◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
クリスの前に現れた三人の装者達、前回の戦いでも助太刀してもらったマリアの他に登場したのは、クリスと同じか年下らしき二人の少女だった。
角の多い緑色の装甲に身を包み、身の丈以上の大鎌を持った金髪の少女と、どこかシンプルな桃色の装甲に身を包み、頭に大きな装甲がある黒髪の少女。クリスからすれば初対面の二人であったが、マリアの言葉で彼女たちも自分の応援であることを理解する。
それを証明するように、遅れて弦十郎からの通信が入った。
『遅くなって済まない、彼女たちが『F.I.S.』から君の応援に来てくれた三名だ!』
「マリアって奴はともかく、あとの二人はまだガキだぞ……戦力になるのか?」
『それは当人達がこれから証明してくれるだろう。ともかく、ようやく敵の戦力が現れた……人形とは驚いたが、情報を得たい所だが手加減はいらない。これは敵の戦力を削るチャンスだ、油断するなよ』
「分かってる……いざとなったら『イグナイト』も使う」
弦十郎の指示に遠慮はいらないと理解するクリス。
今のクリスのコンディションはいつも以上の実力を発揮できている。二課やフィーネから逃亡していた時と違い、身体の調子も万全であり、組織からのサポートがあり、その上で瀬戸際に追い詰められた精神状況が限界を超えさせているからだ。
普段のクリスであれば感情に乱されて効率的な判断が出来なかっただろうが、今のクリスは何をすることが最も効率的に目的を為せるかが冷静に判断できる。
つまり、目の前にいる三人の装者と協力することだ。
「何か異常があれば逐一報告してくれ」
『ああ、任せてくれ――あと、先ほどでの戦い、見事だった。『イグナイト』なしでアルカ・ノイズを掃討し切れるかと心配していたが、俺もまだ君を見縊っていたようだ』
「たりめぇだ……アタシが倒れるわけにはいかねぇんだ」
『ああ……頼んだぞ』
通信が切れる。
クリスは未だに大人というものを信用していない。けれど、弦十郎たちの誠実さは理解できる。だから純粋に自分が頼りにされていることを感じて、悪い気分ではなかった。
一瞬笑みを浮かべてから、再度意識を切り替える。
敵は目の前、三人の装者と睨み合って互いに相手の隙を伺っている状態。クリスはマリア達の元まで歩み寄ると、ハンドガンの銃口をガリィへと向ける。
「見た目判断だが、基本的にはお前ら中距離、近距離戦がメインと見ていいか?」
「ええ、中距離の攻撃手段もあるけれど、基本は近距離での攻撃がメインよ」
「わかった、ならお前らの連携に合わせてアタシが後方から援護する。下手な連携は逆に大きな隙になる、だからそっちのやりやすいようにやってくれ」
ガリィへの警戒は最大限に行いながら、最低限の決め事だけを伝えるクリス。マリアと短く交わした言葉だったが、あとの二人も理解を示す様に頷いた。
無駄にクリスも含めた四人の連携を意識するよりも、気心の知れている三人が連携しているのをクリスが援護する方が上手くいくと判断してのことだ。急ピッチの共闘だが、クリスの指示はシンプルで無駄がなかった。
「アタシの名前は雪音クリスだ」
「マリアよ」
「暁切歌デス」
「月読調」
最後にお互いの自己紹介をする。
これは決して友好を深めるがためのことではない。いざという時の声掛けの際、名前を知っている方が良いからだ。クリスは三人の名前を確認した後、不敵に笑うガリィに向かって冷静に話しかける。
「四対一だ、大人しく投降する気はあるか?」
「形成逆転したつもり? アンタたちが束になったところで、まだまだガリィには敵わないわよ」
「そう言うと思ったよ」
バン、ハンドガンの銃口から火が噴いた。
それが開戦の合図。
マリア達は同時に動きだし、事前に決めていたのかマリアがガリィに接敵、残りの二人がアルカ・ノイズの掃討に取り掛かる。切歌と調の二人の攻撃手段は、基本的に大鎌と丸鋸での切り刻む攻撃のようで、回転する刃がギャリリリと甲高い音を立てながらノイズを切り裂いていた。
だがそれはつまりクリスと違ってアルカ・ノイズと近距離で戦うことを意味する。クリスは後方から援護するとは言ったものの、先ほどまでと神経の削り方が段違いに高かった。
何故なら、目の前の三人のギアは『イグナイト』を搭載していないからだ。
アルカ・ノイズの攻撃を受ければ三人ともギアを破壊されてしまう。あの解剖器官の攻撃一つでこちらの戦力が一気に激減してしまうことだってあり得るのだ。
故にクリスはまず切歌と調の戦闘にリソースを割き、彼女たちを攻撃するノイズを優先的に打ち抜いていく。ガリィとマリアの戦闘にも気を割いているが、接近戦を行っているが故に下手に手を出せない。
ガリィによって生み出されたアルカ・ノイズの数は既にかなり減っているが、それでもクリスは油断しない。最後の最後まで集中力を切らすことなく攻撃を続ける。
切歌の背後から迫るノイズを撃ち抜き、切歌の手が回らない場所に手榴弾を投げ込み、ガリィの行動を制限するようにハンドガンで行く手に弾幕を張る。敵を撃ち抜くだけではなく、牽制の弾丸を状況を優位に進める一手と変えていくクリス。
神経の削れる作業であるが、クリスの集中力は高まるばかりだ。
「ッ……!」
更に切歌と調のユニゾンはお互いのフォニックゲインを高めていき、その攻撃の勢いをどんどん増していく。ギアの出力が高まったことでお互いのアームドギアが合体して、強力な攻撃を生み出していた。
大鎌と丸鋸の合体ということでかなりえげつない拷問道具のようなアームドギアに変わっているが、おかげでアルカ・ノイズがほとんどその姿を消した。
その大技の後の隙も、クリスが援護することで打ち消していく。
「これは……」
「凄い……デース……!」
「凄くやりやすい……」
クリスの神懸かった援護射撃に、とても戦いやすいと感じるマリア達。二課の戦力が壊滅的だと知っていた三人であったが、クリス個人の戦闘能力の高さに舌を巻く。
「! お前ら、油断すんじゃねぇ!!」
だが、そんなクリスの支援が頼もしかったからか、マリア達の思考に一瞬の緩みを生んだ。それは戦闘中であれば致命的な隙になる。
「隙だらけだっての!」
「しまっ――グゥッ……!!」
その隙をガリィは見逃さず、大量の水を生み出し鞭のように振るうことでマリアを吹き飛ばす。そしてマリアが攻撃を食らったことで動揺した切歌と調がさらに隙を見せた。
アルカ・ノイズは残り数体ではあるが、その隙を見逃すほど敵も優しくはない。
ガリィの使役でアルカ・ノイズが二人に襲い掛かる。遅れてハッとなる二人だが、防御には一手遅かった。既に目前までノイズの解剖器官が迫っている。
「くそっ!!」
クリスはハンドガンで切歌に近づいていたノイズを撃ち抜くが、調の方は射線に調が居て撃ち抜けない。故に調の身体に飛びつき、その手で突き飛ばした。
代わりにクリスの身体をノイズが叩き、彼女の身体が勢いよく地面を転がっていく。しまったと焦る調だったが、クリスに駆け寄る前に目の前のノイズを切り刻んだ。切歌の方も残っていたノイズを切り裂いて、召喚された全てのノイズを消滅させる。
そうして倒れるクリスに近づく二人だったが、強化改修したギアのおかげでなんとか無事。疲労と攻撃の反動が蓄積していたところに直撃を受けて動きづらそうにしてはいるが、それでもまだ戦闘は出来そうだった。
ホッと安堵する切歌と調だったが、クリスはケホッと咳き込みながらハンドガンを構えた。ギョッとする二人だったが、銃口から二度火を噴いた時、二人の背後にガリィが迫っていたのだ。
銃弾を躱すために距離を取らざるを得ないガリィに、クリスはチッと舌打ちする。
確実に油断していた二人。クリスの集中力が攻撃を受けても尚継続し、今またも自分たちを守ったことを理解した。援護に来たというのに、今明らかに足を引っ張ってしまったことを恥じる。
「けほっ……油断すんじゃねぇ、数の差なんてちょっと強い力で簡単に覆んだ……」
「は、はい」
「も、申し訳ないのデス」
クリスの言葉に背筋を伸ばす二人。
クリスは内心で役立たずなどとは思っていない。二人に最低限の指摘を済ませれば、あとはこの状況をどうするのかに思考を割いている。
ある意味、スイッチの入った立花響と同様の状態だった。自身の経験と直感、そしてセンスから生み出される発想から最適の行動を選択する。極限の集中状態だった。
しかし、スタミナばかりはそうもいかない。
これだけの集中力をずっと継続出来るはずもない。クリスの消耗は激しかった。そしてそれはノイズの一撃を食らったことで一気にクリスの体力を奪っていた。
ガリィの方へ一歩足を進ませたかと思えば、クリスの膝がカクンと折れる。力が入らなかったのか、思わず膝を着く形になった。
そして疲労を自覚してしまえば、一気に身体が重くなる。
「はぁっ……はぁっ……!」
「あらあら、凄い活躍ぶりだったのに、限界かしら? まぁそうよね、あんな桁外れの動きがいつまでも続くはずがないし」
「だ、大丈夫デスか!?」
「凄い汗……」
ガリィは限界を迎えたクリスに対して嘲るように言い放ち、切歌と調はクリスの全身から滝の様に流れる汗と荒い呼吸に心配の声を上げる。
それでもクリスの瞳から光は失われていない。未だに勝ち筋を探るべく思考を回しているのが分かった。
ガリィからすれば、弱音も吐かずにクレバーな態度を崩さない姿が癇に障る。
「そういう何があっても諦めませーん、みたいな目、気に食わないのよねぇ」
「うるせぇ……はぁ……アタシのてっぺんは、こんなもんじゃねぇぞ……はぁ」
「息絶え絶えで何言ってんだか……まぁ、アンタが潰れたらあとは有象無象の出来損ない装者ばっかりだし……そろそろ幕を引かせてもらおうかしら?」
ガリィの手に氷の剣が生み出され、周囲に水の渦が生み出される。
どうやら先ほどまでの攻撃からも、水を操る力を持っているらしい。
「ハッ……仕方ねぇな……!」
「ちょちょちょ! 大丈夫なんデスか!? 此処は私達に任せて休んだ方が」
「うん……」
「いや……お前らのギアじゃ実力がどうこうじゃなく、錬金術で破壊されるのがオチだ……アタシがやるしか方法はねぇ……援護を頼む」
クリスの言葉に切歌と調はぐうの音も出ない。
アルカ・ノイズの解剖器官に関しては自分たちも知っていた。それでも尚クリスの援護がなければギアを破壊されて終わっていたのだ。クリスにその分解能力に対処する手段があるというのなら、確かにクリスが戦わなければ勝機はない。
しかし限界を迎えているクリスに頼り切りというのは、切歌と調にとっても心苦しかった。せめて援護でクリスのサポートをすべく、改めて気を引き締める。
「第三ラウンドだ、付き合ってもらうぞ」
「お望みとあらば、とどめを刺してあげる☆」
構える両者。
ガリィは氷の剣を生み出し、クリスは胸のギアクリスタルに手を掛ける。
そして遂に、クリスは起動した。
「アタシのてっぺん、見せてやる―――『イグナイトモード』
―――絶唱に次ぐ決戦兵器『イグナイトモード』。
クリスの身体が漆黒のエネルギーに包まれた。
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