いつの間にかハイスクールD×Dの木場君?   作:ユキアン

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閑話1

 

「う~ん、予想以上の結果で終わってしまったね」

 

『サマエルとまでは行かないが、それでも既存の龍殺しよりも遥かに強力な剣を簡単に作り出すとかシャレにならないぞ。ヴァーリの野郎は未だに寝込んでやがるしよ』

 

通信映像の向こうでアザゼルがげっそりとしている。おそらく今まで治療にあたっていたのだろう。

 

『それに左腕以外の四肢を切り落とされた上で心臓を聖剣で貫かれて生きてるとか生物辞めてるんじゃないのか?』

 

「それに関しては本人曰く、心臓は血流の操作に必要なだけで他の物で代用が可能なら問題無いとのことだ。おそらくは血流操作に特化した魔剣を身体に埋め込んでいたのだろう」

 

『ちっ、オレが作ってる人工神器なんて目じゃねえ位の性能と汎用性を出せるとかやってられねえな。おいミカエル、そっちの聖剣使いからの報告はどうなんだ?』

 

『教会に所属していた頃とは嗜好の変化がある位ですね。根はまったく同じですが悪魔に転生した事で悪魔としての嗜好も理解している様です。能力は格段に跳ね上がっていますがね』

 

「やはりそうか。こちらでも最初期の物と今年受け取った物での性能が大分違う。下手をすれば我々ですら一撃で葬る様な物を作れる様になっている」

 

『明らかに異常だな。個人で二天龍すら相手に出来そうだ。性格の方はどうなんだ?それ次第では』

 

アザゼルはそこで言葉を切るが、何が言いたいのかは分かる。だがその心配は無用だろう。

 

「完全に身内と認めた者には甘いね。まるで親の様に見守る様に、そっと背中を押す様な甘さだけどね。それから完全に敵対していないのであれば、頼めば手を差し伸べてくれるだろう。悪魔だから代価は求めるだろうけど、良心的な物ばかりだ」

 

『そうですか。教会時代は存在の秘匿の為に接触する者は最低限しかいませんでしたから理解していなかったのですが、ガブリエルにはいつも聖剣を送っていた様ですから、身内に甘いというのは間違いないでしょう』

 

「今回の四肢を落とされた件も、自分の存在の所為で居場所を失った者達への償いだと本人が言っていたと妹から報告が来ている。その償いが済んだ後は容赦なく葬ってもいる」

 

『そこら辺は実に人間臭いな。まあ話を聞く限り、明確に敵対行動を起こさなかったら大丈夫なんだろう』

 

『それに関して別の報告が来ています。どうやら何かに精神を侵されているらしく不安定だから自爆の用意を始めていると』

 

『実に不安にさせてくれる報告だな。自爆の準備を進めているだけマシと言った所か。それにしても精神を侵されている?アレだけの力を持っていてか?』

 

「それに関しては心当たりがある。死霊秘法(ネクロノミコン)の写本だ。私自身も見せて貰った事がある。あれは危険だ。上級間近と言われていた三人が廃人にされている。1頁の紙切れにだ。彼はその後、完全な写本を何処からか見つけて来て研究もしている。研究用にと一冊贈られたよ」

 

『おいおい、なんの冗談だ?そんな物聞いた事も無いぞ』

 

『そうですね。にわかには信じがたいですね』

 

「だが事実だ。私も調べてみたのだが、オリジナルはともかく幾らかの写本を手にしている。『セラエノ断章』『エイボンの書』『水神クタアト』どれも写本の一部の上に適当な材料で作られていた為に写本自体に力は持っていなかったが、中身を全て閲覧するのはアジュカですら不可能だった」

 

『どういうことだ?』

 

「文字通り精神を喰らいにくるそうだ。まともな精神では触れる事すら止めた方が良いともね。天使が触れれば堕天してもおかしくないと」

 

『それを平気とは言わなくとも全て閲覧した上で写本を書いて研究してるとか異常を通り越しているな。他にそいつのヤバそうな情報は?』

 

「とりあえず確定情報として一つ、危険が懸念される情報が一つ、そして今回の事件で確認された禁手化。確定情報から行こう。力ある魔導書は莫大な力と時間によって精霊へと昇華する。彼の書いた写本の一部がイレギュラーによって既に精霊へと昇華している。見た目は普通の少女の様だが、最初の頃は24時間常に監視する位に危険な存在だと判断している。それでも最近は普通の親の様に接している所を見ると、力が暴発する様な事も無いのだろう」

 

『それで危険が懸念される情報は?』

 

「何か巨大な物を所有しているみたいだ。それも50mはある様な物をだ」

 

『それがどうしたんだ?確かに50mはデカイと思うが、それだけだろう?』

 

「確かにそれだけなら気にしないのだが、かなりの量のヒヒイロカネや水銀なんかの魔法金属を大量に集めたりしていた事もあったんだ。量的に言えば50mクラスのゴーレムとかが作れる位。それに一度冥界にある彼の屋敷が半壊してね。目撃情報から纏めると血の様に赤い巨人が屋敷を壊し、大量の紙の様な物の集まりから赤い少女が現れて屋敷の地下から何かを持ち出して逃げたらしくてね。彼、同居人に屋敷の修理を依頼する様に頼んで追いかけていったらしい」

 

『……その赤い少女はさっきの魔導書の精霊か?』

 

「同一人物では無いだろうけど、魔導書の精霊だろうね。それから半年程の間、彼は行方知れずだ。帰って来た時にはルゥちゃん、魔導書の精霊と一緒に帰って来たのはよく覚えているよ。さて、ここで問題なのだが、その巨人、力ある魔導書から召還されたのか、それとも魔導書の力を引き出すのに必要な物なのか、それとも別の物なのか」

 

『一番最初のは最悪かもしれないが最悪じゃないかもしれねえ』

 

『二番目なら最高とは言いませんが最高に近いでしょう』

 

「そして最後の場合も最悪かもしれないが最悪じゃないかもしれない。アザゼル、最悪の物だった場合どんな物だと思う?」

 

『そうだな。前者の二つを含めた上でブースト機能もあると考えるな。それから50mという巨体も不味いな。龍ですらパワー負けするだろうな。その上でその巨体が振る剣を作れるとなるとオーフィスやグレートレッドじゃないとどうする事も出来ないかもしれん。間違ってもオレ達でなんとか出来るもんじゃねえな』

 

『おそらくですが創造は可能でしょう。彼の禁手化、固有結界と言いましたか?あの結界内にそれらしき物が紛れていたと報告が上がっています。さすがにコカビエルに対しては使っていなかった様ですが』

 

「やはりか。やはり敵対するのは避けた方が良さそうだ」

 

『人質や暗殺も駄目だろうな。人質なんか取ればどんな物が飛んでくるか分からねえし、暗殺と言ってもどうやって気付かれずに一撃で殺すんだよ』

 

『彼、隠蔽系、転移系、索敵系はかなり充実してますしね。教会から追われる一件も普通にガブリエルに挨拶してから追撃を振り切って完全に行方知れずになっていましたし』

 

「私も初めて会った時は驚いたよ。部屋中に隠蔽系の魔剣を突き刺して結界を張っていてね。目の前に居るのが分かっているのに見失いそうになる位だったよ。今、同じ事をされると完全に見失うだろうね」

 

『万能過ぎるな。方法としては成長した赤龍帝が倍化を完全に溜めた状態で誰かの転移で懐に潜り込んで最高の一撃を加えて完全に消滅させるしか無いだろうな。それすらも躱されそうで微妙なんだが』

 

「それもあるが、基本的に二人は仲が良いからね。普通に断られるだろう。それこそ彼が世界の敵にでもならない限り」

 

『してみるか?』

 

「デメリットしかないだろうね。彼が作った剣は彼の意思一つで爆破出来るんだ。そんな事をされると私達は種としての危機に陥る。今の冥界では彼の剣を持っていない家の方が少ない。フェニックス卿の様にコレクションしている人も居るから非戦闘員にも危害が及ぶ可能性が高い」

 

『天界も似た様なものですね。彼は自分の好きな場所に剣を創造出来ますから。天界の重要拠点に大量に作られると一瞬で片がつきます。私達の負けでね』

 

『となると、一番有効に奴を使うには』

 

「三勢力何処にも所属せずに特定の事体においてのみ、その力を振るってもらうのが一番だろうね」

 

『抱え込む気は無いのか?』

 

「少なくとも悪魔では無理だと判断している。彼を使いこなせる様な人材は私達魔王勢やランキング上位の一握りだけだろう。無理を言って妹の眷属にはしてみたんだけど、不満ばかり溜めてしまっているみたいだね。セラフォルーの妹ならそんな事はなさそうなんだけど、やっぱり使いこなす事は出来そうにないね。彼は単独で勢力になれる人材だからね」

 

『天界では危険視している者が多いので抱え込むのは難しいでしょう。私達はともかく、上級の一部と中級の大半は危険視していますから』

 

『こっちだと、なんとか自分達の得になるようにあれこれして怒らせて殲滅されるだろうな。使い難いにも程がある人材だよ』

 

「となるとやはり独立勢力として動いてもらうのが一番だね。ミカエル、アザゼル、先に選抜した技術者を集めて転生天使を作る為の道具を作ろう。正式に同盟を組む際に、彼に悪魔の駒と一緒に渡して独立勢力を作ってもらう。その際にある程度こちらからの譲歩を行う。おそらくは人材関係になるはずだ。その方向で大丈夫だろうか?」

 

『とりあえずはな。細かい所は追々と言いたいが、その前に一度直接会わせろ。お前達はそれなりに面識があるんだろうけど、こっちはそうじゃねえ。直接会って確かめたい』

 

「それは構わないよ。細かい所を調整する際に彼にも同席してもらおう」

 

『ついでにこっちで勝手に接触しても構わないか?』

 

「出来ればいきなり会うのは止めて欲しいね。妹を刺激すると彼まで機嫌が悪くなるから。今回も事前に何かあった時に連絡する様に伝えてあったそうなのだが、連絡を行わなかったみたいでね。他にも妹が自分を使ってくれない事に不満を持っているから、今更王として振る舞われると神経を逆撫でされるだろうね。力の確認すらしていなかったから評価がだだ下がりだ。来年の契約更新時に出奔しそうな位に。そうなると妹の眷属の半分は一緒に付いて行ってしまうだろうね」

 

『どんだけ人望が無いんだよ、お前の妹』

 

「逆だよ。彼に力と魅力がありすぎるんだ。どうする事も出来ずに困っている所に手を差し伸べて救ってくれる存在に魅かれるのは当然だろう?」

 

『まあ、あの年齢でそこまでしっかりとして、実力と魅力も十分なら分からないでもないな。出来ない事の方が少なそうだし、根は善良みたいだし。聞いている限りでは、もし出来ない事でもなんとかしようと努力するだろうな』

 

『ただ、自分に関する評価をまったく気にしていないのがマイナスですけどね。教会から追われる様になった件も少しは周りの事を気にしていれば十分に防げていましたから』

 

「悪魔に転生してからは多少は気にする様にはなっているよ。まあ、別の方向に頑張って肉体を変化させて、人間に戻ってから教会の整備や掃除をしているんだけどね。そういう裏道や抜け道を巧みに潜り抜ける辺りが多少目立つけど」

 

『何かしたのか?』

 

「あとから聞いた話なんだが、レーティングゲームでフェニックスの涙以外の回復アイテムを上級悪魔一個大隊が一ヶ月無補給で全力戦闘が出来る量を用意していたみたいだ」

 

『……突っ込みどころが多過ぎて何処から突っ込んでいいのか分からねえな』

 

「だろうね。基本的に魔剣のオーダーで資金は十分で、生活は質素とまでは言わないがそれでも収入から考えるとかなり質素な生活を送っているからね。建物の改築なんかには十分な資金を投入するけど冥界と人間界に一つずつあるだけだし、回復アイテムの方も素材から自分で作ったりもしているから、それほど費用もかかっていないみたいだ」

 

『それでも過剰すぎるだろう。何処かと戦争でもするのかと思う量だぞ』

 

「それでも全力で戦えば丸一日で全て消費するらしいけどね。全力を出す為に、他にも色々と道具を用意する必要もあるらしい」

 

『あ~、もう突っ込まねえぞ。この話は終わりだ。とりあえずこれが最後にしたいが、禁手化についてだ。固有結界、聞いた事はあるか?色々な文献なんかも漁ってみたが情報は0だ』

 

「こっちもそうだ。名前からして結界のはずなんだが、私達の知る結界とは全くの別物みたいだ。実際に体験した者達からの意見をまとめてみた所、一番近いのは次元の狭間だと思われている。本人に確認してみたんだけど、説明がし辛いらしい。ただなんとなくで使いこなしているみたいだ。強力だが魔力の消費も多いので長時間の展開も不可能だそうだ。そして発動には呪文も必要みたいなんだが、内容が理解出来ないんだ」

 

『どんな物だ?』

 

「英語のはずなんだけど、文法的におかしな部分が多い。本人は英雄(化け物)の詩と言っている」

 

『本当に意味が分からねえな。これが何故英雄(化け物)の詩なんだ?』

 

『……これは』

 

『何か知っているのか、ミカエル』

 

『これは彼が神器を初めて召還した時に唱えていた呪文です。9を救う為に1を切り捨て続けて来た男の詩だと。無償で人を救い続け、人々に裏切られて死んだとも聞いています。調べてみましたが過去にそう言った人物は居ませんでした』

 

『何故そんな詩を知っているのか気になるが、今はおいておくか。結界内の風景はその男の心象風景らしいが、なんともまあ味気ないと言うか、まるで機械か舞台装置だな』

 

「そうだね。不毛の大地に空に浮かぶ歯車、墓標の様に突き立つ剣とそれらを照らして鍛え直す炎。ものすごく悲しく虚しい人生を送っていたのだろうね。能力の方はどんな物か予想は出来るかい?」

 

『たぶんコストが結界の維持だけになるのと、剣の射出が可能になるのと、結界内に取り込むだけだろうな。禁手にしてはあまり性能が跳ね上がっていない様に感じるが、コスト度外視の性能を突き詰めた剣が全方角から豪雨の様に降り注いでくるからな。結界内に取り込まれた時点で生き残る方法はあの男の意思一つだろうな。ヴァーリだろうが赤龍帝だろうが二人同時に居ようが関係ないな。コカビエルと同じ最後を辿るだろうな。現に固有結界外で戦ったヴァーリが寝込む位の龍殺しの剣を普通に量産出来る程度の魔力はあるんだからな』

 

「敵にだけは回したくないね」

 

『同感だよ』

 

結局、彼には色々と苦労をかける事になるけどそれでも平和に近づくというのなら彼も納得してくれるはずだ。そう思いながら同盟に向けた話し合いを続けていく。

 

 


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