私の祖父はハンターでした。
「お爺ちゃん! また、
それはそれは遠い昔。当たり前だけど、私が産まれる前───それどころか私のお母さんが産まれる前。
今もそうだけどこの世界はモンスターの世界で、ハンターと呼ばれる人々はモンスターと戦って暮らしている。
時に自分の名誉や命を賭けて、彼等は知恵と勇気と時々お金を振り絞り、モンスターと命のやり取りをしていた。
私の祖父はそんなハンターの一人だったと聞いている。私は将来ハンターになりたくて、それは毎日祖父の家にお話を聞きに行っていた。
「おー、来たか来たか。お菓子もあるから、座りなさい」
祖父は毎日のように家を訪ねてくる私を足蹴にしないで、毎日沢山のお話をしてくれる。
そのどれもがとても夢みたいな印象的なお話で、話しても話しても尽きない物語に私はいつも心を躍らせていた。
「今日はどんなお話を聞かせてくれるの? 刺々の攻撃されても起きない竜? それとも瓦礫を浮かして攻撃してくる龍? それともそれとも氷と炎の凄い龍?」
私はいても経ってもいられなくて、祖父に詰め寄って言葉を漏らす。
祖父は他の人からは聞いたこともないようなお話を沢山してくれるのだ。
「そうだな、どんな話にしようか」
ある時は山よりも大きな龍のお話、ある時は名前も定まらない謎の竜のお話、ある時は嘘か夢のようなとても不思議なクエストのお話。
見た事も聞いた事もないモンスターや装備、武器。ハンター達が集まる祭りや、各地から集まってくる仲間、ハンター仲間を集めた猟団というチームのお話。
どれもとても素敵な話です。
だけど、村の人達は祖父の事を嘘付きだとかホラ吹きだとか言うんだ。
「まーたホラ吹きエセハンターの話を聞きに来たのか」
「お爺ちゃんは嘘付きなんかじゃないもん!」
「嘘付きさ。ハンターになって三年経つけど、炎と氷を同時に操る龍なんて聞いた事もないからな」
村の専属ハンターの彼は、そう言って祖父の話を馬鹿にする。
嘘だ、デタラメだ、そんなモンスターは居ない。ファンタジーの読み過ぎだ、と。
「居るもん! お爺ちゃんが戦ってきたモンスターは絶対居るもん! お爺ちゃんは嘘つきなんかじゃない!」
私は祖父を馬鹿にするそのハンターが嫌いだった。
確かに、彼は村を守ってくれるとても優秀なハンターではある。
村の外にも名前が知れている程で、クエストで大きな街に行く事だって少なくない。
でも、その度に「やっぱり爺さんは嘘付きハンターだ。爺さんの話をしても、誰も知ってる奴は居なかった」なんて祖父を馬鹿にするのだ。
「あのハンターさん嫌い!」
「そんな事を言ったらいけないよ。彼は優秀なハンターだ。いつか、お前の師匠になるかもしれない」
そういう祖父に、私は「あんな奴の弟子なんて嫌!」と顔を顰める。
「私はお爺ちゃんの弟子になる!」
「ワシはもう歳だからなぁ。師匠は難しいよ」
困ったような表情を見せる祖父は「そうだ」と話を切り替えるとでも言うように手を叩いた。
「代わりに今日はワシが活動していた街の事を話そうか」
「街? どんな街! お爺ちゃんが住んでた街の事聞きたい!」
「爺さんが住んでたって街、メゼポルタだったか? そんな街無いって。聞いた事もねーもん」
祖父の話に割って入るハンターさんを睨むと、彼は「わ、悪い悪い。どうぞ話を続けてくれ」と顔を逸らす。
せっかくのお話の邪魔をしないで欲しい。
「ハッハッ。確かになぁ、本当に大昔の事だから……もう街も無くなっとるかもしれん」
笑いながら、祖父は「それでも良いかな」と私に問い掛けた。
「勿論!」
私は目を輝かせて祖父の話に耳を傾ける。
それは、狩人達の楽園。
常に新天地へと歩み続けた人々が辿り着いた開拓地。
───フロンティア。
祖父が言うには、その街はフォンロンと呼ばれていた大陸に位置していたらしい。
街の名前はメゼポルタ。ドンドルマと同等かそれ以上のハンターが活動拠点にしていたと言われている大きな街だ。
若い頃の祖父は、知り合いのハンターの紹介でその街に渡ったそうです。
「これは……」
祖父が観た光景は、田舎の村育ちの私には想像も出来ないものでした。
沢山の人。ギルドのカウンターを中心に円状に広がる市場、加工屋。
そこにハンターの全てが詰まっている、その時の祖父はそんな事を思ったらしいです。
「たまげたな、こんなにもハンターが集まってるなんて」
未開の開拓地として建てられた街だと聞いていた祖父は、想像以上の人口に呆気に取られたと言っていました。
老若男女様々な狩人達が、大から小まで様々な武器を背負って歩いている。
その半数以上が、祖父の全く知らないモンスターの素材で出来た装備だった。
祖父はメゼポルタに来る前、ドンドルマという街でそこそこ名のしれたハンターだったらしいです。
討伐したモンスターの種類は数知れず、しかしそんな祖父でも知らないモンスターの素材があちこちで見られた事に驚いたそうだ。
それは、メゼポルタという街が開拓地として未知のモンスターや新種のモンスターを積極的に調査していたかららしいです。
炎と氷を操る古龍や、島一つを巣にするような巨大なモンスター、また良く知られているモンスターでも強力な個体等々。その街の人々はそんな普通のハンターが聞いた事も見た事もないモンスター達と戦っていたらしい。
「ようこそ、メゼポルタへ」
そして祖父も、その街の狩人として活動していく事になった。
この街こそが私が祖父に聞いた、沢山のお話の舞台。夢物語のような素敵な場所。
祖父は初めに、街にいた教官とお話をしたようです。
なんでも初めての場所だから。これまで通りに行くとは限らない。教官の指導の元、祖父はとあるモンスターを討伐しに出掛けました。
そのモンスターの名前はゴゴモア。
私も村のハンターさんも聞いた事がないモンスターの名前です。
ハンターさんは「そんなモンスターは居ない」だなんて言うんだけど、私は祖父の事を信じていました。
ゴゴモアはババコンガやドドブランゴに代表される牙獣種のモンスターで、なんと両腕から粘着質の糸を発射するモンスターらしいです。
群れは作らないけれど幼体であるココモアを背中に背負ったりして、その一生の殆どを木の上で過ごすモンスターなんだとか。
祖父はその狩りで初めてゴゴモアを見たらしくて、これまで見た事のないモンスターに興奮したのだとか。
無事にゴゴモアを倒した祖父が次に挑んだのは、タイクンザムザと呼ばれるモンスターでした。
そのモンスターの名前も、私と村のハンターさんは聞いた事がない。
タイクンザムザは何層にも重なった甲殻をもった甲殻種で、別名多殻蟹と呼ばれいたらしいです。
これもまた、当時の祖父は知らないモンスターで討伐事の緊張感はとても大きかったとか。
でもそれ以上に、未知のモンスターに挑める事が楽しかったと祖父は語っていました。
その他にも祖父は沢山のモンスターと戦う事になるのです。
しかし、それ以外にも……否、それ以上に楽しかった事があると祖父は語りました。
「……さて、今日はこのクエストに行くか。頑張ってここでのハンターランクを上げないとな」
それは、祖父がメゼポルタで活動し始めてから一週間も経っていない時の事。
「やぁ、そのクエスト俺にも手伝わせてくれよ」
街でギルドからクエストを受注した祖父に、一人のハンターさんが話し掛けてきたらしいです。
「え? あなたは?」
しかし、そのハンターさんに祖父は見覚えがありませんでした。全くもって見ず知らずの他人に声を掛けられて、祖父はビックリしたそうです。
それもその筈で、声を掛けてくれたハンターさんはとてもハンターランクの高い───祖父からすれば雲の上の人だったそうで。
その時祖父が受注したクエストは、なんでもない普通のモンスターのクエストだった。
危険なモンスターとはいえ、最高ランクのハンターさんが挑むような相手ではなかったらしいです。
「いや、君はここに来たばかりだろう? 色々不安だろうから、さ」
ハンターさんがクエストを手伝ってくれる理由は、なんだかふんわりした物でした。
不思議に思っていると、後からさらに二人が「俺もそのクエスト手伝うぜ」「私も行くわ」と声を掛けてきたらしいです。
その場限りの即興のパーティ。
でも彼等は祖父にとても良くしてくれて、分からない事だらけだった祖父に色々な事を教えてくれました。
クエスト終わりにはしっかり打ち解けて、一緒にお酒を飲む間柄に。
しかし、一期一合と言うのでしょうか。それから先そのメンバーでクエストに行くという事は無かったらしいです。
だけど、その次の日にはまた別の人達がクエストを手伝ってくれたと祖父は語りました。
メゼポルタは世界中から沢山の人々が集まる場所。
色々な人が居て、沢山の交流があって、その中で仲間と呼べる人と出会ったり、一期一会の出会いを大切にしたり。
その街はそういった思い出が強く残ったと、祖父は記憶に浸る。
沢山の人々、物語の登場人物に扮した仮装、毎日のように開かれるお祭り。
「メゼポルタという街はなぁ。とても賑やかで、優しくて温かい場所だったよ」
そう語った祖父は、その年の内に亡くなりました。
◇ ◇ ◇
森林を歩く。
「待ってくださーい、師匠ったら!」
先頭を歩くハンターさんを追い掛けて、その肩を叩いた。
師匠は「遅いぞ」とだけ声を漏らして速度を落とさずに歩く。
祖父が亡くなってから八年後、私はハンターになっていました。
師匠は祖父を馬鹿にしていた村のハンターさんです。当時は色々とありましたが、今では良い師匠だ。
「何してたんだ?」
「薬草を拾っていたら、ふと祖父の事を思い出しまして」
「なるほど。確かに俺達の世代だと、ハンター知識ってのは殆ど爺さん譲りだったからな」
横目で辺りを見渡しながら、師匠はボソリと呟く。
意外な言葉に、私は少しだけ首を横に傾けた。
「師匠は祖父の事、嘘付き呼ばわりしてませんでした?」
「あー、そうだっけ。……確かにそうだったな」
私の問い掛けに、師匠はわざとらしくそう答える。
「いや、だって絶対殆ど嘘だって。周りの竹を急成長させるモンスターとか、いる訳ないだろ」
ケラケラと笑いながらそう続ける師匠の言葉に、私はムッと頬を膨らませました。
そんな私をみるなり、師匠は私の頭をポンポンと叩いて「すまんすまん」と言葉を漏らす。
「祖父は嘘付きなんかじゃないです!」
「その台詞も懐かしいな」
からかうようにそう言ってから、しかし師匠はどこか遠くを見るように視線を逸らしてからこう口を開いた。
「……まぁ、でも確かにな。爺さんの話が全部嘘……だなんて事はないのかもな」
私はそんな師匠の言葉に驚いて目を丸くする。師匠が祖父の事をそんな風に言う事なんてなかったので。
「どういう事ですか?」
「この前、ドンドルマでクエストの受注をした時な。先輩のハンターが、爺さんの言ってた炎と氷の古龍の話をしてたんだよ」
そうして語られた言葉に、私は師匠を押し倒す勢いで彼に詰め寄った。
それはまるで御伽話のような、夢物語のような、そんなお話。
祖父が話してくれたハンター達の物語。
「それ! 本当ですか!」
「バカ、近い。近いから。……いや、知らねーけどな。そんな話を聞いたのは本当だよ。勿論俺は信じてないけどな?」
ここに来てまだ捻くれた言葉を漏らす師匠ですが、彼はふと思い出したように「ただ」と言葉を続ける。
「ただ、少しだけ……少しだけな。もしかしたら爺さんが話していたモンスターも街も、本当なのかもなって思ったんだ。だってそうだろ、この世界はこんなにも広いんだ」
どこか遠くを見ながら、師匠は手を広げて口を開いた。
「俺達の知らないモンスターなんて、この世界にはわんさかいる。爺さんが話してたファンタジーみたいな奴だって、この世界の何処かにはいるかもしれない」
この世界はとても広い。
色々な場所があって、そこはいつも生き物で溢れている。この世界はモンスターの世界だから。
小さな村、雪山の村、島の村、温泉地帯の村、大きな街、移動する街、どこか遠い大陸。色々な場所で狩人達は様々なモンスターと出会っているんだ。きっと、今もどこかで───
「───なーんてな。まぁ、爺さんの話を信じてないのは変わらないけどな」
「もぅ、なんなんですか師匠は」
「んな事より、そろそろ古塔に着くぜ。なんでも今回は変な所にヴォルガノスが現れたって話だからな。気を引き締めるぞ」
───その物語は語り継がれる。
モンスターハンターフロンティアの運営お疲れ様でした。ありがとう。