「ユニコーンの元気がない……?」
執務室へ持ち込まれた相談案件は、俺にとって少し――いや、かなり意外なものだった。
名前の挙がった軽空母、ユニコーンは、確かに控えめで、どこかおどおどとした印象を受ける少女だ。容姿が容姿だけに、何かと庇護欲を刺激される。だからという訳ではないが、目の前の相談者含め、何かと彼女に目をかけているKAN-SENは多い。ただ、少なくとも俺が見聞きした範囲で、ユニコーンの様子がおかしいという話はなかった。
話題の意外性は、秘書艦にとっても同じだったらしい。慣れた手つきで紅茶を淹れていたベルファストの手が、一瞬止まった気配がした。
「それはまた、何事でございましょう」
ベルファストの問いかけに、ソファに腰掛ける相談者――イラストリアスが、真剣そのものの表情で口を開く。
「私も、気づいたのは今朝なのです。朝食を終えた辺りから、でしょうか。どことなく気落ちした……いえ、気負った表情をしていまして。直接聞いてみても、何でもないと言うばかりなのですわ」
「朝食の席で、何かあったのか……?」
軍艦の魂を宿すとはいえ、KAN-SENは皆年頃の少女ばかりだ。ちょっとしたトラブルは日常茶飯事と言っていい。何か気に病むようなことがあったのだろうか。
俺の推察に、イラストリアスは首を振った。
「いえ、そのようなことは。私も彼女とは、朝からずっと一緒にいましたから」
過保護だぁ、という感想は、胸の内に留めておく。指摘しようものなら、「ユニコーンちゃんを見守っているだけです。過保護とは何ですか」というありがたいお言葉と共に、ロイヤルの栄光が頭上から降り注いでくることになる。
「何か気づいたことは?」
「これといって、何も。ですから、こうしてご相談に窺ったのですわ」
「……しかし、なぁ」
イラストリアスが気づいていないことを、俺が気づけるとは思えない。
煮詰まり始めたところへ、ベルファストが紅茶を差し出した。相も変わらず、よいタイミングだ。湯気に混じって豊かな香りがカップから漂ってくる。
「ありがとう、ベル」
「いただきますわ」
イラストリアスと揃ってカップに手を伸ばす。琥珀色の液体を啜ると、鼻腔を仄かな春の気配がくすぐった。芳醇な香りは、絡まった思考の糸を解すには最高の友だ。深く息を吐かずにはいられない。
「さすがはベルファスト、とてもおいしいですわ」
「それは何よりでございます」
スコーンを用意していたベルファストが、振り向いてニコリと微笑んだ。
執務室は、しばしのティータイムとなる。紅茶を嗜み、スコーンを口にする。いくらか思考の固まりが解れてきたところで、俺は改めて口を開いた。
「やはり、朝食の席で何かあったと見るべきだろうな」
「ですから、それは――」
再度否定しようとした言葉を、イラストリアスは途中で留めてくれた。「何か思い当たる節があるのですか?」とその目が聞いている。
確信を持って言えるほどではないが、そうとしか考えられないのも事実だ。イラストリアス自身、ユニコーンの様子がおかしいことに気づいたのは朝食後だと言っている。何かあったとしたら、朝食中というのが自然だ。
「イラストリアスが気づかないようなこと――普通なら気にも留めないこと、あるいは聞き逃すようなこと、だろうな。それがたまたま、ユニコーンの目に留まった」
具体的に、何がユニコーンの心に引っかかったのかは、わからないが。これくらい絞れば、何某かを掴めるかもしれない。
ただそれは、ここで考えても仕方のないことだ。
「今日一日、出撃もない。イラストリアスは、可能な限りユニコーンについてやってくれ。俺の方でも、心に留めておく」
「ええ、承りましたわ。お茶会にでも誘ってみます」
お任せくださいな、と超弩級の胸を張ったイラストリアスは、紅茶とスコーンを一通り堪能して、執務室を後にした。
「今朝の新聞です」
執務が一段落したところで、ベルファストは頼んでいたものを差し出した。基地で購読している新聞の内、一番一般的な、大衆向けのものだ。コーヒーとともにありがたく受け取り、俺は畳まれた新聞を開く。
目当ての紙面はすぐに見つかった。
「何をご覧になっているのですか?」
「テレビ欄。今日の番組表だ」
「――なるほど」
俺の短い返答で、優秀な秘書艦は合点がいったようだ。
KAN-SENたちが食事を取る食堂には、テレビが二台据え付けられている。どちらもチャンネル操作は自由だが、朝となると大抵はニュースがついている。今朝も国営放送と民営最大手の番組がそれぞれ流れていた。
時事ネタ好きは熱心に見たり、他のKAN-SENと意見を交わしたりするが、多くのKAN-SENにとって朝のニュースは流し見るものだ。BGMと大差ない。一々その内容を気に留めている者は少ない。かくいう俺も、今朝やっていたニュースの内容はおぼろげだ。
ただ、一つだけ、記憶の片隅に留めておいたニュースがある。
裏付けを取った俺は、新聞を閉じて執務机の端に置き、代わってコーヒーを啜る。紅茶とは一味違う、どこか酸味のある香りを飲み込んで、俺は隣に控えるベルファストを見遣った。視線に気づいた彼女が、「いかがしましたか」と首を傾げる。
「なあ、ベルファスト。遊園地に行きたくないか」
ぱちくりと瞬きをするベルファスト。俺の発言は、完全に秘書艦の意表を突けたようだった。
◇
これほどの賑わいを目の当たりにしたのは、随分と久しぶりです。
広場を行き交う大勢の人々。溢れんばかりの愉快な音楽。不思議と気分も弾む光景。
「遊園地……!」
私の隣から歓喜の溜め息が漏れました。今にも飛び跳ねそうに顔を輝かせているユニコーンちゃん。彼女に抱えられた
――「こちら、ご主人様からです。たまには羽を伸ばしてきては、とのお言伝でございます」
昨日、ベルファストはそう言って、遊園地のチケットを二枚、私へ手渡しました。
指揮官様なりに、色々と考えてくださっていたのでしょう。彼の遊園地というチョイスは、とても的確に思えます。数日前の憂いた表情はどこへやら、宝石のような瞳で辺りを見回すユニコーンちゃんを見ていると、そう確信できるのです。
思わず綻んだ頬をそのままに、私はユニコーンちゃんへ呼びかけました。
「さあ、ユニコーンちゃん。どこから行きましょうか」
「いいの?ユニコーンの好きなところから、行っていい?」
「ええ、もちろん。ユニコーンちゃんの好きなところへ、行きましょう」
私を見上げる表情が、さらに輝きを増します。ええ、もはや抑えきれないとばかりに、歩調を早めて歩きだすユニコーンちゃん。彼女に手を引かれるまま、私もその後へ続きます。
「えっとね、えっとね、ユニコーンは……」
あちらへこちらへと、せわしなく首を動かすユニコーンちゃん。見える範囲だけでも、コーヒーカップやメリーゴーラウンド、奥には大きな観覧車。聞こえる悲鳴は、ジェットコースターでしょうか。
なるほど、これは――
「どうしよぅ……イラストリアス姉ちゃん。決められないよ……」
困り顔で笑いながら、ユニコーンちゃんが言いました。ええ、彼女の言う通り。どれも実に楽しそうなアトラクションばかりで、迷ってしまいます。
いまだ行き先が決まらない私たち。そこへ声を掛ける人がいました。
「もし、そちらのお嬢様方」
声の方を振り向くと、最初に目に入ったのは、仮面。顔全体を覆うマスクではなく、
声からして、仮面の人の正体は、女性のようでした。園内のキャスト用と思しき服装は、中世の給仕を思わせる丈の長いメイド服。黒を基調としたその服に、彼女の白銀色をした髪がよく映えていました。
「お困りでございますか?」
仮面で目元は窺えませんが、彼女が柔らかく微笑んでいることはわかります。あたふたと辺りを見回すばかりだった私たちを見兼ねて、声を掛けてくれたのでしょう。
「ええ。実はこうしたところへ来るのは初めてでして。どこから見て回ったものかと、悩んでいたのですわ」
「そうでございましたか。私でよろしければ、お嬢様方に最適なコースなど、ご案内させていただきます」
「まあ、本当ですか。とても助かりますわ。――どうですか、ユニコーンちゃん?」
仮面を警戒したのか、半分ほど私の陰へ隠れていたユニコーンちゃん。彼女はおずおずと仮面の女性を見つめます。仮面の奥で目を細めた女性は、慣れた所作で膝を折り、「お任せいただけますか、お嬢様」と改めて確認していました。
こくり。ユニコーンちゃんが頷きます。
「お願いします、お姉ちゃん」
「承りました」
口元に笑みを浮かべて、仮面の女性は小さな冊子のようなものを取り出します。開いたそれは、どうやら園内の案内図のようです。遊園地全体の地図と、それぞれにどのようなアトラクションがあるのか。それが詳細に記されています。四十番まで番号の振られたアトラクションに、軽い眩暈を覚えました。
「すごい、たくさん……」
隣のユニコーンちゃんも、目を丸くして驚いています。
そんな私たちへ、仮面の女性が案内を始めます。丁寧な質問を重ね、どのアトラクションがおすすめか、混み具合はどれぐらいか、どこから回ればいいか。とても具体的に、プランを立ててくださいます。
「――と、このようなルートをご提案させていただきます。いかがでございましょう」
一通りの説明と案内を終え、仮面の女性がユニコーンちゃんへ目を向けます。はふはふと興奮気味に頷いたユニコーンちゃんが、満面に笑みを浮かべました。
「ありがとう、お姉ちゃん!」
「お気に召していただけたようで、何よりです」
口元を緩めて笑った仮面の女性は、二人分の案内図と小さなメモを手渡してくれました。メモには、今しがた彼女が説明してくれた、今日一日のプラン。
「何かありましたら、私共にお尋ねください。必ずや、お嬢様方のお役に立つと、お約束いたします」
「ええ、その時はまた、お願いいたしますわ。ありがとう、仮面のお方」
「めっそうもございません。――どうぞ、よい旅を」
恭しく一礼した仮面の女性に手を振り、私たちは最初の目的地へと歩き出します。向かうのは、有名な伝承をモチーフにしたアトラクション。緩い高低差を、トロッコに乗って駆け抜けていくのだそうです。このアトラクションが大丈夫だったら、他の高低差の大きな、いわゆる絶叫系と呼ばれるアトラクションも行けるでしょう、とのことでした。
それにしても、先程の仮面の女性は――
「行こ、イラストリアス姉ちゃん!」
目的地が決まったことで、今度こそ駆けだしそうな勢いのユニコーンちゃん。喜びに身を任せて手を引く彼女に従い、私も歩調を早めます。待機列の最後尾は、もう、すぐそこでした。
◇
楽しい日は、本当に一瞬のうちに、過ぎ去ってしまいました。
あちこち楽しんだ両の足には、微かな疲労感が残っています。どこか心地よさすら感じる痛み。なんだかまた、無性に嬉しくなって、椅子から垂らした足を、プラプラと振ってしまいます。
時間は午後六時。園内のレストランで、ユニコーンとイラストリアス姉ちゃんは、いつもより遅い夕食を取っています。指揮官――お兄ちゃんのくれた遊園地のチケットには、このレストランの予約もついていました。さすがお兄ちゃんです。
眺めのいい、高台の展望デッキ。イルミネーションで鮮やかに染まる遊園地を一望できる席。一緒にご飯を食べているのは、大好きなイラストリアス姉ちゃん。
幸せ、なんて、ううん、多分その言葉だけじゃ足りないくらい。ユニコーンの胸が一杯になるくらい、それくらい、幸せなんです。
「ユニコーンちゃん。ビーフシチュー、一口食べませんか?」
「うん、食べる!お姉ちゃんも、オムライス、いる?」
「ええ、いただきますわ」
そうやって、ご飯を交換したり、おしゃべりしたり。平和で、ありきたりで、幸せで――だからこそ、得難い日常。
また、ぱたぱたと、足を振ってしまいます。それに合わせてなのか、ユーちゃんも小さな翼を、嬉しそうに羽ばたかせました。
メインディッシュを食べ終わって、食後のコーヒーを待っている私たちの前に、その人は現れました。
「――おや、またお会いしましたね、お嬢様方」
コーヒーのカップを運んでくれたのは、あの、仮面のお姉ちゃんでした。純白の仮面と、白銀の髪を間違えるはずがありません。シックな給仕姿が、レストランの雰囲気によく合っています。
とても慣れた手つきで、お姉ちゃんがコーヒーを差し出してくれます。横にはミルクと角砂糖。全てを並べて、お盆を抱えたお姉ちゃんが、その可憐な口元を緩めて笑います。
「いかがでしたか、お嬢様方。楽しんでいただけましたか」
その答えは、今更確認するまでもありません。
「うん。――お姉ちゃんのおかげで、とっても楽しかったです。ありがとう」
私の言葉に、仮面の奥のお姉ちゃんの目が、丸く開かれました。それからすぐに、柔らかく微笑みます。
「もったいないお言葉です。――この後は、花火もご覧になるのですか?」
夜七時からは、園の中心にある大きな湖の上で、花火が上がるそうです。とても豪華だから、是非見ていってほしいと、仮面のお姉ちゃんがおすすめしてくれたイベントでもあります。
「もしよろしければ、こちらをお使いください。花火が一番、よく見える場所でございます」
お姉ちゃんが差し出したのは、整理券みたいなものでした。それが二枚。
「これは……なぁに?」
「このレストランの横にある、星見台の整理券でございます。花火の時には混み合うので、整理券が配られるのです」
それはつまり、俗にいうプラチナチケット、ということですか?
「どうぞ、最後までお楽しみください」
仮面の奥でウィンクを決めて、仮面のお姉ちゃんは仕事へと戻っていきました。
仮面のお姉ちゃんが言っていた通り、レストラン横の星見台には多くの人が訪れていました。整理券のおかげで、押し潰されるほどではないです。
手すりの向こうには、一面の湖。星と月を映す、大きな大きな鏡みたいです。これからそこへ、花火が上がります。
「ユニコーンちゃん、見える?」
すぐ後ろから尋ねたイラストリアス姉ちゃんに、大きく頷きます。
「うん、よく見えるよ。――ユーちゃんはどう?」
私の腕の中で、ユーちゃんがぱたぱたと足を動かします。うん、ちゃんと、見えてるみたい。
湖を見つめて、もうすぐ始まる花火を待ちます。少し見渡せば、周りの人たちも、ユニコーンたちと同じように、花火の始まりを楽しみにしています。繋いだ手を揺らすカップルさん。笑い合う親子。身を寄せ合う老夫婦。夜の寒さを防ぐようにぴたりと体を近づけて、思い思いの時を過ごしています。
……えっと、さすがに夜は、寒いなぁ。小さな寒気が背中を駆け抜けて、思わずぎゅっと、ユーちゃんを抱きしめます。
その時。
ぎゅっ。
私の背中に、暖かいものが、当たります。私とユーちゃんを一緒に抱き留める手。イラストリアス姉ちゃんが、その胸の内に、私を包み込んでくれました。
イラストリアス姉ちゃんの熱が、ポカポカと伝わってきます。寒気が走ったのが嘘みたいに、背中が暖かくなってきます。
「――ねえ、ユニコーンちゃん」
頭のすぐ上から、イラストリアス姉ちゃんの声が聞こえます。
「今日は、楽しかった?」
答えは、仮面のお姉ちゃんの時と、同じです。
「うん。とっても、楽しかった。イラストリアス姉ちゃんと一緒で、とってもとっても、楽しかったよ。――また、来たいな」
私の答えに、イラストリアス姉ちゃんは、とても優しく、「うん」と頷きます。
本当に――本当に本当に、楽しい一日でした。でも、でもね。もう一つ、思っていることが、あるんです。
「お姉ちゃん、あのね」
「どうしたの、ユニコーンちゃん」
「……今度はね。皆で、来たいな。海を平和にして、皆で、来たいな。イラストリアス姉ちゃんも、ヴィクトリアス姉ちゃんも、フォーミダブル姉ちゃんも、ベルファストさんたちも――お兄ちゃんも一緒に、来たいんだ」
少し前、テレビで見た、遊園地。訪れた人は皆楽しそうで――だからいつか、皆で行きたいと、思ったんです。そのためには、海を平和にしなくちゃって、私がもっと頑張らなくちゃって、思ったんです。
うん、だから、今日はその確認。楽しくて、笑顔が絶えなくて――この場所に、いつか皆を、連れて来たい。
「……ええ、そうですね。今度は皆で来ましょう」
イラストリアス姉ちゃんが笑ったのがわかりました。私の思っていたことは、ちゃんと、伝わったみたいです。そして、お姉ちゃんも、一緒だったみたいです。
自分のことを話すのは、ちょっと、恥ずかしいけど。でも、こうして思いが一緒なら、とっても嬉しい。
思わず漏れた笑みに、腕の中でユーちゃんが首を傾げていました。
ちょうどその時、花火が打ち上がり始めました。上空から聞こえて来た軽快な音に、顔を上げます。開いた花びらの輝きが、湖に、そして見守る人々の顔に反射して、さらにキラキラと、瞬いていました。
◇
待ち合わせた観覧車のゴンドラには、想像通りの先客が座っておりました。係員が扉を閉じるのに会釈をして、私は件の人物の向かいへ腰かけます。
「時間外労働ご苦労、仮面メイド」
今日限定のコードネームで私を呼ぶ人影。からかわれているのは丸わかりです。着けていたマスクを外して、私は改めて、人影へ声を掛けます。
「お勉めご苦労様でございます、テディベア様」
小さく吹き出して、彼――指揮官様は、いつもの制帽を被りなおしました。
「楽しんでもらえたようで、何よりだ」
「はい。大変喜ばしいことです」
星見台から花火を見ているであろうお嬢様方の姿は、ここからでは窺えません。ですがきっと、忘れられない思い出になるであろうことは、想像に難くないことでございます。
「ご主人様の慧眼は、尊崇の念すら抱きます」
「褒めてないだろ、ベル」
「さて、何のことでございましょう」
わずかに混ぜた皮肉をごまかして、私はゴンドラの外へと目を向けます。すでに打ち上がり始めた花火は、上空で大輪を咲かせております。赤、緑、橙、色とりどりの光が弾け、流れて、溶けていく。降り注ぐ花弁は水面に映って、さらに煌めきを増していく。さざ波に乱反射する光は、ただそれだけで、満天の星空を思わせました。あるいはそれは、いつかの海で見た夕焼けのようですらあります。
「――本当なら、君にも一日、楽しんでほしかったんだがな。今回はユニコーンが優先だった。作戦成功は、ベルの協力あってこそだ。ありがとう」
それが、ご主人様なりの、労いと称賛。ええ、わかっています。あなた様はいつだって、私たちのために一生懸命なのです。そんなご主人様を、誇りに思っています。尊敬しています。だからこそ、こうしてこの、無茶な作戦に加担しているのでございます。
「お嬢様方に楽しんでいただけたのなら、メイド冥利に尽きるというものでございます」
「……そうか」
ゴンドラは、まもなく、最上部へと至ろうとしております。それに合わせて、花火の盛り上がりも、最高潮へ達しようとしていました。連続して花咲く色、湖を渡る光の滝、天翔ける流星たち。
「星見台で見る訳にはいかないが……ここも眺めとしては、なかなかのものだろう?」
なぜか得意げに言うご主人様。今日はここが、私たちの特等席でございます。
「ええ――とても良いものです」
最後の一輪が、その輝きを夜へ溶かしていきます。そこで花火は打ち止めとなりました。下り始めたゴンドラの中に、静寂が訪れます。
「さて、明日からまた、頑張らないとな。また――今度は皆、ここへ連れて来れるように」
冗談のような口調で、とても真面目なことを、ご主人様は言います。彼の悪癖であると、私は捉えています。根がどこか曲がっているのか、普段は真面目なことを言えるのに、一番大切なところを冗談のようにごまかしてしまう。
逆に言えば、ごまかしたところこそが、彼の本心とわかるのでございますが。それゆえ、どこかで誤解を受けかねないのも、事実でございます。
……はあ。しかし、困ったことに、そんなところを「かわいい」と思ってしまう私も――
「それは結構でございますが――ご主人様、お隣、失礼しても?」
「……ああ、構わないが」
怪訝な表情の彼をよそに、私はその隣へと場所を移します。きしりと、小さく揺れるゴンドラ。
「本来は、メイドの職務外でございますが――」
こちらを見つめるご主人様の頭から、制帽を取ります。頭に気を取られ、隙を作ったご主人様。その、多少間の抜けた表情の一点へ、狙いをつけ――
「――今は、職務時間外でございましょう」
呆気に取られた表情のご主人様。ええ、今回の作戦、彼の提案に終始驚かされるばかりでございました。最後に一本取ろうと、彼の勝利は揺るがないのでございます。ですからこれは、私の、意地でしかありません。
今更ながらに照れて頬を掻くご主人様。その肩に、そっと、私の頭を乗せます。ゴンドラの中、職務の範疇から外れた、メイドと主以上の関係。
「最後までお供いたします。ご主人様の語る夢が、叶うその日まで」
諦めたような溜め息。それが降参の合図だと知っているのは、私だけでございます。
「よろしく頼むよ、ベル」
答えた彼は、ゴンドラを降りる手前、そっと髪に口づけてくださいました。
いかがだったでしょうか?
アニメの影響で3人の株が絶賛爆上がり中でございます