その男、異世界知識皆無につき   作:兼六園

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七章 魔王復活
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「我が名はクロエ。────魔王だ」

 

 そう名乗った女性──クロエは、眼前で背後から胸を貫かれているユーリに手を翳す。

 

 すると、貫かれた胸の穴から鮮やかな翠の粒子が溢れて、翳した手を通してクロエへと吸い込まれて行く。致命的なナニカが抜け落ちる感覚と共に、ユーリの全身が激痛を訴えた。

 

「あ、が、ぁぁぁあぁアアア!!?」

「そう喚くな」

「てめ、ぇ……なにを、やってる……!」

 

 セラは苦い表情を浮かべて体を動かそうとするも、まるで石像にされたかのように身動きが取れない。それでもなんとか問いかけると、クロエはあっけらかんとした顔で答える。

 

「残りの魂を取り出している」

「がっ……ぐぅうっ、ぅうおぉっ!?」

「私やこの男は、上位存在が世界を回すために()()()()で創った人間だ。姿形が違うだけで、肉体と魂の情報はほぼ同じ……つまり互換性がある」

 

 一拍置いて、クロエは続ける。

 

「この体は『日本で死んだ立花遊理の肉体』を利用していて、その体に『クロエという魔王のデータ』を定着しているのだが……空の肉体は魂がないと動かせんわけだ。だから、貴様から()()()2()()()()魂を奪わせてもらった」

 

「──だ、から、かっ……」

 

 いつぞやにセラとシルヴィアが知った、ユーリの魂が欠けているという情報。

 死因を覚えていないユーリが大事故か何かで死んだからそうなのだろうと軽く考えていた真相に、セラは歯を軋ませるように噛み締めた。

 

「しかし、世界の再構築計画の為だけに墓から蘇らせられた私では人のことを言えんが……貴様も哀れだな。この為だけに生かされ、そしてこれから(エンジン)を抜き取られ殺されるのだから」

 

「──な゛に……?」

 

「私たちは同じ用途のために創られた人間で、私は魔王だが……()()()()()()()()。前の魔王を殺して、次の魔王になった存在だ」

 

 ──なにを言っているんだ。という当然の疑問を言いたげに眉を潜めるユーリに、クロエは憐憫の目を向けながら改めて言った。

 

「そして『次の魔王』を討つために呼び出された次の勇者──それが貴様の育ての親だ、立花遊理。あいつは私を倒し、だが殺さずに元の世界に帰ってしまったがな。物語が破綻して上位存在の世界が崩壊したのはそのせいだ」

 

 さらりとそう言い放つクロエは、目を見開いて驚愕するユーリに更に続ける。

 

「貴様は、本来なら次の魔王になっていたあいつを殺すために生まれてくる筈だった──()()()()()()()()()()()人間なのだよ」

「────うそ゛だ」

「事実だ。貴様はその体と魂をここで活動する私の代替品にするために、あいつ……立花奏に育てられてきた。そうなるように、上位存在が貴様の物語を歪めてしまった」

 

 とどのつまり、最初から()()まで、ユーリは神の手のひらの上で転がされていたのだ。

 

「元魔王の私も、元勇者の立花奏も、勇者になる筈だった貴様も、全員が哀れな被害者だ。だからもう、ここで終わらせるとしようか」

「っ」

「ミカエル、動くな。動けば殺す」

 

 ぎしりと神剣の柄を握るミカエルの気配に、クロエが振り向くこともせず背後へと言う。残り4割ほどまで魂を抜き取れていたところでそう言ったクロエだったが──ふと、()()()()()()

 

「──っ!」

 

 その隙を見逃さず、セラは、ミカエルに目を向けてほんの僅かに、辛うじて頷く。

 

「なんだ……魂に、なにか混ざってる……?」

「っ──セラ!!」

「うん?」

 

 ──今しかない。

 ミカエルがそう判断して、神剣の分身能力を起動しながら投擲の姿勢に移る。

 彼女は11本の分身剣全てをクロエに突き刺して、手元の本体を、カーブを描くようにしてユーリの後ろのセラに刺さるように投げつけた。

 

「ぉ、ごっ」

 

 狙い通りにミカエルの神剣が刺さり、押し出されるように後ろに倒れ、セラの腕がユーリの胸元からズボッと引き抜かれた。

 その刹那、瞬時に起き上がったセラは支えを失って膝を突いたユーリの襟元を掴み、背後の地面に『窓』を開けて引っ張りながら落ちるようにその場から消える。

 

「……ふむ。なるほど」

「──くそっ、それで死なないのか」

「悪いな、そもそも()()()()()()()

 

 クロエの全身に突き刺さっていた筈の分身剣は、おもむろにポロポロと地面に落ちる。

 その刀身は何らかの力で消失しており、何事もなかったかのように振り返るクロエが、調子を確かめるように関節を鳴らした。

 

「その行動の意味を、理解しているのだろうな」

「してるとも。人の戦いを邪魔しやがって」

「ああ、その気持ちはよく分かる。私とて互いに全力を尽くす戦いは好きだ」

 

 ──だが、まあ。と続けて、クロエはミカエルと同じように拳を構える。

 

「貴様の役目はここまでだ」

「そうかよ……っ!」

 

 肩慣らしとでも言わんばかりに拳を振り上げるクロエに、ミカエルは炎を灯して飛びかかった。

 

 

 

 

 

 ──同時刻、中央大陸東に位置する東国にて、城の一室で書物を読み耽る少女が居た。

 

「……ん?」

 

 不意に魔力の乱れを感じ取り、少女は顔を天井に向ける。──直後、部屋に敷かれていた畳に、何かがドサドサ! と落ちてきた。

 

「わっ!? な、なに……?」

「…………ごほっ、くそっ、悪い、咄嗟の逃げ場所が……ここしか浮かばなかった」

 

 驚きながらも音の方へと振り返った少女は、最初に赤色を視界に納める。

 それは、二人の男の体から溢れた血液で、片や胸に穴が空いている男。そしてもう一人は、肩に刀のような細身の剣を突き刺していた。

 

「なっ……ぎゃ──────ッ!?!?」

 

 肩の剣を抜いてから、セラは血まみれで意識の無いユーリを畳に寝かせると、眼前で悲鳴をあげる少女──鈴歌に向けて声を荒らげた。

 

「ありったけの布を持ってこい! 血を止めながら心臓から順に治さないと今の体じゃ負荷が掛かりすぎてユーリが死ぬ!」

「いや、まっ、ちょっ……お、おじいちゃ──ん!? 死体が降ってきた!!」

「まだ死んでねえけど急がねえと死ぬんだってオイこら逃げるな!」

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