やはり俺の青春ラブコメの相手が魔王だなんて間違っている。 作:黒霧Rose
あとがきで会いましょう。
短かった春休みも終わり、俺は3年生となった。
春休みたん・・・本当に短かったなぁ。その殆どが無茶な合同プロムのツケで無くなったし、無理を無理矢理にでも通そうとすると色々と責任がついてまわる、これ社会の教訓な。マジでもう二度と使いたくない教訓だなこれ。
とは言え、楽しくなかったのかと言われればこれがまた別にそういうわけでもないのだよ。
結局の所、責任者は俺なのだが・・・ほら、もう一人増えた関係できちんと二人で働いていた。
相変わらず絶賛自分見失いまくってキャラ崩壊を起こしまくってるあの可愛い魔王様は、それはもう本当に可愛くてこちらの心臓を容易に破壊しようとしてくる。俺が見失ってたら危ういレベルだぞホントに。
『はい・・・お弁当。前に食べたいって言ってたし・・・頑張ってるから』
うん俺言ってないんだよなぁ。
心を勝手に読んでお弁当作ってきてそれを頂けるとかもうどこから突っ込んでいいのか分からん。けれど、流石陽乃さんというだけあってそりゃあもうめちゃくちゃ美味しかったです。心臓は破壊されるし、胃袋は握り潰されるし、五臓六腑が無事でいられたらいい方。やっぱり魔王じゃねぇか。
そして、何故か俺は、俺たちは未だに放課後になるとこの教室に・・・部室に集まっていた。廃部になることなく、そのまま残ったこの奉仕部は何も変わることなく新たな春を迎えた。
「それでね・・・」
「由比ヶ浜さん、近いわ。もう暖かくなってきたのだから離れて。少し暑いわ」
ハイハイ熱々ですね。
いつものように百合百合している2人を横目に、俺は読書を続ける。なんだこの本。
『月に憧れた』とかなに気取ったこと言ってんだよ。太陽の光を浴びたいとか考え直した方がいいぞ?俺がゾンビだからとかじゃなくて、太陽の笑顔を浴びせられたら正気保っていられなくなるから。超可愛いから。
「ね、ヒッキーもそう思うでしょ!」
「お、おう・・・超可愛いよな」
「へ・・・ん?」
あ、やべ。突然振られたせいで考えていたことがそのまま口から出てしまった。
「はぁ・・・おおかた、誰かの姉のことでも考えていたのでしょう」
「うわぁ・・・てか、ゆきのんのその言い方もなんか卑怯だね」
「それはどういうことかしら」
おっと?何故だか知らんが微笑んでいるはずの雪ノ下からめちゃくちゃ冷たいオーラが出てるぞ?
「陽乃さんって言えばいいのに、なんか自分を挟もうとして・・・あ、やっぱなんでもない」
「ふ、ふふ、ふふふ・・・」
こっえぇぇ。ゆきのん怖いよ、あと恐い。そんなこと言い放っちゃう由比ヶ浜も恐いよ。やだ、奉仕部ってすごい女の子しか居ない。
そんな2人を見て、俺は改めて決心する。
本を閉じ、立ち上がると椅子を持つ。その椅子をいつもの定位置から、依頼者が座る椅子の隣に置く。
「比企谷くん?」
「ヒッキー?」
緊張している。それは自分でも分かる。震えて、喉が渇いて、今にも逃げ出したくなる。雪ノ下と由比ヶ浜の怪訝な視線が、さらにそれを後押しするかのように俺に突き刺さる。あの日、2人に依頼をしたあの日よりも緊張している。
どうしたものか、どういう言葉で伝えようか・・・色々考えている内に、よく分からなくなってきた。
「大丈夫よ、比企谷くん」
彼女のその言葉に、俺はハッとする。目の前を見ると、雪ノ下の、由比ヶ浜の、優しげな微笑みがあった。
そうだ。そうだった。
それを、ちゃんと俺は知っていた。
ちゃんと知っている。決して忘れてなんていない。
信じろ、比企谷八幡。
「俺は・・・お前らと、関わっていたい」
これが酷く独善的である願いだなんて、そんなのは分かり切っている。いや、本当は分かっていないのかもしれない。だが、もし仮に分かっていたとしてもそれが今ここで何も言わない理由にはならない。
もう、カッコつけるのは辞めたんだ。
取り繕うのも、誤魔化すのも、誇張するのも、より良く見せようとするのも、強く在ろうとするのも・・・『比企谷八幡』で居るのも、もう辞めたんだ。
雪ノ下は言った・・・俺は繋がりが欲しかったと。
由比ヶ浜は言った・・・いってらっしゃいと。
俺のために・・・比企谷八幡が比企谷八幡で居られるようにと、彼女達は俺を信じてその言葉を送ってくれた。
ならば、俺がすべきことは・・・否、俺がやりたいことは、俺の意志は、もう決まっている。
俺が彼女達に・・・雪ノ下雪乃に、由比ヶ浜結衣に、どうしても伝えたいことはもう決まっている。
カッコつけない俺の、最初のワガママ。
「俺と・・・・・・友達になってくれ」
今までそれを言わなかったのは・・・言えなかったのはどうしてだろうか。
雪ノ下には一度断られているから怖くなった?
違う。
由比ヶ浜の気持ちを蔑ろにしたことがあるから?
違う。
比企谷八幡と友達になんてなるべきではないと、そうやって押し付けていたからだ。
押し付けて、決め付けて、縛って、目を逸らして、逃げて、そうやって踏み出さないための理由を、失敗しないためのそれを選び続けた。
挑戦しなければ失敗することはないと、そうやって選ばないことを選び続けた。
『比企谷八幡』で在り続けられるようにと、カッコつけ続けた。
「馬鹿ね」
優しい声音で、優しく諭すように、雪ノ下は呟いた。
彼女の横では、由比ヶ浜がうんうんと頷いていた。
「助けて、助けられて、そして絆が生まれて・・・そういうの、なんて言うか知らないの?」
「そうだよ、ヒッキー。話して、喧嘩して、その度に仲直りして・・・そういうの、分からない?」
今までの事を思い出す。
クッキーの依頼、小説、テニス、チェーンメール、深夜バイト、千葉村、文化祭・・・修学旅行、生徒会、クリスマスイベント、そしてプロム。
色々なことがあった。この1年間、沢山のことがあった。
間違えて、間違い続けて、それでもと答えを出して・・・2人と、あの人と共に挑み続けたこの1年。
何度間違えたか。
何度失望したか。
何度仲違いしたか。
何度歪んだか。
何度仲直りしたか。
何度、それを知ったか。
雪ノ下に憧れ、押し付けて、失望して。
由比ヶ浜に押し付け、期待して、見損なって。
そして、歩み寄って、歩み寄られて・・・その度に離れて、近付いて。
「まぁ、自意識を拗らせてぼっちを誇っていたようなこの男には分からないでしょうね」
「確かに・・・否定出来ない。でも、ゆきのんも去年まではそんな感じじゃなかった?」
「言ってくれたわね」
「わ、わーわー、ごめんって。てっきり、ゆきのんも友達居ないことをステータスかなんかだと思ってるかと思ってたから」
今、こうして2人が対等に言い合いをして、どういった形であれ比企谷八幡がそこに居て、この光景を間近で見ることが出来る。
それが、どれほど尊いことか。
どれほど・・・暖かいことか。
そこにある感情は、ここにあるこの理由は、決して間違いなんかじゃない。間違いを間違いで整えて、曲げて、捻じ曲げて、誤りでさえも誤りで正す。そうして全てに傷を付けて、そこに残ったそれに手を伸ばす。
全てを手放した時に、必要なかったことに気付く。
そして、漸く辿り着いた。
手放して、手放して、手を離して・・・やっと掴むことが出来た。
「比企谷くん・・・」
「ヒッキー・・・やっと、ちゃんと笑ってくれた」
由比ヶ浜の言葉で、俺は自分が笑っていることに気付いた。
「なんだ・・・ちゃんと笑えるじゃない。あなたのその笑顔、私は好きよ」
「あたしも好き」
ああそうだ・・・知っているとも。
いや違うな・・・お前らが教えてくれたんだ。
話して、話せなくて、離れて、離れられなくて、喧嘩して、仲直りして、長所を知って、短所を知って、憧れて、失望して、気付いて、勘違いして・・・同じ目的のためになんかやって、一緒に成功して、一緒に失敗して・・・その度に、またお互いを少しずつ知る。
それを、
*
校門の近くに、少し人集りができているのが分かった。どうやら、金髪の男子生徒と女性が話しているようだ。
というか、陽乃さんと葉山だった。
彼女は俺に気付くと、手を振って来た。いやそういうのクソ恥ずかしいんですけど。ほら、もう周りの人とか俺のこと見てるし。てかなんで俺のことすぐに気付けるんですかね・・・あ、愛の力ですかそうですか。えなぜ俺にもダメージ。
とりあえず、魔王様に捕まってしまった葉山に合掌。でも同情はしてやらん。だって俺お前のこと嫌いだし。
どの道、彼女の所には行かなきゃいけないのでそのまま歩く。
すると、ここからでも分かるくらいに苦笑している葉山がこっちに歩いて来た。
「結局・・・君は間違ってなんかいなかったのかもな」
すれ違うその瞬間、ヤツはそう言った。答えは求めていないのかもしれない。だが、俺はそのまま振り返ることなく答える。
「・・・いいや・・・間違ってたさ」
あの夜・・・葉山と2人で話したあの夜、お前は俺に間違っていると告げた。たった1人、お前だけがそう言ってくれた。
もしもどこかで、葉山が『葉山隼人』で居続けることに後悔が、間違いがあるのならば、俺には少しだけそれが分かる。
お前が守りたいものも、お前が取り戻したかったそれも・・・きっと、『それ』なんだろう。
葉山は俺の言葉を聞くと、上を向いて空を仰ぐ。
「・・・・・・正してくれる人が居るかどうか、ってことか」
そう言って、そのまま歩き出した。
アホ・・・間違いでも、それが正解だと決め付けて、その答えを出すんだよ。
ほらな・・・やっぱり、俺はお前とは仲良く出来ない。
*
春の夕方、夕日に照らされた桜を見ながら帰路を歩く。暖かくなってきたこの季節でも、日が沈むに連れて少しずつ寒さを感じる。隣を歩いている彼女は、対照的に相変わらず太陽のような暖かさを放ち続けている。ハマっているのかは知らないが、その手もやっぱり繋がれていて、そんなことに慣れてきた自分がおかしくて、少しだけ苦笑してしまう。
「色々あったね」
「・・・ま、後半は大体あなたのせいでしたけど」
「お姉さんのおかげだって?嬉しいこと言ってくれるじゃーん」
その耳は飾りかなんかなのだろうか。
「たぶんさ・・・同族嫌悪だったんだよ」
繋がれている手に、少し力が入ったのが分かった。それを同じくらいの強さで握り返すと、彼女は一瞬驚いたような顔をして、安心したように目を閉じた。
「以前までの『君』を見てると、私は『私』の醜い所を見せつけられているようで・・・だから、八つ当たり、なのかな」
「随分と規模のデカい八つ当たりでしたね」
流石は魔王様。八つ当たりがもう世界崩壊寸前のレベル。もうこれ野に放っちゃいけないだろ。
「それだけじゃない・・・自分のことも嫌になって、ムカついて、でもどうしようもないから・・・代わりに君に当たることで自分にも攻撃してたんだと思う」
「そりゃまた・・・」
笑うしかない。
「・・・お母さんにも喧嘩売って・・・だからきっと」
ギュッと、俺の手がさらに強い力で握られた。
「ちゃんと、反抗期を迎えることが出来た」
「・・・じゃあ、もう子供じゃいられないですね」
「そういうこと」
本当に、とんでもない人だ。
けれど、悪くない気分だった。
結局、俺の青春は彼女無くしては成り立たなかったのだろう。
雪ノ下陽乃が居たから・・・俺は色々なものを手放せた。
雪ノ下陽乃が居たから・・・俺は見つけることが出来た。
雪ノ下陽乃だから・・・俺は求めた。
それが、俺の出した答え。
正さなくていい。誰かが問題を再定義する必要なんてない。解答者は俺で、出題者は『俺』で、答え合わせも俺がやる。
だからきっと・・・正解だ。
間違いだらけの俺が出せた・・・唯一の正解。
それが、雪ノ下陽乃だった。
「というわけで、このまま家に来てもらうよ。お母さんが会いたがってるから」
「だから道が違かったのか」
だと思ってましたよ!だってこの道、俺の家に帰る道じゃなくて陽乃さんの家に行く道だもんね!
「いやほら、今日はこま」
「小町ちゃんは『兄をよろしくです!』だって」
こまち・・・。
「とつ」
「戸塚くんは部活だもんね」
あ、ああ・・・俺の天使2人が早速潰された。
「雪乃ちゃん?ガハマちゃん?生徒会長ちゃん?」
「・・・い、いえ」
気持ち繋がれている方の手が痛い。なんでそっちが名前出して勝手に嫉妬してるんですかねぇ。いや可愛いしなんなら超可愛いし超可愛いまであるけど(錯乱状態)。
「まさか大穴の隼人?」
「絶対無いです」
絶対ないわーそりゃないわー。葉山と遊ぶとかないわー。
「なら他に何があるの?」
「えっ、と・・・」
「ほらほら、お姉さんに言ってみなさいな」
腕をブンブン振って楽しそうにしてらっしゃる。こうやって目に見えて上機嫌そうに見えてる時、それは大体不機嫌を隠している時なのだよ。これこの人と関わる時のマメな。
「全部潰してあげるから」
ほらもうこんなこと言っちゃう。
多分・・・これからもこんな日々が続くのだろう。
何度も間違えて、何度も傷付けて、傷付けあって、その度にまたこうして手を繋ぐ。
例え偽物でもいい。
例え贋作でもいい。
例え模造品でもいい。
俺はやっと・・・自分をちゃんと傷付けてくれる人に会えた。
自分が傷付けてもいいと、そう覚悟を決められる人ができた。
あなたと・・・雪ノ下陽乃さんとなら、その全てが俺にとってはかけがえのない本物だと、そう言える。
彼女はその手のまま俺の前に立つと、あの日と・・・合同プロムの日の夜と同じ笑顔で俺にこう言った。
「比企谷八幡・・・あなたに、依頼・・・いいえ・・・お願い」
「なんですか」
だからきっと、俺はこう言うのだろう。
彼女を、魔王を、愛しいその人を、
雪ノ下陽乃を前にすると、こう言ってしまうのだ。
その可愛らしい、彼女なりのワガママに・・・やはりと言ってしまうのだ。
「私と、共になりなさい」
やはり俺の青春ラブコメの相手が魔王だなんて間違っている。
まずは、これまで読んでくださった皆さまに感謝を。
投稿頻度にムラがあり過ぎて迷惑をかけましたが、なんとか最終話まで書き終えることが出来ました。
お付き合い頂いた皆さま、誠にありがとうございます。
さて、ではこの二次創作『やはり俺の青春ラブコメの相手が魔王だなんてまちがっている。』を書く上で私が解釈し、組んだ設定、及びその解説をします。
比企谷八幡と雪ノ下陽乃は、同類である。
これが前提にして結論ですね。
自意識の化け物という原作に出てきたキーワードの拡大解釈とも言えます。
誰かのため、そういう理由がないと動けない。そして、その誰かというのは自分の中にある『この人はこうだ!』という一種の固定観念にも似た誰か。それを守るために2人は行動する・・・というのが私の解釈にして、追加した設定です。
それが顕著に現れていたのは八幡の方ですね。
『雪ノ下雪乃でも嘘をつく』
事故のことを知らないような態度をしていたことから、この現実を中々受け入れることが出来ない心情が原作にて語られていました。それを穿って複雑に書いたのがこの作品になります。
だから冒頭、文化祭でのスローガン決めの会議後、彼は『また明日』と伝えてくる雪乃に『またな』ではなく、『じゃあな』と返したのです。その戸惑いこそ、『雪ノ下はこう在るべき!』という像に歪みが生じている何よりの証拠・・・それが原作からの別れ目ということです。原作ならば受け入れることの出来た『それ』を、受け入れることが出来なかったんです。
しかし、陽乃とのやりとりや様々な出来事を通してそれがカッコつけだったということに気付きます。
『こう在ろうとしている雪ノ下雪乃』
が、いつの間にか
『雪ノ下雪乃はこうで在るべき』
という全く逆の捉え方に変わっていたのです。
簡単に言えば、憧れているという表現をしたくなかった・・・何故なら、それはどこかダサいから。思春期の男子は憧れているなんて言葉、簡単には言えません。
もっと言えば、『俺が憧れる雪ノ下雪乃はこうでなきゃ認められない』なんて言い方をしてもいいですね。
簡単な話、恋をしていたんです。
けれどその憧れを憧れとせず、意地になって雪ノ下雪乃を否定してしまっていた。
『こんなの俺が憧れた雪ノ下雪乃じゃない!』みたいな感じです。
それこそが、彼が抱いた傷なんです。つまり、『比企谷八幡は雪ノ下雪乃には必要なかった』この言葉に繋がります。
その憧れは恋心となり、固執となり、共依存になろうとしていた。
どうにかして自分が憧れた、自分が好きな『雪ノ下雪乃』でいてほしい・・・なら、そのままで保存してしまえばいい。それを脅かすものは自分が排除すればいい・・・そう、依頼の解消です。
自分が傷付けば『雪ノ下雪乃』に傷が付くことはなく、比企谷八幡は雪ノ下雪乃にとって必要であるという実感に酔えるんです。
けれど、そこを陽乃に突かれて偶像たる『雪ノ下雪乃』は壊されました。
そして、始まりであった憧れを忘れていた(カッコつけを辞めてその感情と向き合った)ことから失恋をしたと気付くのです。
『自分が好きだったのは、自分が思い描いていた雪ノ下雪乃だ』と。
中学生の頃の彼が、折本かおりにそうしたのと同じようにです。
ここまでが、この魔王シリーズで少し改変させた彼です。
次に、八幡が自意識の化け物たる所以とは何か、ですね。
これに関しては賛否あるでしょうが、私が出した結論は『加害者にも被害者にもなりたくない、究極の自己完結』という根底です。
自分が誰かを傷付けることなんてしたくないし、自分が誰かに傷付けられるのなんてもっと嫌だ・・・というものです。
彼のやり方、良く言えば自己犠牲、悪く言えば自己陶酔・・・あれはそれが濃く出てると思います。
自分が傷付けば、自分は自分にだけ傷付けられたという実感を抱くことが出来ます。
『これは俺が考えてやったのだから、それによって起こる全てのことは俺が背負って然るべき』なんて感じです。
そして、それは同時に他人の傷を無視することになります。
傷・・・27話の最後の独白にもあった通り、『心』とも言えます。
『君が傷付くのを見て、痛ましく思う者が居る』
平塚先生の言葉そのものですね。
何より、当人が背負うべきだった傷や痛みを奪う結果にも繋がります。人は失敗や挫折、傷や痛みから学習をして成長することが出来ます。しかし、彼のやり方はそれを剥奪してしまう結果になってしまいます。
例えば、原作での告白。
海老名も、戸部も、葉山も、振られたからこその成長がありました。
しかし、比企谷八幡という男の横槍によって現状維持が成され、それによって得るはずだった成長の機会は永久に封印されてしまいました。
なら、加害者になりたくないとはどういうことか?
これは上記にもある通り『誰かのため』という大義名分です。
『この人のためにやるのだから』という言い訳は非常に便利です。
そして、生徒会選挙という八幡にとって最大の転機が訪れます。あらゆる歪み、責任、読み違い、そういったものがきちんとした形で露呈しました。
つまり、ここがターニングポイントです。奉仕部の在り方、雪乃や結衣との歪みなどが引き金となりようやく自覚したというところでしょうか。
そこで、この二次創作ではその本来のターニングポイントの発端を消し飛ばしました。端的に言えば、みんな大好き『修学旅行の嘘告白』の除去です。
それによって、彼が本来行うべきだった現状維持という現状打破を無くし、きっちりと成長の機会として突き付けました。
最善ではなく、しかし最適であるというのが彼のやり方の限界でしょう。
付け加えて言うのなら、これはある種酷いやり方です。傷や痛みをまとめて引き受けている以上、それは『比企谷八幡』という偶像が守ってくれるという実感を与えてしまうからです。原作での陽乃の言う『お兄ちゃん』そのものです。自立を、成長を、それらを与えない方法とも言えるでしょう。
勿論これはある側面から見ればという話です。私は八幡のやり方自体に反対はありませんが、それを過剰に持ち上げるつもりもありません。
彼のやり方では、本当に救いたい人は救えません。
何故なら、彼のやり方で救われているのは『比企谷八幡』という虚像だけだからです。
だからこそ、彼は自意識の化け物なのです。
自分が傷付ける相手は自分だけであり、自分は自分にしか傷付けられていないという自己完結。
間違いだらけの彼が出した解。
これが私の解釈です。
では陽乃はどうなのか?
これは色々と考えさせられました。
例えば、自由を求めているのか?
例えば、雪乃にどうなってほしいのか?
例えば、雪乃が好きなのか?嫌いなのか?
例えば、強化外骨格とはなにか?
それぞれに焦点を当てたSSは他の私とは比べものにならないような書き手の皆さまが書いています。
その上で、私が出した結論は『究極の自己矛盾の体現者』です。
彼女の在り方は、有り体に言えば理想。
即ち『雪ノ下陽乃はこうで在るべき!』ということです。
もう分かりますね。
そう・・・彼女の行動原理はこれに尽きます。
雪ノ下陽乃は姉で、姉は妹を大切にするべきで、だから妹のためになにかする。
だって『雪ノ下陽乃(姉)はこうするべきだもん』
雪ノ下陽乃は雪ノ下の長女で、雪ノ下の長女はそれに相応しいようになるべきで、だから完璧でなければいけない。
だって『雪ノ下陽乃(雪ノ下の長女)はこうするべきだもん』
理想と事実の連想ゲーム・・・そこに感情はありません。
これが作中で述べられた『主観がない』ということです。
だから彼女は雪ノ下雪乃というフィルターを通すことで主観を得ることが出来るんです。
『雪ノ下雪乃にとって正しいか?正しくないか?望ましいか?良いか?悪いか?』
という主観を。
しかし、そこに自分と近しい者を抱えた八幡を知ります。
彼女は結論づけてしまったのです
『比企谷八幡をフィルターに据えれば、雪ノ下陽乃は主観を得ることができる』と。
簡単な話です、自分と近い人が言った意見は信用に値するし自分も同意見の可能性が非常に高い。
言葉にすれば、本当にこの程度の認識です。
じゃあ何が問題だったのか?
大きく分けて2つあります。
1つ、雪ノ下陽乃に近しい存在がそもそも存在しない。
1つ、仮に存在したとしても自分と近しい者ならば簡単には落ちない。
故に、陽乃は時間をかけて八幡の支えを全て壊していったのです。
これらを踏まえた上で、最後の疑問にぶち当たります。
何故、そこまでして陽乃は主観を得たいのか?
これこそ私が出した結論・・・究極の自己矛盾の全てです。
彼女が主観を欲した理由、それは他でもない『自分』を否定するためです。
比企谷八幡が否定されるのならば、同類である私も否定されるべき。
この理論を完成させるために、主観が必要だったのです。
客観と理想と事実でしか動けない彼女と、『誰かのため』という大義名分がなければ動けない彼・・・それを破壊するための主観こそ雪ノ下陽乃が欲しかったものです。
『それはまちがっている』
その一言をハッキリと言える、自分という名の主観が。
要約すると、客観によって出来上がった『自分』を、主観によって生まれた自分で否定することこそがこの魔王シリーズでの陽乃の目的です。
そうすれば、やっと雪ノ下陽乃になれるから。
そんな2人が求めたものは、『自分で在っていいという確かな肯定』でした。
きっと、これをもっと簡単に表せる言葉を知っていると思います。
無条件に存在を認められ、無償でそれは与えられ、当たり前のように・・・生まれついた時からそれを貰っている。
ここに居てもいい、それでいい、それがあなただよ、この世界はあなたの居場所だよ。
そういうものをまとめて引っ括めた言葉
そう・・・『愛』です。
これは、自分が分からなくなってしまった2人が、自分と愛を探す物語でした。
恐らく思った人が居るであろう『本物』についての説明。
原作における最大のキーワードにして核心である『本物』・・・ここまでお付き合いして頂いた皆さんは知っての通りだと思いますが、この『本物』が原作のそれとは大きく異なっています。
そう、偽物でもいいという独白ですね。
第26話において書かれたそれです。
今回書かせてもらったこの二次創作において、『本物』とは、『本当の自分』と『本当のあなた』の間に生まれた全てを指しています。
1人しか居ない自分と、1人しか居ないあなたとなら、生まれてくるものも全て1つしか存在しない。
誰かがやったこと、既に生んでいたものでも、それらを行う者が1人しか存在しない者同士ならそれは世界に1つしか存在しない偽物になり得る。
例えば、デートするという行為は誰もがやっています。しかし、八幡と陽乃のデートはこの2人でなければ成り立ちません。デートという行為そのものは誰かに倣った偽物だが、八幡と陽乃の2人で行うデートは本物(これ以外に成り立たず、存在しないため)となる。
それが八幡の言った
『贋作でもいい。模造品でもいい。レプリカでもいい。偽物でもいい。
それがたった一つしかないのなら、それでいい。
たった一人しか居ないあなたとのものなら、それがいい。
ただ俺はずっと、この人との全てを・・・本物と呼びたいのだ』
という独白の意味です。
『あなたと過ごす時間が、俺にとってはかけがえのない大切なものです』という、どこか気持ち悪い言い回しの、とても面倒なラブレターなんです。
そして、最後にタイトルについて。
『魔王とは・・・』から始まるタイトルは、実は自意識であり、こうで在るべき、こうで在りたいという理想と願いを指しています。
『自分はこうで在るべき』と『自分はこうで在りたい』
だからこそ、あの最終話のタイトルに繋がります。
魔王というものは、あなたが死ぬまであなたの前に立ち塞がるボス。
ラストまで立ち塞がり続けるボス。
そう、ラスボスです。
これが一番オーソドックスな魔王のイメージではないでしょうか笑
ま何が言いたいかと言うと、『自分にとっての最大の敵とは自分に他ならない』ということです。どこでも言われているような有り触れた言葉ですが、これは真理だと思います。
全28話の本編を通して伝えたかったのはこれです。
自分についてを考える機会の1つとなれば私としてはとても嬉しいです。
とまぁ、ここまで色々と書きましたがこれは私の解釈に加えて、物語を書くために追加した設定です。解釈違いは当然ありますし、キャラ崩壊と言えばそうだとしか言えません。
そして何より、所詮は二次創作です。こんなに語ることすら本来ならタブーなのでしょう。なのでこの場を借りて謝罪致します。
ですが、私としてはこれこそが私の思う最強の八陽です。
長く語らせて頂きましたが、これにて本編完結です。
重ねて、読者の皆さま、長い間のお付き合い誠にありがとうございました!
P.S.
この八陽は、まだ終わらないよ。