ミカエルを中心に円を描くように走るユーリは、矢継ぎ早に放たれる分身剣をかわしながら、嵐を指先から弾丸として撃ち出す。
ゴルフボール程度の大きさとはいえ、その密度と回転数を見れば、直撃すれば
ミカエルは避けられた剣を消して、新たに手元に作り出すことで盾にすると、刀身を束ねるようにして扇状に広げて受け止めた。
瞬間──ガガガギギギギッ!! というあまりにも耳障りな音が草原に響き渡り、刀身と乱回転する嵐がぶつかり合って火花が散らばる。
「……ちぃっ」
だめ押しとばかりに撃ち込まれた2発目により刀身への圧力が強まり、如何に神剣の類いであっても耐えられるかどうかと判断したミカエルは、舌を打ちながら盾にした分身剣を傾けて嵐の弾丸を斜め上に逸らして後方に散らす。
そこから僅かに歪み、小さく亀裂の走った数本の分身剣を操作してユーリを貫かんとして眼前を見据えたミカエルだったが──長剣とは反対の手を抜刀する直前のように構え腰を捻る姿を見て、脊髄反射で本能に従い前のめりに屈む。
──ビシュッ! と後頭部のやや上を何かが通りすぎ、髪を数本
遅れてぴちゃりと頬に当たった水滴に触れて、左手を振り抜いた姿勢で驚愕の表情を取るユーリに向けてミカエルは攻撃の正体を語った。
「水滴……なるほどウォーターカッターか」
「初見で避けるか? 普通……っ」
手の水気を振るって払いながら、ユーリが苦い顔で言う。天候制圧魔法は、天気に関わる現象を本物に近い精度で再現できる魔法。
それを制圧し、自由に操作できるのが、ユーリの体と融合している魔導書である。つまり今のは、
そんなユーリの出せる選択肢を振り絞る戦い方を前に、ミカエルの口が開く。
「──お前、楽しいか?」
「いいや、全く、全然」
「そうか。私は結構楽しいぞ」
「……俺の知り合う女性、みんな
手の内を晒しながら戦い続けて十数分、長いようで短い
不意に問いかけたミカエルは思ったよりも歯応えのある戦闘に口角を緩めて薄く笑い、質問されたユーリは即答したのち、小声でぼやいた。
「────」
「…………」
──次で決まるな、という漠然とした確信がお互いの胸の内を過り、それぞれが剣を握り直してから、一拍置いて駆け出す。
分身剣を一本、二本ずつ、三本ずつ、二本ずつと不規則に生成してまばらに撃ち出すミカエルの攻撃を紙一重で避けながら、ユーリは左手をスナップさせて
分かり易すぎる程に真っ直ぐ飛んできたナイフを軸をずらすようにしてあっさりと横に避け、握った剣を振りかぶるミカエルは、視界にきらりと何かが太陽を反射させているのを視認する。
「──っ!」
それが細いワイヤーであると理解するのと、振りかぶった剣にそのワイヤーが引っ掛かりナイフが軌道を変え自身の後頭部に突き刺さろうとしているのは、殆ど同時だった。
「く、ぉ……っ」
咄嗟に剣を手放しながら大きく横にステップし、耳元を掠めたナイフを避けて、ミカエルは分身剣を手元に作り出して握る。
気付けば一足一刀、互いの剣が体を切り裂ける距離まで肉薄していたユーリに、そのまま握り直した剣を振り下ろし────
「オォオっ!!」
「──ハァッ!」
──カンッ!! と、剣が弾かれて後方に飛んで行く。ビリビリと手が衝撃で痺れ、首もとに刃を添えられる。あと少しで皮膚が裂ける状況を前にして、
「私の負けだ」
「……ふぅーっ」
それを聞いて、ユーリは重く息を吐きながら長剣を首から離す。飛んで行った分身剣は消滅し、ミカエルが手放したオリジナルが少し離れた場所の地面に刺さっている。
「まさかただの人間がここまでやるとはな。日本人にしてはよくやる」
「……なあミカエル」
「あん?」
「やっぱり俺たち、
「────」
数歩下がりながら問うユーリを見据えて、ミカエルの目が一瞬斜めを見る。
続けて、気まずさを交えた表情と声色でユーリに対してこう言った。
「ああ。日本に居たお前を殺したのは私だ」
「…………」
「夜の帰りに、
「日本で死んだ俺の肉体はどうなったんだ? この世界の俺は作り直された方だろうから、死体が残っていたら殺人事件扱いされるぞ」
「……
「えっ、なんでそんなことを?」
「さあな」
淡々と問い、淡々と返す。不思議と怒りも湧かない状況に、ユーリは『超常現象過ぎて感覚が麻痺しているのだろう』と結論付ける。
ともあれ今優先するべきはシルヴィアを取り巻く問題の解決であるため、ミカエルに向き直ってから改めて口を開くと声をかけた。
「まあ、それはそれだな。今は……さっき要求した通り、あんたにシルヴィアへの謝罪をしてもらいたい。それでいいよな?」
「わかってる。──今さら私だけ謝ったくらいで、何が解決するとも思えないが」
「許す許さないはシルヴィアが決めることだけど、それでも謝るべきだ。『許してくれないなら謝る意味もない』とはなるまい?」
「…………はぁ、それもそうか」
コートの形を解除して影に戻しながらそう言うユーリに、ミカエルも納得して髪を掻く。
「というか、あの剣拾ってきたら?」
「あ? ああ、そうだな」
おもむろにユーリが指を差した方向の地面に刺さっている神剣を見て、ミカエルも頷いてそちらに向かって歩いて行く。
背中を見せる彼女を前に、ユーリはずっと黙りを決め込んでいるセラへと振り返ろうとして。
「おーいセラ、いつまで観戦し
ぐじゅり、と、柔い果肉か野菜を包丁で貫く感覚。それを
そこにあったのは、背中から前に伸びた手。真っ赤に染まった手が、心臓のあった位置から伸びて、自身を貫いている。
「ごぼ」
遅れて口から鮮血が溢れ、しかして先の戦いでアドレナリンでも出ていたのか痛みは薄い。
「──セラ!! お前、なにやってんだ!?」
「な、で……ぜ、ら?」
後ろを向こうとして、顔は中途半端に横を向く。横目でなんとか捉えた犯行の正体──セラは、何故か苦悶の表情を浮かべながら、ユーリの胸を素手で貫いていた。
「俺じゃ、ねぇ……体が、操作されてる……!」
「は? 誰に────、ッ!?」
ミカエルがそう問い質した刹那、ズン! と周囲の空気が沈む。
凄まじい威圧感に重力が増したような感覚を覚え、続けざまに二人と自分の間にある空間に、べちゃりと
やがて女性の輪郭を型どった『それ』に、ミカエルが冷や汗を垂らしながら質問する。
「なんだ、お前は……!」
泥は女の形に、そして黒衣を纏い、まばらに黒いメッシュの入った金髪の女性へと形を整える。女性は凛とした声色で──瀕死ながらにその雰囲気に
「我が名はクロエ。────魔王だ」