やはり俺の青春ラブコメの相手が魔王だなんて間違っている。   作:黒霧Rose

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第8話 魔王とは、カリスマ無くしては成り立たない存在である

 

「あっはっはっはっ!」

 

駅前にあるドーナツ屋。映画を見ようとして、その時間潰しのために立ち寄ったのだが、そこで思わぬ人と出会ってしまった。いや、遭ってしまったと言った方が確実かもしれない。

 

「生徒会長に無理やり出馬させられて、選挙で落ちるようにしてほしいとか」

 

「何がそんなに面白いんですかね」

 

「いや〜こんなの笑っちゃうでしょ」

 

目の前で笑っていらっしゃるのは雪ノ下さん。何故か俺の座った席の隣に移動して来ては俺の話を聞いて大爆笑をしている。本当に笑えないよ。なんだよこの依頼。奉仕部にどうしろって言うのだ。

 

「それで、比企谷くんの案は駄目だって言われたんだっけ?」

 

「まぁ、はい」

 

そりゃもう滅茶苦茶に否定されましたね。応援演説で大失態を犯せば、一色にはほぼノーダメージで乗り切れると思ったんだけどな。

 

「うーん・・・なんか、比企谷くんじゃないみたい」

 

「何がっすか」

 

「え?だって、君のやり方に文句付けられたり駄目出しされるのっていつもの事じゃん」

 

「・・・」

 

考えてみればそうだった。あーだこーだ言われたり、文句を言われたり、皮肉を言われたり、ケチを付けられたり、そんな事はいつもされていたではないか。

 

何故、それを今更俺自身が気にしている。

 

本当に、今更だ。

 

「君の中にある『雪ノ下雪乃』が崩れ、君が自分に押し付けていた『比企谷八幡』まで壊しちゃったら・・・あと君には、何が残るの?」

 

口の中にあるドーナツの味が消える。甘味など、受け入れられないかのように、或いはその甘さを捨ててしまったかのように、無味となった。

 

「そんなの、ただの欺瞞でしょ?」

 

そうだ。誰かの言葉を気にして、誰かの態度を気にして、誰かを気にして自らの在り方を変えるなど欺瞞に過ぎない。それを、俺は肯定していた。無意識に、それが当然の如くとして当たり前のように受け入れてしまっていた。

 

「まぁ、それもそうっすね」

 

「そうそう。曲がりなりにも信念ってやつがあるんだから、正直になりなよ」

 

「信念・・・っすか」

 

誰かと共有していた信念が、きっと俺にはある。そう思い始めてきた。

 

 

「あれー?比企谷じゃーん」

 

 

後ろからかかった女性と思われる声に、俺は振り返る。

 

「おり、もと」

 

「やっほー、久し振り」

 

それは、もう記憶の奥底にしまったはずの同級生の名前と姿だった。俺の記憶に新しい、トラウマにして黒歴史の一つ。

 

俺が告白して、振られた相手。

 

 

それがこの女子、折本かおりだった。

 

 

 

 

「私は雪ノ下陽乃」

 

「あ、私は折本かおりでーす・・・それで、比企谷の・・・彼女さん?」

 

「違う」

 

「だよねー。だと思った」

 

あはは、と乾いた愛想笑いを浮かべる。気持ち悪いことこの上ない。何してんの俺。そういう似合わない事すると、周りの人達は離れていきますよ。元々人が居ないので大して変わりませんかそうですか。

 

「確かに。私って比企谷くんの何?」

 

「いや俺に訊かれても」

 

思い出すのは、何度もこの人から告げられているあのフレーズ。その誘いに、俺は一度たりとも乗っていない。ともすれば、やはりこの人と俺の間に関係と呼べるものはない。

 

「友達、は絶対違うし、お姉さんも変・・・うーん・・・あ、とりあえず彼女でいい?」

 

「それだけはないです。適当に先輩とかでいいんじゃないですか」

 

「つれないな〜。私は君をいっぱい誘ってるのに」

 

あはは、と先程もした愛想笑いで誤魔化す。いやだから本当に気持ち悪い。

 

「それで、比企谷くんは中学生の頃はどんなんだったのかな?お姉さん気になるな〜特に恋愛関係とかさ」

 

その言葉に、俺は目が見開いていくのを感じる。駄目だ。その発言は駄目だ。折本にその話を振ってしまったら、まず間違いなくあの話が来る。

 

「そういえば、私、比企谷に告られたことあるんですよ〜」

 

「えー!それ本当〜?」

 

「本当ですって!話した事もなかったんで驚いちゃってー」

 

「うそー」

 

折本の隣に居るなんとかさんと俺をネタに談笑する雪ノ下さん。ですよねーだよねーその話よねー。いやぁホント、過去ってのは消えねぇもんだな!

 

「へぇ」

 

俺に目線を戻した彼女の瞳は、引き込まれるような妖しさが宿っていた。このまま見ていたら、知らず知らずの内に飲み込まれてしまいそうな、そんな目だった。

 

「あ、そうだ。比企谷、葉山くんって知ってる?」

 

「・・・まぁ」

 

流石ですね葉山くん。イケメンは他の学校にさえもその名を轟かせることが出来るのか。スポットライトはいつも君を向いているよ。あ、スポットライトがなくてもお前は輝いていますねそうですね。

 

「ほら、紹介してもらいなよ」

 

「え〜私はそんな〜」

 

「いや、知り合いじゃないし」

 

「だよねー。接点なさそう」

 

またしても愛想笑い。あいつとは知り合いでもなんでもない。あいつの事なんて知らんし、あいつだって俺の事なんて知らん。そもそも、俺とあいつはステージが違う。

 

「・・・じゃあ、お姉さんが紹介してあげる」

 

雪ノ下さんは大きく手を挙げると、折本の隣に居る女子の方を向いて笑いかける。ああ、そう言えば雪ノ下さんと葉山には接点があったな。よくは知らんが、まぁそれなりに大きな接点なんだろう。知らんけど。

 

彼女はスマホを取り出して電話を始める。うわ、この人マジで葉山を呼ぶつもりだよ。どうしようかなー帰ろうかなー・・・駄目ですね。この後の映画まで時間があるのでどの道帰れませんね。

 

あと、この人から逃げるのも無理。

 

 

 

 

「葉山くんまたねー」

 

そう言って、折本とその友達は店から出て行った。分かってはいたけど俺にはなんもなしですか。これが格差ですね分かります。

 

「・・・どうしてこんな真似を?」

 

「だって面白そうだったし」

 

「またそれか」

 

「で、なんで彼まで?」

 

「あのパーマの子、前に比企谷くんが告った相手だからだよ」

 

そういうの大っぴらにしないでもらえませんかね。本人が自虐するならまだしも、人から言われると心に来るものなんですよ。知っててそうしてるんでしょうけど。

 

「じゃあ、私はもう行くね」

 

立ち上がった雪ノ下さんは俺の耳元に口を寄せてきた。

 

「比企谷くん。君がどうするのか、今度ちゃんと聞かせてね」

 

冷気が入り込んできたかと錯覚するほどに、その声は低く凍てついていた。

 

店から出て行った彼女の背を見て、俺も帰りの支度をする。こいつと2人でドーナツを食う理由もないしな。

 

「・・・俺達のこと、知ってるだろう?」

 

「・・・まぁ、大体は」

 

「結局、俺は何も出来なかった」

 

「・・・知らねぇよ。そっちのことはそっちでやってくれ。俺に言ったところで何も変わらんだろうが」

 

「そうかもしれない。ただ、もし君があの状況の中に居たら・・・どうしていた?」

 

そんな事、本当にどうでもいい。イフの話やたらればの話なんて考えたところで意味は無い。無意味で、無意義で、無価値なだけの妄想。そんなの、理想ですらない。

 

「どうでもいいだろ、そんな事」

 

「・・・奉仕部に頼ったことが、そもそもの間違いだったのかもしれないな」

 

動きが固まる。葉山が言ったとは思えないようなその言葉に、俺は全身が強ばるのを感じる。

 

「誰かに頼ろうとした結果がこの有様だ。なら、最初から君達を巻き込むべきではなかったのかもしれない」

 

「随分と勝手な言い分だな」

 

「後悔だってしたくもなる」

 

雪ノ下や由比ヶ浜を思い出す。俺は直接あの場に居なかった。あの時、彼女達がどんな感情でその光景を見ていたかなんて俺には分からない。依頼は失敗に終わり、その結果は現在進行形で様々な形で影響を及ぼしている。葉山グループ然り、クラス然り、奉仕部然り。

 

俺然り。

 

何かをするつもりもなかったはずなのに、俺だってその事を気にし続けている。何か出来たのではないか、何かすればよかったのか、そんな益体のない事ばかりが頭の中で反響する。

 

「本当は、守りたい関係だったんだけどな」

 

「・・・そうか」

 

 

 

なら、俺は今まで何をしていたのだろうか。

 

 

 

なら、俺の中にあるであろうこの信念は・・・いったい、何を守ろうとしていたのだろうか。

 

 

 

 

答えなど出やしない。

 

 

 

 

 

何故なら、それはきっと・・・もう壊れてしまっているのだから。

 

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