挑発探偵   作:石黒ニク

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懲りない人たち

「だから翼きゅんと待ち合わせしているんだってば! なんなの、この禿頭」

「少しくらいお話をしてもいいじゃないか。どうせ待っているあいだは暇だろう? とっておきの話があるんだ。ね、ね。ちょっとくらいだったら良いだろう?」

 

 大広間へと戻ると、言い争っている声がしていた。金橋さんと茂田さんだ。

 言われ慣れたのか、禿頭と罵られても茂田さんは涙目になっていない。海外ドラマのゾンビみたいに、回を追う毎に成長しているのかもしれない……なんてね。

 

「蜜屋さんの次は金橋さんですか、茂田さん。テ〇スハウスじゃないんですから、手当たり次第に女性との距離を詰めようとしないでくださいよ」

「なんだ、貴様。俺さまのストーカーか? 男に好かれても嬉しくねーんだよ!」

 

 行く先々にこの人が居るのは否めないが、ストーカーと呼ばれるとシンプルに吐き気がする。いったい何が楽しくて、おじさんの後ろに居ないといけないんだ。

 

「彼女、嫌がっているのが分かりませんか? セクハラですよ、それ」

「助けてください! この人、身体をべたべた触ってくるんです! 触り方が痴漢みたいに陰湿で気持ち悪くって、ゲロ吐きそうなんです!! 今朝食べた伊勢海老の塊が丸ごと出てきそうなんです!!」

 

「身体は触っていないだろ! なんなんだ、いったい! 痴漢冤罪もいいところだ! そうやってお前は罪のない一般人の人生を壊したんじゃないのか!? ちっ、俺さまだって若いメスと楽しく会話がしたいだけなのに……っ」

 

 年齢に見合わない大声で喚きながら、茂田さんはどこかに行ってしまった。妙な引っ掛かりもあるが、いまは本気で怯えている少女を助けなければ。

 

「ええと、大丈夫かい?」

「うん……ありがと。やっと居なくなった、あの禿。唾いっぱい飛ばしてきてキモかった。それに声が大きくて、本当に怖かった。あなたが来てくれて助かったよ」

 

 しかし、茂田さんも懲りない人だな。若きオーナーに、彼氏持ちのJKまで狙うなんて。ストライクゾーンが広めというか、相当の自信家というか。

 単純に鏡を見たことがないんだろうな。頭が可哀想なのに身の程も弁えないなんて、珍しい。あらゆる基準は自分が満たしているのだと思い込んでいるのだろう。

 

「あの。もし良かったら、お名前を教えてもらってもいいですか。わたし、あなたのこと知らなくて。えっと、わたし……金橋かしわって言います。高校2年生です」

「僕は近衛竜彦って言うんだ。呼ぶときは『近衛さん』でいいよ。彼氏のほうにも言ったけど、僕は年上だからそれなりに敬意を払ってね――ってまあ、冗談だよ」

「は、はい。近衛さん、よろしくお願いします」

 

 顔が強張っているのは彼氏と同じ反応だ。さすが熱盛カップルだけある。

 

 

 

「やあ、かしわ。おや、近衛さんと一緒だったんだね! 待たせてすまなかった!」

 

 そうこうしているうちに片割れ――木村翼が戻ってきた。独特な空気を吸わされる前に部屋に戻らないと。このふたりが同じ場所に居ると、理解不能な会話が――。

 

「翼きゅんっ! もー、遅いよぅ~☆」

「ごめんにゃ、かしわたん。あとでいっぱい構ってあげるから許してぽよ(*ノωノ)」

「しょうがないなあ。許してあげるぽよ( *´艸`) だから代わりになでなでだよぅ?」

「もちろんさ(^◇^)! オレはかしわにょるとした約束なら、絶対に守るから! いままでも、これからも、黒雲母!!」

「嬉しいおっ(*‘∀‘)! 翼きゅんったら、だ~いしゅき(´∀`*)」

「オ、オレもかしわぴゅんのこと、だいしゅきすぎてしんどいマン! 世界で……いや、大宇宙のなかでいちばん好きだ! オレと死ぬまで一緒に居てください!」

「うん……ずっと一緒だよ、翼きゅん(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

 

 はい、優勝。なんだこれグランプリ優勝。学生カップルって、こんなに痛かったっけ。氷のような寒気よりも、太陽みたいな眩しさを感じる。熱すぎて近付けない。……っていうか、いま顔だけで会話していなかったか?

 

「さあ、部屋に戻ろうか、かしわプリンセス。お部屋までご案内しますよ」

「きゃっ、お姫様抱っこ!? 翼きゅん、わたし重いよ!?」

「なんのこれしき、二次方程式。解の公式は『X=-b±√b-√4ac÷2a』」

「すごい、翼きゅんΣ(・ω・ノ)ノ! 題意を完全に満たしているよぅ!」

 

 二次方程式の解の公式か。懐かしいな。当初は僕も解くのに苦労したっけ。いまではめっきり使う機会もなくなったけど、公式だけなら頭のなかにちゃんとある。

 

 ――意外と覚えているんだよな、そういうのって。

 

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