式姫シリーズのかやのひめ、薔薇姫ののほほん話しです。

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薔薇かやでのほほん

「はむっ」

 

庭の紅葉も紅く染まりきったある日。

日課の花壇の手入れを終えた私は一人縁側でおやつの団子をむぐむぐと食べていた。

 

「ふむん…狗賓の見立ては…むぐん。流石ねぇ…」

 

お団子が無くなりただの竹串となったモノをまた一本皿に置く。

お餅に拘る者はお団子にも強いらしい、という知識とお腹の満足感を得た私は、柔らかに注ぐ陽を浴びながら、掌を上にぐいぃとあげて背中の筋を伸ばす。

 

「んん〜…はぁ…」

 

ぽきぽきと骨が鳴り、強張った体が少しだけほぐれる。

 

「…そろそろ湯が沸く頃ね」

討伐に行かない日はだいたいは晩ご飯を食べてから風呂に入るのだが、土弄りをした日には陽が落ちる前には入る事にしている。

 

私を含めてそういう土を弄る趣味を持つ者たちがこの屋敷には少なくないため、離れにある小さめの浴場は少し早めに沸かすのがこの屋敷の決まりごとだった。

 

今日の湯当番は誰だったか…火之迦具土サマでは無かったことは覚えて居るのだが。

(彼女が沸かした風呂は入れたものじゃない熱さの為、朝ごはんの時に注意するよう通達がされる。注意するくらいならそもそもやらせなければ…とも思うのだが、一部の式姫達からは『修行を兼ねていて良い!』との声もあるので続いている。心底あほらしい話だ…)

 

まぁなんにせよ早く入りたい…

さっきまではおやつに気をやっていたが、やはり体に張り付いた服は心地の良いものではない。そろそろ風呂の様子を見に行こう。

 

そう思い立ち上がろうとした時、ふと顔にあたる陽光が何かに遮られた。何か、と言いはしたが長年の経験からこういう時に現れるのが『誰か』はほぼ確定している。

 

「ふっふっふー。かーやぢゃぁ!?」

\ドッ!/

 

いつも通り唐突に現れたコイツ『薔薇姫』の額ど真ん中に団子の串を投げる。

 

「あら、的中ね。私苦無投げとかでも割とやれるのかも?」

 

団子の串が半分ほど額に刺さった薔薇姫は、『やーらーれーたー』っとオーバーなリアクションをしながら「ばたりーっ」と自らの口で言いながら庭に仰向けに倒れ伏した。

 

「さぁ…そろそろかしらねお湯が沸くわね」

私は倒れたソレには目もくれず、離れの方へと歩き出す。

 

「も〜、かやちゃん待ってよ〜」

 

何事も無かったかのようにまた目の前には倒れていたはずの薔薇姫ヒョコッと顔を出す。こういう時のコイツは矢鱈に素早い気が…まぁ気にしたら負けか。

 

「もちょっとは心配とかしてくれないの〜?」

ぐぐっと竹串を額から抜きながら薔薇姫はぶーぶーと分かりやすく頰を膨らませる。

 

「わたしの迫真の演技が通じないなんて…くやしー!」

よよよー…とこれまた口に出して泣き真似をはじめる。

これを演技と言えるのかはもはや哲学の域の問題であると感じた。

 

「あー…うん。そうでもなかったわよ?まるで見たこともない演技だったのは間違い無いもの。貴方のさっきの演技、大根とか見てたら足が生えて逃げ出すでしょうね」

 

私は皮肉のつもりで言ったのだが…当の薔薇姫はでしょでしょー?っとご満悦だ。…まぁいつもの事だし気にしても時間のムダだ。

 

「んで…?なにか用があったんでしょう?」

「そうそう!お風呂を沸かしたからね、もう入れるよー!」

成る程、湯沸かし担当はコイツだったか。

 

「今日のお風呂はね、今週のご飯用に出てきた薔薇を取っておいて浮かべてお花の風呂にしてみたんだー!綺麗だしーとってもいい匂いもするんだよ。入って入ってー!」

薔薇姫は血を吸う以外にも薔薇から生気を吸い取って食事としていることも多い。薔薇姫に生気を吸われた薔薇達は、見た目そのままにドライフラワーのようになる為、成る程風呂に浮かべるのも面白いと思える。

 

「薔薇風呂…?ふぅん、なかなかいいじゃないの」

薔薇姫が風呂当番と聞いた時は少し構えてしまったが、この子もこの屋敷に来て長い。単純な風呂焚き程度で変なこともしないだろうし、汗をかいた体には薔薇風呂の良い香りというのは正直魅力的だった。

 

よし、そうと決めたら早速入りましょ。

どうせ入るなら一番風呂で。

 

「でしょー?早く入ろう入ろう!」

「いや…なんでアンタも入って来るのよ?」

離れの浴場はさほど広くない。一人だと広く感じるが二人入るにはちょっと狭いくらいの微妙な広さだ。出来れば一人で入りたい。

 

…決して汗臭い体の匂いをコイツに嗅がれたら恥ずかしいとかではない。ちがうのよ。

 

「んー、せっかく頑張って綺麗なお風呂にできたからねー。初めはかやちゃんと入りたいなーって思ったんだよ。ダメかな?」

しおらしい様子で聞いてくる。いつもはグイグイと来るくせに偶にこうやって引いてみせるのはちょっとズルい…そんな言い方されたら、断れないではないか。

 

「そ。…まぁアンタも頑張った訳だし。…というか早くお風呂入りたいしね。私が入るお風呂にアンタが入って来ちゃいけないーなんて言う権利は、私にはないわね」

少しばかりの恥ずかしさででた言葉を聞くが早いか

 

「やた!んじゃお風呂道具取って来る!」

パァっと花が咲いたような笑顔を見せると、ヒュンッと自分の部屋の方へと文字通り飛んでいってしまった。

 

「…やっぱアイツ吸血姫じゃないんじゃないかしら…」

だっておかしいじゃない?

闇に生きる筈の吸血姫が、お天道様の下でお日様みたいな笑顔をしちゃってるんだもの。

なんだかとってもあべこべだわ。

 

あの様子だともうすぐにでもやって来るだろう。

先に汗臭い体をちょっと流しておかないとね、と

そう思いながら私は離れへと急いだ。

 

その後、小さな笑みを浮かべながらお風呂場へ向かうかやのひめの歩いた跡には、小さな花がぽんぽんっと咲いていたらしいが、本人は頑なに否定している。

 

え?お風呂シーン?

ないよ?

 

おしまい


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