〇〇回目のナツキ・スバル
「がはっ…………」
喉からこみ上げてきた液体を吐き出したスバルは、自分の未来を確信した。
「ったく……また失敗かよ」
そのまま膝から崩れ落ち、地面に頭からダイブする。
こうして腹を裂かれて倒れるのも既に二十回は超えている。おかげで倒れ方がだいぶマシになり、そこまで痛くなくなった。まあ、痛みに慣れてきた、というのもあるかもしれないが。
場所は貧民街。
スバルの周りには既に屍となった貧民街の連中がいる。
スバルが街で盗んだ金で雇った者たちだが、想像以上に使えなかった。いや、エルザが強すぎたというべきか。とにかく、スバルを含めた十数人で襲い掛かってもエルザを殺すことはできなかったのだ。
「あなたって面白い人ね」
エルザの言葉で現実に引き戻される。
異世界に来たスバルが何度試しても超えることができない最大の壁だ。最初のボスにしては難易度が高すぎる。
「くそったれめ……」
自然に口から出た罵倒は、エルザへのものか、もしくはこんな状況を作った運命へのものか。どうしようもない自分へのものかもしれない。
「もうすぐ死ぬのに、そんなに強気でいられるのね。こんな人初めてよ。ゾクゾクしちゃう」
「……うるせえ」
こいつは毎回こうだ。人の死に際を見て、それを自身の喜びとしている。明らかな異常者。
あの心優しい銀髪の美少女も、こいつに何回も殺された。
「てめえだけは、許さねえ……。絶対に……殺してやる」
そう絞り出してやると、エルザは口角を吊り上げた。
「ああ、その表情! いいわ、すばらしいわ! なんて素敵な殺気!」
どうやら殺気を受けても喜ぶらしい。この女の行動全てが殺してやりたいほどに憎い。だが、この状況からして今回は無理だろう。
──次だ、とスバルは気持ちを切り替える。
「次こそは、殺してやる……エルザ・グランヒルテ」
「あら、私の名前、知っていたのね」
名前を知られたと知ったエルザが少し警戒する素振りを見せる。が、スバルはもう動くこともできないのだ。彼女がそれを再確認するまでに、十秒もかからなかった。
「いつ、どこで聞いたのか、とても気のなるのだけれど……」
忘れられるわけがない。
数十回も殺されている、スバルが最も憎む相手だ。
「ナツキ・スバルが、てめえを殺す」
覚えとけ。
そう言い切ったスバルの喉から、再び血液が吐き出される。
「それは楽しみね。スバルという人が誰なのかはわからないけれど、楽しみに待つことにするわ」
歌うように言うエルザは、本当に楽しそうだった。気が狂っている。
「……」
もう、口を開くことすら億劫になってきた。
来た。自分の中の何かが、抜けていく感覚。
スバルの下腹部に広がっていた熱が、急速に引いていく。
──俺が、必ず救ってやる。
いつかの言葉を、思い出す。そしてスバルは、再び決意を固める。
──絶対に救ってやる。待ってろよ、
何度となく胸に刻んだ言葉を、再び誓い、そして──
ナツキ・スバルは、命を落とした。