モンスターハンター 〜狩人の物語〜   作:やべー奴

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第3話 母の風

 メルは現在、酒場の受付で受付嬢のフェルと話し込んでいた。丁度太陽が真上に差し掛かるお昼過ぎの時間、この時間帯はハンターの往来も少なくフェルにとっても暇な時間なのでこうしてメルと話し込んでいる訳だ。

 初めての狩りを無事成功させたメルはあれから何度か簡単なクエストを受けハンターとしてのスタートを順調にこなしていった。モンスターの素材を集めお金を貯め、装備を強化して更に強いモンスターに挑む、これがハンターのサイクルだ。しかしメルには一つ大きな問題があった。

 

「ねぇメルくん……やっぱり剥ぎ取りはしなきゃ駄目よ、このままじゃ装備も作れないし大変よ」

 

 フェルは両腕をカウンターに掛け、深刻そうな顔付きで話す。

 

「無理だよ剥ぎ取りなんて、気持ち悪いし」

 

 メルはいつもの健康的な小麦色の肌とは違い不健康な青白い肌をしていた。

 この話題になるとメルはいつもこうなる。それを知りながらもこの話題を振ったフェルは申し訳なさを感じるが、これはハンターにとって死活問題なのだ。フェルは心の中でメルに謝りながら話しを続ける。

 

「気持ち悪いって言っても、剥ぎ取りって言うのはね一応モンスターに対する礼儀でもあるのよ。訓練所でも聞いたでしょ」

 

「ん〜〜」

 

 メルは困り果てた表情でカウンターに顔をうづめる。確かに訓練所でも耳にタコができる程聞かされた話しだ。剥ぎ取りとはモンスターと自然に対する感謝と礼儀の行いだとか、だがメルにとって剥ぎ取りなど気持ち悪いだけであって感謝や礼儀などもイマイチ理解でき無かった。何故自分が殺めた相手に感謝などしなければならないのか不思議でしょうがなかった。

 ただ過去の経験上、これを人前で話すと必ずと言っていい程、頭に拳が降ってくるのだ。メルは頭にたんこぶを作りたくないし、何よりフェルの怒ったところなんて見たく無ないので黙る事にした。

 

「……ハァ、貴方って以外にデリケートなのね」

 

 嫌そうな表情を浮かべるメルを見て剥ぎ取りなんて彼には無理だなと思うフェル。どうしたものかと深いため息をつくと、ふとメルの後ろで食事をとっているハンター達のパーティーに目が入った。

 

「あぁ! そうだわ!」

 

 何かを思い付いたフェルは目を大きく見開きメルの方を見る。

 

「パーティーを組めばいいのよ! そうすれば自分で剥ぎ取りをする事も無いし、何より狩り一人の時よりも安全になるわ!」

 

 フェルは強くメルにパーティーを組む事を勧める。剥ぎ取りをせずに済むというのもあるがフェルにとって後者の理由の方が重要だった。

 

「おぉ! なるほど!」

 

 フェルの提案にメルは目を輝かせる。どうやら乗り気の様子だ。

 

「ただ一つ注意することが――あれ?」

 

 フェルが何かを言おうとカウンターの前に居るメルに視線を向けるが、そこに彼の姿は無かった。あれ?と思ったフェルはメルを探そうと顔を動かそうとしたが、その前にメルの大きな声が聞こえてきた。フェルはメルの声がする方向を見ると、なんとメルが早速酒場に居るハンター達に手当たり次第声を掛けていた。

 

「ハァ……せっかちすぎるわよ、ほんと……」

 

 フェルは積極的なのはいいがもう少し慎重に動けないかしらと呆れたため息をつく。大体の結果は予想がつくがフェルはあえて何も言わず見守る事にした。

 しばらくすると彼はフェルの予想通り、肩を落としてトボトボとカウンターの方へと戻ってきた。

 

「駄目だぁ〜全部断られちゃったよ」

 

メルは悲しい表情を浮かべ脱力した体でカウンターに掛ける。

 

「それはそうよ。貴方……まだ新米でしょ、足手まといって思われても仕方ないわ」

 

「えぇ……俺頑張るのに」

 

 メルは不機嫌そうに頬を膨らませる。

 

「だから同じ新米のハンターを見つけるのよ。それに同じ位の実力なら足並みも揃えやすいでしょ」

 

「おぉ! なるほど!」

 

 メルの表情は先程とうってかわり今度は元気に満ちた顔付きになった。

 

「よーし! んじゃ行くか!」

 

 メルは気合を入れ両腕にコブを作る。そんな元気な彼を見てフェルは微笑ましい気持ちになり思わず笑みがこぼれてしまう。

 

「フフッ、じゃあちょっと待っててね。 今パーティー募集用の紙を持ってくるから――って、えぇ!! 嘘でしょ!? ちょっと待ってよメルくん!」

 

「よっしゃー! 行くぞぉぉ!!」

 

 メルはフェルの静止も聞かずもの凄い勢いで酒場を出ていった。フェルはここまで落ち着きの無いのか、と驚愕すると同時に呆れ混じりの深いため息をついた。

 

 洞窟のような薄暗い通路を抜けメルは外に飛び出て、一度何かを思い出したかの様に止まる。

 

「ん? でも新米なんてどうやって見分ければいいんだ? ……ま、いっか! 話掛ければ一人くらいいるだろ!」

 

 メルは考える事を止め、ハンターを探す為再び走りだそうとすると、ふと少し前に居る黒白の見慣れた色をした獣人族が歩いているのに気づく。

 

「おぉ! メラルー!」

 

 メルの顔に笑顔が溢れ、嬉しそうにそのメラルーの元に駆け寄る。このメラルーというのもメルがいつも狩りの時にお世話になっている竜車乗りのメラルーだ。

 

「……ニャ? ニャ、メル!?」

 

 何やら背後から寒気を感じたメラルーは慌てて振り返るとそこにはメルの姿があった。メラルーはすぐさまメルから距離を取り後ずさりをしながら警戒態勢に入る。

 何故、これ程までに警戒するのかというと、このメラルーにとってこの男は今一番会いたく無い存在だったのだ。その原因は今自分が右手に抱えている本だ。彼の落ち着きの無さはこれまでの狩りで痛い程身にしみている。折角買ったこの新品の本もどうなるか分からない。

 

「ん……それって本?」

 

「ニャ!?」

 

 痛い所を突いてきたと、メラルーは冷や汗をかく。この新品の本を傷つけたく無いとメラルーは自然と本を背中に回し隠そうとした。

 

「ねぇねぇ、ちょっと見せてよ!」

 

 メルは目を輝かせながら更にメラルーに近づく。

 

「い、いやニャ! お前絶対に乱暴に扱うニャ!」

 

 警戒心をむき出しにメラルーは更にメルから距離を取る。

 

「大丈夫、乱暴に扱ったりしないよ! 俺も本好きだからね!」

 

 メルの言葉には何処か優しさが詰まっていた様に感じた。何故かこの時だけはメルが大人しく見えたのだ。

 

「……ニャ、少しだけニャ」

 

 メラルーは恐る恐るメルに本を渡す。

 

「へへっ、ありがとう!」

 

 メルはそれを丁寧に受け取り。好奇心に満ちた目で本の表紙を見る。

 

「……ん、なんだこれ?」

 

 メルは本の表紙を眺めながら不思議そうな表情を浮かべる。

 

「それは、医学の本なのニャ」

 

「え……小説じゃないの?」

 

 メルは先程とは一転して残念そうな表情を浮かべる。彼が想像していたのは物語を書いた小説だったのだが、今手に持っているのはどうやら小説では無いらしい。メルは本のページをめくって目を通すが何も理解出来なかった。

 

「駄目だぁ〜〜分かんないや」

 

 メルは渋々メラルーに本を返す。本を受け取り一息ついたメラルーはメルに尋ねる。

 

「なんニャ、本が好きじゃなかったのかニャ」

 

「うーん、小説はなんかワクワクするから好きなんだけど、そうゆうのは全く分かんないや」

 

「なんとなく、そんな気がしたニャ……」

 

 メラルーはよくよく考えてみると彼に医学など小難しい事を書いた本は無理だなと思ってしまう。だが逆に冒険談や物語などを書いた小説はこの夢見がちな彼にはピッタリだなとメラルーは思う。

 

「あ、そうだ! 一つ聞きたいんだけどさ」

 

「んニャ?」

 

「俺と同じ位のハンターってさ、どうやって見分けたらいいんだろう?」

 

 メルは本来の目的を思い出し、丁度良かったのでこのメラルーに聞いてみる事にした。

 

「何でそんな事聞くニャ?」

 

 メラルーは不思議そうな表情を浮かべ聞き返す。

 

「いやさ、今パーティーを組もうと仲間を探してるんだけどさ、俺と同じ位のハンターが良いって言うからさ」

 

「……なる程ニャ」

 

 ハンターならばパーティを組んだ方がメリットも大きいし新米ならなおさらか、とメラルーは思うが同時に不安な気持ちになる。ハンターならばそれ位分かって当然だと思うのだが。

 

「防具を見れば大体分かるニャ」

 

「へー防具か……じゃあ……うーん、どんな防具?」

 

 防具で分かると言われてもメルにはパッとしなかった。

 

「ニャ〜例えば今メルの着てるハンターシリーズとかニャ」

 

 メラルーは心の中でため息を付きながらメルの着ている防具を指差す。

 

「それは新米の装備みたいな物ニャ」

 

「あぁ、そっか!」

 

 メルは自分の防具を見て納得する。確かに訓練所でも聞いた事がある気がしたからだ。

 

「オッケー! んじゃね、ありがとう!」

 

 メルはメラルーに手を振り新米ハンターを探す為再び歩きだす。

 

「んニャ……」

 

 メルのそわそわとした背中を見るメラルーは嫌な予感しかしなかった。ただでさえ血の気の多いこのドンドルマのハンターにあんなナメた態度で話し掛けたら、どんな目にあうか……考えるだけで寒気がした。

 

「……ニャ、ちょっと待つニャ! オイラも手伝うニャ」

 

「おぉ! ありがとう!」

 

 メラルーは少し悩んだ末不服ながらも手伝う事にした。自分がなんとかしなければこの男はドンドルマでは生きて行けないと思ったからだ。

 

 

 あれからしばらくドンドルマの街を歩き回ったメルとメラルー。確かにハンターは沢山いたがどのハンターも上質な防具を着た者ばかりでメルが声を掛けようとする度にメラルーが慌てて止めるを繰り返し結局、目的の新米ハンターは見つからず途方に暮れたメルとメラルーは中央広場の石造りのベンチに腰掛け一休みしていた。

 

「ニャ……運が悪いニャ……新米一人見つからないニャんて……」

 

 メラルーは疲れ果てていた。このメルという男はメラルーの忠告も聞かずに目辺り次第見つけたハンターに声を掛けようとするのだ。その度にメラルーが全力で止めるのだが、それが何度も続きこのざまだ。

 

「居ないね〜」

 

 メルは隣で疲れ果てているメラルーの苦労も知らずに脳天気に空を見上げている。そんなメルの態度に苛立ちを覚えたメラルーは一発ぶん殴ってやろうかと思ったが更に疲れそうなのでやめた。

 

「やっぱり新米なんて居ないのかな〜」

 

「ニャ……普段は普通にいる筈ニャ……」

 

 メラルーは辺りを見渡すがやはり、新米ハンターらしき人影は見当たらなかった。

 

「よし! やっぱり片っ端から話し掛けるしか!」

 

「ニャ!? いい加減人の話を聞くニャ……ニャニャ!? 居たニャ!」

 

「え!? ホント!」

 

 メラルーは椅子から立ち上がり指を指す。メルもその指先と同じ方向に視線を移すと、人混みに隠れて見辛いが確かにそこにはメルと同じハンターシリーズを着込んだ一人のハンターが居た。遠目で顔までは確認出来ないが金色の髪をしたメルと同じ位の身長のハンターだった。

 

『「やった!」ニャー!』

 

 メルは純粋に喜びメラルーはこの疲労から開放された事に喜び互いの手を叩き合わせハイタッチする。

 

「よし! んじゃ行ってくる!」

 

「ニャー」

 

 メルは大喜びでそのハンター目掛けて走り出す。メラルーも笑顔でそんなメルに手を振る。

 

「おぉ! あれって弓矢だ!」

 

 メルはそのハンターが背中に背負う武器に興味を示す。メルが使っている接近武器の片手剣とは違う、弓矢も呼ばれるいわゆるガンナー武器という物だ。

 お互いの距離が縮まるがそのハンターはメルに背中を向けている為、メルの接近に気付かなかった。

 ようやく声が届く距離に近づいたメルはそのハンターに声を掛ける。

 

「ねぇねぇ! ちょっと待ってよ!」

 

「えっ!?」

 

 メルに声を掛けられたハンターは驚いてメルの方に振り向く。ほんのりと小さな風がメルの頬を叩いた気がした。

 

「…………ぁ」

 

 そのハンターの顔を見たメルは空いた口が塞がらなかった。なんとメルと同じ位の年の女の子だったのだ。肩まで伸びた金色の髪に少し緊張のこもった青い瞳。その整った顔立ちはとてもハンターには見えなかった。

 

 だがメルが驚いたのはそんな事では無かった。しかし何故自分がこんなにも困惑しているのかもメル自身にすら分からなかった。この底知れない不安……ただ頭が真っ白になっていくのを感じる。

 

「あ、あの……どうしたんですか?」

 

 その少女は何処かもどかしい口調でメルに話す。その声を聞きメルは我に返った。

 

「……ん、あぁ」

 

 先程まで真っ白になっていた頭の中が段々とスッキリしていく感じがした。そして本題を思い出したメルは笑顔を浮かべ少女に話し掛ける。

 

「ねぇねぇ、俺とパーティー組まない!」

 

「えぇ!? パ、パーティーですか?」

 

 突然の誘いに少女は驚き思わず聞き返してしまう。

 

「そ! 新米同士さ!」

 

 メルは少女に満面の笑みを浮かべる。

 

「え、えっと……でも……」

 

 少女は何処か申し訳なさそうに視線をそらす。するとメルの背後から大声が聞こえた。

 

「ニャーー! 不安になって来てみれば、何なのニャその誘い方は!」

 

「ん、どうしたのメラルー」

 

 メラルーは声を荒げてメルを叱る。メルは何故自分が叱られているのか分からない様子でキョトンとした表情を浮かべていた。そして完全に話す機会を失った少女はどうしていいのか分からずオロオロとしている。

 

「ニャ……いきなりゴメンなのニャ」

 

 メラルーはオロオロとしている少女を安心させる為メルに対する怒りを抑えできるだけ優しい声で話し掛けた。

 

「ねぇねぇ、それよりさ! どう一緒に――」

 

「黙るニャッ!!」

 

 突然大声を上げるメラルーにメルと少女の体はビクッと震える。メルが混ざると話が進まないと判断したメラルーはメルを置いて話を進める。

 

「こっちのアホがメル。 オイラが……ニャ、メラルーでいいニャ、あんたの名前はなんて言うニャ?」

 

「わ、私はリレン.ルフィーナっていいます……」

 

 少女は恥ずかしそうにリレンと名乗る。それを聞きメラルーは頷く。

 

「へぇ、リレンって言うんだ! 俺はメル! よろ――」

 

「黙るニャッ!!」

 

 またしても怒鳴るメラルーと体をビクッと震わせるメルとリレン。固まる二人を見てメラルーは少し言い過ぎたかなと申し訳ない気持ちになるが、メルが混ざると話が進まないので無理やり話を進める。

 

「ニャ……装備を見るにリレンは新米かニャ」

 

「は、はい。 今日この街に……」

 

「へぇ、じゃあ俺と一緒――あっ」

 

 メルは慌てて自分の口を両手で抑える。横目で下を見ると目を細く絞って自分を見上げるメラルーと目があった。

 

「ニャ……オイラも酷かったニャ、喋っていいニャよ……」

 

 いくら頭に血が登ったといえ流石に言い過ぎたかな、と思ったメラルーはため息を付きメルに謝る。

 

「ふぅ……。 ねぇねぇ、ハンター登録まだでしょ!」

 

「は、はい」  

 

 それを聞いたメルは少し得意気に鼻を鳴らす。

 

「じゃ、酒場まで案内するよ! ドンドルマって迷いやすいしね!」

 

 それを聞いたリレンは少し間を置いた後、思わず驚く。

 

「い、いいんですか!? ありがとうございます!」

 

 リレンはメルに対し不思議な人だなと思いながら好意に感謝する。

 

「んじゃ、こっちだよ! ついて来て!」

 

「は、はい!」

 

 メルは自信満々に指を指し、リレンを先導する。だがメラルーは動こうとしなかった。ただ目を細めてメルを見つめる。

 

「……メル、そっちは反対ニャ」

 

「あっ、そっちか!」

 

 メルは慌てて向き直りリレンにこっちだよ、と声を送り大階段を登っていく。

 

 

 メルが初めてここに来た時と同じ様にドンドルマの街は夕焼けのベールに包まれていた。酒場を目指す二人と一匹は目の前に影を作りながら酒場を目指し歩いて行く。

 

「それでさ! ランポスをニトロダケで――」

 

 酒場を目指しながら楽しげに何かを語るメル。どうやら初めての狩りの時の出来事を話しているようだ。

 リレンもメルのする話が興味深い様ですっかり聞き入っていた。メラルーはというと、耳にタコができる程聞いた話なので軽く受け流していた。

 

「で、でもやっぱりハンターは大変そうですね……」

 

 メルの体験談を聞きリレンは恐怖と不安な気持ちに駆られていた。メルの言い方で愉快な話に聞こえるが、実際は命と命のやり取りの話で、その内容はリレンを戦慄させる。

 そんなリレンを見てメルは一瞬困った表情を浮べた後すぐに表情を満面の笑みに戻す。

 

「へへっ、そんなんじゃ物語を楽しめないよ!」

 

「物語……ですか?」

 

 物語という単語に反応を示し少しだけ顔を明るくさせるリレン。しかし直ぐに暗い顔に戻ってしまう。

 リレンの顔に見かねたメルは階段を駆け上がりリレンとメラルーの前に立つ。

 

 

「そう、物語だよ! これは自分だけの物語なんだ、そんな暗い顔ばっかしてないでさ、もっと楽しもうよ!」

 

 メルは両手を上げ目を輝かせる。

 

「何、意味分かんない事言ってるニャ! 目立ってるニャ!」

 

 メラルーが慌てて周りを見渡すと、周りの視線がメルに集中していた。メラルーは恥ずかしくなって地面を見つめる。リレンは、驚いた表情でメルを見上げる。周りの視線に気づいていない様子だ。

 

「メルさんって凄いですね……私にはとても物語を楽しむ余裕なんて……」

 

 リレンはこんなにも明るいメルが羨ましかった。不安と恐怖で曇った今の自分の心ではメルのように物語を楽しめる自身が無かった。

 

「そんなの関係ないよ! 余裕とかそんなのどうでもいいんだ、俺もリレンも物語を楽しみたいって気持ちに変わりは無いんでしょ!」

 

「楽しむ……」

 

 メルの言葉はまるで物語のページを進める事に戸惑っている自分の背中を押してくれる追い風のように感じた。

 

「そうだ! 俺達でさ、一緒に物語を楽しもうよ!」

 

「……ッ」

 

 リレンはメルにかつて自分がハンターになりたいと思わせてくれた人物の影を見る。メルと一緒なら心から全力で物語を楽しめるような気がしてきた。

 勿論、根拠なんてある訳じゃない。ただ今は根拠なんてどうでもいい、今一番必要なのは物語のページをめくる勇気だ。

 リレンは拳を強く握りメルの目を見つめる。

 

「わ、私も……物語を楽しみたいです」

 

 リレンは笑顔を浮かべる。今までの暗い彼女からは想像出来ない程の明るい笑顔を。

 

「へへっ、やっと笑った! リレンはやっぱり笑ってた方がいいよ!」

 

 ようやく見せたリレンの笑顔にメルは心の底から安心する。リレンには笑っていて欲しい――彼女の見せる笑顔が何故これ程まで自分を安心させてくれるのか……理由は分からない……いや、まだ知らなくていいのかも知れない――ただ今一番必要なのは物語を進めるこの気持ち、この気持ちを忘れなければきっと楽しい物語を作れる……そんな気がした。

 

「ニャ〜……早く行くニャ……」

 

 互いに笑い合う二人を見てメラルーは少し照れ臭い気持ちになっていた。メルの事を最初はただのアホかと思っていたがこの光景を見てその気持ちを改める事した。

 よく考えればメラルーの日々もメルがこのドンドルマの街に来た事によって形はどうであれそれなりに充実した日々を過ごせているに違い無いのだから――ただそれを考えると耳が熱くなる感じがしてやはり照れ臭かった。

 

「メラルーも今日から俺達のパーティーだ! 今日から皆でさ!」

 

「ニャ!? オイラはオトモアイルーじゃ無いニャ!」

 

 メラルーは顔を赤くしてメルから離れる。そしてふとある事に気づく。

 

「……ニャ? メルとリレンはパーティーを組むのかニャ?」

 

「あっ……」

 

 リレンは一瞬固まるが直ぐにメルの方へと向き直り笑顔を向ける。

 

「リレン.ルフィーナです。 よろしくお願いします!」

 

「俺はメル! よろしくリレン!」

 

 メルは笑顔を向けて言葉を返す。

 

「ニャ……とりあえず良かったニャ」

 

 メラルーも頷き、新たなパーティーの誕生に喜ぶ。

 

 その時、大きな風がドンドルマの街に吹き付けた。風はメルとリレンの髪を揺らし頬を叩いた。

 

「か、風……?」

 

 リレンは自分の頬に手を当てる。その風は何処か暖かく、懐かしい感じのする風だった。

 リレンは何処か遠い目で空を見上げる。夕焼けに染まった緋色の空だ。

 

「よし! それじゃ酒場に行くか!」

 

「は、はい」

 

 メルは気合を入れ酒場に向かって歩き出す。リレンも慌ててその後を追う。

 

「ニャ……そっちじゃ無いニャ、反対ニャ……」

 

「ん? あぁ、そっちか!」

 

 メラルーは酒場の方向を指差しため息をつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
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