暁照らす常初花   作:粗茶Returnees

3 / 6
 新年ですね! あけましておめでとうございます!
 正月ガチャは大爆死でした!


3話 一族団欒

 

 勇者部は、上里ひなたから事態の説明を受ける。今は神樹の中にいること。造反神が暴れていること。街は再現であること。住人たちは魂が召喚されているということを。

 その説明を終えると、今度はひなたに説明する番になった。ひなたの質問に、代表者として園子が答える。場合によっては誰かがフォローを入れるわけだが、そうなることはおそらくない。

 

「それでは。先程の園子さんの反応ですと、どうやら私の子孫がいるとのことですが」

「いるよ~。あっきーって言って、私のパートナーなんだ~」

「そうなのそのっち!? 私何も聞いてないのだけど!?」

「あははー、紹介してないもんねー。一緒にミノさんの所に行くときに、二人に報告しようと思ってたんだ~」

「そ、そうなのね……。そのっちが選んだ殿方なのだし、きっと立派な日本男児よね……」

「東郷さん。あっきーって下田くんのことだよ?」

 

 混乱が収まっていない東郷に友奈がフォローを入れる。素顔を知らない勇者部としては、一概に暁葉のことを「東郷が期待するような日本男児ではない」とは言えなかった。それなりに接点のある風と樹でも、ひとまずは苦笑で誤魔化した。

 

「あっきー……えっと、暁葉くんが私の子孫ということですが、彼は今どういったことを? 勇者の皆さんをサポートしている、というわけでもなさそうですし」

「今のあっきーは普通の中学生だからね~。大赦の一員ではあるけど、あっきーの仕事は去年から私の話し相手になってるんよ」

「……そうですか」

「あちゃー。機嫌悪くなっちゃった? でも、あっきーを責めないでね。その責任は私にあるから」

「いえいえ。何も思わないわけではないですが、暁葉くんを怒る気もないですよ」

 

 反応が悪かったひなたを心配したが、園子の懸念は当たらずに済んだ。その事に風と樹もホっとする。あれほど真面目に生きている少年が、役割一つで責められるのは見過ごせそうになかったから。

 

「彼には彼の考えがありますし、時代の流れもあるでしょう。男の子である以上、勇者にも巫女にもなれない。去年からということは、その前には別の役割を担っていたようですし」

「あっきーは優秀だからね~。私の側にいなかったら、大赦でいっぱい仕事してると思うんよ。何もできないことに引け目を感じちゃう子だから、余計にね」

「……そうですか」

 

 哀愁漂う園子の発言に、ひなたは暁葉の人物像を感じ取った。300年も時を経ているというのに、そんなところが似てしまったようだ。

 暁葉の気持ちが分からないわけじゃない。よく共感できる。巫女であるひなたは、勇者たちの側で可能な限りのサポートをしている。それでも、戦いが始まれば実に無力だ。巫女の持つ力は神託を聞くこと。バーテックスを倒す力は備えていない。だからいつも祈るしかない。

 だが、それ以上に暁葉は己の無力さを痛感している。勇者でも巫女でもなく、そもそも可能性すら持たされない。雑務しかできない。それがどれだけ暁葉の胸を締め付けたのか。それを見てきた園子はよく知っている。

 

「ところで、暁葉くんは勇者部員ではないのですか?」

「そうなの? ふーみん先輩」

「いや園子は知ってるでしょ。まず、アタシたちはあの子が大赦の人間だとは知らなかった。本人の本音がなんであれ、こちらから招くこともしなかったわね」

「上里くんは新聞部にいますよ」

「今にしてみれば、それも私たちを監視しやすかったから。そうでしょ? そのっち」

「正解だよ~」

 

 新聞部であれば、取材という名目で勇者部に接近することができる。この中学で一番話題になりやすい部活だ。新聞部のネタとしても扱いやすい。園子はそれを指示したわけでもなく、暁葉の考えでそうなった。

 

「あっきーは困っちゃうくらいに真面目だからね」

「とか言って、園子あんた嬉しそうね」

「えへへ~。あっきーに取材されるのも楽しそうだな~って」

「いいね! 私も園ちゃんと一緒に取材受けてみたい!」

「おっ、いいね~ゆーゆ! 一緒に受けようよ!」

「うん! さっそく暁葉くんのところに行く?」

「自分から取材受けに行くやつがいるか!」

 

 今にも飛び出して行きそうな二人を夏凜が止める。園子の加入により、さらに夏凜の忙しさが増したのだが、誰もそれを手伝わない。夏凜の手腕にはついていけないから。あとは、見ていて楽しいから。

 そうして賑やかに騒いでいると、部室のドアをノックされる。来客者だ。

 

「あっきーだ~」

「なんで分かるのよ……」

「はーい。今開けまーす!」

 

 友奈が素早くドアに近づき、覗くようにゆっくりとスライドさせる。来客者の顔を確認した途端、残りを一気に開けてはしゃぎ始める。

 

「園ちゃん凄いよ! 本当に暁葉くんだよ! なんで分かったの!?」

「あっきーのノックは聞き慣れてるからね~」

「えっと、失礼してもよろしいでしょうか?」

「あっ、ごめんね。どうぞどうぞ、中に入って~」

「それでは失礼します」

 

 暁葉が部室に入ると、すかさず園子が暁葉の側に寄る。暁葉も園子を見ると頬を緩め、普段の学校生活では見せないような雰囲気を出した。「そういう顔もできるんだ」と風と樹は思ったが、暁葉もそうなれることを知れた安堵が大きかった。気を緩められる時間を、その相手を、たしかに持っていると分かったのだから。

 

「今日はどうしたの?」

「部長から犬吠埼先輩へのお届け物ですね。今度の合同部活動での資料です。目を通していただいて、問題なければそれで進行していきます」

「いつまでに返事したらいいのかしら? 今?」

「いえ、今週末までだそうです。こちら側の誰かに返答をいただければ大丈夫です」

「うん。了解。明日には返事するわね」

「ありがとうございます」

 

 どことなくいつもより暁葉に柔らかさを感じる。いつもなら、もっと業務連絡としての硬さがあった。誇張して言えば、ロボットが話しているかのような。そんな硬さだ。声が平坦なのもそう思わせる原因だろう。しかし今日はそうじゃなかった。真面目な後輩との会話。風はそう感じた。その変化も、側にいる園子の存在が大きいのだろう。

 

「あっきー用事終わった?」

「そうですね。あとは部室に戻るだけです」

「ならもう少しここにいても大丈夫だね」

「そのっち。暁葉くんを困らせたら駄目じゃない」

「少しだけなら大丈夫ですよ、東郷先輩」

「そう? 暁葉くんもあまりそのっちを甘やかさないでね」

「親子か」

 

 まるで、久しぶりに顔を合わせた仲のいい親族の会話だ。我儘を聞く暁葉が年上に見える。とはいえ、ベタベタとくっつくわけでもない。側にいる。それだけで園子は嬉しかったし、暁葉も同じだ。何よりも、人前で園子に抱きつかれたら暁葉はキャパオーバーになる。手を繋ぐだけでも心拍数が上がるというのに。

 

「ところで園子さん。あちらの方はお客様ですか?」

「あっきーはどう思う?」

「えぇ……。…………まさか……」

「ふふっ、血の繋がりって不思議ですね。お互いなぜか分かってしまうだなんて」

「初めまして。上里暁葉です」

「はい、初めまして。上里ひなたです。あなたのご先祖様にあたるようですね」

 

 お互いにぺこりと頭を下げる。こうして二人が揃うと、上里家の風格というものが感じやすくなった。ひなたの品というものまで、脈々と受け継がれているらしい。

 ひなたは暁葉の頬に手を伸ばし、それから肩や胸へと下げていく。よく分からない行動に暁葉は恥ずかしくなり、戸惑いを顕にする。ひなたの手が不意にある場所で止まった。暁葉の横腹。少し前に負傷した箇所。

 

「怪我、したみたいですね」

「……分かるんですか」

「分かっちゃうみたいです。慣れかもしれないですね。この傷は、無用なことで?」

「いえ。僕が誇りに思うお役目のために」

「ふふっ、男の子ですね」

 

 不意打ちをくらった園子が頬を赤くする。それを見て、夏凜と友奈以外の全員は理解できた。暁葉の園子への想いも、園子の暁葉への想いも。ひなたもそれを嬉しそうに受け入れた。まるで自分の子を見守っているような、そんな眼差しを暁葉に向ける。

 

「ひなた様。暁葉に接し過ぎないでください」

「あらあら、これはごめんなさいね」

「え……かなた姉さん……? どうして」

「久しぶり暁葉。今回は私もこちらに来ることになったのよ」

 

 暁葉の姉である上里かなたは、通っている学校が違う。しかも、暁葉はかなたがこっちに来るとは聞いていなかった。突如現れたかなたに、暁葉だけでなく園子を含む勇者部員全員が驚いた。

 ひなたも、かなたの登場は聞いていなかったようで、暁葉から少し離れてから目を丸くした。全員が驚いている様子に、かなたはくすりと笑ってお辞儀する。

 

「初めまして勇者部の皆さん。上里暁葉の姉、上里かなたです。私も巫女でして、今回の件に合わせてこちらへと来させてもらいました」

「あらあら。私の子孫がもう一人! 嬉しいですね~」

「初めましてひなた様。お会い出来て光栄です」

「様付けはやめましょう。今じゃ年は変わりませんから」

 

 ニコニコと話すひなたにかなたも頷く。容姿の似た二人は、どうやらフィーリングも近いようだ。双子だと紹介されても、何も知らない人からすれば信じてしまいそうだ。

 

「えっと、ひなたさんでいいのでしょうか?」

「どうせなら、かなたちゃんに使っているように、ひなた姉さんと呼んでくれないでしょうか? 私はひとりっ子でしたし、お二人を見ていたら羨ましくなっちゃいまして」

「それくらいであれば、ひなた姉さんとお呼びしますね」

「まぁ~! ありがとうございます! 暁葉くん!」

「うぇぁっ!? えっ、あ……、あの……!」

 

 女性への耐性がない暁葉は、抱きしめられるだけでも激しく動揺する。思春期ということもあり、身内だろうと恥ずかしい。何よりも、ひなたは身内であるものの他人でもある。距離感が実に微妙なのだ。抱きしめられてしまうと、余計に意識してしまう。しかも、巫女であるひなたは勇者以上に体が柔らかい。暁葉が悩殺されるに十分な破壊力だった。

 

「姉さん。暁葉を困らせないでください」

「あっきー大丈夫?」

「……」

「ごめんなさい、嬉し過ぎてはしゃいでしまいました。今後は落ち着きを持った行動を心掛けますのでご安心を」

「かなたさん。さらっと姉妹設定を受け入れましたね」

「夏凜みたいなもんでしょ」

「なんでそこで私が出るのよ!」

 

 ひなたが離れると、暁葉はふらふらと倒れそうになる。園子がそれを支え、部室にある椅子に座らせて休ませる。そろそろ新聞部に戻させた方がいいのだが、回復を待つ必要が出てきた。その間に、ひなたとかなたは今後のことを勇者に説明する。園子はずっと暁葉のことを気にかけていたが、話はしっかり聞いているので問題ない。

 

「私は近くの空き家を利用させてもらうことになってますので」

「でしたら、私も姉さんに合わせますね」

「住居の問題はそれでよしとして、あとは神樹様の神託待ちとか、バーテックスの迎撃になるのかしら?」

「そうですね。土地を奪還できていけば、さらなる援軍も望めます。歴代の勇者たちを呼べますので、皆さん頑張ってください!」

 

 意識を戻した暁葉は一度新聞部へと戻り、部活が終わると再び勇者部へ。再会した姉と先祖であるひなたに呼ばれ、一晩泊まることになった。暁葉は園子も呼びたかったのだが、そこは園子が遠慮した。夏凜の部屋に泊まりに行くらしい。一度家に戻り、用意をしてから園子と家を出てマンション内で別れる。

 

「それじゃああっきー。明日また学校でね」

「はい、行ってきます園子さん。三好先輩に迷惑をかけないでくださいね」

「え~、大丈夫だよ~」

 

 そこはかとなく不安なのだが、夏凜なら対応できるだろうと信じた。エレベーターを呼び、そこに乗り込む前に園子に呼ばれる。振り返ろうとしたら頬に柔らかいものが当たって、ぎこちなく園子を見ると、唇に指を当てて微笑む姿が。

 

「行ってらっしゃい、あなた。なんちゃ──」

 

 聞き終わる前にその場に暁葉が倒れたのは言うまでもない。

 

 




 次々と勇者たちに来てもらいましょうかね。
 ひなたが軽く暴走しましたが、今回だけですね。(あの暴走の仕方は)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。