挑発探偵   作:石黒ニク

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チェックイン

「……ふむふむ。私たちが最後のチェックインみたいだね。受付に鍵がふたつしかない。それに、宿泊リストによると、今日は私たちを含めて6人も居るみたいだよ」

「意外と多いですね。ちょっと見せてもらってもいいですか?」

 

 

【椛館・宿泊リスト】

14:57~蜜屋彩華

15:38~茂田熊三郎

15:55~木村翼

15:55~金橋かしわ

16:18~一ノ瀬ゆかり

16:22~近衛竜彦

 

 

「名前からして男女それぞれ3人っぽいね。テ〇スハウス的な展開を期待しちゃうよ! 近衛クンも傷心旅行のために来たのなら、心躍るでしょ?」

「書いていて思いましたが、宿泊リストは手書き制なんですね。宿を取るときはネットの予約だったのに、ずいぶんとアナログとデジタルが入り混じっていますね」

「……それはすみません。なにしろ、まだ屋敷の経営に慣れていなくって」

 

 背後から声がして振り向くと、そこにはゴシックロリータ調の給仕服に身を包んだ女性が立っていた。髪は頭の上へ団子のようにまとめていて、きりっとした目つきが印象的な、美しい人だ。

 

「経営ってことは、あなたがここのオーナー? まだお若いのに大変ですね?」

「おっと。さっそく口説きに掛かっているね、近衛クン。男はみな狼という定説は間違っていなかったんだ! オーナー、気を付けて。性的な夜食にされちゃうよ?」

「え、えっと……?」

「ああ、そのヒトは無視してください。ホラッチョなので」

 

 頬を膨らませ、地団駄を踏みながら怒る一ノ瀬さんは本当にオトナとは思えない対応をしていた。おまけに初対面の人にさえ、下ネタ攻撃をかましているし。

 突然の低俗な物言いにオーナーも困っているじゃないか。一ノ瀬さんを心のなかだけで侮辱しつつ、やっぱり現実でも鋭い視線で憐みを向けておく。

 

「そ、そういえば自己紹介がまだでしたわね。わたくしは蜜屋彩華(みつやさいか)と申します。できればオーナーなどではなく、蜜屋と気軽に呼んでくださいませ」

「ご丁寧にどうも。僕は近衛竜彦(たつひこ)です。そしてこちらのちんちくりんは――」

「ちんちくりんって言うな! 夜な夜な枕元に立って5秒に1回の頻度で髪の毛を1本ずつ抜いてやろうか!? あ、私は一ノ瀬ゆかりです。よろしく、蜜屋さん」

 

 なんだ、その心の狭い嫌がらせは。そんなことを実践されたら、1分で12本も討伐されることになる。老後に備えて髪の毛は大切に育てていきたい。これからも。

 

「ええ、宜しくお願い致します。――ところで、おふたりはこの椛館に来るのは初めてでいらっしゃいますか?」

「私は完全初見だけど、近衛クンは?」

「僕も初めてですね。たまたま宿泊サイトを読み耽っていたら、この紅葉がいっぱい綺麗に咲いているところを、その紹介ページの写真で見て感動したんです」

「それはオーナー冥利に尽きますね。このシーズンはちょうど紅葉狩りの時期で、紅天狗山への観光客も8割増しですのよ。宿泊する方は多くありませんけどね」

「え。もしかして、紅天狗山も蜜屋さんの土地なんですか?」

「ええ。正確には祖父のものですが、24歳の誕生日プレゼントとして、この椛館と紅天狗山の一部を譲り受けましたの。わたくしは月に行ける券だけでいいと言ったんですけどね。おじいさまってば、孫のわたくしが可愛くて仕方ないみたいでっ」

 

 誕生日プレゼント、だって? 規模が違いすぎる。さすが若きオーナー。月に行ける券だけではなく、土地と屋敷まであげるなんて、彼女の祖父もすごいヒトだな。

 

「……え。っていうか近衛クンって、ここ初めてだったの? 紅天狗山がどうたらって説いていたのは、付け焼き刃の知識を自信ありげにひけらかしていただけ?」

 

 いちいち引っ掛かる言い方だ。確かに徹夜漬けで覚えた穴だらけの情報だけど、年甲斐もなくキレそうになるのを、改めて屋敷のなかを見回すことで抑える。

 椛館の内部は、紅葉の朱色を基調とした絨毯や壁紙がどこまでも広がっており、外の景色を彷彿とさせるデザインになっている。いま僕らが居るホール中央に聳え立つ大きな階段と、天井にある楓の形をした豪華絢爛なシャンデリアが印象深い。

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