2020年の新型ウイルスで世界が混乱するなか、日本の魔法庁はロシア方面での不自然な揺れを観測する。その事件をきっかけに魔法世界全体は徐々に戦争へと向かっていった。

「こんな戦争!誰も望んでないじゃないですか!」

「そりゃそうだ。"コレ"を決めたのは、非魔法族の政府だ」

英雄が世界を救ったからと言って平和になる訳では無い。対話は喪われ、共通した価値観も目的も持てず、魔法世界は現実世界の国にとって都合の良い駒として使われだした。



1 / 1
Недоверие к российскому федеральному правительству

全ての始まり

 

 

 

「失礼します。『防衛省異常脅威に対する対策会議本部』より出向しました。伊那下まひろです」

 

「入りたまえ」

 

革張りの高級な椅子にもたれかかった初老の男性は、部屋の外から聞こえた篭った声に返答する。入ってきたのはスーツを着た若い女性だった。彼女が目の前の前まで来るのを確認すると、報告を求める。

 

「……では、状況報告を」

 

「はい、国立釧路研究所からの報告によると、『日本時間午前11時23分頃、ロシア魔法世界最大の都市ボルカザヴォスクで、数回の規模の大きい揺れが発生した』との事です」

 

「魔法世界と言ったが、非魔法界ではどのように伝えられている」

 

「日本のメディアは殆ど取り上げていません。今の新型コロナウイルスの影響で、報道機関は全てスルーしています。唯一個人運営のサイトが取り上げましたが、既に情報の差し替えが行われていました」

 

「そうか、ではロシアのとこは」

 

「ロシアでは付近の非魔法族住民が揺れを訴えましたが、ロシア魔法省の機関軍により全員がヴォルカザヴォスク精神病院行きだと」

 

「人権無視の強制収容か……根は赤い国のままだな。報告ありがとう」

 

「では……こちらからも一つ。日本魔法庁はどのような対策を行っていますか?」

 

「対策は三つ。全て滞りなく進んでいる。個人ブログの書き換えを含めた非魔法族系メディアへの情報統制。在日ロシア魔法族、又ロシア系魔法邦国人へのカバーストーリーの流布と複数のデマによる世論形成の阻止。そして……憲察大隊の待機レベルをロ号に設定した。万が一戦闘が発生しても、30分以内に想定の戦線に配置できる」

 

「了解しました。統合幕僚監部は魔法庁の憲察大隊を支援するように裏で準備を進めています。貸出できる車両リストはこちらに」

 

「了解した。報告に感謝する」

 

しかし、防衛省と魔法庁を行き来するまひろは、目の前にいる嫌という程見てきた長官がどうにも煮え切らない顔をしていることに気がつく。まひろは何も考えず質問を投げかけてしまった。

 

「何か気になることでもありましたか?」

 

「……今までもロシアが魔法世界圏内で実験を行うことは多々あった。その影響が魔法圏外に出て近くの村の住民が再教育センターに送られることも一度や二度ではなかった」

 

「が、今回、ヴォルカザヴォスクの工作員から妙な情報が届いた」

 

「?」

 

「彼は焼け焦げた匂いがする。と送ってきたんだ」

 

「すると長官はそこに疑問を?」

 

「確証はないからどうにも言えんが……今現在担当が調べている」

 

「井上長官?」

 

「……もうすぐ来る」

 

まひろの問には答えず、長官は静かに呟いた。

 

「失礼します、魔法省対外政策部英国魔法省担当の佐藤です」

 

間もなくドアが開かれ、現れたのは20代ほどのスーツを着た好青年であった。

 

「先程まで英国魔法省の、ハーマイオニー・ウィーズリー長官と会談を行っていましたが、あちらの方からある情報を提供頂きました」

 

「ご苦労だった佐藤くん」

 

 

「恐縮です、話を戻します。英国魔法省外務局第3研究院で先程の地震の分析が行なわれたのですが『ロシア連邦軍の新兵器ではない』ことが判明したようです。つまり魔法実験だと」

 

「……それで?」

 

「直前に発生した光は科学的に発生したものではなく、魔法、それも大魔法のような一瞬で周囲を焦がすほどの熱エネルギーを持ったものだとも言っていました。それを裏づけるデータとしては、魔法世界を映すことができるJAXAの偵察衛星から収集出来ました。ボルカザヴォスクの一区画が何らかの攻撃を受けたかのように焼き焦げているのはこちらの研究所でも確認済みです」

 

「その様な巨大なエネルギーを出す実験を行うには、なんらかの生贄が必要なはずだ。先の大戦で英雄が使った魔法すら、電気エネルギーに直せばテレビ2時間分足らずのエネルギーであるからな」

 

「その通りです長官。英国魔法省が総力をあげ具体的な情報を求め調査を進めた結果、公には関係がないはずの人民共和国からロシア魔法省へ『不自然な数の物資の供給が確認出来た』と言うことです」

 

「その物資というのは」

 

「……恐らくですが世界魔法輸出機構、条約コード第2831です」

 

「2831……報告ありがとう」

 

「第2831番とは、どのような物資なのですか?」

 

まひろが興味本位で、長官に尋ねる。長官は苦々しい顔のままで答えない。見かねた対外政策部の佐藤が答える。

 

「《魔力を持たない生物。又はその死体か、体の1部》だね。長官の悪い予感が当たってしまったみたいだ」

 

「すると、再三の警告にも応じず再びマグルの家畜の一部を使用しての魔法実験を行なったということか。チッ……大体、生物を使用しての魔法実験は、ミネソタ宣言違反。彼らがやっていることは明確な犯罪行為なのだぞ……」

 

長官がようやく口を開いた。その表情はこの状況に呆れているというよりも、訳の分からないことをしているロシア魔法省に対しての怒りを表していることは誰の目にも明らかだった。佐藤も同じく、此度のロシア魔法省に対しては怒りを感じていた。

 

一方、ことの深刻さが全くわからないまひろはミネソタ宣言について質問する。

 

「ミネソタ宣言とは?」

 

その質問は、やはり佐藤が答えた。

 

「正式名称は非魔法生物全てに対する魔法実験行為の禁止宣言。グリンデルバルド率いる闇の魔術団がやっていた非魔法生物に対しての実験の反省から行われた宣言だ」

 

「宣言といえどもこれを破れば、国際社会からの批判は凄まじいものになる。……いや、それだけじゃない」

 

 

 

 

 

「最悪、アメリカ基軸議会が動きだしかねん」

 

……機軸議会が動く。その言葉で場がしんと静まり返った。もし仮に彼らが動くならば、日本やアジアの魔法世界だけでなく魔法世界全体が非魔法族の目に晒される可能性すら考えられる。状況は、最悪に近かった。

 

するとその時、ドアがノックされ小太りの男性が息を切らしはいってきた。

 

「長官!」

 

「……所属を」

 

「これは失礼……教育機関マホウトコロ傘下、真帆大学院の民族学を担当しております。西村です。長官、人民共和国が輸出した物資ですが」

 

「なにがあった」

 

 

 

 

 

 

 

 

「中華人民共和国が提供し、ロシア連邦が使用した臓物、いえ躰全ては

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……新疆ウイグル自治区の非魔法族のものでした」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年、2月20日 東京結界区画 道三堀町*1にて、日本魔法省対外政策部長の紺堂アイシャは以下のように発表した。

 

 

 

日本魔法庁はロシア魔法省に対し『今回の実験は明確な協定違反である。協定の意義を確認し、これ以上の実験を控えるようにするべきである』と警告。対してロシアは『今回の実験はミネソタ魔術実験協定*2違反では無い。そもそも私たちは、日本が主張するような人体実験は行っていない。我がロシアの新型兵器を魔法圏内で実験しただけだ』と反撃。日本の魔法庁の発表に、世界各国の魔法世界は大なり小なり同様の懸念を示したものの

 

……アメリカ機軸議会は不気味な沈黙を保っていた。

 

 

 

 

時は2020年、かつてヴォルデモートの脅威に震えた魔法世界はかつての友好を忘れ、争い合っていた。

 

きっかけは些細で、だが衝撃的なことからだった。

 

MACUSA解体(2009年2月24日、カストリア新報)』

 

『アメリカ軍は23日、アメリカ合衆国魔法界の最高府『MACUSA』に武力を用いて侵攻』

 

『民主党のクニオ・クシャリア大統領は声明で「アメリカ国民に対し行ってきた『非人道的な記憶処理』や『暴力行為は目に余るもの』である。これ以上の愚行は世界への挑発と捉える。これはアメリカの自由と平等を愚弄するものだ。アメリカの魔術を持たない国民に対するこれまでの所業から、アメリカ魔法省を解体し、非魔法族を攻撃することない、新たな魔法族の組織を大統領府主体で再構築する」と宣言』

 

魔法族にしてみれば寝耳に水。すぐさまアメリカの魔法族は反対運動などの行動を起こすも、全てが手遅れだった。米国では発表の数時間後に『非魔法族による魔法』が世界で初めて使用され、抵抗した住民は例外なく拘束された。その後、米国魔法世界は米軍により出入管理され、世界の魔法界から孤立してしまったのだった。

 

アメリカ最上魔法府新名称は『合衆国属魔法機軸議会(MOAP)(2009年03月04日、赤ミ新聞)』

 

『新代表のベーカー・ハンター議長は声明を発表しアメリカ魔法世界はこれまでの非魔法族への「危害」について全面的に謝罪する。そして、ノーマジの皆様と「友好的な関係を作る」ために一部の非魔法属の投資家、経済人や富裕層にのみ、魔法世界への市場参入を認めると発言した』

 

誰もがおかしいと分かっていた。が、止める術はなかった。そして魔法界はアメリカをはじめとした一部の富裕層と投資家(リーマンショックで爆死した方々)に食い物にされていくのだった。

 

その後、大統領府の言いなりになった米属魔法議会の圧力で、続々と市場を解放していく魔法世界は徐々に荒れていった。イギリスは欧州魔法連合から離脱し、人民共和国は非魔法族による魔法研究を始めた。そんな中での人体実験は各国の懐疑と対立を決定的なものとしたのであった。

 

……これから少しずつ語っていく話は、ハリーポッターの後日譚、ではない。

 

英雄により平和になったはずの世界が再び混乱することになる。ヴォルデモートもいない。グリンデルバルドもいない。

 

 

 

誰も望まない争いの話である。

 

 

 

 

 

 

 

*1
現実世界で言う丸の内周辺

*2
先ほどの協定の別名





補足説明

日本魔法庁(日本魔法界)……傘下に魔術学校や独自の軍隊を持つ日本の魔法組織。妖怪が人権を持っているのが特徴。世界の魔法界からは元々距離を取っていたが、欧州魔法議会の妖怪に対する非人道的な行為を問題視しており、イギリス以外のヨーロッパ、アメリカとの外交は最低限になっている。イギリス魔法省とは皇室ルートと魔法界ルートでのつながりがあり関係は良好。

アメリカ合衆国機軸議会……大統領府傘下の魔法組織。諸悪の根源

アメリカ魔法界……非魔法族により管理されているが、MOAPが把握出来ていない結界などでのレジスタンス運動が確認されているものの、諸外国の魔法世界からの援助もなく抵抗らしい抵抗はできていない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。