「先も言ったけど、事故の可能性はほぼゼロだと思うよ。なんなら、断言してもいい」
「そんなに殺人事件だと主張するのであれば、一ノ瀬さん。根拠をお話ししてください」
「事故か事件か……初歩的な言い争いは終わりだ。私の信条は『現場のマウントは証拠で』だし」
それから一ノ瀬さんは金橋かしわの死の事件性について語り始める。終始ふざけていた人とは思えないくらい、普段のギャップと違っていて、多重人格者を疑うほどだ。
「――まず、金橋さんの致命傷なんだけど、頭部を鈍器のようなもので殴られてできたものだと判明したよ。いちおう現場をざっと見たら、粉砕されたワインボトルが血痕付きでごみ箱に捨てられていたし、たぶんそれが凶器だと思う」
「はい。ムノウもガイシャの傷をよく観察してみたら、生々しいところに細かなガラスの破片が付着していましたので、そのワインボトルが凶器とみて間違いないと思います!」
「うん。だからさ、これがもし仮に事故だとしたら、金橋さんの命を奪ったとされるワインボトルがごみ箱に捨てられている訳がないんだよ。それとも、事件が起きる前に誰かワインボトルを割っちゃった?」
僕も含め、頷く人は誰も居なかった。沈黙は依然として僕らのなかを泳いでいる。金橋さんが死ぬ前にボトルを割った人が居ないのなら、一ノ瀬さんの推理は正しいことを意味し、そしてそれは死の事件性を物語っている。
「……ということで、証明終了だ。ムノウちゃんは引き続き、現場の保存と監視を頼むよ。私はここに居る関係者のアリバイを聞く」
「ま、待ってください。まだこのなかのヒトが、かしわを殺した犯人だとは言えないのでは?」
「そんなことはひとつも言った覚えはないよ、木村クン。あくまでこれは可能性のひとつを潰していく作業に過ぎない。外部犯の犯行も否定できないけど、こういうのはたいてい、内部の犯行だよ。じっちゃんの名に懸けて、ね」
金橋さん殺しが内部の犯行、か。だとして、僕や蜜屋さん、木村くんに茂田さん……のなかに犯人が居るということになる。僕はやっていないので、僕以外の3人のなかに――ということだろう。
「ちなみに、一ノ瀬さんのおじいさまは名探偵かなにかなんです?」
「ううん、ただの盆栽好きの一般人だよ」
「一般人!?」
これほどまでに安心感のないじっちゃんは初見だ。先行き不安でしかないけど、事件は解決するのだろうか。とにかく僕らはひとりずつアリバイを聞かれることになった。
「まずはムノウちゃんの大まかな検死結果を基に、近衛クンからアリバイを聞くよ。これによると、彼女が死亡した時刻は昨日の深夜1時半から2時にかけて、だ。このあいだ、きみは何をしていたのかな?」
「僕ですか……ええと、部屋でゲーム実況を視聴していました。スマホに履歴があります」
「ふむ。つまりアリバイ無しだね。犯人候補リストに入れておくよ」
「なっ……! なんでですか! 履歴があるんですよ、ほら!」
動画サイトのページを開き、表示されている画面を一ノ瀬さんの童顔フェイスに押し付ける。
「ちょ、近衛クン! 近付け過ぎだって! 便器よりも汚いとされるスマホを、よりにもよって私の愛くるしい顔面に!?」
「ブルーライト半減のシートを貼っているので視力には問題ないかと。それより、見てください。ゲーム実況の生配信を深夜2時まで視聴しています。あっ、内容まで細かく説明しましょうか?」
「動画を観ていたことは分かったからあ!! とにかく、部屋にひとりで居たんだよね? いくら履歴が残っていたとしても、そういうのはアリバイとは言わないから!」
なーんだ、そうだったの。悪目立ちしたのがバカみたいだ。スマホをそっとしまう。