上位存在が世界の管理のために人間社会を模した空間──いつしか人が『天界』と呼ぶようになったそこの一角に、牢屋のような空間を作られて、ゼムは薄暗い部屋に押し込められていた。
「……まったく、人の作業用空間に似つかわしくない部屋を作るのは困るんですよねぇ」
わざわざ質感までもが再現された石造りのそこで壁に寄りかかる彼女は、片膝を上げて腕を乗せ、もう片方の手で髪を掻き上げる。
「ルーラー……アレは不味い。『世界を作り直して
──さてどうしたものか。と思案していたゼムは、頭上に開いた黒い『窓』から何かが落ちてきた音に、反射的に体を跳ねさせる。
「ぎゃっ! ……お?」
「──ごふ、がっ、か……」
「貴女は、ミカエル!?」
べちゃりと水音と共に落ちてきたのは──全身があらぬ方向にひしゃげた、常人ならおおよそ生きていることなど不可能なレベルで人体が損傷した、ルーラーの部下・天使ミカエルだった。
「いったい何が……まさか、立花遊理さんがミカエルをここまで!?」
「ざず、がに、ぞごまで、するやづじゃねえ」
血の泡を噴きながらそう言ったミカエルは、少ししてから顔周りを回復させて仰向けに寝転がりながら改めて口を開いた。
「
「あの女性は……やはりそうでしたか。それにルーラーは厄介な本も所持しています」
「あ? 本?」
全身の骨格を元の位置に戻すような肉体の再生をしながら、ミカエルは問い返す。
ゴキゴキ、バキバキ、ミシミシと骨折する音を流しながら逆再生させているような光景に頬をひくつかせるようにしてドン引きしながらも、ゼムは一拍置いて続けた。
「【
「……なるほど、私自身も、『なんでそんなもん持ってんだ』という疑問に思うことそのものを出来なくされていたのか」
「はい」
「なら、おかしくないか? どうしてこんなまどろっこしい流れにしたんだ? 直接『破壊者が魔力球を渡す』と書けばいいだけだろ」
なんとか起き上がれるだけ体を再生したミカエルが、上体を起こして座りながらゼムに質問を投げ掛ける。ゼムもまた、頷いてから言った。
「【
「……要は、ターゲットを『ドラマチックに死なせないといけない』ってことか」
こくりと頷いて、ゼムは続ける。
「そして本という形をしている以上、必ず限界……言うなれば尺は決まっています。つまり無駄な描写をする余裕がないので、恐らく今こうして我々が話していることは想定できていても内容は把握していないと思われます」
「──私が回復したら、その本を破壊しに行こうって言いたいんだな」
「はい。即行動し、ルーラーから本を奪取し破壊……そうすれば、少なくとも彼女の目的である『
そこまで言って、ゼムは黙り込む。ミカエルも大人しく体の再生を優先させて天井を見上げながら静かに呼吸するだけだが──それを見ながらゼムが内心で独りごちた。
──
──ならば、
──ズキリと響いた胸の痛みに、布団に寝かされていたユーリは目を覚ます。
「っ──! あっだだだ……!?」
勢いよく起き上がったはいいが、あまりの激痛に体を丸めてそのまま小さく呻いた。
「……あ、ユーリさん、起きましたか」
「君は……鈴歌ちゃん。ということは、ここは東国の……城の中?」
「はい。いやあ大変でしたよ、セラさんとユーリさんが突然部屋に落ちてきて、必死に止血しながら、セラさんの……魔法? みたいな妙な力で傷を塞いで、それでも
「そっか────丸一日!?」
うぎぎ、と痛みに呻きながらも、ユーリはおうむ返しで鈴歌に問う。
彼女は傍に座ってユーリの背中を擦りながら、状況を細かに説明する。
「セラさんが言うには心臓が潰れていて、それを治しながら骨や筋肉、神経を修復? させた? そうです……? すいません自分で言っててもよくわからなくて。
ただ……完璧に治すのは待ったそうです。全部綺麗に治そうとした場合、ユーリさんの体から大事なものが無くなる……とかで」
「そっか……鈴歌ちゃん、セラを呼んでくることはできる? というかいまどこに居るの?」
「えっと、確かおじいちゃんと一緒に鍛冶場です。ユーリさんの持っていた剣を強くしてやるー……とかで、セラさんが持ってきた刀みたいな細い剣と纏めて溶かして混ぜちゃってました」
「なんで?」
──俺の剣溶かされた……。
ユーリは鈴歌の言葉を耳にして、それからおもむろに顔を手で覆ってため息をつくのだった。