彼方のボーダーライン 作:丸米
「ここで第五部隊は全滅! 第一部隊に三ポイントが加算されます!」
一瞬の攻防であった。
当真により奈良坂を失った第五部隊は──加山の第一部隊によって全滅を余儀なくされた。
「いやぁ。ほんまに一瞬やったな」
「下馬評だとかなり強いって評価だったんだがなぁ、犬飼の所」
「そこら辺は、やっぱり奈良坂君序盤に落とされたのが効いたんでしょうね。もっと言えば、情報集めの時点でカゲにエンカウントしてしまったのがホンマに痛い。ここが痛すぎる」
「.....だな」
「第五部隊は強いんですけど。その強さってのが序盤の立ち回りが確定で他の部隊より上回れることなんですよね。そして立ち回りの優位が肝になる駒で固められているんですわ。狙撃手の奈良坂君は勿論の事。菊地原君も、弓場さんも。そんで隊長が立ち回りめっちゃ強い犬飼がやっとる。──ただ立ち回りで上回れる部隊ではあるけど、全員が揃って機能する部隊って側面もあるように感じましたわね」
「奈良坂が落とされていたおかげで、加山の方も菊地原の対策に絞って戦えただろうからな。──空閑での釣りだしから、連携で仕留められた。ダミービーコンでの偽装があったとはいえ、仮に奈良坂が生きていたらああも簡単に加山も那須もフルアタックは出来なかっただろう」
「本当は犬飼も後退して広く戦いたかったんやろうけどな。──背後でドンパチしていておちおち後ろに行けなかったのも痛かった」
背後には激戦区。俯瞰情報を探れる狙撃手の駒もない。そこから安全圏外からの加山との板挟み。
序盤の不運から最大の駒を落とされてしまってから──犬飼の部隊はかなり割を喰らった羽目になったと言える。
「さて。これで加山隊長の第一部隊全員が安全圏に入りました」
安全圏が狭まっていく。
残り数分もすれば、トリオン兵の山が生まれていく。
その中──部隊の動きも変わりゆく。
※
一つ、古寺章平は息をついた。
──火力の圧を盾に、マップ中央を陣取る。
それが二宮が出した、この即席部隊での立ち回りの答えであった。
最初の交戦。嵐山率いる第二部隊との戦いは、別に後退させる為の交戦ではなかった。
普通にポイントを稼ぐために仕掛けたもので、あわよくば全滅させてやろうとさえも二宮は想定していたはずだ。
だが。嵐山は駒損を出す事無く後退に成功した。
──やっぱり。この戦いどの部隊もレベルが高い。
だからこそ。この中央で陣取っている間も油断は一切できない。
この状況。
安全圏から他部隊が入ってきているこの状況が、一番狙撃手が仕事をしなければならない時間だ。
こちらの補足が早ければ早い程。火力を叩き込める猶予が増える。
ジッと、古寺章平はスコープを覗き。周囲を警戒する。
瞬間。
古寺のスコープに──黒いマントが駆け抜けていった。
「──北東にグラスホッパーを使用している人影を発見! すぐに射線から外れました! 位置情報を共有します!」
「了解。結束、報告場所にマーカーの設置。北添は周辺を爆撃しろ」
「結束、了解」
「ゾエさん了解~」
結束がマップ上にマーキングした瞬間。
北添の榴弾砲が火を噴く。
空中に弧を描くメテオラが、建造物を爆破していく。
ここから炙り出された人間に──古寺の狙撃か、二宮・出水の火力の餌食となる。そういう連携を組んできた。
だが。
「──さあて。こっからはスピード勝負だぜ」
男が。
榴弾の出先を見届け──バッグワームを解き、走り出す。
「──新しい反応が生まれました! これは...」
その反応の先。
二刀を構えた黒コートが、ビルの間を駆け抜けていく。
「──太刀川さんが接敵しています!」
太刀川慶。
最強の攻撃手が──笑みを浮かべながら、マップ中央を駆け抜けていく。
※
「ここまでは作戦通りやな。俺が死ぬまでにゾエさん仕留めて下さい」
「あいよ」
「すみません。無茶なこと言って」
「まあ無茶だが。──無茶位やらねぇと楽しくねえからオーケーだ」
安全圏の収縮が始まったこの状況下。
帯島が立てた作戦は、非常に単純なものであった。
安全圏が収縮するタイミング。この時に隠岐を用いて外側から戦況を観察させ、太刀川を送り込むというもの。
「ウチの隊が持つ何よりの強みは、隠岐先輩と太刀川さんッス。──マップが収縮し始めて。皆がマップの中に行きたがるタイミング。このタイミングで、安全圏外で隠岐先輩をグラスホッパーで動かして情報を集めさせて。太刀川さんを送り込む適切な場所を探る」
そう帯島が言うと。
太刀川はへぇ、と一言。
「成程なぁ。──確かに。狙撃手が動ける、って特性活かすには単純に中に入っていくよりギリギリまで粘って外にいた方がいいだろうな。だが。安全圏の中には二宮たちが陣取っている。アイツらには距離は関係ないぞ」
「はい。──むしろ、それが狙いです。二宮さんたちの牙城を崩す為に、まず脇を落としたいッス」
「と、いうと」
「隠岐先輩の索敵で見つけるか。もしくはあちらが先に隠岐先輩を捕捉するか。そのどちらかで──古寺先輩か、北添先輩の位置を捕捉して、それを太刀川さんに仕留めてもらいたいっす」
「.....」
それはつまり。
──二宮と出水が組み、弾雨が降り注ぐ中。単騎突入し点を取ってこいと。そういう事を帯島は言っているのだ。
あまりにも無茶だ。
二宮だけでも相当な苦労がかかるというのに。その上出水までいるのだ。その地帯を切り抜け──古寺か北添を仕留めなければならない
「.....無茶なのは、承知の上ッス。でも北添先輩か古寺先輩。このどちらかが仕留め切れれば、二宮さんたちの圧が削れる。そうなれば、他の隊が二宮さんのところに手を出しやすくなる」
安全圏の収束が繰り返される中。やはりあの位置に二宮と出水がいるのはあまりにも厄介だ。
その上狙撃手という目と、北添という間接射撃の使い手がいる。
せめて──あちらに情報を与える役割の駒だけでも削りたい。
それが出来るのは──この戦場にいる中。この男しかいない。
太刀川慶。
「言ったろ。俺は、今回は駒だってな。命令されりゃその通りに動くだけだ」
まあ、と太刀川は続け。
「無茶を言われるのは嫌いじゃない。──楽しくなってきたな」
ニッ、と笑みを浮かべ。
格子状の目の先。太刀川は目元を歪ませていた。
※
太刀川慶が駆け抜け。
そして──弾雨が降り注いでいく。
「太刀川さんか! ──この位置じゃあ、足で追いつくのは無理でしょうね」
「こちらの火力で迎撃するぞ。──狙いはお前だ北添。すぐに移動しろ」
「ひぇ~太刀川さん来ているのかぁ。北添了解。すぐに逃げます」
二宮のハウンドで足を止め。
出水のバイパーで身体を削る。
こちら側にやって来た敵に対して、そういう連携でもって対抗するのが──事前に二宮の部隊が決めていた事であった。
広範囲の面攻撃と、多角の収束攻撃。この二つを、最強の射手二人がそれぞれ行う。並みの相手であらば、それだけで成すすべなく圧殺できる。
だが。
太刀川は、余裕を崩さぬままその攻撃に対処していく。
ハウンドの弾道を事前想定し、誘導機能が弱まる瞬間を見計らいグラスホッパーを用いて脱出を行い。
即座のトリガーの切り替えでバイパー弾を防ぐ。
──太刀川慶は、ボーダー全隊員の中において最強である。
それは。
戦闘の最中における能力でもあり。
戦闘に入る前の段階から、最強なのだ。
「火力だけで仕留められる程俺は甘くねぇぞ」
特別高いトリオンもなく。
特別なサイドエフェクトもなく。
それでも、この男は──全てを薙ぎ倒してきた。
ハウンドとバイパーの時間差が縮まっていく。
それでも太刀川は対応する。
今度はハウンド弾の幾つかをシールドで消し。グラスホッパーの切り替えから脱出を行う。
トリガーの切り替え速度が、とかく凄まじい。
シールドの設置位置が、あまりにも完璧。
グラスホッパーの射出位置に一切の違いなし。
弧月だけではない。己が使うトリガーを正しく速く使うという基本的な部分を。
誰よりも理解し熟達しているが故の、最強。
「──出水」
「うっす。タイミングを合わせて下さい」
二宮が放つハウンドに合わせ。
出水は──数秒の時間にて合成弾を作り出し、空へと打ち上げる。
「──そう来るよな。解っているぜ、出水」
恐らくは、トマホークであろう。
今まで二宮・出水はハウンド→バイパーという連携にて太刀川へ攻撃を仕掛けていた。
そして。今回の弾丸も弾丸を打ち上げたタイミングは二宮のハウンドから、出水のバイパーの軌道の合成弾という順番で行われた。
だから今回も、二宮のハウンドで足を止めさせ。出水の合成弾で仕留める。そういう流れではないかと判断したくなる。
だが。
太刀川慶は──今までに放たれた弾丸と、今放たれた弾丸の微妙な差異を見逃さなかった。
二宮のハウンドの射角。微妙に上向いているものが存在している事が。
「──なら、こうだ」
太刀川は瞬時に弧月を握り、己が横手にある建物を斬り裂くと同時。
崩れ行く建物の前方向に己は立つ。
──二宮のハウンドは、これまで太刀川に放たれたものと、誘導機能の力の籠め方が異なっている。
その力の籠め方が、射角に現れる。
今回は──出水の合成弾で足を止め、今までとタイミングを微妙にずらしたハウンドで太刀川を仕留めるつもりだったのだろう。
今までのタイミングを覚え込ませ、先に回避行動をさせたうえで──二段構えの攻撃に直撃させる為に。
「マジか」
太刀川は。
全方向から太刀川目掛けてやってくる出水のトマホークを──事前に切っておいた建造物の瓦礫にあて爆発させると同時。
そこからグラスホッパーを用いて脱出していた。
出水公平はリアルタイムでバイパーを引ける。
事前に軌道を設定したものではなく。その場その時に最適な軌道を引き、放つ。那須玲と同種の能力を持っている。
──だが。
その彼と同じ部隊で、そして隊長である太刀川は。
その軌道全てを把握する事は出来ずとも。最終的に弾丸をどこに着弾させるか、という部分においては見抜いていた。
バイパーは一度軌道を決め放った後はその後の修正は効かない。
読めてさえいれば、──防げる。
「.....流石」
合成弾に加え。これまでの連携から弾丸のディレイを加えてまで行った弾雨すらも。
太刀川は切り抜けていた。
「楽しくなってきたなぁ。──さあてもう少しだな」
北添の命にその刀を届かせるまで。
あともう少し。
※
「──さて。おおよその戦況は纏めきれた。こちらは、ギリギリのタイミングで安全圏に入るぞ」
小柄な男が。
堂々とした口ぶりで、そう通信を行っていた。
男の周囲には、仲間は誰もいない。
黒いマントを羽織ったまま──男はジッと。二宮と出水が放つ弾丸の行方を、見ていた。
「ここから。浮いた駒を根こそぎ取っていく。狙撃手は優先して仕留める。単独の駒も挟んで仕留める。いいな」
風間蒼也。
彼は──部隊を切り分け。己のみがマップ中央付近にまで到達していた。
「太刀川が中央に向かっている今がチャンスだ。全員、安全圏に入ってこい」
風間蒼也率いる第七部隊。
彼等もまた、安全圏に入っていく──。