その男、異世界知識皆無につき   作:兼六園

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 受付嬢──ミヤビの話を聞き終えたユーリたちは、受付の席に戻る彼女の背中を見送ると、代表してレイクがおもむろに口を開く。

 

「さて、どうするか。二ヶ所の吸血鬼は残さず叩き潰すべきだが、この二つの依頼は……場所が離れてるのが問題だな」

「片やあたしが仕事で行った北の土地、もう片方はユーリとレイクが行った西の土地か」

 

 空になった皿を片付けた机に地図を広げ、リンが該当の場所にピン止め代わりのコップを置く。王国領王都の土地から北に行った、山が近くにある村と、西に位置する魔導国に近い街。

 

 その二ヶ所からほぼ同時期に届いた依頼は、内容が同じで。とどのつまり、ユーリたちはどちらに誰を向かわせるかで悩んでいた。

 

「──いや、バランスよく配置するならメンバーは自ずと決まるだろう」

「シルヴィア……何か案が?」

「うむ。北には一度向かっているリンに私が着いて行き、西にはユーリとレイク、そして二人にエイミーとフォース氏が着いて行けばいい」

 

 あっけらかんと手元のコップを呷り、水を飲み干すと、そんなシルヴィアに口角を緩めたフォースがからかうように問い掛ける。

 

「ほぉ、つまりなんだ、()()()()()でお嬢ちゃんと同格だって言いたいのか?」

「気分を害したかな?」

 

 目尻を細めるシルヴィア。フォースは彼女と顔を合わせると、一拍置いて笑みを浮かべた。

 

「はっ、いいや。妥当だな」

「理解してくれたようでなによりだ」

 

「なんで喧嘩腰なんだ……」

「ひええ……」

 

 ユーリやエイミーの目には、二人の間に火花が散っているかのような幻覚が映っていた。

 

「……そういえば、さっきからセラはなにを黙り込んでいるんだ。お前もなんか言え──」

 

 ふと違和感を覚えて、ユーリは視線を向ける。だが、つい先程まで座っていた位置に、セラの姿は影も形も無くなっていた。

 

「あいつどこ行った……?」

「ん? セラなら、なんか『めんどくせえ、俺は参加しねぇからな』とか言って帰ったぞ」

「引き留めてよ!?」

「止めようとした時にはもう居なくなってたんだよ、無茶言うな」

 

 レイクの言葉にユーリが頭を抱える。少なくとも出発の時だけでも『窓』を使えないかと思考を切り替えつつ、互いに牽制し合うように睨みを効かせるシルヴィアとフォースへと声をかける。

 

「……はあ。ほらほら、仕事なんだから切り替えてくれ。とりあえず道具を揃えよう」

「──そうは言うが、対吸血鬼用の道具なんてどう揃えるんだ? 俺たちゃお前とレイクと違って、残念ながら素人だぞ」

「そうだな……心臓を潰す用の杭と銀製の武器……俺が世話になってる武器屋のおやっさんなら用意してくれそうだが──」

 

 ──材料がなあ、と続けるユーリ。そんな彼に、シルヴィアは腰をつつきながら呟いた。

 

「そんな貴方にイチオシの商品がこちら」

「通販の番組かなんか?」

「──おおっとこんなところに銀製の道具が」

 

 空中の波紋から、机の上にジャラジャラと音を立てて、ひび割れた食器や欠けたナイフ、へこんで使い物にならない盾が落ちた。

 

「材料ならここにある。これを溶かして銀製の杭を作って貰えば、弱点を同時に突けるぞ」

「ず、ズルい……」

「結局のところ、金と物資のあるやつが一番偉いんだよなあ……」

 

 身も蓋もない言い分のシルヴィアの言葉にえげつないものを見る顔をしながらも、ユーリはレイクたちを見回してため息混じりに頷いた。

 

 

 

 

 

 ──シルヴィアと出会ってすぐ、不死身の男と戦う前に通っていた武器屋。

 いつぞや以来の来店に、店主──ドワーフの男は眉を潜めて対応した。

 

「……ふん、死にぞこないがやって来た」

「この間ぶり。早速で悪いんだけど、これを溶かして人数分の杭を作ってもらえないか」

「あん? ──これは……銀か」

 

 がしゃっと木箱に詰められた銀製の道具がテーブルに乗せられる。中身を取り出して一瞥した店主は、材質を見抜きながらも周囲を見渡してユーリからシルヴィア、リン、レイク、エイミー、フォースと順に顔を動かして、鼻を鳴らす。

 

「銀に杭……吸血鬼か。また出やがったみたいだな、前にも仕留めてなかったか」

「また出やがった、ってことだ。今度は二ヶ所同時に……何が起きてるのやら」

「ふん。──そういうときに警戒すべきなのはな、『何が起きてるのか』ってよりは、『これから何が起きるのか』だと思うがね」

「何が、起きるか……?」

 

 それだけ言って、よっと勢いを付けると、店主は銀製品の詰まった木箱を奥へと運ぶ。

 

「少し待ってろ。溶かして型に流して冷やすだけだ、30分で終わる」

「早いな。さすが異世界、か

「──なあ、シルヴィア」

 

 レイクたちに余計な一言が聞かれないように小さく呟いたシルヴィアに、ユーリはおもむろに言葉を投げ掛けて質問する。

 

「おやっさんの言い分なんだが」

 

「ああ。言わんとしていることはわかる。例えるなら、災害を察知して逃げる鳥のようなものだ。──吸血鬼の出現という事態が、何か悪いことが起きる前兆なのかもしれない……だろう?」

 

「……そうだ。ほら、吸血鬼が出現し始めた辺りで俺がこっちの世界に来て、それからシルヴィアと出会って、そのあとセラと出会って……ってさ、なんかトントン拍子じゃないか」

 

 だから、と続けて、ユーリはシルヴィアを見下ろして顔を合わせると言った。

 

「──きっと、何かが繋がっている。俺たちの間には、()()()()()が」

「……とてつもなく曖昧な言い回しだな」

「仕方ないだろう、情報が無いんだから」

 

 壁に寄りかかって店主を待つ二人は、店内を物色するレイクたち四人を見やる。

 ふと、フォースに対してそれとなく距離の近いエイミーの、楽しげに揺れる尻尾を見て、シルヴィアはまさかとユーリに質問した。

 

「……エイミーのやつ、もしかしてフォース氏が好きなのか?」

「そうらしいよ」

「へえ……頭がゆで卵に見えるからかね」

「こら、シルヴィア」

「ごめ──ん」

 

 まだ言うか、と呟くユーリは、確か──と思案してから口を開いた。

 

「ギルドに入りたての頃、エイミーはちょっとヤンチャしてたらしいんだけど、獣人特有の筋力の高さのせいで手を焼いてたみたいで」

「ほう」

「それで当時、唯一エイミーをボコボコに出来たのがフォースだったんだとか」

「……うん?」

 

 シルヴィアはユーリを見上げ、それから二人の後ろ姿を見る。流れが変わったような、と独りごちると、ユーリは更に続ける。

 

「──なんでも獣人の女性は、単純に自分より強い男性に惚れっぽいらしい」

「……この種族だけ、価値観が古代ローマとかどっかの少数民族のそれなのだが」

「あ、ちなみに獣人の女性は、男が浮気すると手足を一本ずつへし折るんだって」

「こわ~っ」

 

 そんなユーリたちの会話は、店主が奥の工房から戻ってくるまで続いていた。

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