その男、異世界知識皆無につき   作:兼六園

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 七剣天星を握るユーリと六本の分身剣による多角的な攻撃を、クロエは踊るように捌く。ユーリ自身の握る七剣天星を掬うように下から弾き、横合いから割り込む分身剣をバックステップ、上から降ってくるそれをバク転で避ける。

 

 更に追従してくる分身剣たちを、魔力を固めて作った長剣の硬度をわざと()()()ことで鞭のようにしならせ、アクロバットに回転しながら振り回し周囲の六本全てをへし折った。

 

 ざざざっと床に足を擦らせながら着地したクロエは、心底楽しそうに口を開く。

 

「まだまだ、こんなものではあるまい?」

「手品のお披露目じゃないんだがな……」

 

 分身剣が魔力に戻り霧散する様を見届けて、ユーリは一拍置いてから再度生成。

 頭の中で戦法を構築し、戦い方に捻りを加えるべきかと思案し始めた頃──ふと、二人の体がほんの一瞬硬直して動きが止まる。

 

「────」

「────」

 

 一瞬とはいえガクンと力が抜けたことで、双方が同時に立ち止まり体を見回す。

 ──それから、体に起こった異常を理解して、クロエはユーリに問いかけた。

 

「……わかるか?」

「ああ、どういうことだ……。体が──」

 

 

 

 ──不思議と()()

 

 刹那、数瞬前よりも遥かに素早く、鋭く踏み込んでくるクロエの斬撃を、ユーリは()()()()()()防御した。お返しとばかりに切り返しつつ周囲に展開した分身剣を差し向けるも、その動きも同じように鋭く早い。

 

 続けざまにぶんと投擲した七剣天星が弾かれ上空に飛び、ユーリが手首をスナップさせて(コート)の中から手斧を取り出し振りかぶる。

 

 得物とリーチが変わったことでテンポがズレたクロエは僅かに反応が遅れ、長剣に引っ掻けるように叩きつけられた手斧によりぐいっと引き寄せられて腹部に拳を叩き込まれた。

 

「ぐ、かっ──」

「吹き飛べ……!」

 

 そのまま拳を起点に嵐を発生させ、爆発させることで暴風によりクロエを殴り飛ばす。更に手斧を捨てて走り出し、落ちてきた七剣天星をキャッチして姿勢を直したクロエへと斬りかかる。

 

 カンッ! カンッ! という軽い金属音が断続的に響き、バチバチと辺りに火花が散る。

 剣戟を交わす最中、ユーリの思考がすさまじい速度で働き、カチリと噛み合った歯車がカラカラと小気味良く回り出す感覚。

 

 そしてユーリとの打ち合いに興じれば周囲を分身剣に取り囲まれ、即座に七対一の構図を作られる。一本目を叩き折り、二三本目を腕を振って発生させた黒い魔力の波に呑み込ませて破壊。

 

 続けて四本目を殴り砕き、足と頭を狙って左右から飛んできた五、六本目を跳躍しながら体を捻り水平に傾いて避け────眼前に立っていたユーリの姿が存在していないことに気づくと同時、不意打ち気味にガシッと襟首を掴まれる。

 

「な、ん──ッ!?」

「おおおお……らァ!!」

 

 ()()()()()()()()()()()()に転移魔法を重ねて、クロエが姿を捉えようとした瞬間に背後に回る。そうして首根っこを掴んだユーリは、ぐんと巻き取るように、逆方向に体を捻って何本もそびえ立っている柱の一つに全力で投げつけた。

 

「ぐおっ、ガッ……!」

 

 不可思議な物理法則と軌道によってドドドドッと柱を削りながら上昇して行き、クロエの体は長剣でブレーキを掛けてようやく停止する。そのまま長剣を柱に刺して足場にすると、彼女はドロリ垂れた鼻血を拭って言った。

 

「動きが変則的に変わっ──いや、()()()のか。あらゆる武具の使い方を、あらゆる武術の動きを叩き込まれていたお前の本来の戦い方は、それら全てを使って、相手に自分の得意()()を押し付けるモノだったのだろう」

 

 ユーリを見下ろすクロエは、口角を緩めると感慨深そうに目尻を細めて語り掛ける。

 

「──私に(エンジン)を半分以上奪われていながら互角。やはり次々代勇者は違うな」

「俺は勇者じゃない、人間だ。ただの人間」

「ふ、そうだな。これ以上セラをマニュアル操作しながらユーリの相手をするのは難しいか……それじゃあ、そろそろ決着へと歩を進めるとしよう」

「ああ」

 

 短く答えて、ユーリは牽制にまだ破壊されていない二本の分身剣を飛ばす。

 クロエもセラのコントロール権を解除しつつ、柱を足蹴にして長剣を引き抜き自由落下しながら片手間に分身剣たちを半ばから粉砕する。

 

 折られることを加味していたユーリは、一拍置いて再度六本の分身剣を展開。

 落下の勢いでそのまま飛び蹴りを放ってきたクロエの足を、分身の刀身を束ねて防いだ。

 

 ──ズドン!! と轟音を奏で、ユーリの体は重圧を掛けられたかのように重さで沈む。

 

「づ、お、も……っ!?」

「ははは、女に重いは、禁句だ──!」

 

 刀身の腹を足場に踏み込み、跳躍して離れつつ背後を取ると、クロエは長剣に魔力を追加で流し込み、刀身を拡張させて振りかぶる。

 同じく振りかぶりながら振り返り、ユーリも分身剣の一本を七剣天星に溶かすように混ぜ、瞬間的に出力を上げて互いに叩きつけた。

 

「魔力、解放──」

「──200%……!!」

 

 瞬間、黒と白、破壊の魔力と星の魔力が衝突し、物理法則では決して発生しない色鮮やかな火花が周囲に散る。混ざり合えない魔力同士が互いを反発し、その結果として爆発が生じた。

 

「…………不味い」

 

 ビリビリと周囲を軋ませる圧力と自分の間に暴風の壁を張ったユーリだったが──咄嗟に感じ取った嫌な感覚に従い残りの五本を更に盾にすると、爆発と共に発生した黒煙の中から、とてつもない勢いで魔力の奔流が放たれる。

 

「なんだ、この……馬鹿げた魔力量は……!」

 

 膨大な魔力をゲームに出てくるようなビーム状に纏めて放つという雑極まりない攻撃だが、七剣天星を経由して宇宙の星々からほぼ無限に魔力を供給できるユーリも、似たようなことは出来る。

 

「防、いだ……「遅い!」

 

 何度目かの生成した分身剣全てと暴風の壁で奔流が途切れるまで凌ぎきったユーリ。だが眼前にあった爆発の黒煙がボンッと弾け、奥から金髪を揺らしてクロエが迫る。

 

 もう一度分身剣を生成しようとしたユーリの思考が一瞬硬直し、迎え撃つかどうかで悩んだ思考の刹那の隙間を縫って、クロエは七剣天星を手元から弾き飛ばす。

 

「──シィイッ!」

「さ、せ、る……かァ!!」

 

 反射的に徒手空拳に切り替え、迫る長剣を左アッパーで掬い上げ、右フックで顎を打つ。

 くらりと視界が揺れたクロエだったが体が脊髄反射で前蹴りを放ち、手のひらで受け止めたユーリの足が数歩後ずさる。

 

「ぐっ」

 

 体勢を整えて長剣を構え直したクロエが、更に踏み込みユーリを上段から斬りかかる。

 視界の端で床に突き刺さる七剣天星を見ていたユーリは、両手に溜めた魔力をそれぞれ風と水に変換して拍手をするように打ち付けた。

 

 

 

「嵐と、水蒸気……ッ!」

 

 ──その瞬間、クロエとユーリの体は爆発するように発生した濃密な霧に包まれた。

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