その男、異世界知識皆無につき   作:兼六園

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 ガランと鈴を鳴らして扉が開かれ、武具屋からユーリたちが表に出る。

 手元の銀製の杭を宙に放って玩ぶフォースが、訝しむような声色で問いかけた。

 

「こんな細いモノ、本当に使えんのか?」

「──俺もいまだに信じきれていないが、ユーリと一緒に戦ったからこそわかる。吸血鬼にとって、銀は致命的な弱点らしい」

 

 同じく銀の杭を手にしていたレイクが、それを腰の道具入れに納めながら言う。

 そんなレイクたちに、シルヴィアがあっけらかんとした態度で答えた。

 

「『吸血鬼には銀と太陽』というのは、要するに信仰・儀式の類いだ。決まった対処法があって、決まった結末がある……というものだな」

 

「うーん? つまり?」

 

「『凄まじい不死性を持っているが、特定の行動に対してのみ異様に弱い』という一連の流れが、ある種の儀式ということだ。

 強すぎる生物が往々にして同時に弱点も持ち合わせているのは世の常なのだよ」

 

「…………はえー」

 

 ──理解してないな。と、シルヴィアは首をかしげるエイミーを見てため息を漏らした。

 

「……簡単な話だ。これから血を餌とする怪人を銀で殺すか太陽で焼けばいい」

「なるほど、わかりやすい」

「……犬っころめ」

「──私は気にしないけど、他の獣人に似たようなこと言ったら殺し合いになるよ」

「そうかい。干し肉(ジャーキー)要るかね」

「ワン!!」

 

 シルヴィアに餌付けされているエイミーを横目に、手帳を開いて各区画の馬車の時刻表を確認していたユーリは、おもむろにそれを閉じて全員に聞こえるように少しばかり声を張る。

 

「西に出る馬車があと数分で来るぞ。北側の馬車は10分後だ、リンとシルヴィアはそろそろ移動を始めた方がいいんじゃないか」

「ああわかった。おい、いつまでエイミーとじゃれてんだ、行くぞシルヴィア」

「うむ。──ああ、そうだ」

 

 移動しようとした直後、シルヴィアはふとユーリたちに振り返るとこう言った。

 

「吸血鬼の数は恐らく、多くても6体ほどだ」

「……なにそれ、ヒント?」

「あとは自分で考えるといい」

 

 それだけ話すと、改めて踵を返してシルヴィアはリンと共に北区域に向かう。残った四人は彼女の言葉の意味を考えながら定期の馬車に乗り込み、街に向かいながら景色を眺める。

 

「6体ほど……『そういう決まり』、というわけではなさそうだが」

「あの嬢ちゃんが適当言った可能性は?」

「ない。シルヴィアはこういうときに冗談を言うやつじゃない」

 

 レイクの言葉にフォースが続け、その返しをユーリが否定する。

 シルヴィアから渡された干し肉をバリバリと噛み千切り咀嚼していたエイミーが、三人の話し合いを見ながらポツリと呟いた。

 

「ねー、6体って『多い』の?」

「……いや、俺とレイクが戦ったときは、えー……確か5体くらいだ。正直なところ狂暴な人間って感じでさほど多いとも言えな──」

「……? ユーリくん?」

 

 言葉が途切れたユーリに、エイミーは不思議そうに眉をひそめる。レイクとフォースもまた、ユーリが何か思い付いたのだろうと質問した。

 

「どうした?」

「──吸血鬼。血を吸う魔物。やつらは言ってしまえば偏食なんだ、血液以外から栄養を摂る方法が無いのかもしれない」

「それが…………いや、待て。まさか」

 

 ユーリの話を耳にして、察した様子で声を詰まらせるレイク。すると、あっ、と声を出したエイミーが、ピンと尻尾を伸ばして言った。

 

「──もしかして、吸血鬼が一ヶ所に沢山居たら、()()()()()から?」

 

「その通り。吸血鬼は血しか飲まず、夜にしか動けない。そんなやつらがひとつの街に10体20体と居たりしてみろ……起きるのは吸血鬼同士の餌──すなわちリソースの奪い合いだ」

 

 エイミーの問いに答えたユーリがそう言って、前にレイクと共に巻き込まれた事態を思い返す。レイクも同じ考えに至ったのだろう、嫌そうな顔をしながらも口を開いた。

 

「毎晩毎晩血を抜かれた人間や家畜の死体が見つかれば警戒され、そうなったら餌にありつけなくなる。少なすぎたら戦力にならず、多すぎたら栄養を摂れなくなってしまうってことか」

 

「その対策で死体を持ち去れば時間は稼げるかもしれないが、どちらにせよ時間稼ぎにしかならねえのか。……なんつうか、生きてるだけでわりと不利な生物だな。吸血鬼ってやつは」

 

 フォースが哀れむような声色でそう締めくくるが、それはそれとして、だがと呟き馬車の中に立て掛けたバトルハンマーに視線を向ける。

 

「──資料とレイクたちの情報からして、あいつらは()()()()()()()()んだろ? なら、そんな奴等は許すわけにはいかねえよなァ」

 

「……そうだな。それこそ王都に暮らす子供たちや、フォースの実家にいる妹さんたちが狙われたらと思うとゾッとする」

 

「時間的に到着は夕方ごろになりそうだし、夜になったら早速ぶちのめすぞーっ!」

 

 一人は、家族を危険に曝されたらという決して0ではない可能性の排除のために。

 一人は、親しい子供を失ったがゆえに子供を傷つける輩を許せない心理があり。

 一人は、獣人としての本能からひたすらに強い相手に暴力を叩きつけたいがために。

 

「……俺にこれを纏めろと言うのか…………」

 

 そして一人は、そんな暴れ馬三(にん)を纏めなければならないという事実に静かに胃を痛める。

 レイク・シェラール、27歳。元ギルド会員である1歳下の妻と6歳の娘、もうじき産まれる二人目のために、彼は奔走するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「おいシルヴィア」

「なにかね、リン」

 

 過去にリンが立ち寄ったらしい町──の、更に北。そこに位置する洞窟に訪れた二人は、壁に寄って屈みながら、呆れたような声色で中を見ながら会話を交わす。

 

「お前さっき、多くても6体ほどとかなんとか言ってなかったか?」

「そうだったかなぁ」

 

 二人の背後でボロボロと崩れて塵と化す吸血鬼の死体を一瞥し、それから洞窟の奥にある広い空間に視線を向け直して、リンは言った。

 

「ここまでで4体、この先の広場にパッと見て10数体。明らかにおかしいだろこれ」

 

「…………いいかねリン。大人は時に間違えることはあるが、それでも反省し、前に進むことが大事なんだ。些細な数え間違いなんて誰にだってあるじゃないか。わかるだろう?」

 

「もうそれでいいから何か手を考えろ。最悪あたしが洞窟内に魔力を流し込んで、全部凍結させなきゃいけなくなるだろうか」

 

 ──はあ。とため息をついて、シルヴィアはリンの言葉に一拍置いて反応する。右腕の袖を捲り、色白の肌を露出させると、毒々しい紫色の梵字を夥しい量皮膚に浮かばせて返した。

 

 

 

「ならば、文字通り手を尽くそう」

「うわ、キモッ」

「みっともなく大声で泣くぞ」

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