魔法科高校の劣等生が好きで、特に真夜様が1番お気に入りです。
初投稿なので、至らぬところが多いと思いますが、暇つぶし程度で読んでいただけると嬉しいです。
不定期で作者の気分によって投稿ペースが変わります。
ご感想や誤字脱字などございましたら遠慮なくどうぞ!
しかし、作者は豆腐メンタルですのでそこのところはご理解くださいませ!
この小説は原作読破推奨です。
描写していない場面は概ね原作通りだと思ってください。
「尽夜」は、「じんや」と読みます。
第1話
──────四葉本家、当主書斎
妖艶な雰囲気を持ち、実年齢を感じさせない風貌である女性が紺色のドレスを纏いティーカップに口をつけている。
彼女の背後には白い髭を携え、恭しく佇む初老の執事。
そして正面には、部屋の女性の目元や口元が瓜二つでありながら、しっかりと男性と思わせる顔立ちをした高校生程の青年が同じく紅茶を口にする。
「……尽夜さん。明日には家を出ていってしまうのですね」
女性、四葉真夜の声は儚く、さも恋人が遠くへ行ってしまうのを嘆くようであった。
「そうですね。しかし、長期休暇にはちゃんと帰ってきますから。それに第一高校に通うのだって母さんのためなのですよ」
青年、四葉尽夜は宥めるように言葉を口にする。
「分かっているわ。…でも寂しいのよ」
「我慢なさって下さい」
「毎週末には、電話なさってね」
「承知しました」
上目遣いで頼み事をする真夜に対し、涼しい表情で承諾の意を返す尽夜であった。
────翌朝
「……………いよいよね」
昨日よりも更に儚げな表情で真夜は言葉を発する。
「母さん、行ってまいります」
淡々と別れを告げる尽夜は、用意された自動車へ乗り込もうと、真夜に背を向けた。
「尽夜!」
真夜は尽夜を呼び止める。
尽夜が乗り込むのをやめ、真夜の方を見た。すると真夜は尽夜に歩み寄り、背中に腕を回し、胸に顔を埋めた。それは力強く、自分の痕を付けている様に感じた。
尽夜も真夜の背に腕を回し、これに応える。
山々に囲まれた、地図にも載っていない山村の中の一角で、吹き下ろされてくる風が二人の空間だけを切り取るように、優しく穏やかに流れている。
数分抱き合った後に真夜が離れ、尽夜は今度こそ出発して行った。
四葉家の玄関には、今にも泣き出しそうだが必死に抑える女性と先程の光景を慈愛の目で見守っていた初老が残された。
──────2095年、4月、国立第一魔法科高校
魔法が御伽話の物でなくなってから約一世紀が過ぎようとしていた。
2095年4月、魔法師を育成するのに各国が躍起になる情勢で、日本も例に漏れることはなく、育成機関である魔法科高校では入学式が行われようとしていた。
現在日本には第一から第十まで魔法科高校が存在しており、定員は200名になる。
第一高校では入学式前に二人の男女が言い争っているようであった。
「納得できません!!」
そういう女性、司波深雪。人形のように左右対称の面持ちで、長い黒髪を携え、人々を自然と惹きつける雰囲気を持っていた。
「まだ言っているのか……」
ため息混じりに言う男性、司波達也。深雪程では無いが整った容姿をしており、彼女の苦言を困ったように聞いている。
「なぜお兄様が補欠なのですか!入試結果は1位ではないですか!それに本当なら魔法も「深雪」っ!」
「も、申し訳御座いません」
「いや、いいんだ。どこから入試結果を手に入れたかは横に置いておくとして、深雪はいつも俺のことを思って言ってくれる。それだけで俺は嬉しい。それに俺が実技は駄目なのは知っているだろう?自分でもよく受かったものだと思うよ」
「お兄様………」
「さあ、深雪。こんなダメ兄貴にお前の晴れ姿を見せておくれ」
「そんな!お兄様はダメ兄貴などではございません!分かりました!お兄様!ちゃんと見ていて下さいね!」
「ああ」
どうにか納得した深雪に達也は安堵する。
が、
「それに本当なら」
「深雪!」
「っっ!!」
先程の宥めるような呼び方とは違い、今度は叱咤するような声で呼ぶ。
「それは今は絶対に言ってはいけない。深雪、いいね?」
「申し訳御座いませんでした…」
「さあ、深雪。そろそろリハーサルに行っておいで」
「分かりました」
深雪を送り出した達也は息を吐き、入学式入場開始までの時間を潰せる場所を探しに歩き出した。
────数十分後
国立魔法大学付属第一高校、魔法大学に毎年多くの卒業生を送り込むここは、高等魔法教育機関のエリート校として認識されている。
中庭のベンチを見つけた達也は情報端末機で読書をしながら時間を潰していた。
周りには入学式の準備に駆り出されているのであろう在校生が通り過ぎる。彼らの胸には達也にはない。8枚花弁のエンブレムがついていた。
『あの子、ウィードじゃない?』
『入学式だからはりきっちゃってるのね』
『所詮スペアなのに』
聞きたくもない会話が達也に届く。
緑色のブレザーに8枚花弁のエンブレムを持つ生徒はその意匠で自身を[ブルーム]、持たないものを[ウィード]と呼んでいた。
「君も早く来たのか?」
聞きたくもない会話で気の逸れていた達也の近くに、一人の生徒が立っていた。顔をあげれば、その生徒もブルームだったが、達也の知る人物だった。
「……ああ、そうだ」
「名前を聞いてもいいか?」
「司波達也。そちらもいいか?」
「尽夜。四葉尽夜」
初対面を装った挨拶に、達也は白々しく思いながらも、驚いた振りをした。
「四葉っていうのは、あの四葉か?」
「そうだよ。尽夜って気軽に呼んで欲しい」
「なら俺も達也でいい」
彼らは初対面のフリをして言葉を交わす。
そこにもう一人近寄っていく影があった。
「あの〜、もうすぐ入場開始ですよ?」
小柄な女性が彼らに話しかける。
まず目につくのは腕の腕章、次に腕に巻かれたブレスレットの様なCAD。
彼らは校内でCAD携帯が許される人間の条件をを即座に思い浮かべた。
(生徒会役員、風紀委員、部活連のどれかか……)
「ありがとうございます。すぐに向かいます」
尽夜が先に言葉を発し、その場を立ち去ろうとする。それに達也も続く。
「あの、私は、生徒会長をしている七草真由美といいます」
彼女は彼らが立ち去る前に自己紹介した。
彼らは立ち止まる。
「俺は、いえ自分は司波達也です」
彼の名前を聞くと、彼女は小悪魔的な笑みを浮かべた。
「貴方が司波君ですか。職員室ではあなたの噂で持ちきりですよ。実技試験は振るわないものの筆記テストでは平均96点、特に圧巻だったのは魔法理論と魔法工学での満点。平均が70にも満たない所を、です」
「情報システム内での話です」
達也はさも当たり前のように応える。
「私は今でもそんな点数を取れる自信はないですよ」
「はぁ…。ありがとうございます」
彼女は次に尽夜に目を向けた。
「貴方は?」
「四葉尽夜です。以後お見知りおきを」
尽夜が答えると彼女は驚いた顔をした。
「!………貴方が四葉尽夜君ですか」
彼女が驚いたのは理由がある。
ただでさえ、秘密主義の四葉が数年前に現当主の子供がいると、日本魔法会に通達があった。しかし、それからもその子供が表に出ることはなく、それ以上の情報が世に出ることはなかった。年齢すら不明、名前と性別のみ発表されていた。噂では四葉のハッタリというのが大部分を占めていた。それは大漢事件によって現当主は生殖機能が無くなったとされていたからである。一応、事件前の奇跡的に保存されていた冷凍卵子から産まれたとされているがにわかには信じがたかったのである。
それが今、自分の目の前にいる。恐らく、今日が初めて公の場に出てきたのだと、彼女は察する。
「改めて、十師族の七草家、長女の七草真由美です」
彼女は努めて冷静に堅い自己紹介する。
意図を察した尽夜は、
「四葉家、現当主四葉真夜の1人息子、四葉尽夜です」
と、返した。
彼女は彼の入試結果を踏まえて、話題を投げる。
「四葉君は、司波君とは対照的に実技は文句なしの満点。筆記は実家の都合上、受けていませんが、四葉であることを加味して、実技が問題ないため1科生で入学、でしたね。入学おめでとうございます」
「ありがとうございます」
しばらく話していると周りの目線が集まってきたのを感じ、彼女に一言言い彼らは立ち去った。
────入学式
席が1、2科生であからさまに別れており、目立つ事を避けるために達也と別れた。
入学式が始まると、校長や来賓、生徒会長の挨拶が滞りなく進んでいった。
新入生代表による挨拶では、総代である深雪が壇上に上がると彼女の高貴さ、可憐さに場内がざわめいた。
女ですらも見惚れるほどの容姿に皆が釘付けであるなか、当の本人は兄ともう一人を探して目立たない程度に目を少しキョロキョロさせていた。そして、彼らを見つけると、一人を敬愛、一人を恋慕の眼差しで見つめ、その顔に会場が飲み込まれ、ざわめきが増す。
ざわめきが落ち着く頃彼女が喋りだす。
(皆等しく、一丸となって、魔法以外にも、総合的に、結構際どい言葉を入れてるな。まあ、深雪の容姿に気を取られて、大半が気づいてないだろうけど)
尽夜はなんだか可笑しくなって、微笑みを浮かべる。
すると、深雪が顔を紅くし、少しの間黙り込んでしまった。
突然のことにざわめきが再度起こるが、深雪はすぐに持ち直し、それすらも演出であったかのように振る舞った。
入学式が終わり、後はIDカードを受け取るのみになった。尽夜は司波兄妹、取り巻きが話しているのを横目に自分の家に帰って行った。
四葉家次期当主について
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尽夜
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深雪