ダンジョンに平和の象徴がいるのは間違っているだろうか 作:黒納豆
崩れる壁面。静まらない振動。遠くから響く瓦礫の音。それを聞きながらリューは体を起こした。広間は酷い有様だった。大きく抉れた壁面に、いくつものクレーター。いたるところに破壊の爪痕が残されていた。
「みんな、無事!?」
「あっぶねえー!」
「やはり罠だったか。爆弾で生き埋めとは品がなさ過ぎて笑えるな」
周囲では、アリーゼ、ライラ、輝夜、そして【アストレア・ファミリア】の団員たちの声が上がる。その日、宿敵【ルドラ・ファミリア】を追い詰めるために下層に降り立った【アストレア・ファミリア】は、誘き出される格好で罠にはめられた。大量に設置された火炎石による無差別な爆発行為によって。だが、罠の臭いに感付いたライラが警告をあげ、間一髪で逃れることができた。
「なんで生きてやがる……【アストレア・ファミリア】の糞女どもがぁ!どれだけの火炎石をつぎ込んだと思ってんだ!?」
そう喚くのは【ルドラ・ファミリア】の調教師ジュラ・ハルマー。
「やってくれたわね、ジュラ。あんた達の悪巧みもここまでよ。終わりにするわ。
アリーゼの言葉が男達の罪状を読み上げるように滔々と響く。とうとう追い詰めた【ルドラ・ファミリア】に【アストレア・ファミリア】は正義の鉄槌を下そうしたその時、
ダンジョンが哭いた。
ダンジョンに引き絞った銀の弦に刃を走らせたかのような、途轍もない無機的な高音域が響く。例外なく冒険者達の本能が真っ赤に警報を鳴らす、ダンジョンの『痛哭』。
ーービシリッ、と。崩れた壁面の奥に走った、広く、長く、深い亀裂。リューの瞳が、亀裂の奥で輝く真紅の眼光を捉えた次の瞬間。
「ーえ?」
猛烈な斜線が通り抜け、【アストレア・ファミリア】の団員が寸断された。
「ノ、ノイン!?ーーぐっ」
二人目。死んだ少女の名を呼んだ獣人の体が弾けた。
三人目。宙に躍り出た巨体により構えた盾ごと前衛が潰れた。瞬く間に三人が殺された。
「ーーーああああああああああああああああ!?」
「だめっ、リオン」
仲間の死を受けて暴走するリューには、アリーゼの静止の声も届かない。勢いよく疾走するリューはそのまま怪物へと斬りかかる。しかし、その渾身の一撃は空を切った。なんとその怪物は大型級であるにもかかわらず天井に着地していた。そこから始まる超高速移動。そして、獲物の知覚を振り切った怪物は、あっさりとリューの背後をとり、必殺の爪を見舞う。その『破爪』をなんとか緊急回避したリューだが、直後怪物の尾に吹き飛ばされる。そのまま、地面に倒れかかるリューに怪物は容赦なく爪を振り下ろした。
「ーー馬鹿がっ!」
リューを救ったのは輝夜。しかし、その代償として彼女の右腕は宙を舞った。
「セルティ、合わせて!」
仲間が殺され、武闘派のリューや輝夜が返り討ちにあった。それでも【アストレア・ファミリア】の心は折れず、詠唱を経て砲撃を見舞おうとする。しかし、それは更なる惨劇をもたらした。厄災たるジャガーノートの唯一の盾『
「いやああああああああああ!?」
「やめて、食べないでえええ!?」
戦意に綻びを見せた者から惨たらしく虐殺された。
「ぎゃああああああああ」
やがて、被害は【ルドラ・ファミリア】にも及ぶ。
「……輝夜、大丈夫?」
「これが大丈夫に見えたら、団長の目は大概節穴だな……」
残った【アストレア・ファミリア】は四人。既に満身創痍だった。アリーゼは既にボロボロ、輝夜は隻腕となり戦闘衣を千切って止血している。小人族のライラは反射された魔法を浴び、両眼が皮膚ごと溶けていた。
「ごめんなさい。ー輝夜、ライラ。二人の命、私にちょうだい。……私はリオンを助けたい。」
「……もとより、『誰を残すか』という戦いだ。アイツが地上で
アリーゼの言葉を聞き、凍りつくリューを置いて、輝夜はあっさりと認めた。
「アタシはさ、自分の命が一番大事なんだ。アリーゼ達を知ってるだろ?でもアタシはこん中で一番よわっちくて、真っ先に死ぬだろうから……乗ってやるよ」
勝てない博打にはベットしない主義だからな、とライラは気丈に笑った。
「だが、団長……貴女が生きるべきだ。貴女とアストレア様そして、アイツさえいれば、正義は生き続ける」
「いいえ、輝夜。私は言ったわ。人の数だけ正義が存在する。だから、きっと正義に正解なんてない。ーーでもリオンだったら、きっと正しいことを選び続ける」
そして、アリーゼは振り返り、とても優しい眼差しでリューを見つめた。
「リオン……聞いて?あいつを倒すために、あんたの魔法が必要なの。だから、あんたはここで歌っていて?私達が、あいつの殻を剥がすから。…お願い…『約束』よ、リオン?」
「リオン、そこにいるのか?お前は……生きろよ!」
「私の小太刀……くれてやる。形見のように大切にしてくれるなよ、存分に使え。ーどうか強く在らんことを。私の初めての好敵手」
手向けの花のように、少女達は明るく笑った。
『ーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!』
【ルドラ・ファミリア】を虐殺し終えたジャガーノートが雄叫びを上げる。その雄叫びをうけアリーゼ達は駆け出そうとした、その時
「
雄叫びを上げていたジャガーノートを横から衝撃波のようなものが弾き飛ばした。
「もう大丈夫だ!何故って?ーーーーー私が来た!!!」
迷宮都市オラリオ。多くの人々が集い、世界の中心と呼ばれる都市である。そんなオラリオに足を踏み入れたのは13歳の少年。彼の名はヤギ・俊典。正義のヒーローになりたいをいう夢を抱き故郷を出て、このオラリオに来た。のだが………
「……しまった。何処に行けばいいのか全然分からない」
とまあ、早速壁にぶつかったようである。………早くね?
仕方ないので俊典は
「すいません、冒険者になりたいんですけど、どうすればいいんですか?」
と道行く人に聞き、ファミリアのことを知った。しかし、何処のファミリアが良いかまではわからず、結局ギルドに行くことにし、そこでファミリアについて教えてもらうことになった。
というわけでギルドに辿り着いた俊典は早速近くにいた狼人の受付嬢に聞きに行く。
「すいませ〜ん。僕は冒険者になりに来たんですけど、おすすめのファミリアを教えてもらえませんか?」
「あら、可愛い坊やじゃない。ファミリアについて教えるのはいいんだけど、貴方はどんなファミリアに入りたいの?」
と受付嬢は心良く承諾してくれた。
「正義を掲げているファミリアってありますか?」
「正義ねぇ〜。【アストレア・ファミリア】なら主神が正義と秩序を司っていた筈よ。アストレア様自体とても神格者だから、一度行ってみたらどうかしら?」
いきなり選択肢を絞られる希望を言った俊典だが、流石は受付嬢というべきかすぐに当てはまるファミリアを教えてくれた。
「ありがとうございます!早速行ってきます!」
「えっ、ちょっと、今から!?」
「はい!!」
と返事をするや否や、俊典はギルドを飛び出して行ってしまった。取り残された受付嬢は……
「ふふっ…微笑ましいことね」
と俊典の背中に生暖かい視線を向けていた。
ギルドを飛び出し、しばらく歩いた俊典はようやく【アストレア・ファミリア】の門の前に立っていた。
「すいませーん、誰かいますかー?」
俊典が門を叩きながら、声をかけたところ中から一人の少女が出てきた。
「はいはーい。何か御用かしら?」
美しい赤髪をポニーテールにしている彼女は俊典に用事を尋ねた。
「【アストレア・ファミリア】の入団試験を受けに来ました!」
俊典は少女の質問に対して元気よく答えた。それを聞いた少女は目を丸くし、
「え、入団希望者なの?う〜ん、今は特に募集してないんだけどなぁ〜。ま、いっか。じゃ、ついて来て、君!」
と言うや俊典に背を向け、ずんずんと進んでいく。それに、驚いた俊典は驚いて少しの間硬直していたが、慌てて少女の背中を追いかけた。
「アストレア様、入団希望者を連れて来ました!」
少女の背中を追いかける事数分。主神の部屋と思われる扉の前に辿り着いた俊典だが、心の準備をする間もなく少女が扉を開けて中に入っていってしまった。
「アリーゼ、連れて来てくれたのはいいんだけど貴女がどんどん進んでいくから、彼が戸惑っているみたいよ。少しは配慮してあげなさい。……さて、貴方が入団希望者ね?うちは特にしっかりとした入団試験とかはないんだけど、面接代わりに質問をしてもいいかしら?」
【アストレア・ファミリア】の主神であるアストレアは俊典に慈愛の視線を向けながら、問いかけた。それに対し、俊典が「はい!」と返事をすると、優しげな微笑みを浮かべてこう問いかけた。
「貴方はどうして、冒険者になりたいと思ったのかしら?」
恐らく面接であるならば最もありふれているであろう質問。しかし、相手は嘘をつく事のできない
「…
「それは、どうして?」
アストレアはその微笑みを絶やす事なく、聞き返した。
「アストレア様は、オラリオから犯罪が減らないのは何故だと思いますか?僕は、人々に拠り所がないから、頼れる柱がないからだと思います。だから、僕がその柱になります!そして、
「そうなのね。ふふっ、合格よ。貴方はとてもいい志をしているわ。ぜひ、私のファミリアでその夢を叶えてね。」
アストレアはとても満足そうに言った。そして、傍らにいた少女に
「アリーゼ、新入団員に自己紹介をしなさい。それと、扉の前にいる貴女達もね。」
とアストレアが言うと、扉が開き、ばつの悪そうな顔をした金髪のエルフの少女、お淑やかな笑みを浮かべた黒髪のヒューマンの少女、ニヤニヤとあくどい笑みを浮かべた桃色の髪の小人族の少女が現れる。いきなり扉から少女が現れたことに驚く俊典を他所に、エルフの少女が弁明する。
「すいません、盗み聞きをする気は無かったのですが……会話していたので入るに入らず………」
と本当に申し訳なさそうに謝罪しているところを見ると、どうやら彼女はとても義理堅い性格のようだ。
「まあ、とりあえず自己紹介をしましょうか。とりあえず新入団員になる貴方から最初ね。次に貴女達はとりあえず左から順番にお願い。」
アストレアが仕切り、俊典に話を振る。
「はいっ。ヤギ・俊典といいます!よろしくお願いします!」
俊典が自己紹介を終え、次に赤髪のヒューマンの少女の番となる。
「私は、アリーゼ・ローヴェルよ。【アストレア・ファミリア】の団長をしているわ!よろしくね、トシノリ!」
と元気よくそう言った。
「私は、リュー・リオンといいます。先程は貴方の話を盗み聞きしてしまうような形になってしまい申し訳ありませんでした。しかし、貴方の志はとても素晴らしい。これから共に戦えることを嬉しく思います。」
エルフの少女はまず俊典に謝罪をし、次に俊典の想いを褒め称えた。
「次は
美しい長髪の黒髪を流した少女はお淑やかにそう言った。
「アタシはライラって言うんだ!よろしくな!それと、輝夜。猫被ってお淑やかに振る舞うんじゃねえよ!てめえはどっちかって言うとアタシと同じ類いだろうが!?」
と桃色の髪の小人族は軽薄な笑みを浮かべて自己紹介をした後、猫を被っている輝夜に突っ込む。そこで、この場にいる全員の自己紹介が終わり、アストレアが再び場を仕切る。
「さて、皆、自己紹介を終えたわね?まあ、他にも団員はいるんだけど、それは後にしましょう。トシノリ、私達は貴方を歓迎するわ。これから共に頑張っていきましょうね。」
ーーーこれから始まるのはいずれ平和の象徴と呼ばれる少年と正義の女神の眷属達が紡ぐ、【
この作品のオールマイトはヒロアカの志村奈々に弟子入りした時のオールマイトを作者が勝手にイメージして書いたのでおかしな点も多いと思います。ご不快な点などありましたら、なるべく訂正できるように努めていきたいと思います。