ダンジョンに平和の象徴がいるのは間違っているだろうか   作:黒納豆

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第四話

〜アリーゼが追い詰められる数分前〜

ザッザッザッという音と少女達の荒い息遣いが聞こえる。感じる振動からするに自分は背負われているようだ。そこまで認識した所で俊典の意識は覚醒する。

 

「……ここは……っ、いやブラックライノスはどうなった!?」

 

「わっ」

 

目を覚ました俊典は自分がどうして気絶していたかを思い出し、慌てて自分を背負っていたドワーフの少女、アスタに問いかける。突然声をかけられ驚いた表情をするアスタだが、すぐに真面目な顔に戻り説明する。

 

「…今、アリーゼ、リュー、輝夜の3人がかりで足止めしてる。だから、私達は急いでリヴィラと地上に救援を呼びに行かないといけないわ」

 

それを聞いた俊典はすぐさま、アスタの背中から下ろしてもらい、アリーゼ達のいる広間に向かおうとする。だかーー

 

「やめて!アリーゼ達は私達を助ける為に自分の命をかけて残ってくれたのよ!なのに、貴方が戻ったら意味ないじゃない!」

 

アスタが悲鳴を上げるようにそう叫んだ。きっと彼女自身もそうとうに苦しんでいるのだろう。その証拠に彼女の顔は酷く歪んでいた。だが、それでも俊典の意見は変わらない。

 

「だとしてもだ!私は自分が生き残るために仲間を残して逃走なんてしたくない!!」

 

「そんなの私達だって同じよ!!!」

 

俊典がそう言うとすぐ近くで絶叫が上がった。俊典がそちらを見ると、いつも優しく皆の姉のようなヒューマンだったマリューがいた。俊典は彼女がここまで声を荒げた所を初めて見た。そして、彼女は涙を流し、こう続けた。

 

「私達だってアリーゼ達を残して逃げたくなんてない。でも、私達にはあの化物と渡り合えるステイタスも技もないのよ。だから、足手纏いにならないように彼女達を信じて助けを呼びにいくしかないじゃない!!」

 

彼女は俊典に苦渋に満ちた顔でそう言った。それに対し動揺する俊典だが、こんな事で自分の意見を曲げるような男ではない。

 

「だとしても大丈夫だ。私はこのファミリアで一番強い!だから、絶対に彼女達を救ってみせる!」

 

俊典は自身満々にそう言ったが、【アストレア・ファミリア】の面々は俊典を強く睨みつける。だが、俊典は一度も目を逸さなかった。やがて、そんな俊典に根負けしたようにマリューは言った。

 

「……わかったわ、私の負けよ。行ってきて良いわ。………だから、だから、お願い。……約束して。必ず彼女達を連れて帰ってくるって。…お願いよ……」

 

最後に嗚咽を漏らしながらそう言う彼女に俊典はいつもの笑顔を浮かべていった。

 

「もちろんさ!マリュー少女!何故なら、私はいずれオラリオの柱になる人物だからね!!」

 

 

【アストレア・ファミリア】の面々に啖呵を切った俊典は迷宮を全速力で駆けていた。途中、何度かモンスターと遭遇したが無視して駆け抜けるか、それができない時には壁を使って連続で跳躍し、モンスターを回避して進んでいた。

 

(急げ急げ急げ急げええええええ)

 

俊典は心の中でそう唱えながらどんどん加速して行く。やがて27階層の広間に辿り着いた俊典が見たものは、弾き飛ばされ体勢を崩しているアリーゼと彼女に向かってツノを構え突撃しているブラックライノスだった。俊典はその真ん中に飛び込み、ブラックライノスの受け止め、後ろにいた少女に笑顔を浮かべてこう言った。

 

「もう大丈夫だ!何故って?私が来た!!!」

 

アリーゼに堂々と宣言した俊典だが言葉とは裏腹にその内心は焦りに満ちていた。

 

(まずいぞ、コイツ私以上に力が強い!しかも、私の全力のパンチも効いて無かった。どうする?どうすればこの場を切り抜けられる?考えろ!考えろ!)

 

俊典はブラックライノスの力で押され徐々に押しつぶされていく。

 

(ぐうぅ、このままでは)

 

俊典の足が地面にめり込み、俊典自身も地面に押し倒されそうになる。その状態で俊典の目に映ったのは必死の形相でブラックライノスの気を引こうと斬撃を浴びせる輝夜とリューだった。俊典は衝動的に後ろを振り抜く。俊典の後ろにいたアリーゼは自身の傷にポーションをかけながら俊典を心配そうに見ていた。直後、彼女達の表情を見た俊典の中で何かが弾ける。

 

(ーー情けない!!守ると、助けると決めたのだろう!?なのに、何故私は彼女達にあんな表情(かお)をさせている!相手の力が上だからどうした!私の全力が効かないからどうした!相手の力が上ならこっちも更に上回ればいい!全力が効かないのならば全力を越える一撃を数十発でも数百発でも撃てばいい。柱になると、英雄(ヒーロー)になると決めたのだろう!?なら、それぐらいやってのけろ、ヤギ・俊典!!!)

 

「おおおおおおおおっっ」

 

俊典が雄叫びを上げる。すると、突如俊典の背中が熱くなり、徐々にブラックライノスを押し返す。そして、

 

SMAAASSHH(スマァーーッシュ)!!!!」

 

俊典が渾身の一撃を見舞い、ブラックライノスがノックバックする。しかし、ブラックライノスはすぐに体勢を整え、俊典に拳撃を見舞う。だか、それに対し、俊典もその拳に自らのパンチを当てる事で相殺した。ニ撃目、三撃目も同じように相殺する。

 

(勝負だ!ブラックライノス!!)

 

ーー直後、高速の殴り合いが始まった。

 

 

 

 

ブラックライノスは困惑した。何故この生物は倒れないのかと。ここまで上がってくれば、自分より強いものはいない筈ではなかったのか。ここの階層で1番強いと思われる竜は少し前に自分が倒し、喰らった。ーにもかかわらずこの生物は自分の攻撃を喰らっても倒れるどころか反撃さえしてくる。ブラックライノスは自身はこの層で最強ではなかったのかと戸惑っていた。

 

 

 

ここで、とあるモンスターの話をしよう。『彼』は深層で生まれた。特別強いとか、知性があるとかそういったことのない極普通のモンスターだった。ただ、唯一『彼』が他の同族と違ったことがある。それは『彼』の生存本能が強く『臆病』だったこと。同族達が敵に対し、猪突猛進という言葉が当てはまるほど突っ込んでいく中、『彼』だけは同族に戦わせ、敵の強さを判断し、勝てないと判断した敵は即座に逃げる事でなんとか生き延びた。そんな『彼』だが、ある時、道に魔石が落ちていたのを見つけた。『彼』はそれを本能的に喰らった。すると『彼』は自身が全能感を感じている事を知った。それから『彼』は自身と同じ群れの同族を襲い、その魔石を喰らった。だが、直後群れの同族達が『彼』を襲い出す。『彼』は当然ながら逃げ出し、同族を襲う事をやめた。そんな時、『彼』は多くの魔石を持っている生き物を見つけた。『彼』は思った。今の自分であるならば奴らを倒す事が可能なのではないかと。ーーだが、結果は惨敗。『彼』は同胞達を囮にしつつ逃走した。だが、その生き物達は自分をしつこく追いかけてきて、特に『彼』が上に上がってからは必死に追いかけてきた。そうして、『彼』は上へ上へと逃げ、その度に同胞を囮に使う事でなんとか強き生き物達を振り切る事ができた。そんな時『彼』は気づく。上の層の同胞達が自分よりも圧倒的に弱いことに。『彼』は歓喜した。自分より強いものが居ないということは間違いなく生き残れるということなのだから。そうして徘徊していると、とある広間についた。そこでは、多くの同胞達が殺し合っていた。『彼』は恐怖した、殺し合う同胞達の中には自分より強いと思われる同胞が複数いたからだ。そこで、『彼』はまた上へ上へと逃げた。すると、自分を追い込んだ強き生き物達と同族と思われる生き物がいた。『彼』は慌てて逃げようとした。だが、『彼』は違和感に気付いた。例の生き物達は『彼』に怯えていた。不思議に思った『彼』は警戒しつつも、その生き物達を攻撃してみるとあっさり倒す事に成功した。『彼』は今度こそ自身の殺せるものが居ないと判断した。そして、『彼』はその生き物達が持っていた銀色に光るものを拾った。『彼』は強き生き物達が自分をその光に傷付けていたのを覚えていた。故に『彼』はそれを使えば己より大きな者を倒せるのではないかと考えた。結果は成功だった。『彼』は自分より遥かに大きな双頭の竜を倒すことに成功した。『彼』は確信した。この層ならば自分は最強であると。それが、すぐに覆されるとも知らずにーーーー

 

 

 

ダンジョン27階層では、現在、ブラックライノスと俊典の壮絶な殴り合いが続いていた。

 

「……すごい、あのブラックライノスと殴り合ってる」

 

その戦いを見ていた、アリーゼがぽつりと呟く。

 

「ああ、全くだ。悔しいが私達が援護に行っても足手まといにしかならないだろう」

 

アリーゼの呟きに輝夜はとても悔しそうに言った。

 

「いいえ、私には彼を援護する方法があります」

 

リューは突然そう言うと、詠唱を開始し、走り出した。

 

「おいっ、リオン!?やめろ、生半可な魔法ではヤツには効かん!むしろ、俊典の邪魔になるだけだ!」

 

そう言ってリューを止めようとした輝夜だが、その肩にアリーゼの手が置かれる。

 

「輝夜、きっとリオンにも考えがあるのよ。今は、信じてみてましょう?」

 

「……団長がそう言うのであれば従おう……」

 

アリーゼの言葉に対し、輝夜は渋々ながら頷いた。

 

 

 

一方、ブラックライノスと殴り合っている俊典は決定打が打てず、手をこまねいていた。だが、そんな時、俊典の視界には詠唱をしつつ、こちらに向かってくるリューの姿が映った。

 

(一体、何をする気なんだ?リオン少女)

 

当然ながら、俊典は困惑する。しかし、そんな俊典を他所にリューは魔法を発動させた。

 

「【ルミノス・ウィンド】」

 

殴り合う俊典とブラックライノスの周りに緑風を纏う四十七の大光玉が展開される。砲撃をする気かと考えた俊典だが、大光玉は依然静止したままだった。直後、俊典はリューの考えを悟り、跳躍した。そして、体を反転させ、大光玉を蹴りつけ、爆発的な推進力を得る。そして、そのままブラックライノスを殴り、すぐに空中へ跳躍。ーーそう、リューが魔法を発動させたのはこのためである。砲撃が効かないならばと大光玉を展開し維持することで即席の闘技場を作り上げた。それにより特段にスピードの上がった俊典が怒涛の連続攻撃を浴びせていく。

 

(ありがとう、リオン少女。最高のサポートだ!残る光玉は3つ。ここで決める!)

 

そう決意した俊典は1つの光玉を蹴り、側面からブラックライノスの下に潜り込みアッパーを見舞い、空中へ飛ばす。すかさず、リューが光玉のブラックライノスにあて跳ね返す。それを俊典は空中でキャッチし、そのまま地面にぶん投げる。そして、光玉の最後の1つを蹴りつけた。

 

「時にブラックライノスよ。こんな言葉を知っているかい?」

 

俊典はそう言いながら地面を踏み砕いて着地した。そして

 

PLUS(更に)ーーULTRA(向こうへ)!!!」

 

ガラ空きになったブラックライノスの腹に限界を越えた一撃を叩き込んだ。ブラックライノスは大きく吹き飛び壁に大きなクレーターを作った。やがて、衝撃が中の魔石に届いたのか、灰になり、魔石とドロップアイテムの『ブラックライノスの硬皮』が残された。そして、それを確認した俊典は安心したのかそのまま倒れこんだ。それを近くにいたリューが抱きとめた。

 

「…お疲れ様です。トシノリ」

 

そう言った彼女の顔にはとても優しげな笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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