そこに持ち込まれたのは、バスのアナウンスの依頼!
ちょっとしたバス旅行(?)にドキドキの収録!
果たしてはじめてのバスアナウンスの仕事はどんなことになるか!?
※一応、アニメ版の設定を元にしてはいるつもりですw
私、高海千歌! ここ沼津市は内浦にある浦ノ星女学園の二年生!
浦ノ星廃校の阻止と、故郷内浦を盛り上げるために、スクドル(スクールアイドル)『Aqours』として頑張ってます!
ある日のこと、私たちは部室で次のライブの打ち合わせみたいなことをしていました。そこに……。
「みんな、シャイニィ~! 素敵な依頼を持ってきたわよ!」
そう言って入ってきたのは、小原鞠莉ちゃん!
金髪が魅力的で、家がホテルを運営してる、すごい先輩なんだよ!
「それで、どんな依頼なんですか?」
そう桜内梨子ちゃんが鞠莉ちゃんに質問します。
梨子ちゃんは、私の親友の一人! ピアノがとても上手なんだ!
「鞠莉……変な依頼じゃないよね?」
私の幼馴染の一人、ポニーテールが特徴の松浦果南ちゃんも、続いてそう質問します。
果南ちゃんの横に座っている、生徒会長の黒澤ダイヤさんもうんうんうなずいてます。さすが、鞠莉ちゃんと幼馴染という二人だけありますよね!
「おーう、変な依頼とは心外デスネー。ちゃんとした依頼だから安心して!」
「それで、どんな依頼なんですか?」
私がそう聞くと、鞠莉ちゃんは会心の笑みを浮かべて言いました。
「ふふーん、なんと! 伊豆箱根バスの、バスアナウンスの仕事デース!」
『バスアナウンス!?』
鞠莉ちゃん以外7人の声がそろったのは言うまでもありません。
* * * * *
「なるほど。伊豆箱根バスの伊豆長岡駅から三津シーパラダイスまでのバス、そのバスの停車案内のアナウンスを、私たち、内浦のスクドルであるAqoursにやってもらいたい、ということですのね?」
「おーう、さすがはダイヤ! その通りデース!」
「その通りも何も、さっき鞠莉が話した通りなんだけど……」
冷静に鞠莉ちゃんの話した内容を反芻したダイヤさんに、鞠莉ちゃんが感心し、それに果南ちゃんが呆れながら突っ込みを入れています。いつものAqoursの光景です。
「路線バス……未来ずら~」
「ずら丸……あんたが家から学校に来るのに乗ってくるものは何?」
素朴な感じの子……国木田花丸ちゃんの言葉に、髪を片方でシニヨンに結った女の子、津島善子ちゃんが突っ込みます。そうだよね。私たちが乗ってきたあれ、路線バスだもんね。
そうそう、善子ちゃんは、自分を堕天使だと言ってる不思議な女の子なんだよ。花丸ちゃんは、そんな善子ちゃんの幼馴染で、お寺の子なんだ!
「って、だからヨハネよっ!」
と、こんな風に善子ちゃんから突っ込まれるのも、いつもの光景。
「でも、案内のアナウンスなんて……ルビィにできるかなぁ……?」
そう震えながら不安そうに言っているのは、ダイヤさんの妹のルビィちゃん。とっても人見知りだけど、いい子なんだよ!
そんなルビィちゃんに、私の幼馴染の渡辺曜ちゃんが優しく声をかけます。
「大丈夫大丈夫! きっとうまくできるよ!」
そんな曜ちゃんは、とっても嬉しそうです。やっぱり、三津シーパラダイス絡みの依頼なのが嬉しいみたいてす。
確かに、海が大好きな曜ちゃんにぴったりの依頼だよね!
「それでは皆さん、この依頼、引き受ける、ということでよろしいでしょうか?」
『はーい!』
ダイヤさんの確認に、みんなが声を合わせて返事します。
バスのアナウンスかぁ……今からとっても楽しみ!
* * * * *
その翌日。私は、内浦から沼津市街に向かうバスのバス停の前にいました。
今日はこの後、沼津市街に出て、それから電車で伊豆長岡まで行って、バス会社に挨拶に行って、そこから下見のため、バスで三津シーパラダイスに行く予定です。ミニ旅行みたいでとっても楽しそう!
私がしばらくバスが来るのを待ってると、そこに果南ちゃんと梨子ちゃんがやってきました。二人とも、とっても楽しそうです。
「おはよう、千歌」
「おはよう、千歌ちゃん、今朝は早いね」
そう笑顔であいさつしてくる二人に、私も元気いっぱいで返事を返します。
「おはよう! 梨子ちゃん、果南ちゃん! 今日がとっても楽しみで、2時間前から立ってたんだ!」
「に、2時間前から……?」
「ははは、千歌、本当に今日が楽しみだったんだね」
私の話を聞いた梨子ちゃんは困惑した表情を浮かべて、果南ちゃんはやれやれといった表情をしています。私、そんなにおかしいことを言ったかなぁ?
と、そこに、ダイヤさんとルビィちゃん、それに花丸ちゃんもやってきました。
「千歌さん、梨子さん、果南さん、おはようずら!」
「おはよう~!」
「皆さん、おはようございます。さぁ、今日はいよいよ本番です。みなさん、しっかりと頑張っていきますわよ」
『はーい!』
ダイヤさんの檄に、声をそろえて応える私、梨子ちゃん、果南ちゃん、花丸ちゃん、ルビィちゃんの五人。
そこにバスがやってきて、私たちはバスに乗り込みました。
* * * * *
「ようこそおいでくださいました、Aqoursの皆さん。今日はよろしくお願いします」
『よろしくお願いしまーす!』
それから沼津駅前で、残りのメンバー……曜ちゃん、善子ちゃん、鞠莉ちゃん(鞠莉ちゃんはヘリで飛んでくることはなかったけど、リムジンでやってきました。すごい!)……と合流した私たちは、電車で伊豆長岡にやってきて、そして今、バス会社の駐車場の前にいました。
そこで社長さんから説明を聞いて、そして運転手さんの挨拶を受けて、そしていよいよバスに乗り込みます!
いよいよだね! わくわくしてきたー!
「千歌ちゃん、見てみて! 沼津ひものだって!」
曜ちゃんがそうはしゃぎながら言うので、彼女が指さす方向を見ると、そこには確かに、店の入り口のフードに『沼津ひもの』と書かれていました!
「へぇ~、すぐ近くとはいえ、隣町に私たちの街のものがあるって、とても嬉しいよね。あ、温泉まんじゅうだって!」
「どこどこ!? あ、ほんとだ!」
伊豆長岡駅前に並んだあちこちの店を見てはしゃぐ私と曜ちゃん。本当に、行ったことのない町を色々を見るのって楽しいですよね! そこに。
「こほん、千歌さん、曜さん。はしゃぐのはいいですが、運転手さんの迷惑にならない程度にするのですわよ?」
『はーい』
ダイヤさんに注意されて、私たちはそろって返事を返しました。これもいつもの光景……かも?
ともあれ、それからバスは走り出しました。
* * * * *
私たちを乗せたバスは、街の中を走っていきます。その途中で運転手さんが色々と説明してくれます。
「この停留所付近には、柳月という、温泉饅頭の老舗があるんですよ」
「お~、温泉饅頭! いかにも和風って感じでシャイニーね!」
「そうですよね。私もいつか食べてみたいですわ」
「そうだ、ダイヤ。ここの停留所のアナウンス、三人で分けて担当するのもいいんじゃないかな?」
「あ、そうですわね。そうしてみましょうか」
「この藤棚という停留所の近くにも、黒柳という温泉饅頭の老舗があるんですよ」
「へぇ、そうなんだ~! 柳月の饅頭と食べ比べしてみたいね、お姉ちゃん!」
「そうですわね。収録が終わったら帰りに買っていきましょうか」
そうして進んでいくと、やがてバスは細い道に入っていきました。この先に、温泉場中と温泉場上という停留所があるんだそうです。
「ふえぇ、細い道……。こんな細い中を進んでいくの? 怖いよぉ……」
いかにも対向車線の車とぶつかりそうな細い路地に、ルビィちゃんがとても怖がっています。そこに。
「大丈夫ですわよ、ルビィ。運転手さんはベテランですから、事故になるってことはありませんわ」
ダイヤさんがそう言って頭をなでると、ルビィちゃんの不安もいくらか和らいだみたいです。表情から少し怯えが消えたみたい。
さて、温泉場中と温泉場上の二つの停留所に通じる路地を進んでいくバス。周囲には、色々な店が並んでいます。
「うわぁ~、色々な店があるね~。こっちにはひもの屋。あ、あっちにはおみやげ屋があるずら!」
「こっちには旅館が並んでるね! うちの旅館に負けないぐらい立派だなぁ」
「ぐっ、聖なる気が私を苦しめる……! きっと近くに聖域があるのね! でもヨハネは負けないわ!」
「次の停留所は宗徳寺前って言ってたずらね。……善子ちゃん、こんなところでまで堕天使設定使わなくても、素直に少し車酔いしたと言えばいいと思うずら」
「だから、設定じゃないってば! ……うぐっ」
「大丈夫? 酔い止め飲む?」
そんなことを話しながらバスは進み、再び少し広い通りに出ました。
「次の停留所は、伊豆の国市役所・長岡ロープウェイ前だって。きっと見晴らしいいんだろうなぁ。いつか乗ってみたいね!」
「そうだね。きっと楽しいと思うよ! ヨーソロー!って叫びたくなっちゃう」
「うん、私もそう思うわ。山の上からの景色は、きっといい曲の題材になりそう」
そしてバスは進み、家がまばらな街はずれを進み、トンネルに差し掛かりました。
「ぴぎぃ、トンネルの中暗い……」
「大丈夫ですわよ、ルビィ。それに、ここを抜ければ私たちの街、内浦が見えてきますわ」
ダイヤさんの言う通り、トンネルを抜けて少し進むと、内浦の青い海と、いつも見慣れた街並みが見えてきました!
「あ、千歌ちゃん、あそこ! 千歌ちゃんの家の百千万旅館だよ!」
「ほんとだ~。でも、こうしてバスから家の前見るのって、なんか不思議な気分だなぁ~」
「あはは、わかるわかる! 中学の時の修学旅行で、バスが家の近く通った時、そんな気分になるもん」
「ぐ、な、なぜこんなに魔力が乱れるの……? ま、まさかあの寺の聖なる気が、いまだに私の体に……?」
「善子ちゃん。車酔いしてるのに、無理して堕天使設定使おうとしなくてもいいずら」
「だから、設定じゃないって……」
「大丈夫よ、善子。もうすぐ終点の伊豆三津シーパラダイスにつくわ」
その鞠莉ちゃんの言葉通り、ほどなくしてバスは終点の伊豆三津シーパラダイスに到着しました。楽しかった~!
* * * * *
さて、それから再び折り返してバス会社に戻り、いよいよアナウンスの収録です!
まずトップバッターは曜ちゃんから!
「お待たせいたしました。このバスは、長岡温泉駅経由、伊豆三津シーパラダイス行きです」
無事に言い終えた曜ちゃんが録音ブースから出てきました。
「わぁ~、噛まずに言えたね。曜ちゃんすごい!」
「えへへ、ありがと。ちょっと緊張したけど、失敗せずに言えてよかったよ!」
「さーて、次は私の番だね。がんばろーっと」
そして意気揚々と、ブースの中に入っていきます。そして……。
「ご乗車いただきまして、ありがとうございます。運賃は後払いとなります。お降りのさいは、お近くのブザーでお知らせくだしゃい……あ、噛んじゃった」
やっぱり私も緊張してるのかなぁ。失敗しちゃった。でも今度こそ!
テイク2!
「ご乗車いただきまして、ありがとうございます。運賃は後払いとなります。お降りのさいは、お近くのブザーでお知らせください。なお、走行中、やむを得ず急停止をする場合がございますので、ご注意ください」
よし、うまく言えた!
「えへへ、最初とちったけど、二回目はなんとか言えたよ!」
「やったね、千歌ちゃん!」
「ありがとう、曜ちゃん。次は梨子ちゃんの番だね。頑張って!」
「う、うん……」
私以上に緊張しながら、梨子ちゃんはブースに入っていきました。ちゃんと言えるかな? 頑張って!
「次は長岡駅口、長岡駅口です。ご案内いたします。整形外科、皮膚科、リハビリテーション科の伊豆韮山温泉病院は、こちらのバス停をご利用ください。」
「また、デイケア、介護の相談は伊豆韮山温泉病院居宅介護支援事業部までお問合せください」
おー! 梨子ちゃん、長い案内を全然噛まずに最後まで言えた! すごいすごい!
「ふぅー……とても緊張しちゃった……」
「すごいよ梨子ちゃん! さすがだね!」
「そ、そんな……褒められるようなこと、何もしてないよ……」
そう言いながらも、照れてはにかみながら、梨子ちゃんは少し嬉しそうにほほ笑みました。
そして収録は進み、ダイヤさんの番!
と、そこでダイヤさんは、会社の人のところに言って、何か相談をはじめました。どうしたのかな?
「この部分ですが、私と鞠莉さん、果南さんの三人で交代で収録したいのですが、よろしいですか?」
「あ、はい、かまいませんよ。それでは三人そろってブースにお入りください」
「わかりました、ありがとうございます」
そう言って、ダイヤさんは鞠莉ちゃん、果南ちゃんと、ブースに入っていきました。
三人で収録だって。どういう風になるのかな? 楽しみだよ!
「次は、長岡総合会館前、長岡総合会館前です」
と、ここでアナウンスが鞠莉ちゃんに変わりました。
「ご案内いたします。伊豆に行ったらながお菓饅頭。昔も今も、ながお菓饅頭」
そして今度は果南ちゃんのアナウンスに切り替わりました。
「伊豆の土産はながお菓饅頭。『柳月』のながお菓饅頭。甘さ控えめで、毎日ができたてのおいしさをお楽しみいただけます」
そこまで進んだところで、再びアナウンスの声がダイヤさんに変わりました。
「温泉饅頭『柳月』は、長岡温泉駅バス停正面、セブンイレブン裏手にございます」
すごーい! 三人のアナウンスが違和感なく流れて、まるで完成された一つのアナウンスのように聞こえるよ!
その見事なアナウンスに、花丸ちゃんやルビィちゃんも感動してるみたいです。
「ダイヤさん、果南さん、鞠莉さん、すごいずら~!」
「お姉ちゃん、本当にすごいよ! ルビィ、感動しちゃった!」
二人に褒められたダイヤさんたちも、やっぱり嬉しいみたいです。
「ありがとう。この停留所の話を聞いたときから、こうしようと決めていたんだ」
「持ち掛けられた時は大丈夫かなと思いましたが。でも、うまくいってよかったですわ」
「私もうまくできてよかったわ。こういうアナウンスもサイコーデース!」
本当に良いアナウンスだったなぁ。さすが三年!
さて、その後も収録は進んでいきます。
「次は温泉場上(ばかみ)、温泉ばか……ぷっ……」
梨子ちゃんが珍しくアナウンスに苦戦してます。名前、ちょっと意識するとおかしくて吹き出しちゃうよね。
それでもなんとか梨子ちゃんの収録完了。
「次は分譲地前、分譲地前ずら……あ、ずらって言っちゃったずら……」
「頑張って花丸ちゃん! 落ち着けばきっとできるよ!」
「う、うん……。次は分譲地前、分譲地前ですずら……あ……OTL」
「花丸ちゃんしっかり! ルビィ、応援してるよ!」
「うん、ありがとうルビィちゃん……はぁ……ふぅ……。次は分譲地前、分譲地前です」
お、やった! 花丸ちゃん、三度目の正直で無事にクリア!
嬉しさから、花丸ちゃんがブースから飛び出してきて、ルビィちゃんに抱き着いてきました。
「やったずら~! ルビィちゃんの応援のおかげずら!」
「よかったね、花丸ちゃん!」
「ふ、よくやったわずら丸。私が堕天使の加護を授けたかいがあったわね」
* * * * *
そして、無事に収録は終わり、私たちは電車で沼津駅に帰ってきました。
「今日はちょっと緊張したけど、とても楽しかったね!」
「そうですわね。とてもいい経験になりましたわ」
「そうだね。ダンスの練習したりトレーニングしたりもいいけど、こういった依頼を受けるのも刺激になるよね」
得るものがあった、という感じの表情のダイヤさんのそばで、果南ちゃんも笑顔でそう答えてくれました。
「私はバスで内浦を通ったところがよかったな! いつも過ごしてる内浦だけど、また違った面を見れた気がするよ!」
「そうね。私も、とても新鮮だった。今回のこと、ずっと忘れないと思う」
曜ちゃんと梨子ちゃんも、今回のことはとても楽しかったみたいです。はしゃぐ曜ちゃんを見つめる梨子ちゃんの表情も、とても楽しそうでした。
あ、そうだ!
「そうだ、ねぇねぇ! 今回の収録の編集が終わって、実際のバスで流れるようになったら、またあのバスにみんなで乗ろうよ!」
私の提案に、みんなは賛成という言葉を顔に書いた表情でうなずきました。
「いいですわね、果たしてどんな風になるか、興味がありますし」
「今度行くときは、聖なる力を防ぐ薬を持っていくことにするわ。私に二度目の失敗はないのよ、フ……」
「善子ちゃん。そんな薬はないずら。酔い止めにまで堕天使設定を盛るのはさすがにないずら」
「設定いうなー!」
「でも、私もチカッチの提案には賛成デース! とても楽しみね♪」
そんな会話を交わしながら、私たちは帰路についたのでした……。