び名に首を傾げていると、はぐれエクソシスト達が今まで使っていた量産型の光剣を捨てて、神器を取り出す。その姿を見て、先日から疑問に思っていた事の答えが見つかりました。

 

「そうか。何処かで見た覚えがあるはずだ。あの日、僕と一緒に集められていた子達か」

 

あの日、僅かな時間しか会っていなかったので今の今まで分からなかった。

 

「そうだ。私の聖剣計画の為に集められた者達だ。だが貴様が、贋作者(フェイカー)が贋作を量産した事で行き場を失った者達だ!!」

 

「行き場を、失った?」

 

「そうだ。貴様が贋作をバラまいたおかげで、私の研究も彼らの神器も不要と見なされたのだ。所有者を選ばず、消耗品として切り捨てる事すら許される貴様の贋作のおかげで我らの夢と誇りは穢された!!」

 

「僕らは主から与えられた神器を誇りに思っていた。なのに、お前が作る贋作が、僕らの誇りが使い捨てにされるのを、僕らはずっと耐えなければならなかった」

 

「その果てには使い勝手が悪いからと貴様の贋作を支給される始末」

 

「だからこそ我らは貴様を教会から追放した。そして貴様の贋作を危険だからと全て処分した。そして穢された聖剣を再び取り戻す為に、我らは行動を起こした。聖剣(エクスカリバー)を束ね、絶対的な力を見せつける為に」

 

それなのに僕の作った聖剣(エクスカリバー)も持ち出しているのは何故なのでしょうね?他にも疑問はあるのでそちらの方を先に尋ねましょう。

 

「だが所有者を選ぶ聖剣(エクスカリバー)が使い難いというのもまた事実だ。それをどうするつもりだ」

 

「その点は既に解決している。聖剣(エクスカリバー)を扱うには特定の因子が必要なのだ。だが、その因子も一定以下を持つ者しかいない。稀にあのゼノヴィアの様な者もいるがな。だが、私は思いついた。一定以下の因子しかないのならそれを抽出して纏める事が出来ないのかを。そして私はそれに成功した。最初期には志願者が殉死したが今ではそのような事もなく因子を取り出す事が出来る様になった」

 

「なるほどね。それで後は絶対的な力を持った聖剣(エクスカリバー)を用意して、聖剣の穢れを落とそうと考えているのか」

 

「そうだ。貴様さえいなければ、このような事をせずに済んだ物を!!」

 

「なるほどね。それはすまなかった」

 

僕が周囲の事を気にしていなかった所為で彼らはこうして行動してしまった。それは僕の責任でもある。

 

「……貴様、何処まで我らを馬鹿にする!!」

 

謝罪が気に喰わなかったのか、全員が激怒して僕に襲いかかってくる。なら、その怒りを受け止めるのが僕の贖罪だろう。

無限の剣製を使わずに、光剣を展開してエクソシスト達と斬り結び、命に関わらない攻撃をその身に刻み続けていきます。

 

「祐斗、今援護を」

 

「必要無いです。僕が死ぬまで手出しは無用です。自分の身を守る事だけ考えていて下さい」

 

部長達が援護をしようとしますが、それを聖剣による結界で止めます。これは僕への罰なのですから。気が済むまで、お相手いたしますよ。

 

 

 

戦いは苛烈さを増していき、まず右腕を切り落とされ、次に左目を潰され、左足、右足を切り落とされ、体中に光剣を突き刺され、突き倒される。

 

「ふははははは、所詮はこの程度の存在だったのだ。聖剣(エクスカリバー)の統合も丁度終わったわ。私自らの手で葬ってくれる!!」

 

バルパーが3本の聖剣(エクスカリバー)を束ねた物で地面に転がっている僕の心臓を貫く。

 

「ついにやったぞ!!これで聖剣は真の輝きを取り戻す事になる。皆も喜べ!!我らの誇りは今この手に戻ったぞ!!」

 

そうですか。それは良かった。これで僕は彼らから許しを得た事になりますね。まあ、一応聞いておきましょう。勘違いだと困りますからね。

 

「満足した様ですね」

 

「ああ、これであの二人を殺し、さらに聖剣(エクスカリバー)を鍛えれば……」

 

「どうかしましたか?」

 

バルパーが僕を見下ろしながら、顔を驚愕に染めていき、後ろに下がっていきます。その隙に、擬態の魔剣(エクスカリバー・ミミック)を左腕に産み出し、切り落とされた四肢を回収して魔剣で繋ぎ止め、自然治癒強化の魔剣と治癒系の魔剣に魔力を注ぎ込み、身体を修復します。

 

「……化け物」

 

誰が言ったのかは分かりませんが、それが僕を見ていた人の総意でしょう。

 

「僕は自分の罪を償っていただけですよ。満足されたのでしょう。ここからは僕の番ですよ。等しく、神の元に送って差し上げましょう。まずはその聖剣(エクスカリバー)からです」

 

「皆の者、私を守れ!!」

 

今まで散っていたエクソシスト達が集り、バルパーの前で盾の様に神器を構える。

 

「さて、とりあえず色々と聞きたい事があるんですが、とりあえず一点。先程の儀式、聖剣(エクスカリバー)を束ねるというのは素晴らしいと思いますけど材料の把握は出来ているんですか?」

 

「ふん、当たり前だろうが。天閃に夢幻、そして大戦中に失われていたとされていたが天界に保管されていた支配。本来ならここに透明も入るはずだったのだがな」

 

「ああ、なるほど。そこから勘違いしてましたか。残念ですが、三本目は僕が昔作った約束された勝利の剣(エクスカリバー)ですよ。支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)は未だに行方不明ですよ」

 

「なっ、そんな馬鹿な!?この聖剣も穢されているだと!?」

 

「まあそういうことですね。ちゃんと調べないからそうなるんですよ」

 

いくら魔力や光力を注ぎ込もうが肉体強化などの補正が入らない時点で気付くと思うのですがね。

 

「それじゃあ、さくっと終わらせてもらいましょうか」

 

「先程まで手も足も出なかった貴様に負けはせん!!」

 

「おやおやバルパー・ガリレイ、貴方は僕の無限の剣製の特性を忘れたようですね」

 

「しまっ」

 

「夢を抱えて溺死しなさい。壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

聖剣(エクスカリバー)を束ねるという事は、特性や性質をそのまま残すという事であり、僕の聖剣(エクスカリバー)を束ねたという事はそのまま壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)が使えるという事になる。

 

束ねられた聖剣(エクスカリバー)の芯になっていた物は僕の物だった。おかげで2本の聖剣(エクスカリバー)の力も合わさって大爆発を起こす。爆発が収まると、そこにはバラバラになったバルパーとエクソシスト達のそれを見て部長達が気分を悪くしているが、この程度の覚悟もないのなら戦場に立って欲しくない。

 

バラバラになった死体を擬態の魔剣(エクスカリバー・ミミック)で一カ所に集め、聖水で清めてから火葬式典で灰すら残さずに燃やし尽くす。それから爆発した聖剣の欠片から二つの核を回収しておく。この核さえあれば聖剣(エクスカリバー)は修復可能なのだ。

それが終わってから二人とコカビエルの方に目を向ける。

 

エクソシストと戦いながらも二人の方を気にしていたので大丈夫だというのは分かっていたけど、五分の戦い、いや、若干押し気味な所を見るとこの一週間の訓練は無駄ではなかったみたいだね。

 

「二人とも、加勢は要りますか?」

 

「いらん。イリナ、足を止めろ!!」

 

「オッケー」

 

紫藤さんの擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)が網の様な形に変形して、切り離される。実戦によって更に聖剣の力を引き出せる様になりましたか。良い兆候ですね。ですが、あまり時間をかけると経験が物を言いますからね。いつでも介入出来る様に準備だけはしておきましょう。血の怪事件ぶりですが、失敗しないで下さいよ。

 

 

 

呼吸を整えて、全身に魔力を循環させ、練り上げた魔力を身体の、魂に注ぎ込み、展開の準備を始める。そして、誰にも理解されなかった英雄(化け物)の生涯を紡ぐ。

 

「I am the bone of my sword.

 

 Steel is my body, and fire is my blood.

 

 I have created over a thousand blades.

 

 Unknown to Death.

 

 Nor known to Life.

 

 Have withstood pain to create many weapons.

 

 Yet, those hands will never hold anything」

 

これで残りの一節を唱えれば、禁手らしき物が記録で言う大禁呪『固有結界』が発動する。しばらく二人の戦いを見守っていると、コカビエルが重力結界に耐えながらなんとか高度を保ち、光槍と光弾の雨がグラウンド全体に降り注いでくる。

 

紫藤さんがそれを擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)をドーム上に展開してゼノヴィアさんと立てこもり、部長達は僕の結界に守られ、僕は頭だけを守って全身を貫かれながら超速再生でやり過ごす。

 

「ここまでですね。ゼノヴィアさん、紫藤さん、後は僕がやるので」

 

「まだやれます」

 

「駄目です。お二人はあの高さまでの有効打が無いでしょう。それにこれから起こる事は普通なら体験出来ない様な事ですから。おそらくはミカエル様達ですら辿り着く事の出来ない領域、味わってみて下さい」

 

残していた最後の一節を紡ぐ。

 

「So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS.」

 

詠唱が終わると同時に僕の足下から円上に炎が広がっていき、世界が塗りつぶされていく。

 

夕暮れの様な赤黒い空に浮かぶ大量の大きな歯車、どこまでも広がる荒野に墓標の様に突き立つ魔剣、聖剣、名剣、無銘の剣、なまくら。それらを照らす様に舞い散る火の粉。

 

「なにが、何が起こったというのだ!?」

 

コカビエルが慌てふためき、他の皆が周りの風景に唖然とする。

おや、どうやら範囲指定を間違えた様ですね。会長達も取り込んでしまった様です。まあ、固有結界内なら幾らでも補助出来るので問題ありませんね。

 

「ここは、英雄を目指し英雄に成れなかった守護者の心象風景が産み出した世界。彼は9を救う為に1を殺し続ける事を強制され続けている。ここの全ては剣を内包し、世界は剣で出来ている」

 

僕が右手を上げるのと同時に、突き刺さっていた剣がひとりでに抜けて浮かび、切っ先をコカビエルの方に向ける。さらに、ありとあらゆる空間から剣が産まれ、同じ様に切っ先をコカビエルに向ける。

 

「コカビエル、お前の相手は文字通り無限の剣だ。この世界の全てが貴様を殺す」

 

僕が手を振り下ろすのと同時に剣がコカビエルに向かって飛び出していく。

コカビエルは必死に光弾や光槍で剣を迎撃していくが、それもすぐに捌ききれなくなり、剣の波に飲み込まれて、一枚の羽を残して消え去る。

それを拾ってから固有結界を解除する。

 

「祐斗、貴方は一体何者なの?」

 

「僕は僕ですよ。変わり者の聖職者。それ以上であるかもしれませんけど、それ以下ではありませんよ」

 

見れば部長達は皆ボロボロで、会長達も魔力が殆ど尽きています。少しだけ不味いですね。固有結界の再展開まで少しかかります。

 

上から降って来た蹴りを龍殺しの特性を付けた大剣で受け止めます。全身に魔力を通して魔剣を全て全力で起動させます。

 

「まったく、噂通りの戦闘狂ですか」

 

防御に使ったのと同じ大剣を空に産み出して降り注がせる。それを躱すのは白い鎧。

 

「龍殺しをこれほど容易く産み出すとは。アザゼルが気にしているのも頷ける」

 

「いきなりの攻撃、一体何が目的ですか白龍皇?」

 

二天龍の片割れ、白龍皇。アザゼルとの仲が分かる言い方から神の子を見張るもの(グリゴリ)に所属している様ですね。

 

「アザゼルに言われてコカビエルを捕らえに来たのだがな。一足遅かったようだ」

 

「ええ、ですからとっととお帰りください。羽は持って帰ってもらって構いませんから」

 

「オレとしても赤龍帝よりもお前の方が気になるんだがな」

 

「残念ながら、僕は研究職の方が向いているんでね。手加減なんか出来ませんよ。今の情勢でそんな事をすればどうなるか分からないのでお断りですね」

 

「そうか。それがお前の答えか。今日の所は退かせてもらおう」

 

そう言って白い鎧の男はコカビエルの羽を拾って、一瞬にして視界から消えていった。中々早いね。

 

「……今のは?」

 

「今代の白龍皇ですね。どうやらイッセー君よりも早く覚醒しているみたいです。あれ、禁手化ですよ」

 

大量に作った龍殺しの剣と部長達を守る為に結界を張っていた魔剣を収納用の魔法陣に片付けながら部長達に治療用の魔剣を突き刺し、会長達に魔力回復の薬と符を渡す。ゼノヴィアさん達も疲労が激しかったので幾らかの回復薬を飲ませる。

 

「さあて、あとはミカエル様に報告して終わりですね。部長達も魔王様達への報告忘れないで下さいよ。ゼノヴィアさん、紫藤さん、帰りますよ」

 

「待ちなさい祐斗。貴方にはまだ聞きたい事が」

 

「その要求を聞かないといけない理由は今の僕にはありませんから。今の僕はミカエル様直属のエクソシストですから。命令権はミカエル様しか持ってません。それにまだ任務は終わってませんのでね。では、これで」

 

ゼノヴィアさん達を連れて転移の魔剣を振り下ろし、教会に戻ります。

 

「さて、とりあえず今日の所は休みましょうか。聖剣(エクスカリバー)は三本も壊してしまいましたが二本は核を回収してますし、残りの一本は僕が作った物ですから問題無いでしょう」

 

「……なあ、一つ聞いても良いか?」

 

「なんです、ゼノヴィアさん?」

 

「アレだけの力を持っていて、どうして悪魔になったんだ」

 

紫藤さんも同じみたいですね。まあ良いでしょう。先日から自分がおかしくなっているのに気付いてしまいましたから。自分がどの程度狂っているのか、自分でも確認しましょう。

二人を連れてリビングに向かい、飲み物を用意してから話し始める。

 

「昔、ある所に一人の男が居ました。それなりの大学には通っていましたが、誇れる事は精々が色々な数式や化学式を知っている位の平凡な、本当に平凡な男で、ある日地震で死にました」

 

「一体何を?」

 

「昔、ある所に一人の少年が居ました。彼は幼い頃に人為的な災害にから唯一の生き残りであり、それから救ってくれた男は魔術師で正義の味方を目指していた頃もありました。男は既に大人で正義の味方に成れない事を知っていました。それでも正義の味方になろうとしていました。少年にはそれが美しく見えて、自分も正義の味方になる事を決意しました」

 

「ちょっと話を」

 

「男は呪いに倒れ、男の夢を少年は継ぎ、青年になった頃に英雄達に出会いその道を進む事を決意しました。ですが、青年には英雄に成れる様な才能は無く、それでも自分に出来る事を限界以上に行っていきました。彼が大人と呼ばれる頃にはかれに賛同する者も居ました。彼は多くの人を無償で救い続けてきました」

 

「とりあえず大人しく聞こう。何か意味があるのだろう」

 

「ある時、男の力ではどうする事も出来ない現状が立ち塞がり、それによって死ぬ運命にあった百の命を救う為に世界と契約を交わしました。それによって奇跡とも言える結果を残し、彼はまた誰かを救う為に去っていきました」

 

「うん、素晴らしい男なのだな」

 

「それからしばらくして、彼は守ろうとしていた人達の手によって生涯を閉じました」

 

「「え!?」」

 

「昔、ある所に一冊の魔導書がありました」

 

「ちょっ、なんでさっきの男は殺されたのよ」

 

「その魔導書は邪神やその下僕と戦う為にこの世のありとあらゆる外法を記された力ある魔導書でした。そしてその魔導書は多くの写本も作られう程の物でした。その写本の内、とある一冊のとある1ページがとある悪魔の手に渡り、その悪魔は精神を侵され狂ってしまいました」

 

「精神を侵されて狂う?」

 

「その悪魔は正気を失ってはぐれ悪魔となり、日々何かの研究を行っていました。周囲の人間を実験材料にもしたりしていましたが、ある日、ふらっと現れたはぐれエクソシストに討伐され、魔導書の1ページはそのはぐれエクソシストをも蝕みました。しかし、そのはぐれエクソシストは正気を失わずにいました。ですが、そのはぐれエクソシストは魔導書の浸食と教会から逐われてからの一人旅で一人旅で摩耗していました。それこそ悪魔に救いを求める程に」

 

「それが、お前なのか」

 

「昔、ある所に一人の赤ん坊がいました。その赤ん坊は教会の前に捨てられており、神父様が運営している孤児院にて育ち、幼いながらも聖職者として生きる道を決めていました。そしてその子は神から与えられた力があるという事でローマに招かれ、そこで神から与えられた力、神器を出現させる儀式を行いました」

 

「噂には聞いた事あるけど、そんなこと実際にあったんだ」

 

「その儀式において少年の異常性が発揮されました。彼には前世とも言える記憶が、色々な数式や化学式を知っている位の平凡な、本当に平凡な男の記憶が。その男の記憶の中には正義の味方になりたかった英雄(化け物)の生涯を綴った詩が。少年は英雄(化け物)の詩を紡ぎ、3人が混ざった。聖職者の少年と平凡な男と正義の味方になりたかった英雄(化け物)が混ざり合い、魂すらも変質させ、神器も変化した」

 

「あっ、話が繋がった。ってことは……どういうこと?」

 

「元から僕は、普通の人とは違うという事だけ分かってもらえれば良いよ。特に精神面に関してはかなり不安定な存在なんだ。普通の人の魂がゴムボールの様なある程度の変化に耐えられる物なら、僕の魂は巨大な合金で作った様な物なんだ。大抵の事では壊れたりはしないけど、部分部分で脆かったり、元の形に戻らなかったりと一度バランスが崩れると壊れる一方さ。そして既に壊れる始めている。気付いたのは最近だけど、どれだけの余裕があるのかが分かりません」

 

実際、違和感に気付いたのはイッセー君とライザー様の一騎打ちの後だ。それまでは特に違和感はなかったけど、原因は死霊秘法(ネクロノミコン)で間違いないでしょう。正気を保てなくなったとき用の自爆術式も用意しなくてはなりませんね。僕が暴走すると大変ですから。

 

「話は戻りますけど、精神的に弱っていた所に契約には紳士であろうサーゼクス様に出会った事で悪魔に転生する契約をこちらから持ちかけたんですよ。悪魔になっても神に祈る事はできますから」

 

「普通は出来ない事だがな。私も直接見るまでは信じられなかったが、身体を焼かれながらも十字架や聖書を身に付けて祈りを捧げたり、ミサを取り仕切っている所を見てしまうとな。これなら神も許して頂けると思ってしまう」

 

「悪魔の身体で聖剣振ったりもしてたし、人となりも聖職者としてまったく問題無いと思うし、そもそも人間の身体に戻れるなら大丈夫だと思うよ」

 

「それでも今は契約に基づいて悪魔をやってますから。契約が終わるか、内容の変更が無いと完全に悪魔を辞める事は出来ませんからね。人としても悪魔としても約束を破るのは最低の行為ですから」

 

「そう言えばそんな制約が悪魔にはあったっけ。交わした契約は必ず履行しないといけないんだっけ」

 

「そうですよ。だから質の悪い悪魔の場合、契約を交わす時に注意しないといけないんですよ。一番良いのは契約書を用意する事ですね。これなら両者が裏をかこうと努力出来ますから」

 

「いやいやいや、裏をかこうとするのは間違っているぞ」

 

「決められた条件下で最大限の結果を残す為の努力を怠るは堕落です」

 

本来の話から多少ズレて来たので軌道を修正する。

 

「とりあえず、僕は精神的に不安定になった事が原因で悪魔に転生しました。いくら人間に戻れるからと言っても正規の神父やエクソシストに戻る事は出来ないでしょうね」

 

「それでも今回の様な特例として復帰出来るんだ。今の内に何かやっておきたい事をやった方が良いんじゃないか?」

 

「やりたい事ですか」

 

今だからこそ出来る事となると、アレしかありません。ですが本当に良いのでしょうか?

 

「主もそれ位の事は許してくれるはずさ。明日は私達はゆっくり休ませて貰おうと思うからな」

 

「……ありがとうございます。すみませんが留守を任せます」

 

 

 

 

 

翌日、僕は、僕が拾われた教会に足を運んだ。今までは悪魔だという事でどうしても足が進まなかったけど、今は例外的とは言え正式なエクソシストだ。それでも緊張しながら教会の扉を開く。そこにはちょうど主への祈りを捧げていた神父様が居られた。扉の開く音に気付いて神父様が振り返って顔をあわせる。記憶よりも皺が増え、身体の方も少し痩せた様に見えるけど、それでも元気そうな神父様を見て、自然と涙がこぼれる。

 

「……もしや、祐斗か?」

 

「はい、神父様」

 

「そうか、元気にしていたか」

 

「はい」

 

「大きくなったというのに、今の方が子供らしいな」

 

「ここの所、色々と自覚してしまって」

 

「まあよかろう。それから、おかえり。祐斗」

 

「ただいまもどりました」

 

涙を零しながらも、笑顔で返事をした僕を神父様は優しく迎え入れてくれました。このような機会を設けてくれたゼノヴィアさん達に感謝と神の御加護を。

 

 

 


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