いつの間にかハイスクールD×Dの木場君?   作:ユキアン

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思ったよりも長くなったので会長とのレーティングゲームは次回になります。


第26話

目が覚めると全身を包帯で巻かれて固定した状態で自室のベッドに寝かされていた。傍には白音さんがイスに座ったまま眠っている。とりあえず、僕は生き延びたみたいだね。身体の方は表面上の傷は塞いであるみたいだけど、経路の方はねじ曲がったりしたままだ。いや、多少は元に戻ってるのかな?最後の方は色々と我慢していたから正確な状態を把握していなかったからよく分からないや。しばらく待っていると扉が開かれて久遠さんが入ってくる。

 

「気の覚醒を感じて見に来たけど本当に目覚めてるなんて」

 

「どうも。とりあえず現状を教えて貰えますか?」

 

「倒れてから4時間って所。身体の傷は塞いでおいたけど魔力の流れの方は外から弄ると逆にねじ曲がる可能性があるから自然治癒に任せる方が安全だから手を出してないにゃ。あと、全身が重度の筋肉痛に骨の殆どが折れてたり罅が入ってるから動かない様に麻酔をかけてあるから」

 

「なるほど。だから身体が動かないのですか」

 

「と言うか回復が早すぎるにゃ。二、三日は意識を取り戻さないと思ってたのに」

 

「怪我の治りが早くなるおまじないを知ってましてね」

 

無意識下においても残留魔力を治癒促進の魔剣に送り込んでいたおかげでしょうね。そんな話をしていると白音さんが目を覚ましたようです。

 

「祐斗さん!?大丈夫ですか!!」

 

「御覧の通りですよ。まあ軽く調べた限りでは命に別状はないですね」

 

「でも、急に血が噴き出して倒れて」

 

「あれが才能も無い者が仙術を無理矢理使った結果ですよ。暴走以前の問題です。身体の方が持たないんですよ」

 

経路の生成はともかく、気が身体に馴染まずに拒絶反応を起こした結果が僕の今の現状です。

 

「まあそう言う訳ですので仙術に関しては久遠さんに習って下さい」

 

「……無理です。だって私には」

 

「白音さんには拒絶反応が起こらなかった。それだけで才能はあります。今回の件で新たなデータも取れましたから暴走してもすぐに停めれます。それに今度はちゃんとした師もいますしね」

 

「ちょっと待って!?話についていけてないんだけど、一回暴走したの?悪い気を取り込んで?」

 

「一年位前ですけど見事に暴走しましたよ。情報不足の為に処置するのに時間がかかりましたが治療もしましたから」

 

僕の言葉に慌てて久遠さんが白音さんの身体を調べ始めます。出来れば他の部屋でやって欲しいんですけど。急に服を捲りあげたりするので白音さんが恥ずかしそうにしていますから。僕はすぐに視線をそらしましたが、こんな時ばかりは鍛えている自分の身体能力の高さが仇になります。しっかりと見えていました。何がって?言わせないで下さい。

 

「……本当に使った痕跡がある。それで暴走したのに元に戻ってる。常識がどんどん崩されていく」

 

落ち込んでる久遠さんに一言かけておきましょう。

 

「常識を破壊するのが僕達研究者です」

 

「「ダウト」」

 

「なんで皆さんそんな事を言うんですかね?僕は研究者寄りですから。戦闘も出来ますけど基本は研究者ですから。それよりも久遠さん、そこの机の引き出しを開けて下さい」

 

「ここ?」

 

「そこです。久遠さんに必要な書類が入ってますから」

 

久遠さんが引き出しを開けて書類を取り出して目を通し始めてすぐに驚きの声を上げる。

 

「ちょっと、これはどういうことにゃ!?」

 

「くろk、久遠お姉ちゃんどうしたの?」

 

白音さんも久遠さんの持つ書類に目を通して驚いている。

 

「見ての通り、公式にはぐれ悪魔黒歌の無罪を三勢力に認めさせた書類です。根回しとか証拠を調整したりとか色々大変でしたけど、ちょっと前に通ったんですよね。それで大手を振って自由に行動出来ますよ」

 

「えっ?じゃあなに?私って死に損?」

 

「白音さんが事前に久遠さんをどうしたいのか言ってくれてればもっと穏便に事を運べたとだけ言っておきましょうか」

 

そう言うと白音さんは申し訳なさと羞恥心から顔を真っ赤にして

 

「祐斗さんの、馬鹿!!」

 

キツい一撃を僕に食らわせて部屋から出ていってしまった。

 

「麻酔で何も感じないけど、たぶん酷い事になってるよね、これ」

 

「女の子の照れ隠しなんだから我慢する事にゃ。まあそれはさておき」

 

久遠さんは真面目な顔をして頭を下げる。

 

「この度は命を助けて頂き、伏してお礼を申し上げます。また、妹の白音を救って頂きありがとうございます」

 

「気にする必要はありませんよ。なんだかんだで、僕も白音さんにはお世話になっていますからね」

 

「それでもお礼は言っておかないといけないにゃ。ひとりぼっちなのは」

 

「寂しいのは辛いですよね」

 

「知ってるの?」

 

「ええ。僕も教会を追われて一人でしたから」

 

「教会から追われたのに十字架も捨てないんだ」

 

「教会から追われても破門を食らった訳ではありませんからね。信仰は僕の欲ですから、認めさせるのも簡単でしたよ。すぐに根を上げると思われてましたし」

 

まあ転生直後は死にかけましたが。と内心で囁いておく。

 

「白音にも聞いていたけど随分変わってるにゃ」

 

「まあ色々と複雑な事情もありますからね。だからこそ『断罪の剣』の王をやれているんですけどね」

 

「確かにね。それにしてもどうして私を助けてくれたの?」

 

「白音さんが望んでいた事ですからね。白音さんは自力で何とかしようとしていたみたいですけど力不足は感じていましたから、裏でこっそりとその書類を用意したり、対話が出来る環境を作ったりと色々やらせて貰いました」

 

「なんでそこまでするの?」

 

「白音さんは僕の大事な人ですからね」

 

その言葉に久遠さんが顔を赤くしてますけど、何かありましたか?

 

「あ〜、うん、そっか、なら仕方ないよね」

 

何かを納得したようですが、本当に何かありましたか?

 

「ああ、とりあえず久遠さんの部屋は準備が出来ていないので、今日の所はこの部屋を出て左の突き当たりの部屋か白音さんの部屋で過ごして下さい。明日には使える様に準備しますから」

 

「えっ?まさかその身体で動く気なの?」

 

「さすがに僕も魔力の経路を乱されている状態では無茶は出来ませんから他の人に頼みますよ」

 

「そう、一応私の見立てでは3ヶ月は安静にする必要があるから動かないでくれる方がありがたいんだけど。あと、魔法を使うのは絶対に厳禁だから」

 

「分かりました。大人しくしていますよ。では、もう一眠りさせてもらいますね」

 

眠る体勢に入るとすぐに睡魔が襲ってくる。やはり身体に無理をさせ過ぎていたようですね。

 

「お休み、祐斗」

 

最後に久遠さんの声が聞こえてきた気がする。ちゃんと僕の名前を呼んで。

 

 

 

 

 

「こんな姿ですみませんが報告の方をお願いしますね」

 

翌日、久遠さんと白音さんに支えられながら皆が集っているリビングに移動する。

 

「ちょっと待て!?なんでそんな重傷を負ってるんだよ!!昨日別れた時は服がボロボロだっただけだろうが!!それとなんで殺したはずの黒歌が居るんだよ!!」

 

アザゼルさんが席から立ち上がって大声を出しています。他の皆さんも包帯でグルグル巻きにされている僕を見て驚いています。

 

「え〜、詳しく話しますと面倒ですしちょっと話せない内容もありますので簡単に説明しますと、怪我の方は戦闘中に無茶をし過ぎてオーバーロードした結果で、ちょっと魔力の経路も壊れてしまったので自然治癒に任せるしかないんですよ。それからこちらに居るのはSS級はぐれ悪魔の黒歌ではなく、白音さんの親戚の久遠さんですね。今日から堕天使として『断罪の剣』入りです」

 

「いやいやいやいや、そんな簡単に流す様な事じゃないぞ!!」

 

「そうとしか説明出来ないので諦めて受け入れて下さいね。それに黒歌の死亡はアザゼルさんも確認したでしょう。それに久遠さんが悪魔じゃないのは感覚的に分かるでしょう?」

 

「いや、まあ確かにそうだろうけど」

 

「はい、それじゃあこの話はここまでです。怪我の方は出来る限り早く治療しますので心配しなくて構いませんので。と言う訳で、各部隊のリーダーの人、報告をお願いします」

 

「特に問題ありませんでした」

 

「こちらも何もありませんでした」

 

「ウチの所にはなんかヤバそうなのが来てたんで、とりあえず隠れて相手の確認だけしてたんっすけどいいっすよね!!」

 

うわぁ〜、大穴に誰か来てたんですか。危なかったですね。

 

「ええ、まさか僕も大穴に来るとは思っていませんでしたから。それで相手の詳細は?」

 

「それが、気配を読む限りじゃあ人間の集団なんすよね。誰かと待ち合わせの様な感じでいました。ただ、ヤバそうな気配を感じてたんでこっそりとその場を離れたんで詳しい事はあんまり」

 

「その中で一番危険そうだったのはどんな人でしたか?」

 

「漢服を着てて、黒髪でそこそこ背は高かったかな。あと、何も持ってなかったのに光力っぽいのを感じたかな?」

 

「逃げて正解です。そいつは曹操。禍の団、英雄派の筆頭で神滅具『黄昏の聖槍』の所有者です」

 

「『黄昏の聖槍』だと!?一番ヤバい神滅具じゃねえかよ!!」

 

「げぇー、直感頼りに逃げ出して正解だったっす。と言うか気付かれなくて良かった〜〜」

 

ミッテルトさんが脱力してテーブルにもたれかかりますが、無理もありませんね。よくぞ逃げ帰ってくれました。

 

「今の所はスルーするしかありませんね。さすがにアレの一撃を喰らっては全快時の僕でも消滅を免れませんから。入念に準備をして気付かれないうちに罠で仕留めるのが一番ですね。ちなみに英雄派は自分たち英雄が活躍出来る戦場を求めて世界に混乱を求めていますので殲滅対象です。巨大な力を持って生まれたからってそれを振り回したいなんて子供みたいな奴らですね」

 

「なんだ?珍しく嫌悪感を明確に示すんだな」

 

「嫌いですよ。英雄の意味をはき違えて穢しているんですから。英雄なんてね、殆どの者が戦いの先にある平和の、誰かの笑顔の為に戦っていたんですよ。それを忘れて自分たちが戦いたいだけで戦争を起こそうとするんですよ。大嫌いに決まっているじゃないですか」

 

あんなのが英雄だなんて認めない。認めれば僕自身をも穢す事になる。だから殺します。一の為に九を殺そうなんて考え、絶対に認めません。まあ元からそういう英雄なら多少は許容しますよ。殺しますけど。

 

「まあ良いです。情報屋に更に資金を積んで調べさせていますから今年度中には仕留めます。この話もここまででいいでしょう。次はいよいよ間近に迫ったソーナ・シトリーとのレーティングゲームです。皆さん、準備の方は良いですか?」

 

「木場が一番準備が間に合ってそうにないんだが」

 

「問題無いですね。前にも言いましたが基本的に僕とアザゼルさんが戦う事はありませんから。それとルゥも本陣でお留守番です。通信用の術式を用意すれば僕とアザゼルさんで指揮を執るだけですから。あっ、二日前に皆さんがレーティングゲームに持ち込む品をリストにして提出して下さいね。足りない分の指示を出したりしますから」

 

「普通不要な物を指摘するんじゃないのか?」

 

「カード型の収納の魔法陣を配布しますので、50m×50m×50mに収まるなら幾らでも持ち込んでもらって構いませんよ。詠唱とかタイムラグなしで出し入れが出来ますので。ああ、フェニックスの涙は僕が管理しますので持ち込まない様にしてくださいね」

 

「えっ、何その便利すぎるカード?」

 

「えっ?普通じゃないんですか?」

 

「「「「「「えっ?」」」」」」

 

「「「「えっ?」」」」

 

最初の方は堕天使勢と天使勢の皆さんで後の方は悪魔勢です。場の空気が凍ってしまいました。ここは僕から動くべきでしょうね。

 

「収納の魔法陣って一般的でしょ?教会にあった本で覚えた物ですから」

 

僕の問いにゼノヴィアさんが答える。

 

「確かに教会の本に書かれてあるが、閲覧制限があって大司教か3名の司教の許可がなければ閲覧は許されない。隠していた訳ではないが、デュランダルの使い手でもあるから特例として幼少期に閲覧させて貰えたが」

 

「あ〜、やっぱり僕の論文は燃やされたか禁書庫行きになったんですか。僕もガブリエル様の許可を得て閲覧させてもらってから簡易版や改良版とかの論文を提出してたんですけどね。悪魔側でも見た事ないですから。堕天使側は?」

 

「確かに収納の魔法陣はあるが魔力コストの問題と収納量の問題から転移が基本だ」

 

「なるほど。理解出来ました。それじゃあ配布しますね」

 

「だから流すんじゃない!!」

 

「僕にとっては普通に公開している技術ですから文句を言われても困るんですけど。便利の一言で済ませましょうよ。無限の剣製に比べれば至って普通なんですから」

 

「なんでそんなやる気がないんだ?」

 

「いえね、これでも僕は研究者ですか「「「「「「「ダウト」」」」」」」何度も言いますけど僕は研究職の方が肌に合ってるんですから!!ごほん、失礼。とにかく自分の成果が日の目を見ないのは虚しいんです。最近、そう言うのが多くてね。ちょっと気持ちがブルーなだけですから。あと、疲れも出ているのかもしれませんからしばらく寝込みます。ゲームまでにはある程度動ける様にはなっておきますので心配しないで下さい。何かありましたら部屋まで来ていただいて構いませんので。あと、これが収納のカードです」

 

ポケットから人数分のカードを取り出してまわして行く。

 

「それじゃあ何も無ければ解散ですが何かありますか?無い様ですので解散です」

 

リビングに来た時と同じ様に久遠さんと白音さんに支えられて自室に戻りベッドに身体を預けます。こんなことなら自然治癒強化の魔法陣を布にでも刻み込んでおけば良かったですかね?とりあえず指先までの魔力の経路が回復したらすぐに作成しましょう。

 

「女の子の一撃で動けなくなるなんて案外もやしなのね」

 

久遠さんが薬草の調合を再開しながら溜息をついていますが、魔力強化も魔剣や聖剣による強化も無しに上級悪魔でも致命傷を負う様な一撃を貰って支えられながらでも動けるのは日頃の訓練の賜物ですよ!!あと、全身の筋肉痛がシャレになりません。

 

「あの、その、すみませんでした」

 

白音さんが肩と耳と尻尾を落としながら謝ってきますが、それに答えられるだけの体力がありません。先程は虚勢を張っていましたが、限界です。魔力が使えないので念話すら使えません。一言発するのにもかなりの体力が必要です。ですが、ここで無理をしないでどうします。

 

「大丈夫です。二日もあれば復帰出来ますから」

 

昨夜からの経路の回復率を見る限り、それだけあれば自然治癒強化の魔剣に十分な魔力を遅れるだけの経路が回復する。そうなれば一週間もあれば全快するだろう。

 

「ですが」

 

「気にしなくて良いですよ。これ位は昔から良くある事です」

 

「ほら、祐斗がそう言ってるんだから白音もそこまでにしておきなさい。とりあえず白音はこれを祐斗に塗ってあげて。量的には上半身の分しか作れなかったから、他に効きそうな物を捜して来るから」

 

そう言って久遠さんが部屋から出ていきます。はて?確か使っていた薬草類は研究室に十分なストックがあったはずなんですが?誰かが使ったんでしょうか?補充しておかなければなりませんね。

 

「あの、それじゃあ、失礼します」

 

「すみませんね」

 

身体を起こされて服を脱がされる。そして背中から薬草を調合した軟膏を塗られていきます。背中が終われば腕へと移り、前面を塗る時は恥ずかしいのか、顔を赤くしていましたので目を閉じておきます。塗り終わると次は包帯を巻かれていきます。

 

「終わりました」

 

「ありがとうございます」

 

白音さんはあまり包帯を巻き慣れていないので時間はかかってしまいましたが、それでもある程度身体を固定させながら綺麗に巻けています。練習でもしていたのでしょうか?いえ、違いますね。『断罪の剣』結成前の時は治癒の魔剣や回復薬をそこまで用意していませんでしたから自分で手当てをしていたのでしょう。

 

「……本当にごめんなさい。最初から祐斗さんに説明していれば、こんな怪我もしないで済んだのに」

 

「気にしないで下さい、と言っても気にしてしまいますよね。だから、身体が治るまでの間、生活の補助をお願いします。僕の油断が招いた結果でもありますからその程度で十分でしょう」

 

「祐斗さんがそういうなら」

 

一応納得してくれたのか、白音さんはそれ以上は後ろ向きな意見を言う事は無くなりましたが、内心では落ち込んでいるのが簡単に分かります。今の様な状況は身に覚えがありますね。なら、同じ様に対処しましょうか。

 

「それじゃあ、僕は少し深い眠りに着きますね。なので傍で何かあっても気付かないでしょうし、寝言も言うかもしれません。あまり気にしないで下さいね」

 

目を瞑って寝ない様に気をつけながら待ち続けます。10分位経った後、ようやく白音さんが口を開きます。

 

「……私は祐斗さんの傍に居ない方が良いのでしょうか?」

 

「どうしてそう思ったんですか?」

 

「私は、祐斗さんに迷惑ばかりかけて、足を引っ張って、傷つけて、恩も返せないで。ギャー君やヴァレリーみたいに強力な神器や神滅具を持っていなくて、ゼノヴィアさんやイリナさんやレイナーレさんの様に特別な資質が有る訳でもなくて、黒歌お姉ちゃんやグリゼルダさんの様に多くの術が使える訳でもなくて、ルゥやアザゼルさんみたいに祐斗さんの隣に立てるだけの力が無い。私には、何も無いんです。私は本当にここに居て良いんでしょうか?」

 

白音さんの心の内を聞いて、そこまで抱え込んでいたとは思ってもいませんでした。これは慰めの言葉などでは無理ですね。ですから、本音を話しましょう。

 

「居ても良いんですよ。いえ、傍に居て下さい。白音さんは、僕の恩人で大切な人なんです」

 

「恩、人?」

 

「白音さんに出会った当時の僕は、見た目以上に精神的な限界が近かったんです。僕は、初めて魔剣創造を発動させる直前に、僕とは違う二人の魂と混ざり合ってしまいました。原因は分かりません。そして、その二人の魂は並行世界から渡ってきた魂でした。一人は人外も魔法も本の中にしか存在しない世界の、研究職の男の魂です。そしてもう一人は、最初の男の世界の物語の中に登場する正義の味方を夢見て、九の為に一を殺し続けるしかなくなった男の魂です。つまり普通ではない上に非情に不安定でもありました」

 

白音さんはじっと話を聞いてくれています。

 

「不安定になった僕は、そのままバチカンに留まり、聖剣を作り続けながら書物を漁り、聖職者としての教育を受ける日々でした。そして、教会から追われました。ここからは以前にも話した通り1年程の放浪をする事になるのですが、その放浪で更に精神的に不安定になりました」

 

「今まで信じていた物に裏切られたからですか?」

 

「いいえ。僕の信仰は裏切られていません。裏切るのはいつも人ですから。僕を不安定にさせたのは自分の言葉です。『神は試練しか与えてくれないけど、僕らは手の届く範囲で救いを与えることも出来る。それは素晴らしいこと』覚えていますか?」

 

「はい。良い言葉だと思います」

 

「そうですね。でもね、僕は誰一人救いを与える事が出来たのかを知る事が出来なかった。いつも僕が辿り着いた時には手遅れで、教会時代の時も研究室や書庫に籠っていて、エクソシストとして外に出ていたときも被害が既に出ている所に行って原因を排除して去って。本当に僕は誰かに救いを与える事が出来ているのか分からなくなっていたんです。だけどあの日、白音さんに、初めて誰かにありがとうと言われて、僕は間違えていなかったんだって。それだけで僕は救われたんです」

 

「たったそれだけの事で」

 

「白音さんにとってはそれだけの事だったのかもしれません。ですが、僕にとってはとても重要なことだったんです。僕に混ざった二人は特に信仰厚い人物ではありませんでしたから。もし白音さんにありがとうと言われてなければ、僕は聖職者を辞めていたかもしれません。それ位、僕にとっては重要だったんです。最悪、二人の魂に引っ張られて僕の魂が消えてしまう可能性がありますから」

 

その場合はおそらく研究者の方の魂が前面に出て来ていたでしょうね。

 

「僕が僕のままでいられたのは、白音さんのおかげなんです。だから最初は、出来る限りの望みは叶えてあげたいと思っていたんです。転生直後は危険な魔導書を回収するのが忙しかったですが、その後は出来るだけ傍に居て、それが当たり前の様になって、家族と言える様な間柄にまでなって。いつの間にか傍に居て欲しいと思う様になっていました」

 

「祐斗さん」

 

「教会に居た頃も放浪していた頃も孤独と向き合わないで逃げていました。白音さんに出会ってから、僕は寂しいと思う事はありませんでした。もう寂しいのは、自分や隣人が寂しいと感じるのは嫌なんです。白音さんが居ても良いと思うのなら、僕の傍に居て下さい」

 

「本当に良いんですか?また、迷惑をかけるかもしれませんよ」

 

「構いません。僕も迷惑な事に巻き込んでしまうかもしれませんから」

 

「怪我させちゃうかもしれません」

 

「いつものことですね」

 

「本当に傍に居ても良いんですか?」

 

「ええ、傍に居て下さい」

 

「祐斗さん!!」

 

白音さんが僕に抱きついて泣いている様ですが、それを慰める余裕はありません。凄い力で抱きしめられているので体中が悲鳴を上げています。それでもそれを表面に出す訳にはいかない。流れそうになる脂汗も無理矢理押さえ込んで、歯を食いしばって時が過ぎるのを待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「更に一ヶ月は安静にするように」

 

「ごめんなさい、祐斗さん」

 

久遠さんに呆れられながら診断結果を告げられる。隣では白音さんが顔を真っ赤にして謝っている。レーティングゲームに間に合うでしょうか?

 

 


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