アルトリア・ペンドラゴンの人生はクソゲー   作:puripoti

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第13話 ネバーエンディング・クソゲー

 ふと気がつけば、目の腐ったセイバー顔は焼け野原のド真ん中に全裸で“ぼけーっ”と突っ立っている自分を発見した。

 

「……あー? どうなってんだ、これ」

 

 目の腐ったセイバー顔は首を傾げた。全裸で。

 

 聖杯戦争におけるサーヴァントとは、〈聖杯〉の謎パワーによって招かれている謎存在である。したがってその大元であるところの聖杯が無くなった現在、自分がこの世に存在し続けられる理由はない。

 

 だのに今だ娑婆に居残りいっかな消える様子もありゃせんとは、一体全体何がどうなってる。それに周囲の有り様もなにごとだ。宇宙の果てから人食いビジターでも攻めてきたのか。

 

 目の腐ったセイバー顔は事ここに至る経緯を振り返ってみた。全裸で。

 

 ───たしか私は〈聖杯〉をあのクソ金ピカもろともふっ飛ばしたのだ。そしたらなんかものっそいキモい色したヘンなゲロみたいなのがどばどば溢れて自分はそれに飲み込まれ流されて、その前後で誰かもよく判らん声に「死ね死ね」罵られたんで、うるせーもうとっくに死んどるわと言い返したらその声が止んで……

 

 ほんでもって気がついたら周囲は瓦礫の山と大火事という謎の状況。自分は自分でなんかお肌は美白をスッ通り越して死人みたいになってて髪の色も脱色に失敗したようになってるという、納期が足りずやっつけ仕事になった2Pカラーみたいな変化ときた。なんだこりゃ。

 

 自身と周りに起きた変化は気色が悪かったが、それよりまずは一糸まとわぬ痴女スタイルをどうにかせにゃならぬ。仮にも騎士の王(実情はともかく)とまで謳われた英霊が公然猥褻罪だの猥褻物陳列罪だのでしょっぴかれたでは各方面に申しわけない。もっとも、とある世界線では円卓のアホども諸共で殺人罪やら凶器準備集合罪によってポリスにおロープを頂戴したこともある身ではあるが。

 

 目の腐ったセイバー顔はいつもの鎧を魔力で編み上げた。サーヴァントって便利。

 

 そしたらびっくり、長年使ってきた鎧がなんか気色の悪い色になんか染まっていた。なんかデザインにもなんか若干の変更が加えられ、なんか着たら呪われる系になってる。ほんとにどうなってんだ。

 

 不幸中の幸いというべきか体調だけは悪くない、どころか絶好調なのだけは慰めになったが、それでも我が身に起こった変化の不気味さはいかんともし難い。もしかして死んで縁が切れたはずのクソゲーが、ここにきて祟っているとでもいうのか。だとしたら冗談じゃねぇ。

 

 目の腐ったセイバー顔は心底から忌々しく吐き捨てた。

 

「ええい、これというのも全部あの腐れド阿呆が私を喚び出しやがったせいだ。おいこらてめえクソマスターてめえ、まだ生きてるなら返事しろ。一発ブン殴ってやる」

 

 死んでたとしても死体に蹴り入れるくらいは許されるだろ。そのためにも死体が原形とどめてる内にさっさと見つけにゃならん。

 自分のことはひとまず後に回し、己にクソゲーを押し付けてきた主の姿を求め、目の腐ったセイバー顔は急いでその場を後にした。

 

   *

 

 ぶっ被った謎のゲロのせいなのかちょっと鈍っているセイバー的直感を頼りに、いまだ衰えぬ様子も見せぬ炎熱の地獄をうろつき回ってしばらくすると、やたらいい声なくせにどこか耳障りなバカ笑いが聞こえてきた。

 

「なんなんだよ、今度は」

 

 訝しく思った目の腐ったセイバー顔がそちらに目をやると、ちょっと離れたところで我が腹は捻れ狂うとばかりに呵呵大笑(かかたいしょう)する神父っぽいなんかの姿が見えた。

 

「……あー? 何だよあのキ印、熱さで脳をやっちまったのか」

 

 かわいそうになとは思ったがその笑い声は耳障りだった。いっそ静かになるまでボコ殴りにしておとなしくさせてやろうか。剣呑(けんのん)な考えとともに拳骨を握りしめたところで、彼女は捨て置けぬものを見つけた。

 

 ───よく見りゃ傍らの全裸はドグサレ金ピカじゃないか。あの野郎まだくたばっておらなんだか

 

 金ピカヌーディストは腹を抱えて笑い転げる神父的なんかに、なにがしかを語りかけている様子だった。

 どう贔屓目に見ても友達いなさそうな金ピカが、ああも親しげにしてるってことは件の笑い袋神父は野郎のマスターってとこで相違なかろう。そうでなくともあの野郎の身内なり近しいやつなら容赦もいらんわ。

 

 一転して面に不穏なものを宿した目の腐ったセイバー顔は近くに落ちてた約束された勝利のバールのようなものを引っ掴み、熟達の暗殺者すら舌を巻く約束された勝利の忍び足でもって、今だバカ笑いを停めぬ野郎どもの背後へとにじり寄っていった。

 

   *

 

 夜闇を炙る業火の中を、幽鬼のごとき足取りで、ふらつき歩む阿呆ひとり。

 

 阿呆の名前は衛宮切嗣。

 無益極まるクソゲープレイその果てに、あわや世界を滅ぼしかけたという昨今中々お目にかかれぬド阿呆である。

 

 もはや存在する意味も意義も喪失し、あてどもなくさまよう歩く死体のごときその背中に呆れたような声がかけられた。

 

「死んだ目をしたようなのが、今にも死にそうなツラをしているな。だが、くたばるのはいま少し待ってからにしろ」

 

 お前みたいな目の腐ったセイバー顔にだけは言われたくねぇよ。言い返そうと振り向いた切嗣が目にしたのは、なんか知らない間に微妙なイメチェンをしたらしい目の腐ったセイバー顔の姿だった。右手には真っ赤に染まったバールのようなもの、左手には見知らぬ子供を手にしている。この非常時になにしてんだ、こいつ。いや、そもそも〈聖杯〉が消えた今、なんでこいつはここにいられる。

 

 訝しげな切嗣に構いもせず近づいてきたセイバー顔はバールのようなものを捨て、ついでにお魚くわえたドラ猫でも放り投げるかのようにぞんざいな扱いで子供を地面に横たえた。

 

「ここに来る途中で拾った。他の連中は消し炭か、さもなくば塵も残さぬ有様であったというに運の良いガキだ。もっとも───」

 

 本人がどう思うかは別だろうがな。己が身を打ち据えるがごとき皮肉に切嗣は何も言い返せぬ。

 

 少年の有り様は、心あるものなら目を背けたくなるほどひどいものだった。ここにいるのは人の心もわからないか、目が死んでて心も死にたてホヤホヤの輩なのでいまさら目を背けたりはしなかった。

 

 炎の中を文字通り這々の体で逃げ惑う羽目になったのだろう、小さな体のあちこちに刻まれた火傷や擦過傷が痛々しい。この分では肺をはじめとした臓腑も相当に痛めつけられているだろうから、放っておけば数分で死ぬ。そうしたのは他でもない衛宮切嗣なのだ。

 

「助けてやるがいい。貴様、私の剣の〈鞘〉を持っているんだろ」

 

 この惨状の中でも傷一つない姿を見て、ようやく思い至ったよ。今の今まで気が付かなかった己の迂闊さを自嘲するかのように、セイバー顔は口元をいびつにひん曲げた。

 

 ピンポイントで『剣士のアーサー王』を喚び寄せる縁として、円卓由来のブツを使うとしたならものは存外に限られる。己を司る代表格とも云うべき聖剣は現世からとうに失われ、聖槍を使えば自身がセイバーとして召喚される謂れはない。そうなりゃ後は消去法で一択だ。

 

「責任を取ると称して死に逃避するにせよ、あるいはこのふざけた茶番に関して誰ぞの裁き───例えばその小僧とか───を受けるまで生にしがみつくにせよ、くたばる前に一度くらいの善行も積まぬではあの世にも逝きにくかろうがよ───お前も私も、な」

 

 いいのか、と切嗣は視線で問いかけた。なにせ彼女の《鞘》というのは現在過去未来においても唯一無二のお宝だ。間違えてもそんじょそこらのガキの命と引き換えてよい物ではない。

 

「構わん、などといえば嘘になるのだろう。だが、いまさら取り返したところで持ち腐れるのは目に見えている。それくらいならいっそ黄泉返りの祝儀とでも思ってくれてやるさ。

 ……そんなことより、助ける気があるのならさっさとしてやれ。その小僧、もう保たん」

 

 一息ついたら聖杯ぶっ壊した前後で何が起こったのか説明しろ。ついでにこの馬鹿騒ぎに巻き込んだ詫びとして一発ブン殴らせてもらうからな。そう付け加える目の腐ったセイバー顔に、短く「わかったよ」とだけ応えた切嗣は《鞘》を体内から取り出した。鞘の加護が失われたせいで早速、身中に残っていた謎ゲロに蝕まれはじめるが、これも自業自得による罰と思えば屁でもない。

 

 《鞘》を移植するや、さっきまで死に搦め捕られつつあった少年の体から傷が洗い流され、切れ切れであった呼吸も落ち着きを取り戻し意識すらもが蘇る。効果の程は自分の体でも思い知ってはいたが、こうして他人に使ってみるとつくづく大したもんだと思わされる。

 

 薄目を開けた少年はしばしの間、焦点の定まらぬ視線をさまよわせていたが、自分を覗き込む死んだ目と腐った目を認めるや、アホほど抱えたクソゲーの在庫を目の当たりにしたおもちゃ屋のような顔をしてまた失神した。気持ちは判らんでもないが失礼なガキであった。

 

「……やっぱ見殺しにしとくべきだったかな、これは」

 

 目の腐ったセイバー顔がバールのようなものを拾い直そうとするのを、切嗣は押し止めるのに苦労した。

 

   *

 

 くたばりぞこないのクソガキもとい少年の容態が安定したのを見届けると、目の腐ったセイバー顔は己の元・マスター(青タン付き)に訊ねた。

 

「それで貴様、これからどうするつもりだ。言っておくがこの一件で官憲に自首なんぞしたところで意味はないぞ。精々がとこ、この《災害》で頭ン中がハッピーセットになった“かわいそうな被害者”として処理されるがオチだろうさ。それよりさっさとトンズラこいて、お家で待ちかねてる娘のところに行ってやったらどうだ。今の貴様に会わせる顔があるのかどうかはともかく、親として最低限度の務めくらい果たすべきだろ」

 

 言うて生前、その務めを微塵も果たさぬが故に子(笑)から見限られた私が言うのもなんだがな。どこまで本気なのかもわからない目の腐ったセイバー顔を、青アザでパンダみたいになった目で睨みつけ───否、もはやその気力もなく虚ろな眼差しで見やった切嗣は頭を振った。

 

「ごもっともな話だが、その前に他にも生きてる奴がいないか探してみるよ。簡単な治療なら僕にも心得はある……助けられるかどうかまでは判らないが、何もやらないよりはいくらかの足しになるかもしれない。それで───」

 

 言葉を切った切嗣は僅かな躊躇いの後、目の腐ったセイバー顔へと頭を下げた。

 

「いまさら言えた義理でもないが、手伝ってくれ。探すにしても一人でやるよりは二人でやった方がいいし、救助がやって来るまでに邪魔な瓦礫をどかしておくだけでも少しはマシになるはずだ。あんたの力が必要なんだ……頼むよ」

 

 下手くそが操る人形のような動きで頭を下げる切嗣を不思議そうな面持ちで視ていた目の腐ったセイバー顔だったが、すぐにそれは愉快そうなものへと取って代わられた。

 

 ───殺し屋が顔も知らないどこかの誰かを助けるために力を貸せと頭を下げるか、悪くない

 

 思い返せば自分とて、王といえば聞こえは良いが結局は殺す潰すしか能のないクズの親玉だ。それが一度くたばり生まれ直して、ようやっと人として真っ当な在り方を得るときたもので。

 まったくバカとクソゲーは死ぬどころか産まれ直さにゃ治らんということだ。

 

「ふうん、貴様にしては結構なことを言う。人助け、いいじゃないか。まるで正義の味方だよ」

 

 『正義の味方』とな。目の腐ったセイバー顔としては別段、含むところもないのだろうがその言葉に切嗣はこんな惨状の真っ只中でありながら苦笑いをせずにはいられない。

 

 ああ、まったく。困ってる人に手を差し伸べて助けてこその正義の味方、斬った張ったの商売ではないのだ。

 いい歳こいてそんなことにも気が付けないで、何年も無駄なことばかりを懲りずに繰り返していたからついにはごらんの有様だよ。これだからクソゲーというのは度し難い。

 

 力なく、そのくせどこまでも陰惨な自嘲をこぼしていると、いつの間にやら歩きだしていたらしい目の腐ったセイバー顔が少し離れたところから声をかけてきた。

 

「おい、何してる。さっさとしないか。言い出しっぺのお前が率先せずになんとする」

 

 わかってるよ。短く応えた切嗣の耳朶に、懐かしい誰かの問いかけが蘇る。あのとき、自分はなんと答えたか。

 

 

 ───こんなことなら世界一の消防署員になるとでも答えておけばよかったな




 登場人物もしくはワゴンの売れ残り

 聖杯のゲロを被った目の腐ったセイバー顔

 目の腐ったセイバー顔が聖杯(笑)の中のゲロをぶっ被って生まれた2Pカラーじみたサムシング

 衛宮切嗣

 聖杯のゲロを被った目の腐ったセイバー顔の元マスター的な何か。来世でめ組の切嗣にでもなれ

 死にぞこないのガキ

 その日、クソゲーに出会う
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