【旧約】狂気の産物   作:ピト

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第9話

-----九校戦、1日目

 

 直接の観客のみでも、10日間で延べ10万人。1日平均1万人のギャラリーが競技を見に来る。有線放送の視聴者は少なくともその百倍以上となるだろう。

 プロの試合が行われる人気スポーツ競技に比べれば少ないとはいえ、これだけの人間が注目している。

 

 開会式は華やかさよりも規律を強く印象付けるものである。魔法競技はそれだけで華やかさを伴う競技であるため、セレモニーをそこまで華美にする必要はない。長々とした来賓の挨拶もなく、九校の校歌が順に演奏された後、すぐに競技に入った。

 

 今日から10日間、本戦男女各5種目、新人戦男女各5種目、計20種目の魔法競技会の幕開けである。

 

 1日目の種目は本戦のスピード・シューティングの決勝までとバトル・ボードの予選である。

 

 「深雪、他の1年女子達がずいぶん眠そうだけど昨日は眠れなかったのかい?」

 

 カクカクと先程から1年の女子たちが首が落ちてるのを見かねて、尽夜が隣に座る深雪に問いかけた。

 深雪は他の女子とは違い、目元がおぼつかない様子はなかった。

 しかし、深雪は尽夜の問いかけに昨日のお風呂での出来事を思い出して顔を逸らし、頬を少し染めた。

 

 「ちょっと、みんな楽しみでして部屋で盛り上がってしまいました」

 

 深雪が早口で(まく)し立てる。

 言葉通りに受け取った尽夜は納得した態度を取る。

 

 「深雪はちゃんと寝たようだけどもちゃんと寝なきゃいけないよ。寝不足は体にも美容にも良くないんだからね」

 「……………はい」

 

 この時、尽夜は深雪が小さく欠伸(あくび)をしたことに気付くことはなかった。深雪の手が自身の太腿を力強く抓っていたのはここだけの話。

 

 「尽夜さん、お兄様、そろそろ会長の競技が始まります」

 

 深雪は話題を変え、これから行われる第一競技に出場する真由美へと視線を向けた。

 

 

 午前の競技は真由美がスピード・シューティングをパーフェクトスコアで予選突破、摩利がバトル・ボードの予選突破と第一高校の予定通りの結果となり終了した。

 

 午後の競技まで1時間ほどの休憩が取られる。

 

 「尽夜、付いてきてくれ。みんな午後の競技までには戻るから席を取っておいてくれないか?」

 

 達也が尽夜に声をかける。意図を察した尽夜は頷くと席を立つ。

 

 「わかったわよー」

 

 エリカの語尾を伸ばした声が達也の耳に届く。

 2人はその場を跡にし、ホテルに戻った。

 警備の兵士に案内され、ホテルの一室に通される。

 

 「来たか」

 

 中に居たのは、達也の九重八雲に教えを受けた兄弟子、独立魔法大隊少佐、風間玄信(かざまはるのぶ)とその部下である男女。彼らは共に一服しているようだった。

 

 だがその顔は達也の横の存在によって、和やかのムードが消えていた。

 

 「風間少佐、お久し振りですね。沖縄事変以来でしょうか?」

 

 対照的に尽夜の雰囲気は穏やかで、朗らかであった。

 

 「ああ、そうだな」

 

 部屋には部下たちが緊張を孕んだ面持ちで二人を見守る。

 

 「少佐、今回は情報が前回話した通り尽夜、いや四葉の情報通りかを確かめるために連れてきました。それと、この件を四葉は尽夜の判断に一任しています」

 

 達也の言葉に風間は先日の達也以上に驚いた。まじまじと尽夜を見て、重々しく口を開く。

 

 「今回の背後にいたのは四葉の情報通り『無頭竜(ノーヘッドドラゴン)』だった。しかし、まだ何をしようとしていたかは昨日の奴らの尋問によってもはっきりとしていない」

 

 明かされた情報に尽夜は頷く。

 

 「そうですか……。風間少佐、アジトなどは分かっていますか?」

 「いや、こちらでもまだ掴んでいない」

 「四葉もまだですので、今回我々はあなた方、独立魔法大隊との共闘を依頼します。私や達也を存分に駆り出してくれて結構です」

 「そうか、いや、こちらとしてもお願いしたい。申し出を感謝する」

 「ではまた何かあれば達也を通じてお知らせください」

 

 尽夜はその言葉を皮切りに席を立つと達也をおいて扉に手をかけた。

 

 「四葉君、いや尽夜君。九校戦、頑張ってくれ」

 

 出ようとした時に激励の言葉をかけられ、振り返る。

 

 「ええ、四葉の名に泥を塗らないようにしますよ」

 

 それが最後の言葉となった。

 

 彼が出ていくとしばらく静寂が訪れたが、風間の副官、秘書役の女性が空気を変えようと話題を振る。

 

 「遅れたけど、達也くん久し振りね」

 「ええ、お久し振りです」

 「天下のトーラス・シルバーが九校戦のエンジニアなんて反則じゃない?」

 「一応、俺も高校生なんですが?」

 「そうだったわね。メンバーはシルバーの事は知ってるの?」

 「いえ、秘密事項ですので」

 「そう。それにしても昨夜はお手柄だったわね。もしかして警戒してたの?」

 「いや、偶然です。散歩していたらたまたま気配を掴んだんです」

 「あんな遅い時間まで?」

 「競技用CADの調整をしていましたから」

 

 和気あいあいとこの部屋の中で最も歳の近い藤林響子少尉と会話をする。

 その後、真田大尉や柳少尉、山中軍医少佐とも挨拶を交わし、それぞれの近況に華を咲かせる。

 

 「四葉君はピラーズ・ブレイクに出場だったな。確か一条家の跡取りもそうだった気がするが、達也の目か見てどうなりそうだ?」

 

 風間が尽夜の出場種目に話題を移す。

 達也は淡々とその答えに答える。

 

 「十中八九、いやそれ以上の確率で尽夜に軍配が上がるかと」

 「彼はそんなに強いのか?」

 「自分が『誓約(オース)』を解除したとしてもあいつと戦えば勝つ保証はできません」

 「……………そうか」

 「ええ、ですので俺は尽夜の負ける姿が想像できません」

 「彼を我が隊に、いや国防軍に入れれなかったのは悔やまれるな」

 

 風間が苦虫を噛み殺したように苦汁を飲んだ。

 

 「達也君は選手としては出ないの?『マテリアル・バースト』はともかく『雲散霧消(ミスト・ディスパージョン)』を使えば結構いい線に行けるんじゃないの?」

 「軍事機密を衆人環視の競技会で使うことはできませんよ」

 「まあ、そうだな。だが達也、もし選手として出場することになった場合は」

 「分かってますよ。それに出場選手が緊急に足りなくなったとしても尽夜が手を打ちますからその状況は考えにくいです」

 「そうか…」

 

 2人は苦笑気味に醒めた目で話題を打ち切る。しかし、心の奥底では達也は自分の推測に十分な自信を持ってはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-------第一高校、宿泊ホテル

 

 午後の競技も終了し、第一高校の戦績は概ね予想通りの結果となる。

 スピード・シューティングは女子部門で真由美が圧勝。男子部門も一高が優勝した。

 しかし、男子バトル・ボードでは苦戦が強いられた。なんとか服部が予選を突破したもののギリギリの戦いであった。

 現在は生徒会の女子の面々が真由美と摩利の部屋に集まっていた。

 

 「明日ははんぞーくんと木下君に1日調整に当ててもらいましょう」

 

 真由美は考えたすえに原因を追求するために、服部のCAD調整を1日かけることにした。

 

 「会長、それだといろいろと支障が出ます」

 

 鈴音が苦言を発する。

 

 「達也君は明後日まで調整がないはずだから無理を言うようだけどお願いしましょう。深雪さん、頼めるかしら?」

 

 真由美は申し訳なさそうに深雪へ頼み込む。彼女は笑顔を浮かべてこれを快諾する。

 

 「はい!兄なら大丈夫です!」

 

 敬愛する兄の活躍が増えることは彼女にとって喜ばしい事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----九校戦、2日目

 

 本日は午前にクラウド・ボールの予選と決勝、午後からアイス・ピラーズ・ブレイクの予選が行われる。今、一高の天幕では達也が午前中のクラウド・ボールで優勝した真由美に詰め寄られていた。

 

 「達也君!プログラムは(いじ)らないんじゃなかったの?」

 

 真由美は、いつも自分で調整していたが達也が1試合目が終わった後に軽く調整をしたらしく、自分の調整より真由美の判断では格段に使いやすくなっていたそうである。だがその問いに達也ではなく、天幕の横に控えていた尽夜が答えた。

 

 「会長、達也はゴミ取りをしたんだと思いますよ」

 「ゴミ取り?」

 

 真由美が不思議そうに顔を傾げる。

 

 「ハードではなく、ソフトのでしょうけど。会長のCADはシステム領域にアップデート前のシステムファイルの残骸があったとすれば、それを取り除くとCADの効率が多少アップするんですよ。まあ、感受性が強い人でないと普通は気づかない程のものですから会長が流石と言うべきですね。それにいくら達也でもプログラムを競技中に変更するなどはリスクがデカ過ぎですよ」

 

 尽夜の説明に真由美が達也の方へ向く。

 達也は正解だとばかりに頷く。

 

 「そうなの………。達也君は役目を果たしてくれただけなのにね。疑ってごめんなさい」

 

 ぺこりと頭を下げる真由美に達也は気にしていないと謝罪を受け取る。

 

 「後でゴミ取りの仕方を教えてくれる?」

 

 顔を上げた真由美が達也に依頼する。

 

 「いいですよ」

 「やった♪」

 

 達也の了承に喜ぶ彼女は尽夜の方へ再び話題を出す。

 

 「それにしても尽夜君はよく分かったわね」

 「俺もCAD調整に関しては人にして貰わなくてもいいぐらいには腕を持ってると自負してますよ?」

 

 キョトンとする尽夜に真由美はその言葉にワナワナと体を震わせた。

 

 「ならあーちゃんに調整を頼む必要ないじゃない!唯でさえエンジニアが少ないのに!」

 

 調整できるにも関わらずエンジニアを付けた尽夜に彼女はプンプンと腰に手を当てて怒る。

 それに対して尽夜は、自分の手でポンッと鳴らした。

 

 「………確かに」

 

 今まで気づかなかったという反応に真由美は怪訝な顔で尽夜を睨んだ。マズいと判断した尽夜はあの時の状況を思い出して理由を作り上げた。

 

 「いや、それはですね。中条先輩が借りを作りたく無いとおっしゃるので………」

 「借りって尽夜君はいったいあーちゃんに何をしたの?」

 「使わなくなったCADを譲渡しただけです。別になんてことはありません」

 

 表情は変えなくとも内心はすごく動揺している尽夜に対して、真由美はジト目のまま詰め寄って来た。そして、しばらく目を合わせていると「はぁ…」とため息を吐いた。

 

 「貴方たちが弟みたいに見えてきたわ」

 「「は?」」

 

 彼女の口から発せられた言葉に耳を疑う。

 

 「二人とも私に敬語で話しているけどあんまり気を遣わないし、貴方たちが入学して2日目の騒動の時に尽夜君はちゃんと私を責めたじゃない?それでも私を重んじてその場を任せてくれた。同級生とか年下からちゃんと叱られるって無いのよね。達也君は一見冷たいように見えるけどそうでもなくて何かと気に掛けてくれたりしてるから、弟がいたらこんな感じかな?と思って。特にさっきの尽夜君を問い詰めている時は手のかかる弟を叱ってる気分だったのよ」

 

 先程のことを思い出しているのか、上品にふふっと笑う真由美は『姉』と自称されてもそこまで違和感が残るものでもなかった。

 

 尽夜にとって兄弟姉妹は存在しない。肉親は母親の真夜のみである。別段それを嘆いてはいないし、真夜のみで十分と思っていることも事実だ。自分の絶対的な存在にして、これからも優先位が変わることのない特別な存在。後にも先にも過去に自分に誓ったそれはあの日から自分の行動原理である。それを覆す事はない、いや、あり得ないし考えるだけで虫唾が走る。だが、それを抜きに考えるのならば尽夜の事を『弟』と称した真由美を架空の『姉』として慕うことも何故か悪くはない気がした。自然に口元が緩んだ。

 

 「ふふっ、そうですね。俺は1人ですから兄弟姉妹の感覚は全く分かりませんが、もしそうならば楽しそうですね」

 

 普段達也ほどではないにしろ感情を表に出さない尽夜が、優しそうに真由美を慈愛の目で見つめるその姿に真由美は勿論のこと達也も目を見開いて固まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--------第一高校、宿泊ホテル

 

 2日目の成績はアイス・ピラーズ・ブレイクが男女共に予想通り予選突破。しかし、クラウド・ボールでは男子が予想外の結果となった。出場選手3人が1回戦、2回戦、3回戦と順に姿を消した。来年の3人出場枠はなんとか手に入れたが一人も予選通過がならなかったのは流石に予定外である。

 

 九校戦のポイントは順位によって振り分けられている。

 1位50ポイント、2位30ポイント、3位20ポイント。スピード・シューティング、バトル・ボード、ミラージ・バットの4位が10ポイント。クラウド・ボールとアイス・ピラーズ・ブレイクは4位から6位が決められないため3回戦敗退の3人に各5ポイントが与えられる。モノリス・コードは1位100ポイント、2位60ポイント、3位40ポイントと最も比重が大きい競技。

 新人戦はこの二分の一のポイントが総合得点に加算される。

 優勝ができなくとも相応の順位を取ることによってポイントが加算されることを加味すると上位を独占することが差を引き離したり縮めることには有効であった。

 

 「(かんば)しくありませんね………」

 

 鈴音はホテルのラウンジで作戦スタッフと共に計算をし直していた。

 

 「新人戦のポイントが予想できませんが、今のリードを考えると残り本戦の波乗り、棒倒しを男女共に優勝、ミラージとモノリスを優勝すれば安全圏だと思います」

 

 計算結果が鈴音に報告される。彼女は眉をひそめて考える素振りを見せ、どこか確信めいたものを顔に浮かばせた。

 

 「本戦の優勝確実選手が一人でも棄権すると総合優勝がわからなくなりますか………。四葉君の懸念が当たらなければよいのですが………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

----201号室

 

 夕食前の時間に達也と尽夜は部屋の中にいた。達也は自分宛てにロビーに届いていた小包を開封した。

 中には剣のような形状したCADが入っていた。特徴は刃のちょうど真ん中に切れ込みがあることだ。

 

 「達也、それは新しいCADか?」

 

 好奇心で聞く尽夜にそれをいじりながら達也は答えた。

 

 「ああ、牛山さんに頼んでいたんだがまさかこんなに早く届くとは思っていなかった」

 「早急な案件なのか?」

 「いや、そうじゃないが試してほしい奴がいるんだ」

 

 そう言うと達也は端末でメッセージを送った。それから数十分経つと部屋の扉がノックされる。

 

 「おう、達也来たぜ!」

 

 非常にガッチリした体で肌も日本人にしては茶色く、欧州の雰囲気を感じさせる男性が入って来た。彼は尽夜を確認すると少しばかり驚くが直ぐにそれは治まった。

 

 「四葉君じゃねえか。お邪魔するぜ。俺は西城レオンハルトってんだ。レオって呼んでくれ」

 「知ってるとは思うが四葉尽夜だ。尽夜で構わないよ」

 「オーケー、尽夜。よろしくな」

 

 2人はガッチリと握手を交わして意気投合する。

 

 「二人とも自己紹介が終わったとこで申し訳ないがレオにこれを試してほしい」

 

 先程のCADをレオに投げて渡す。彼は受け取ってマジマジとそれを見つめた。その目はどこかキラキラしており、さながら純粋無垢な少年のようであった。

 

 「おう、いいぜ!でもそれは達也が作ったのか?」

 「設計はな。作成自体は知り合いの工房で作ってもらったんだよ」

 「そうなのか!早速試そうぜ!」

 

 ウキウキと感情を抑えきれない彼は催促していた。

 そして彼らはホテルに備えられた広い中庭で様々な実験を行っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----3日目

 

 本日はバトル・ボードとアイス・ピラーズ・ブレイクの男女本戦決勝が行われる。

 

 午前のバトル・ボードの決勝で尽夜の懸念は現実のものとなった。

 

 「摩利!」

 

 一時競技が中断され、救護班が出動する。

 事の発端は摩利が七校の選手の選手の少し前方でリードしたまま最終回に差し掛かった最初のカーブで減速魔法を七校の選手が上手く使えず、壁に激突するのを摩利が巻き添えを食らう様に起きた。

 一高メンバーで観客席にいた尽夜は達也が真っ先に向かおうとするのを手で留め、自分で応急処置を救護班が来る前に終えた。

 担架(たんか)に載せられた摩利に付き沿いそのまま病院に向かう真由美が姿を消してから30分後に事故の2選手を除いた形で再度決勝が行われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------軍病院

 

 尽夜は午後のアイス・ピラーズ・ブレイクを見終わり、摩利の見舞いに向かう。

 病室の前に辿り着き、ノックをする。

 

 「はーい。どうぞ」

 

 真由美の了承が聞こえたので、扉を開けると摩利は既に意識を取り戻していた。

 

 「渡辺先輩。大丈夫ですか?」

 

 心配の言葉をかける尽夜に摩利は笑って答えた。

 

 「まあな、そういえば結果を聞いてなかったな。どうだったんだ」

 「バトル・ボードは男子が2位、女子は3位でした。アイス・ピラーズ・ブレイクでは男女共に優勝です」

 「そうか………。私だけが計算違いか……」

 

 無意識に下唇を噛む摩利に、真由美が慌てて声をかける。

 

 「摩利、仕方無いわよ。貴方は巻き込まれた立場なんだから、それに貴方が居なかったら七高の選手は魔法師生命が絶たれていたっていうぐらい危険な突っ込み方だったんだから」

 

 その言葉に摩利はどんな風に反応すべきなのかが分からなかった。

 

 「四葉、おまえが真っ先に駆けつけて応急処置をしてくれたらしいな。ありがとう」

 

 摩利は話題を移すことでその場を凌ぐ。

 肋骨が数本折れ、魔法でくっつけはしたものの安静にすべきなのは明白で期間は少なくとも10日間。本戦のミラージ・バットに登録していた彼女はこの競技も棄権することとなる。

 

 「いえ」

 

 短く、淡々と受け答える。

 しばらくして、鈴音とあずさ、達也、深雪が入って来た。

 

 「摩利、あなた第三者からの介入を受けなかった?」

 

 ピクリと摩利の眉が反応する。

 

 「………どういうことだ?」

 「貴方が七高の選手とぶつかる際に水面が不自然に沈んだと思うの。そういうのは感じなかった?」

 「……………確かにぶつかる直前に少しコントロールが効かなくなったかもしれない」

 「達也君がビデオで確認を取ったり、精霊に詳しい子や霊子放射光過敏症の子にいろいろと見てもらったんだけどやっぱり不自然な点が多すぎるのよね」

 「…………そうか」

 

 不自然な点があるだけで明確な証拠とはならない。九校戦は継続される。

 真由美は鈴音と顔を合わせて合図を送る。

 

 「九校戦が継続される以上代役を立てる必要があります。四葉君が女性であれば良かったのですが、それはできません。つまり女子の代役を用意していない我々は別の代役が必要となります。そこで深雪さんには本戦のミラージ・バットへ出場してもらいたいのです」

 

 その言葉を予期していたのか深雪に動揺はない。

 

 「私でよろしいのでしょうか?新人戦はどうされるのですか?」

 「新人戦は一枠を棒に振ることにはなりますが本戦で優勝するならお釣りが来ます。三高との差が縮まっている現状本戦に力を注ぐように決定しました。司波君、妹さんなら優勝できますか?」

 「ええ、十分可能です。俺も全力でサポートします。深雪、いけるな?」

 「はい!」

 

 深雪はただでさえ美しい背筋を更にピンッと伸ばし、しっかりした声で受け答えた。

四葉家次期当主について

  • 尽夜
  • 深雪
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