挑発探偵   作:石黒ニク

11 / 18
3年前の惨劇/疑惑

「なあ、お前らはこの椛館で起こった殺人事件を知っているか?」

「さ、殺人事件ですって……?」

「おじさん。オーナーに振られたからって、嘘吐いちゃダメでしょ。嫌いな作品だったからって低評価レビューしちゃうような評論家気取りじゃないんだから」

「嘘じゃねーよ。実際に3年前くらいに起きたんだよ。俺さまの言うことは正しいぜ?」

 

 茂田さんがなぜだか自信ありげに胸を張って言うので、さとり世代特有のスキル、スマホ検索に頼ってみる。ワード入力のバーに【椛館】と打ってみると、入力予測の候補――スクロールして最後のほうに【殺人事件】やら【死体 写真】など物騒な文字が並んでいた。昨日調べたときは明るい情報しかなかったのに。

 

「ほらな。俺さまの言う通り。確か、連続殺人事件だったか。詳しくは記事を読んでみろ」

「え、ええ。そうします」

 

 本音を言えば、ヒトのスマホを覗かないでほしかったが。

 この手のタイプに何を言っても無駄なのは心得ているけど、それでもやっぱり不快感がありあまる。ってか、息臭っ。金橋さんの言っていたことがよく分かる。それだけでもはや吐きそう。

 

「ええと、なになに……ふむふむ。要約するとつまり、この椛館で殺人事件が起きたんだね」

「それは要約し過ぎです。なにひとつとして詳しい情報がありません」

 

 椛館で殺人事件があったことは記事の見出しで分かる。茂田さんの話が嘘じゃないことも。深夜の情報集めが功を奏していないことも。せっかくのシルバーウィークに曰く付きの館で泊まりとは、僕はバカなのか。

 

「じゃあ、今度は近衛クンが愛してやまないロリボイスで読むね――椛館連続殺人事件とは、紅天狗岳の頂上付近に位置する椛館で起きた連続殺人事件である。椛館の2階西館の4号室が現場となり、被害者は或場伊斗(あるばいと)(23歳)と振板(ふりいた)このみ(21歳)の2名で、警察は現場の隣の部屋で宿泊していた三木祭(みつぎまつり)(29歳)を被疑者として逮捕した。三木は容疑を全面的に認めており、警察は痴情のもつれによる犯行として捜査を進めている、だってさ」

 

 本当に幼い女の子みたいな声で読みやがった。っていうか、好きじゃないし。恋愛対象じゃないし。さっきのは一ノ瀬さん(あなた)の冗談に便乗しただけだし。言いがかりにしては本当に悪質だ。

 

「うん? 痴情のもつれってことは被害者の或場さんと被疑者の三木さんは恋愛関係にあったってことですか?」

「もしくは、振板さんのほうかもね。このネット記事に被害者の生前の写真があるけど、確かに女の私でも可愛いと思える顔しているよ。性格はクソかもだけど」

「いずれにせよ、この振板さんはいわゆる間女ってやつですよね。一ノ瀬さんの言い方は毒があり過ぎますが、性格は良くなかったかもですね」

「29歳ってことは、或場を逃せば、結婚の適齢期が過ぎちゃうだろうし、本当に焦っていたんだろうね。だから浮気されて、怒りが沸点に達した」

 

 被疑者の気持ちもよく分かるが、殺すのはどうだろう。なんだかやるせない気持ちになるな。

 

「29歳か……それなら、俺さまが幸せにできたのに。なんで殺人なんかしたんだよ。まったく、困ったちゃんだ」

「あの。恐縮ですけど、もしかしてこの話を女性陣にしようと?」

「まあな。結局はお前に止められちまったが、この話で怖がった女の子を介抱して、最高のイケメンになる計画だったんだ。『全人類ハーレム計画』だ。すごいだろ?」

 

 茂田さんには悪いけど、止めてよかったと思う。イケメンに限る映え台詞ばっかり言うし。やっぱり、鏡を知らない世代なのか?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。