こくようのうた   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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 炭治郎は悪夢を切り裂き、下弦の壱を打ち倒し。

 煉獄杏寿郎はその魂を燃やして、上弦の参に立ち向かう。

 

 その光景は、黒曜の胸を打つ。

 心から、美しく、尊いものだと感じるのだ。

 実力では下回るにもかかわらず、それでも大切なものの為に刀を握る。

 光を認めない無明の中で、それでも輝きを失わない星々のように。

 だから、旭那黒曜は己の呼吸に星と名付けたのだ。

 世界は美しい。けれどどうしようもなく残酷で、誰かにとって大切なものを平気で踏みにじる者もいる。そんな世界で誰かの為の命を懸け、誰かの為に死力を振り絞れる。

 そういった人々がこの世界にいるのだ。

 誰にでもできるはずのことだけれど、誰にもはできない。

 

 だからこそ、星の呼吸は既存五大呼吸を組み合わせたものなのだ。 

 

 あらゆる呼吸の基礎となる斬撃。

 炎水風岩雷の呼吸を突き詰めたもの。

 それらこそが旭那黒曜の星の呼吸。

 道を極めた者が辿り着く場所は同じだから。

 

 人の魂が輝く様は美しいと、黒曜は思う。

 だからこそ。

 その輝きを失わせないために、星柱は前に出た。

 

 

 

 

 

 

「破壊殺―――滅式!」

 

「炎の呼吸――――奥義・煉獄!」

 

 上弦と柱の必殺が交差しようとする。

 無限列車において、炭治郎と伊之助が下弦の壱を撃破し、善逸、禰豆子、杏寿郎が乗客を守り切ったその直後。

 上弦の参・猗窩座。

 決まった範囲で人間を狩る鬼の中で異例である、狩場を持たぬ鬼。

 鬼殺隊ではその存在を知る者はいない。

 出会った全ての隊士は、柱も含めて殺されているのだから。

 そして激突する杏寿郎と猗窩座。

 炭治郎たちは疲弊し最早戦えず、そもそも実力が圧倒的に足りない。

 猗窩座は彼らを、人間という種族そのものを嘲笑い、杏寿郎はその弱さこそが美しいと刀を振るう。

 実力は拮抗――――技量で言えば、杏寿郎の方が上だった。

 旭那黒曜という、己よりも圧倒的な強者に呼吸剣技共に素直に教えを受けていてよかったと、杏寿郎は戦いながら口端を歪めた。

 上弦の参、なるほど強いが―――――星の柱ほどではない。

 だが、それでも鬼と人間の性能の差は大きかった。

 どれだけ杏寿郎が猗窩座を斬っても、すぐに回復する。

 首を狙うが、異常な反応能力で確実に猗窩座はそれを防ぐ。

 千日手に近い状況にも見えるが、致命傷までは行かなくても傷が増えていく杏寿郎の形勢の不利は否めなかった。

 故に放つ奥義。

 夜明けを待つまでは持たないが故の選択。

 猗窩座もまたそれに応えるように、己の必殺を放つ。

 空間を破壊するように、燃やし焦がすように、互いの必殺が放たれ、激突する――――――寸前。

 

「星の呼吸・伍の型・金剛の岩軀・袂別れ」

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

「――――」

 

「し、師範!?」

 

 突如現れた旭那黒曜は杏寿郎と猗窩座の必殺が激突する寸前、その最中に現れた。

 確かに互いの技は放たれたというのに、彼は双方向へ超高密度斬撃の壁を斜めに放つことで奥義の威力を弾き逸らしていた。

 出現にその場の全員は驚いたが、しかし杏寿郎のそれはすぐに微かな苦笑に変わった。

 

「そうか……ここまでか」

 

「あぁ……今のは死んでいた」

 

「では仕方あるまいな! 無念!」

 

 無表情に頷く黒曜と朗らかに笑う杏寿郎。何が起きているか、見ていた炭治郎と伊之助には解らず戸惑っていた。

 だが、猗窩座の反応は劇的だった。

 

「旭那黒曜……!」

 

 当然ながら猗窩座もまた黒曜のことは知っている。知らぬはずがない。

 多くの十二鬼月を屠り、己よりも格上である童磨すらも何もできずに倒されかけたという。そのあまりの強さから十二鬼月を始めとした上位の鬼は鬼無辻無惨から直々に接触・交戦禁止が言い渡されたほどだった。

 故に、猗窩座の判断は即座だった。

 踵を返して反転、鬼として最上級の身体能力で飛び上がろうとして、

 

「逃がさない」

 

「っ―――――!?」

 

 目前に、旭那黒曜が現れ、跳躍を阻止されていた。

 彼我の距離は猗窩座でも煉獄でも一息は必要だったはずなのに。それを超えて、あまつさえ猗窩座の動きを止めるように黒曜は出現していた。

 

「上弦の弐と戦ってからお前たち十二鬼月は、俺を見るとすぐに逃げ出すようになった。何故なのか」

 

「貴様……っ、今の今までどこに潜んでいたのだ……!」

 

「そこの森に、気配を消して。杏寿郎……他の柱と同行時に十二鬼月と遭遇した場合は俺は最初は気配を消す手はずになっているのだよ」

 

 ここ数年、黒曜は十二鬼月と遭遇すると即座に逃げられていた。

 無論、すぐに追いかけて首を落とすのだが、血鬼術の種類によっては手古摺ることが無きにしも非ずであるし、場合によっては逃亡中に人を喰うかもしれない。

 また、黒曜以外の柱にとってもこの決まりは重要だった。

 彼らとて柱である。だが、実力実績共に黒曜には完全に劣っているどころか、そもそも上弦とはろくに遭遇すらできない。鬼を、十二鬼月を、上弦を倒すことが柱の役目であるのに。

 星柱におんぶにだっこ、という状況を柱たちは享受できなかった。

 故に、黒曜と同行する柱が十二鬼月と遭遇・その可能性がある場合、黒曜は気配と身を隠し観察に徹底。柱が戦っている間に、黒曜が十二鬼月の能力を把握し、柱が致命傷や後遺症が残るような傷を受けた場合に乱入する、という決まりが出来上がっていた。

 今回でいえば下弦の壱に対しては黒曜は一度も接敵せず、顔を隠し、自身の気配を極限まで抑え、炭治郎と伊之助が戦っている間も列車の守りに専念していた。

 元より、下弦の壱は炭治郎に任せるつもりではあったが。

 

「さて……猗窩座、と言ったな」

 

「……っ」

 

 緩く握った抜身の刀を自然体で持ちながら黒曜は語り掛ける。

 

「お前に聞きたいことがあるから逃げないで欲しい」

 

「……はぁ?」

 

 訥々と戦意もなく話しかけるに猗窩座は率直に驚いた。

 即座に首を落としに来るかと身構えていたのだから。

 

「上弦の鬼と話せる機会は少ないからな……だから、教えて欲しい」

 

 六つ目の鬼。上弦の壱。

 

「――――やつはどこにいる?」

 

「教えるわけが……! あの男と会ってどうするつもりだ!」

 

 聞いていて、しかし猗窩座は微かにホッとすらしていた。

 鬼無辻無惨、今出た上弦の壱黒死牟をして神々の寵愛を一身に受けたと言わせしめ、上弦を容易く屠る鬼狩り。

 彼の両親は黒死牟が殺したという。

 ならば何のために会うのか、なんて言うまでもない。

 復讐だ。

 世の理を乱す男でさえ、他の隊士と同じような当たり前の理由で戦っている。そんな些細なことが猗窩座に安堵すら与えたのだ。

 なのに。

 その直後、微かに首をかしげながら黒曜が発した言葉に猗窩座は愕然とした。

 

「話がしたい」

 

「――――――は?」

 

「俺は、彼に会わなければならない。彼と話さなければならない。……そんな気がするのだ。そうしなければならないのだ」

 

 黒曜は―――神々の寵愛を受けた青年は己の痣に手を当てながら言葉紡ぐ。

 まるで、何年も、何百年も積み重ねた思いを口にするかのように。

 

()はあの六つ目の鬼と会わないといけない―――そう誓ったのだ」

 

「―――――」

 

 ぞわりと、猗窩座の背筋に冷たいものが走った。

 解らない。この男は何を言っているのだろう。話す? 会いたい? なんだそれは。仮にも鬼殺隊の柱と十二鬼月の上弦である。話す余地など無い。

 なのに話がしたいだなんて。

 何を考えているのか、意味が解らない。

 解らない。

 解らない。

 解らない―――――解らないから、恐ろしい。

 理解ができないものは、悍ましい。

 

「っ……!」

 

 喉の奥がひきつるのを自覚する。

 背後に下がろうとするが、黒曜の瞳が突き刺さり、それをさせてくれない。

 逃がさないと、その黒曜石の瞳が言っている。

 

「なんなんだ貴様は……!」

 

 何一つ、理解ができない。

 今の黒曜からは闘志を感じない。力量がまるで計れない。すれ違っても、誰かいたことにさえ気づかないほどに、気配が希薄だ。猗窩座はその膨大な戦闘経験から一目見れば相手の戦闘能力が図れるが、黒曜のことはまるで解らなかった。

 

「……柱、なのだが。どうだろう、教えてくれないか。ここ数年、まるで手掛かりがない」

 

「ふざけるな! 教えるわけがないだろう!」

 

「……そうか」

 

 黒曜は小さく頷き、

 

「では――――もういい」

 

 キィィと、甲高い呼吸音が耳に届いた。

 届いたと思ったら、背後からチンッ、とまるで刀を鞘に納めるような音も聞こえた。

 

 そして―――――猗窩座の頸が断たれていた。

 

「星の呼吸・陸の型・琥珀の霹靂」

 

 型の名は全てが終わった後に。

 雷の呼吸・壱の型・霹靂一閃を突き詰めたそれは音を置き去りにする。

 斬られた鬼は、首を断たれ、黒曜が納刀してから、首が絶たれたことに気づく。

 ダン、と落雷のような音が遅れてやってきて、首から雷霆が走ったのを猗窩座は幻視した。

 ――――――だが。

 

「………………驚いた」

 

「ぬっ……ぐっ……ぅぅぅ……!」

 

 驚くべきことに、猗窩座は死んではいなかった。

 琥珀の霹靂によって断たれた首は、遅れて弾き跳ぶ。それにも拘らず、頭を無理やり両手で押さえて頸と体を繋げようとしていたのだ。

 黒曜もこれには驚いた。見ていた杏寿郎たちも。

 頸を断たれて死なない鬼が、頸という弱点を克服した鬼を彼らは初めて見たから。

 逃げなければと、猗窩座は思った。

 死ぬわけにはいかないとも。

 

「お……おぉぉ……!」

 

 声にならない絶叫を上げながら、ふらつく足で黒曜から距離を取る。

 死なない。死ねない。まだ、頸を繋げられる。

 血涙を流しながら、猗窩座は無様に、牛歩のような速度で逃げようとしていた。

 

「何故、そんなにも怯えている?」

 

「……!」

 

 投げかけられた言葉に、猗窩座の足が止まった。

 

「杏寿郎に言っていただろう。鬼は強いと。人はすぐ死ぬが鬼は怪我も病も一瞬で治ると。鬼であるということは素晴らしいと、杏寿郎を誘いさえしていた」

 

 なのに、

 

「今のお前はなんだ? 無様に、頸を抑えながら逃げる姿が素晴らしいのか?」

 

 黒曜の言葉に感情はない。あるのは純粋な疑問だ。

 だが、猗窩座にとっては何よりも恐ろしかった。

 猗窩座に刻まれた無惨の血がよく似たような光景を映し出す。

 

「人間は、逃げないぞ」

 

 そんなことに構わず黒曜は続ける。

 

「お前たち鬼に、お前たちの時間である夜に、限られた命で立ち向かう。それのどこが弱者だ。炭治郎を弱者と言ったな。違うと、俺は思う。彼は圧倒的強者であるお前に立ち向かった。なのにお前は勝てないなら逃げるのか? それでは最早、弱者ですらない」

 

 それはただの卑怯者の行いだ。

 

「―――――」

 

 言われた言葉に、猗窩座の時間が停止した。

 その言葉と頸を断たれたという極限状態が、猗窩座の奥底から何かを引き出しかけていた。

 強さに拘る、弱者を忌み嫌う、不死を尊ぶ―――その理由。

 猗窩座という鬼の――――■■という人間だった頃の何か。

 

『■■さん』

 

 誰かの声が聞こえた気がした。

 雪のように儚い、誰かも分からない少女の笑みが視界を過ぎって。

 

「――――俺は、許せない。命を軽んじ、輝きを穢す者を」

 

 キィィと、甲高い、先ほどよりもさらに大きく、深い呼吸音。

 

「星の呼吸・漆の型」

 

 大上段に構えた漆黒の刀の色が変わる。

 近づくもの全てを焦がす太陽な赫色へと。

 

「―――――紫晶の輪廻」

 

 炎の呼吸と水の呼吸。

 その二つを突き詰め、窮め――――統合させた星の呼吸。

 水の如き流麗さから放たれる、炎の如き剛閃。

 それは断罪の刃となって、今度こそ猗窩座の頸を落とした。

 

 

 




大正こそこそ話

漆の型・紫晶の輪廻
水の呼吸の体捌きにて肉体に生じ得るエネルギーを一点に集中し、炎の呼吸にて放つ。あらゆる状況から五体の極限威力を放つ究極の質。

捌の型・橄欖の天嵐
風の呼吸と共に琥珀の霹靂を超連続で相手を囲むように叩き込む。
納刀と抜刀が繰り返され、生み出されるのは鬼を囲む斬撃の嵐。
数百数千に及ぶ究極の量。



鬼に、人を踏みにじる者に慈悲はない。


前話、クソデカ感情のカナヲでしたが、甘酸っぱいカナヲが見たい方は
https://syosetu.org/novel/205700/
こちらをどうぞ。
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