「──概念情報体、言うなれば
返答のない答え合わせ。シルヴィアは、生気の抜け落ちた瞳でこちらを見ながら両手に
「お前を殺す方法は無い。なぜなら、
自分で口にしながら、相手が悪い状況に冷や汗が流れる。500年近く異世界を巡り、戦い、破壊してきたシルヴィアはあらゆる状況に対応出来るだけの知識と経験、ストックしてきた武具がある。しかしそれでも、この状況で勝てるビジョンが一切見えないのだ。
「常に無限の残機と回復能力を持っているうえで空間を跨いで移動する能力を持ち、更には神話の原典であるトップクラスの神器の二刀流……はっ、出来の悪い物語の主人公か何かか」
痺れを切らしたかのように、ゆらりと動いたセラが、両手の二振りの刀を振り上げる。
バチリ、ゴウッ、とそれぞれが凄まじい勢いの電気と火炎を轟かせ、シルヴィアを消し飛ばさんと振り抜かれていた。
「──
盛りすぎだろう──と続けた言葉を掻き消すように、電気と火炎の混ざったエネルギーの塊が直撃。お返しのように爆発を起こし、逆にシルヴィアを爆炎が包み込んだ。
──刹那、ボンッと音を立てて爆炎が左右に割れる。中から現れ飛び出してきたシルヴィアは、服と体のあちこちを焦がし、セラに駆け寄りながら幾つも複製しストックしている時間を巻き戻す懐中時計でダメージを無かったことにした。
「痛みは無視してダメージは巻き戻せばいいが、電気と火炎は威力が高過ぎて何度も受け止めきれん、気絶したら死ぬ……と、なれば」
そこで区切り、左腕に毒々しい紫の文字列を浮かばせおぞましい魔力を纏って右手に長剣を握り、こちらを警戒しているような動きのセラを見据えて碧眼を鋭く輝かせて睨みながら続ける。
「──再生を阻害する呪いをありったけ叩き込んで、ユーリが魔王を倒すまでひたすら殺し続けて時間を稼ぐ。これしかあるまい」
シルヴィアがそう締めくくり、セラの間合いに入った。一瞬で振るわれた刀をくぐり抜け、彼の影に長剣を突き刺しながら背後に回る。
「影縫い」
ギシリとセラの体が固まり、その隙にとシルヴィアは左手で背中に触れようとするが──動きが止まったまま、セラは左手の草薙の剣から火炎を発生させ自分ごとシルヴィアを爆破させた。
「なん、──っ!」
影縫い。文字通りに影を利用して相手をその場に縫い止める能力。しかし、『影縫い』ではただ動きが止まるだけ。それに気づけてしまえば、実質的な不死身であるセラなら自分を巻き込んだ範囲攻撃を起動し動かないまま攻撃できる。
ゴウッと溢れてきた熱に身を焼かれながら、シルヴィアは反射的に懐中時計を取り出しながらバックステップし、炎が消えると同時にリューズ型のボタンを押して自身の時間を巻き戻す。
焼け焦げた体が色白の柔肌に戻る傍らで右手の天叢雲剣に電気を蓄えるセラを見るや、彼女は影縫い用の剣が外れたことを悟り、ナイフを取り出して真上の上空に投擲。
「空間
──ドンッ!!! と間近に落ちた雷のような轟音が、耳をつんざく。
当たれば消し炭、あるいは蒸発するだろうことがわかるそれが迫った瞬間、上空に投擲したナイフとシルヴィアの位置が入れ替わった。
眼下でナイフが雷の濁流に呑まれて消える光景を見届け、銀の波紋から新たに剣の柄を伸ばして引き抜き落下。続けざまに放たれた火炎を、引き抜いた剣──波打つ刀身の大剣で吸収した。
「馬鹿め、魔導書のアレコレの時に見せただろう。忘れたかァ!?」
純白の大剣は炎の吸収に伴い赤く染まり、吸い取り終えたそれを体を捻ってぶん! と投げる。自身に迫る直前に振り抜いた刀が放出した電気が大剣を射抜き、空中で爆発。
返す刀で2発目を撃とうとしたセラだったが──ジャラララ! と伸びてきた鎖が彼を縛り、咄嗟に踏ん張ったことでシルヴィアだけが動く。
自然な落下速度を上回る早さで落ちてきた彼女は、袖から伸びた鎖を握る方とは逆の、呪いを蓄えた左手でセラの顔面を鷲掴みにした。
「──咄嗟の判断は流石だが、対応が遅いぞ。セラ……いや、魔王」
梵字のような文字がシルヴィアの左腕から左手、指を通ってセラの頭に移り体内に染み込む。セラは両手の刀から無差別に炎と雷をばら蒔き、シルヴィアは胸を蹴って大きく距離を取る。
「冷静に見返してみれば動きがワンパターンだった、恐らく魔王本人が遠隔でマニュアル操作するのとセラのオート反撃を使い分けていたのだろう。遠距離攻撃に固執したのは、近寄られてそれを悟られないようにするためと考えるが」
再び銀の波紋を生み出し、腰の辺りに出した空間の歪みから抜刀するように長剣を取り出すシルヴィアは、そう言いながら動きを止めたセラを。──その奥の魔王を見る。
「動きが杜撰なのはユーリとの戦闘の裏でこちらを見なければいけないから……つまりこちらで戦い続けることは事実としてユーリへの援護に繋がる。例えバレても無視できないだろう?
最終的な目的である私を殺す前にユーリを殺さなければならず、かといって片手間でやれるほどあの子も弱くはないのだからな」
そこまで言いつつ、シルヴィアはそれでも警戒心を解くことが出来ない。
仲間である以上はユーリの善戦を期待せざるを得なく、しかし魔王が強いことも理解している。今の戦力バランスもまた、釣り合っているようで釣り合っていない。
「『どこかの誰かが事態を好転させるのを待つ』……ああクソ、まったくいい作戦だ。みんな同じことを思ってないことを祈ろう」
ため息をついてそう言ったシルヴィアは、呪いを叩き込んでお役御免となった左手にいつでも使えるように懐中時計を握らせ、右手に握る長剣の柄に力を込める。
第2ラウンドが始まることを察して腰を低く構えていたが──ふと、ぞわりと背筋に悪寒が走る。不味い、と呟いた時には遅く。
真横に開かれた『窓』が
「な、ん──づぅおぉっ!?」
踏みしめていた筈の地面という安定感を失い、遅れて浮遊感で内臓が浮く。
「──それ動かせんのかよ!!」
と独りごちるシルヴィアは、ガラリと動きが変わったセラが同じく『窓』で現れると同時に振り抜いた刀を受け止め、踏ん張れないせいで後方に弾かれるように飛ぶ。
「これが、完全マニュアル操作……だと、したら……かなり不味いっ……!」
セラ──を操作している魔王が足元に『窓』を開き手頃な木の枝を伸ばして足場にし、こちらを追いかけるように跳躍する姿を見てシルヴィアは確信に近い嫌な予感を覚える。
──魔王が自分を相手に全力を出してきた。
それは、すなわち、
更に背後に開かれた『窓』に叩き込まれ、採石場の壁の前に飛ばされたシルヴィアは、背中をぶつける直前に長剣を刺してブレーキを掛ける。
同じ『窓』を通ってきたセラの横一文字に振ってきた刀を突き刺した長剣から飛び降りる形で避け、別の剣を取り出しながら、シルヴィアは無表情のまま殺しに来るセラを迎え撃った。
「ユーリ……まさか死んだとか言わないよな」