けどやっぱり小説書くのは楽しいですね!
大きな山々に囲まれたこの街はとても心地よい風を鳴らしていました。とても活気に満ちた暖かい風です。
ここはドンドルマ、大陸で最も大きいと噂される街です。周りを取り囲む山々は豊富な資源を含み人々の助けになりました、時には強大なモンスターからこの街を守る大きな盾にもなりました。
しかしこの大自然が広がる世界に絶対などありません。このドンドルマの街も例外ではありません。
それは時に災害と恐れられ時に神と讃えられ人々の心を揺れ動かす存在、古龍種です。原因は不明ですが古龍達はドンドルマの長い長い歴史の中で何度もその姿を現してきました。一番新しい歴史を辿るど十二年前の老山龍ラオシャンロン襲来でしょうか。
しかしそんな古龍種達の襲来をこの長い歴史の中で何度も受けてるにも関わらず未だに発展し続けるこの街を見ればこの地に暮らす人々の強さ、心の強さが推し量れますね。
そして今日、長い時間を掛け紡いできた物語の風がこのドンドルマにたどり着きました。もう一つの風がこの街にやって来るのもそう遠くはありません。
丁度ドンドルマの街全体が夕焼けのベールに包まれるこの時間帯に一台の竜車が石造りの大きな正門をくぐり抜け街の中央に位置する中央広場と呼ばれる場所に止まる。
「ドンドルマに到着ニャー」
竜車を引く二頭のアプトノスの手綱を握った獣人族のアイルーが声をあげる。周りの賑わう生活音にアイルーの声はかき消されかけたが荷台に乗っている客には聞こえたはずだろう。
ほんのしばらくの間を置いた後荷台に乗っていた人達が長旅で疲れた身体をほぐしながら外に出ていく。大きな背荷物を背負った商人に和気あいあいとした老人の夫婦――様々な人達が降りてくるなか一層目立つのが鎧を着込み身の丈程の大きな武器を背負ったハンターという者達だ。この竜車をモンスターの襲撃に備え同乗していたのだ。リーダ格の男が自分を含め四人揃ったのを確認して竜車のアイルーの方へ歩み寄る。それに気づいたアイルーはハンター達の方を向き一礼する。
「ハンターさんここまでの護衛ありがとうニャ!」
「なに、いいってことよ。 結局モンスターは来ないし俺達はタダ金貰ったみたいなもんだからよ」
ハンターはどこか申し訳なさそうな苦笑いを浮かべた。
「ニャにハンターさんが居てくれただけでも僕も安心してここまで来れたニャ!――それよりあの兄ちゃんはどうだったかニャ?」
アイルーは少し不安そうな表情を浮かべ竜車の後ろ側に立っている少年を見つめる。その少年は身なりからしてハンターだと一目瞭然だが護衛の四人組とは別グループのようだ。少年はうつむいて体を小刻みに震わせるだけで動かない。
「あぁ……あれからめっきりだ。 最初こそはうるさくて迷惑してたがドンドルマに近付くにつれ段々と大人しくなって行きやがった、今じゃ適当な相槌しか返してくれねぇよ。 まぁ見るに新米みたいだが緊張してるんじゃねぇか?」
それからハンター達はしばらくアイルーと話し込んだ後「んじゃ」と言い立ち去っていった。ハンター達が見えなくなったのを確認したアイルーは振る手を止めもう一度少年のハンターを見る。少年の様子は先程と変わらず下を向いて小刻みに震えていた。
「……よしニャ!」
アイルーは少年を少しでも元気づけようと顔を覇気に満ちた表情に変え鼻息を鳴らし少年に近づいた。
「ニャニャ! しっかりするニャ! ハンターさん」
アイルーの声に少年はピクリと反応し更に一層体を震わせる。
「確かに初めてここに来て緊張する気持ちもわかるニャ。 だけどこの街のハンターになるんだったらそんな弱気じゃだめニャ! もっと気合い入れるニャ!」
「……ウン」
震えた少年の声は若干裏返っていた。
「……こ、これはかなりの重症だニャ……ほらまずは顔を上げるニャ」
アイルーは丁度目の高さにある少年の足を急かす様に叩く。
この震えている少年の名前はメル。今年ミナガルデの訓練所を卒業し遥々このドンドルマにやって来た新米ハンターだ。訓練所から卒業時に支給されたハンターシリーズの防具を着込み腰には片手剣のハンターナイフ。右手にはハンターナイフとセットの小盾を装備している。
少し尖りのある茶色の髪をしており、その顔を下を向いている為あまり分からないがまだ幼い印象を受ける。
そんなメルという少年の心は今激しく高揚していた。こうして夕焼けに照らされた地面を見ているだけなのに、周りの賑やかな生活音を聞いているだけなのに胸の奥から迫りくる感情に胸がはちきれそうになる。今顔を上げてこのドンドルマの街を見てしまったら自分はもう戻れないだろう。
メルは緊張していた――これから始まる自分の物語に――だが物語を進める為には勇気を出さなければいけない、自分の心に正直になる勇気を。
「ほら、早く顔を上げるニャ!」
「……うん!」
アイルーの言葉を受けメルは恐る恐る顔を上げる。顔を上げるとそこには夕焼けに照らされたドンドルマの街が映っていた。
まず一番最初に写ったのが中央に聳える大階段だ。その石造りの大階段は曲がりくねりながら上へ上へと伸びている。上へと続く大階段を目で追うと今度は一際大きな石造りの建物が頂上に鎮座していた。あれがかの有名なこの街の長、大長老の居る大老殿であろう。そして次に目に入ったのが大階段を中心に左右に広がる石造りの建造物達だ。大小様々な大きさの建物達はこのドンドルマの長い歴史を感じさせた。メルの淡い緑色の瞳に光が宿っていく。
「…………ッ!」
空いた口が塞がらなかった、眼前に広がるこの景色に。メルの髪はまるで猫の毛の様に逆立つ、緑色の瞳がワクワクに輝かく。胸の中がワクワクで満ち溢れていく。メルは両手を固く握りしめ、力のこもった身体をさらにさらにと震わせる。そしてはちきれそうなこの感情を――ワクワクを全力で――力を込め――声にして――腹から思いっきり吐き出した。
「うおおおおおおおぉぉぉぉぁお!!!!」
「ニャ!? ニャ!?」
周りの視線が一斉にメルに向く。アイルーはメルのいきなりの豹変に驚き尻餅をついてしまう。
風が吹く、物語の始まりを告げる追い風だ。メルは追い風と共に全力で走り出す。
「じゃあね〜! ここまで送ってくれてありがとう!」
メルはアイルーに手を振り満面の笑顔でお礼を言う。そしてそのまま大階段を走り抜けっていった。
アイルーは驚きで空いた口が閉まらなかった。
「ニャ……げ、元気になったニャ……」
大階段を走り抜けるメル。人混みの中を器用に避けながらとにかく走り続ける。
「もう我慢なんてやめだ! これは俺の物語! 全力で思いっきり楽しんでやる!」
何処に向かおうとしていたのかなんて既に忘れていた。ただただ走り続ける、様々な方向に視線変え周りの景色を楽しむ。そんなメルの前に白黒の毛並みをしたアイルーが歩いていた。周りの景色に視線を奪われていたメルはそのアイルーの存在に気づかなかった。
「――んニャ? ニャニャニャ!?」
なにやら背後に気配を感じたアイルーはすぐさま後ろに振り向く。そこにはもの凄い勢いでこちらに向かってくるメルの姿があった。このままではぶつかると思いアイルーは急いで避難しようと行動を起こしたが遅かった。
ゴツンッ!
鈍い音と共にメルとアイルーは衝突を起こす。メルは尻餅をつき、アイルーはおもいっきり横に弾き飛ばされ壁にぶつかってしまう。
「ニャハッ……!」
掠れた悲鳴を上げてアイルーは痛みにうずくまる。
「ハハッごめんごめん! んじゃ!」
ごめんとは言ったもののその言葉に気持ちなんて全くこもってなどいなかった、それどころか大して気にしていない様子だ。メルは直ぐに立ち上がりまた走り出そうと地面を蹴り出したその時だ。
「ちょっと待つニャァァーー!」
怒りに顔を震わせたアイルーがメルにドロップキックをかました。
「おわっ!」
突然のドロップキックにメルは驚くが防具を着ていたお陰で大したダメージは無かった。だがバランスを崩してしまいそのまま石で出来た地面に顔面をぶつけてしまう。ドロップキックよりこちらの方が痛そうだ。
「痛てて……うわぁ! 鼻血だ!」
メルの鼻から鼻血が流れていた。滴る鼻血を止めようと強く鼻を擦るがそれはかえって逆効果のようで鼻血はさらに勢いを強くする。
そんなメルの前にアイルーが仁王立ちで立ち塞がる。
「ぶつかっといてなんニャその態度は! それに人が沢山いるなかで走ったら危ないニャ!」
白黒のアイルーは怒り心頭だ。
「ご、ごめんね。ちょっと興奮してたよ」
自分の鼻血を見て少し落ち着きを取り戻したメルは顔を上げてアイルーに謝る。今度は心を込めての謝罪だ。
「全くぶつかったのがオイラだったからよかったものの……もしオイラじゃなくて……うニャ!?」
何かを言い掛けたところでアイルーの口が止まる。少し青ざめた顔をしたアイルーはメルの顔をまじまじと見る。メルの顔は鼻血だらけで汚れていた、雑に擦ったせいで鼻血は顔全体に広がっており、滴る鼻血は地面に染みをつけていた。メルは早く鼻血を止めんとまた強く鼻を擦ろうとする。
「ニャニャ! ちょっと待つニャ、待つニャ!」
すかさずアイルーが止めに入る。青ざめたアイルーは今度は罪悪感で一杯だった。
「んニャ……取り敢えず布でも詰め込むニャ……その……さっきはオイラも悪かったニャ……」
アイルーはそう言いメルの鼻に手持ちにあった布を小さくちぎりメルの鼻に詰める。
「いや俺の方こそごめんね。 あまりにもこの街が凄かったからさ……俺昔から興奮するとこうなんだ」
そう言ってメルは笑みを浮かべる。鼻の奥にドロドロとした違和感が残るが大して気にしていない様子だ。
「ニャ? お前この街に来るの初めてかニャ?」
「うん! 今日来たんだ、ハンターになる為にね!」
ハンターという単語を聞いたアイルーはピクリと耳を動かす。色々あって気に掛けていなかったが確かにメルが着ているのはハンターの防具だ。
「なるほどニャ。 その装備を見るに新米かニャ?」
このアイルーは仕事柄少しではあるがハンターの知識に明るい。メルの装備しているハンターシリーズは新米の証みたいな物だ。
「うん! ミナガルテの訓練所を卒業して来たんだ!」
「でもなんでわざわざこの街に来たんだニャ?」
ミナガルテといえばドンドルマ程では無いにしろそれなりに発展している街だ。わざわざここまで来なくてもハンターとしての出だしには悪くない街だ。アイルーは少し不思議だった。
「ずっとここに来るのが夢だったんだ! 大陸一の大都市……聞いただけでワクワクするよ!」
随分と夢見がちな男だなと思ったアイルーはふと思い付く。
「それならこれから大衆酒場に向かうかニャ?」
それは聞いたメルは何かを思い出したかの様に顔をハッとさせる。
「ああぁ! そうだ俺これから酒場に行かなくちゃいけないんだった!」
実は正確に言うとメルはまだハンターでは無い。ハンターとしてクエストを受けるにはまずギルドに登録しなければならない。ドンドルマの場合受付が大衆酒場にある為メルはまず最初にそこに向かわなくては行けないのだが、この様子だとすっかり忘れていたようだ。
「それなら卒業証はちゃんと持ってきたかニャ?」
「うん! ほら!」
メルは自分のポーチからボロボロになった手紙を取り出す。どうやら本物のようだ。
ハンターになる為には二つの方法がある。一つはギルド公認の訓練所で一定の成績を収め卒業すること、二つ目がギルドの認めたハンターに弟子入りし認められる事、メルの場合は前者だ。
「大衆酒場の場所は分かっているかニャ?」
「いや全く分かんないや!」
アイルーは疲れたため息をつく。うすうす思っていたがどうやらこの男はアホの類の者だろうと。だがこのアイルーからしたらそんなアホの方が親しみやすかった。
「鼻血のお詫びニャ。 大衆酒場まで案内してあげるニャ……」
「ホント!? ハハッやったー! ありがとう……え〜と名前なんて言うの?」
アイルーは少し気難しそうに答える。
「ニャ〜オイラに名前なんてないニャ。 オイラたちメラルーは人間と違って名前が無くてもコミニケーションに困らないのニャ。 ……んニャ? しまったニャ!」
「ん〜でも名前が無いってのもな〜。 ん、メラルー?」
ついうっかりと口を滑らせてしまったこの獣人族、実はメラルーだったのだ。本来は普通に気づける筈なのだがメルは珍しい色だなと言う程度の認識で気づけなかった。このメラルー自身も隠す気は無かったがメルが気づかないのならできればそのまま気づかないでいてほしかったと思っていた。
メラルーとは要するにアイルーの亜種に当たる存在で人に友好的なアイルーと違いこのメラルーという種族は人の物を盗んだりイタズラを仕掛けたりと、とにかく手グセが悪い事で有名である。このメラルーのように人里で暮らす者はごく稀であろう。
「……んニャ……」
メラルーは後ずさりしながら気不味そうにメルを見る。それに対してメルはというと。
「うわぁーすげぇ! 俺人里で暮らすメラルーなんて初めて見たよ! 俺はメルよろしくな!」
メラルーが人里に暮らしているという珍しい事実にまたしても興奮する。
「メルかニャ。 よろしくニャ」
メラルーはほっと胸を撫で下ろした。メルが自分をメラルーだと知っても危害を加えるつもりは無いと分かったからだ。
「それじゃメル、大衆酒場まで案内するから着いてくるニャ。」
「オッケー!」
メルとメラルーは大衆酒場を目指し歩き出す。
――――――
太陽も沈みもうすっかりと夜になっていた。篝火の橙色に照らされたドンドルマ街は夕方の時とは随分と違う雰囲気になっていた。この時間帯になっても人々の活動は止むことなくむしろ更に賑やかになってきていた。
メルの鼻血もすっかり止まり、つい先程水場で顔についた血を洗い流してきたところだ。そしてメルとメラルーはようやく目的の場所にたどり着く。
「到着ニャ。 ここが大衆酒場なのニャ」
「おぉー! ここが酒場!」
酒場の外見はどちらかと言うと地味であった。他の建造物の様に凝った彫刻が掘られている訳でもなくただ岩に穴をくり抜いただけのような外見だった。それでもメルの心が踊らない訳が無い。再びメルの心がワクワクに溢れてきていた。
「それじゃオイラはここでサヨナラするニャ」
「うん! ありがとう!」
鼻血の借りを返したメラルーはこれ以上深入りする事も無く颯爽と立ち去ろうとする。別れにしては随分とあっさりしているがメルも対して気にしていない様子だ。
「あ、そうニャ」
何かを思い出したメラルーは立ち止まりメルの方へと振り向く。
「オイラはハンターを狩場まで運ぶ仕事をやってるニャ。 オイラは嫌われ者のメラルーだから客も滅多に来ないし暇なのニャ。 だから来てくれると嬉しいのニャ」
メラルーは自分が嫌われ者だと気にも留めず言う。このメルという男が自分をメラルーだと知っても態度を変えず普通に接してくれたからだ。
「へーそうなんだ! じゃあこれからよろしく!」
メルは嬉しそうな笑顔を作る。それを見たメラルーはメルの事を変わった奴だなと思いながら手を振り人混みの中に消えていく。
メラルーが人混みの中に消えていくのを確認したメルは改めて大衆酒場の方に視線を戻す。
「よし! 行くか!」
メルはワクワクに胸を膨らませ大衆酒場へと足を進める。
洞窟の様な薄暗い通路を進んでいくとそこには光の漏れた扉があった。そして扉の向こう側らは何やら賑やかな、活気に満ちた声が聞こえてきた。
その声を聞きメルはましても胸が高揚するのを感じた。
メルは扉に手を当て押し開ける。木と木の擦れ合う音を鳴らし広がっていく扉の隙間からは光が漏れ薄暗い通路を橙の光が照らす。
そしてメルは浮き立つ足で酒場に入る。
「うわぁぁ……」
中はあの素朴な外観から思いつかない程豪華で広々としていた。大衆酒場というだけあって席が沢山置かれており、多くのハンターが賑やかに騒いでいた。
「おい兄ちゃん、あんまり見ねぇ顔だが新米か?」
メルが周りに見惚れているといつの間にか一人のハンターが近づき声を掛けてきた。モンスターの素材を使った防具を着込み大剣と呼ばれる武器を背負ったハンターだ。
メルはその声を聞き慌ててハンターの方に向き直る。またしてもメルは興奮を抑えられてない様子だ。
「うん! 今日からドンドルマでハンターやるんだ! にしても凄いな〜思ったより全然広いや!」
「ハハッ! 元気がいいなお前。 それよりハンター登録がまだなら早くしたほうがいいぜ。 これからもっと騒がしくなるからな」
ハンター登録という単語にメルはまたしてもハッとする。どうやらまた忘れていたようだ。
「あぁ! そうだった! ねぇ何処に行けばいいの?」
「それならカウンターに行けばいいんだ。 ほらあそこに綺麗な受付嬢がいるだろ、あそこだ」
男はカウンターの方に指をさし教える。
「分かった! ありがとう!」
メルは急いでカウンターに向かう。
「ハハッせっかちな奴だぜ」
男は浮足立つメルにここに来たばかりの自分を似せ微笑ましい気持ちになっていた。
カウンターの方へ向かうと確かにそこには質素なドレスを来た女性がいた。男の言うとおり整った顔をした美人の女性だ。
場所を確認したメルはそのままカウンターに飛びつくように駆け込んだ。
「わぁっ! どうしたのキミ?」
いきなり飛び込んできたメルに女性は驚いた。
「俺はメル! ハンター登録しに来たんだ!」
女性はメルという名前を聞いて心当たりがあるのか少し苦笑いを浮かべた。
「メルくんね、ミナガルテから話は聞いていたわ。 私はフェル、ここの受付嬢よ。 ちょっと待ってね」
フェルと名乗った女性はカウンターの下からあらかじめ用意していた一枚の紙を取り出しメルに渡した。
「はいこれ、メルくんのギルドカードよ」
「おぉ! これがギルドカード!」
メルは一枚の洋紙を受け取った。それにはメルの名前と他にも色々な事が書いてあったがメルには意味が理解できなかった。なにやら特別な材質で作られており簡単には破れそうにない頑丈な洋紙だ。
ギルドカードとは要するにハンターの身分証明書である。これがあれば街にあるハンターの為に用意された施設が使えるようになるのだ、例えばハンターの武器や防具を生産する鍛冶屋などだろう。
「ん〜でもあれは? あの〜色々書くやつ?」
実はメルには内心楽しみにしていた事がある。それはハンター登録する際の筆記だ。そこに自分のこのワクワクを全部書き込んでやろうと思っていたのだ。
「あ〜それがね実は……」
フェルは苦笑いを浮かべ視線を反らす。
「ミナガルテの訓練所の人がね、先に済ませてくれたのよ」
実は昨日ミナガルテの訓練所から一通の手紙が届いていたのだ。その内容が要約すると、メルはバカだから筆記は無理。 代わりに自分達で済ましておくと。
「えー! 何だよそれ! 楽しみにしてたのに!」
メルは不満を全開にさらけ出し騒ぎだす。
「まぁまぁいいじゃない。 面倒な事やらずにすんだんだから」
フェルは何とかメルを落ち着かせるがメルはまだ不満が残ってる顔だった。
何か適当な紙渡せば満足してくれるかしら? などと失礼な事を考えていたフェルは取り敢えずこのままでは話が進まないと無理矢理話を変える。
「……まぁこれからメルくんはこの街のハンターよ! これからよろしくね!」
なんて雑な話の変え方なんだと心の中でフェルは自分にツッコミを入れる。しかしメルはハンターという単語にピクッと反応し目を輝かせた。
「俺がこの街のハンター……!」
メルはもう一度店内を見回し改めてフェルの方に向き直る。今日から自分はハンター、その事実に嬉しさのあまりまた叫びそうになった。
「……ッ! よし、今日から俺はハンターだ! フェルさんありがとう、これからよろしく!」
「う、うん。 よろしくねメルくん」
いきなり態度の変わったメルに戸惑いを感じながらフェルは言葉を返す。この様子だとあの手紙の内容も間違いでは無いようだと思いフェルはまた苦笑いを浮かべた。