「お前、顔が日本人だから和服合うな」
「顔以前に生まれも育ちも日本だよ」
胸の塞がった傷を隠すように東国の衣服を着直すユーリはセラの言葉に返しながらも、帯を締めてから、でもと呟いて続ける。
「俺ってなんなんだろうな。普通の日本人として地球で生きてきたのに、魔王とやらには勇者になるはずだったとか言われるし、先生が勇者だったのは本当だったし、頭がおかしくなりそうだ」
「まあ、壮絶な人生だなあとは思うが」
「こんなことなら、先生の『私はですねぇ、昔勇者やってたんですよー』をもう少し真面目に受け取って考えるべきだったな……」
「それ確か飯食いながら言われたやつだろ。真面目に受けとる方がどうかしてるぞ」
セラの呆れ顔に渋い表情を取るユーリが、城の一室の窓から外を見ながら言う。
「それにしても……魔王たちは、なんでなにもしてこないんだ?」
「お前が起きるまで警戒していたが、特に何もなかった。舐めプされてんだろ」
「舐めプってなに」
「取るに足らない、いつでも潰せる、とかそんな感じでわざと見逃されてるってことだ」
「──なるほど。逆に言えば、俺達がすぐにでも王都に戻ろうとすれば行動される……ある意味で人質を取られているようなものか」
──もし逃げた先が王都だったら、間違いなく追いかけてきて皆殺しにされただろう。
単純な事実としてそう思案し、ふうと一息ついてユーリは思考を切り替える。
「ところでさあ」
「なんだ」
「俺の剣溶かしたんだって?」
「誰から聞いて──
「せめて俺に聞こうよ?」
真っ当な意見をするユーリにセラは言う。
「さっき起きたお前に『新しい武器を作るから剣くれ』って聞くまで待てってか。今は時間がねぇんだから仕方ないだろ」
「謝罪」
「悪い」
「許す」
──許すのか……。というセラの小声はユーリには届いていないようで、頭を振ってからおもむろに口を開くと言葉を返した。
「それで、出来たのか?」
「ああ。お前が起きたら呼んでこいって言われてるんだ、早速行くか」
「……誰が作ったんだ?」
「この城の主」
「源さんか、なるほ────どおおぉぉぉぉ!?」
突然、ヴンと
──ダン! と危なげなく着地したユーリは、天井に開けられた『窓』を閉じるセラに恨めしそうな顔を向けて唸るように呟く。
「お前、次やったら、強めに殴るからな……」
「そうか。──おい、連れてきたぞ」
ユーリの言葉を受け流しつつ、セラはゴウゴウと熱気が渦巻く鍛治場の奥に声をかける。
すると、少ししてやって来たのは、刀身を布で巻いて隠した長剣を掴んで歩いている──東国の城主、山田源その人であった。
「源さん、お久しぶり……でもないですね」
「おう、ユーリ。生きてたのか」
「ああはい、心臓貫かれたけどなんとか」
「……本当によく生きてたなお前」
熱さで服の上半身部分をはだけさせた、老人らしからぬ鍛え抜かれた肉体を晒す源が、ユーリの返しにごもっともな意見をする。
それからそんなユーリに、ポンと持っていた剣を投げ渡した。
「おっと……これ、俺の剣……だけじゃないな、何か混ざってる?」
「ミカエルが俺に投げてきたあの神剣も溶かしたからな。ほぼほぼ神器だぞ、それ」
「なんでそう訴えられたら負けるようなことばっかりするのかなぁ」
あっけらかんと爆弾発言をするセラに、ユーリは布をほどいて刀身を露にしたそれを掲げて刃を確認しながら話す。
すると、セラは少し考えるようなそぶりを見せて、ふと目を逸らしながら言った。
「…………お前が魔王に勝てるように、俺なりに出来ることをやってんだよ」
「────」
「俺は上位存在の盗んだ本を取り返したい、お前はシルヴィアの助けになりたい。一応の利害は一致しているし……まあ、なんだ、ユーリに死なれんのも、気分が悪いからな」
「おう。そ、そうか……」
「チッ」
感慨深そうな、むず痒そうな表情のユーリからの視線を受けて、セラは舌打ちをする。二人の奇妙な関係と会話に、懐かしさを覚えたのか、源はまぶたを細めて小さく笑みを浮かべていた。
「──で、だな。セラからある程度の事情は聞いているが、なんでも近々
「はい。……まさかとは思いますが、源さん?」
「ああ。俺も混ぜろ」
「言うと思いました……」
ニヤリと笑う源に、ユーリはげんなりとした顔を向ける。──この世界、好戦的な人ばかりだな……とは、口が裂けても言えなかった。
「……敵の狙いは恐らく俺の仲間で、王都が戦場になりかねません。そこに東国のトップが介入するとなったら、色々と不味いのでは?」
「今更だな。それにな、ユーリ」
源は一度区切ると、若々しくもさえ見える穏やかな笑みでこう言った。
「友人を助けに行くのに理由なんか要るかよ」
「…………そう言われちゃうと、俺としては何も言い返せないんですよ」
はぁ──と重いため息をついて、ユーリはセラに視線を送りつつ頷く。セラは口角を緩めると、飄々とした態度で指を一本ずつ立てる。
「順序としては先ずユーリの体調を万全にする、そしてその剣の能力の把握。これを魔王の襲撃までにこなすとして……猶予は良くて一日か。だが最悪の場合このあとすぐ来るかもしれねえ」
「この剣の能力……うん、なんとなくだけど、
長剣の柄を握り、魔力を流して刀身が輝く光景を前にユーリはセラに言葉を返す。
そんなユーリとセラに、源は傍らに立て掛けられていた試作らしい打刀を握りながら言う。
「なら実戦形式で行くか」
「はい?」
「そうだな。ユーリはわりと感覚派っぽいし」
「ちょっと?」
「時間が無いなら仕方ないよなぁ? ほら表に出ろ、俺としてもユーリに一敗したままだとどうにもスッキリしねえからな」
「す、スパルタ教育者共……!」
はっはっはっはっ、と笑いながら鍛治場を出る源とそのあとを追うセラ。
新たな武器を手に、ユーリは何度目かもわからないため息をつくのだった。