城下にて、戦闘が起こっている。との報告を受けた。恐らくは隣国を「解放」した、「光の皇子」の手の者であろう。この城には、「神剣」がある。隣国の王子ならば、今後を見据えて奪還しに来よう。
そもそも、敵が決起したのは予想の範疇だったが、こうも容易く、隣国の軍勢を駆逐しきるとは予定外でしかない。如何に忌々しい程に暴政しようとも、仮にも「聖戦士」の末裔。たかが数十名にも充たぬ戦力しか持たない小勢に破れ去る等、あり得ない、筈だった
更に念を入れて「神剣」の情報を故意に流布させ、最大の脅威たる、隣国の王子を引き離した。にも関わらず砂漠に居た警戒中の魔道士すらも敵の本軍により壊滅した
今は我が配下に命じて、フェンリルの魔道書を持ってこさせている。これでどうにかなろう。彼奴等は戦闘経験が浅い。更には、魔道士との戦闘経験等あったとても数えるほどであることは容易に想像のつく話だ。ましてや、遠距離魔法等の対応が即座に行える筈も無し
まだ年若い者達ばかりといえども、我等が神の敵なれば容赦は出来ぬ。この城は我等が本拠地であった場所。譲れぬ。む、配下が戻ったか、随分と慌てておるようだが、何かあったか?
ままならぬな。宝物庫の件の物は失われ、我がフェンリルも無い
件の物は、恐らく鼠でも忍び込んだか?情報を故意に流布したのが裏目に出たようだ。我がフェンリルは恐らく帝国本土に出立させた奴等に持ち出されたのだろう。あちらに何かしらの手土産が欲しかったか、私はあの総司教の不興を買っておろうし、な。配下の者達には、即刻退去を命じた。最早此処は落ちる。あ奴等まで犠牲にする必要も無し。兵は居らず、敵はほぼ間違いなく「神剣」を使う剣士。勝ち目は、無かろうな
しかし、恐らく、いや間違いなく我らは破れ、我らが神も滅ぶ。帝国の総司教は聴くところによればナーガを秘匿しておるらしい。笑止な事よ。自らの神に牙を剥くかのような振る舞い。其れが綻びを生むことすら解らぬらしい
我々は虐げられてきた。だからこそ復讐を望む者も居た。が、一方では、生き残る為の寄る辺として我等が神を信仰していた者達も居ただろう。嘗て我等が神の為にこの大陸全土を舞台とした謀略。此れに賛成したもの、しなかったものが分かれた。此れではどうもならない、として反発する同胞達を始末した。そして王国王都での悲劇を主導した。が、我等が神を復活させたのにも関わらず、全く虚しかった。我等が悲願はなし得た。が、新たに火種を遺した。此れでは、嘗て我等が受けた仕打ちを今全世界に振り撒いているだけだ
其れに気付いた時から虚しくなった。我等が正しい。筈なのだが
いや、もう何もかも遅い。何が出来たのか、何がしたかったのか、よく解らぬ。