強個性であり、万能的で無敵でもある。ただし、ストレス耐性と胃薬が必要である『完結』   作:サルスベリ

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 そろそろ、本編の主人公とか出さないとマズイかなと思う。

 でも、どうやって絡ませればいいか解らない。

 そんなとき、天啓を得た。

 『爆発させればいいだよ』と。

 じゃ、最初に爆豪だ。

 という風味な話になっています。





情熱は燃やすもの、理性は冷ますもの、感情は爆発させるもの?

 

 

 音楽って、人を夢中にさせるものらしい。

 

「憧れよりも遠いものを求め、さらにその先に向かうために願い、僕らは旅に出た。もう届かないあの空を懐かしみ、何処までも遥か彼方を歩いていこう」

 

 ランチタイムが終わった店内にいるのは、俺と弔と、もう一人はギター片手にバラードを歌っているアインズ。

 

「・・・・・ムウ。今日の弦は乗らないな」

 

「珍しい、アインズが歌の途中で止めるなんて」

 

 なんていうか、何時も勢いで最後まで行くのに、歌詞も途中で投げ出した感じがする。

 

「たまにはそんな日もある。私も万能ではないのでな」

 

「え?」

 

 いや、おまえは十分に万能だよ。魔法使えて、料理できて、作曲作詞できて、医師免許だって持ってるじゃん、司法試験とか一発合格ってどんな頭脳しているんだよ。

 

 医学部、何時の間に卒業したんだよ。

 

「歌に比べたら人体など、物体があるだけ理解しやすいからな」

 

「確かに」

 

 え、何それ。え、待って。アインズはまだ解るけど、弔も頷いているってどういうこと。え、俺だけ。俺だけなの。飛び級ってあるの、医学部。

 

「一郎、世の中は進んでいる。きっと、そう言うことだ」

 

「あれ、俺って今、慰められてるの? え、なんで『解っている、おまえは素晴らしさはそこじゃない』って顔しているのかな、弔クン」

 

「解っているじゃないか。一郎の凄さは、その『ガンガン行こうぜ』だ」

 

「何時、俺がそんなこと言った?」

 

 言った覚えないぞ、そんなこと。

 

「なんだと?!」

 

 あれ、アインズ、なんでそんなに驚愕しているのさ?

 

「うそ、だよな?」

 

 弔、そんなこの世の終わりみたいな顔して、どうしたのさ?

 

 俺が悪いの、え、今の会話の何処に俺が悪い要素があった?  

 

「だっておまえ、追い詰められると『鎮守府』使うだろ?」

 

「追い詰められたら個性くらい使わないの?」

 

「デスザウラーを使うのか?」

 

「・・・・」

 

 納得しちまったぜ、チクショウ。

 

 なんでかなぁ、あれもエルの悪のりで魔改造が進んでるよな。最初の世界の時だって、鎮守府の建物じゃなく『敷地すべて』が変形してデスザウラーだろ。で、次の改造でデスザウラーが巨大ロボになって。

 

 現在、そのデスザウラー自体も巨大な翼をもっていたり、大砲を背負っていたりして、面影が消えかけているんだけど。

 

「・・・・・・は?! 出来たぞ!」

 

「え?」

 

「『ふるえよ我が魂! ロックだバックだドラフトだ! ファイヤー!』だ!」

 

「はい?」

 

「絶対におまえを殺す、潰してミンチだこの野郎、貴様が倒れりゃ俺が前に進める。誰も俺の前を走らせない、一番は俺の専売特許、潰せ、倒せ、ぶっ殺せヤハ!」

 

 いや、何だそれ。アインズがめちゃくちゃノリノリでギターをかき鳴らしているけど、完全にバラードじゃなくロックだよね。

 

 十六ビートとか言ってやればいいのか? 

 

 それともドラムでも出せばいいのか?

 

「いい曲だな」

 

「弔、おまえはちょっとは怒ることを覚えたほうがいいって。自分の店であんなに滅茶苦茶な歌を叫ばれて、怒りとか浮かんでこないのか?」

 

 俺が呆れた顔でそう告げると、弔はしばらくアインズを眺めた後、俺に視線を戻してから。

 

「浮かばない」

 

「お人よしって言われる前に、ちょっと人並みに怒りを学ぼうか、弔クン」

 

「アインズは俺の店を盛り上げてくれる。今もこうやって音楽が流れたら、楽しい店だと思って、ご新規さんが来てくれる。賑わっていた店の終わりに楽しい音楽が流れたら、少しの寂しさも薄れる」

 

「ごめんなさい、俺が間違っていました」

 

 真顔で語る弔に、俺は思いっきり土下座しました。

 

 うん、そうだね、アインズはいい奴だよ。

 

 俺が悪いんだよなぁ、はぁ。

 

「すみません!! 俺を弟子にしてください!!」

 

「え?」

 

 なんかいきなり、見知らぬ少年が隣で土下座しているんですけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 店だとなんだから、場所を移して居間に来てもらった。

 

「爆豪勝己です。雄英を志望しています」

 

「はぁ?」

 

「噂は聞いています! どうか俺を弟子にしてください!」

 

「えっと~~~」

 

 どういう状況なのでしょう、これ?

 

 アインズが何時も通りにランチタイムの終わりに、ロックを歌っていたら、この少年が弟子入り志願してきました。

 

 俺じゃないよ、弔でもないよ。

 

「フム、理由を聞いてもいいかな、少年?」

 

「はい! 昔、貴方の歌を聞いて惚れました!」

 

「昔か。なるほど、まだまだ青い頃の私の歌を。恥ずかしいかぎりだな」

 

「いいえ! あんな魂にガツンとくる歌はなかった! だから俺は貴方に弟子入りして戦って歌って勝てるヒーローになりたい!」

 

 お、ヒーロー志望の少年か。雄英ってのは、確かヒーロー目指す学生が入る学校だったよな。

 

 あれ、そこはオールマイトが教師することになってたんじゃ、なかったっけ。

 

「戦って歌って勝てるか、言うは容易いが行うは難しい。私でさえ、歌って勝ったことはない」

 

「貴方でも」

 

 なんか、悔しそうにしている爆豪君。アインズの実力は知らないけど、かなりの強者だってのは感じているのかもな。

 

「一郎、俺は正直に話したほうがいいと思う」

 

「そうだよな」

 

「彼は知らないだけだ。真実を話すべきだ」

 

「確かに知らないよな」

 

 うん、知らないんだよな。アインズが、歌って勝ったことがないのは本当のこと。戦いの中でも、誰かと敵対したとしても、アインズは歌いきって勝ったことは一度もない。

 

 だってさ、歌い始めて歌い終わるまでに戦闘終了だぜ。そもそも、魔法の詠唱を『脳内で出来る』アインズを前にして、最後までたっていることは奇跡だって。

 

「故に私から君に教えられることはない。申し訳ないが、君は君の道を自分で歩んでいくしかない」

 

 ギュッと唇を噛んで爆豪君が俯いている。あれって、きっとかなり長い時間をかけて探したんだろうな。

 

 え、でも、ガイコツでギターを背負っているなんて、解り易いと思うんだけど、今まで探せなかったってこと。

 

「だがしかしだ!」

 

 話は終わり、と思っていた俺がいました。

 

 なんかアインズが突然に叫んで立ち上がって、背負っていたギターを差し出していますよ。

 

 あれぇ~~~。

 

「君の情熱はよく解った! ならば私は同じ道を志すものとして、これを贈ることにしよう!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 あ~~爆豪君、泣いているよ。そんなにアインズに会いたかったのか、言ってくれたらいくらでも会わせてあげたのに。

 

 いや、知らなかったから言えないか。

 

「ところで君の個性を聞いてもいいかな?」

 

「はい! 俺の個性は『爆発』です!」

 

「な?!」

 

 アインズ驚愕。アゴが外れんじゃないかってくらい、口を大きく開いているけど、そんなに驚くことか。

 

「君の個性は爆発なのか?」

 

「はい!」

 

「なるほど、なるほど・・・・・これが運命か!」

 

 あれ、ちょっとアインズ。なんでガッツポーズ。なんか、ようやく勝てたボクサーみたいな見事なガッツポーズだけど。

 

「君に見せたいものがある」

 

「え?」

 

 ガッシリと爆豪君の肩に手をまわしたアインズは、そのまま家の中ではなく『鎮守府』の方へ連れて行ってしまった。

 

「俺は凄く嫌な予感がするんだけど、弔はどう思う?」

 

「奇遇だな、一郎。俺も凄く嫌な予感がする。具体的には、『おまえらなに爆豪を変な方向に向けてんだよ』と、方々から怒られるくらいに、な」

 

 あ、そう。いやそれはもう弔と黒霧で覚悟しているからいいけど。

 

 待った、本当に待った、アインズの奴は何をさせるつもりなんだ。『鎮守府』って何を見せる、っておい!!

 

「まてアインズ! おまえ並行世界の記録とか・・・」

 

「『感情を爆発させろ! おまえの歌はそんなものじゃない!』」

 

 時すでに遅し。俺はその日、過去の偉人達の偉大な言葉を実感しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼にとって、それはまさに理想の極致。

 

 何万の敵を体一つで叩き伏せ。向かってくる強敵にひるむことなく突き進み、どんな窮地も歌を相棒に駆け抜ける。

 

 止まらない、誰も止められない、歌い出したらもう止まらない。道を阻むものなど何もない。

 

 情熱を燃やし、理性を冷やし、そして感情の爆発のままに突き進む。

 

 彼にとって、その映像の人達はまさに理想そのもの。

 

 圧倒的強者。

 

 他者を寄せ付けない孤高の存在。

 

 仲間と前に進み、正義のために世界を救う。

 

「次だ」

 

 アインズの手は止まらない。なんだこれは、と爆豪は思う。この映像の人達は見たことがない。アニメか、あるいは特撮か。自分が知っているヒーローとはまったく違う。

 

 けれど、彼らはまさにヒーローだ。心の底から熱くさせてくれる、魂が震えるほどに魅せられる。

 

「では、最後だ」

 

 そして衝撃が、爆豪の心を揺さぶった。

 

 戦場を舞う戦闘機。幾つもの火線をくぐり抜けながら、一度の反撃もせずに歌い続ける。敵も味方も関係ない、命のやり取りを行う戦場にありながら、彼は常に自らの歌で周囲を魅了し続けた。

 

「私の理想だ。まさにロック、歌うものとして彼に並びたいと考えている」

 

 そして最後に爆発とともに、彼は叫んだ。

 

「ファイアー」

 

 自然と爆豪も同じ言葉と呟き、拳を握った。

 

「俺は目指す者を見つけた」

 

「ああ、君も理解してくれたか。そうだ、彼こそが我らが目指す者」

 

「そうか、そうかよ」

 

 沸々と心の中で何かが燃える、グツグツと音を立て始めた何かに突き動かされるように、爆豪は笑みを浮かべて拳をさらに強く握る。

 

「アインズさん! 俺は見えた! もう迷わねぇ!!」

 

「そうだ爆豪! 私はおまえに道を示した! 後は自らの考えで進むのみだ!」

 

「ああ!! ありがとうアインズさん! 俺はこの道を極める!」

 

「見事な決意だ! ならば私も負けぬように研鑽しよう! 目指すは!」

 

「歌って勝てるヒーローだ!」

 

「その意気だ!」

 

 グッと拳を突き出し、爆豪は宣誓した。

 

 その背をアインズは誇らしげに眺めながら、こう思う。

 

 『いつか、特撮ヒーローみたいな登場シーンをやってくれないかな』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日から、爆豪君はよく家に来ては、戦隊ものの映像を見てはポーズを決め、シンフォギアとマクロス見ては熱唱していった。

 

「一郎さん、俺は狭いを世界を見ていたんだな」

 

「そうだね~」

 

 もう適当に頷いとくしかない。彼が進んだ道が、彼自身に対して何かしないことを祈るしかない。

 

「情熱を燃やさないと、俺はまだまだ個性を使いこなせていない」

 

「そうだな。個性は磨けば磨くほどに高まる」

 

「弔さん、ありがとうございます」

 

「精進しろ、爆豪。おまえの努力は必ず個性を磨く」

 

「はい!」

 

 あれ、弔がなんだか応援しているんだけど、何で? 最初は『マズイことになった』って俺と一緒に考え込んでいたのに。

 

「そして、火力の調整を可能にして、俺の料理に磨きをかけてくれ」

 

「やっぱ、おまえってブレないよな」

 

 弔はやっぱり、弔でした。

 

 まったくこいつはアインズのやり方に乗っかって、爆豪君に何をさせるつもりだよ。爆発を使った料理って、何があったっけ?

 

「ステーキを瞬間火力で作ると、おいしくなるらしい」

 

「え、それって都市伝説じゃ?」

 

「ディナー用の火力が欲しかった」

 

「本当におまえは何をさせるつもりなんだよ?」

 

 半眼になって見つめる俺に、弔は清々しい顔で答えた。

 

「料理だ」

 

「あ、そうね」

 

 もう放っておこう。

 

 爆豪君に悪い影響が出ないように祈りながら、俺はこの問題を放っておくことにした。

 

「やってやったぜこのヤロー!」

 

 後日、爆豪君がギター片手に歌いながら、ノリノリで戦隊ものみたいな登場シーンをやっているのを見て、アインズって愉悦部よりは育成に向いているんじゃないかって思った。

 

 気の迷いだろうな。

 

 そして、その時の俺は知らなかった。爆豪君がここに染まったことで、もう一人の哀れな生贄が来ることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここかな、かっちゃん」

 

 

 

 




 というわけで、爆豪君、ロック歌手ヒーローになるでした。

 アイディアをまとめている間に、『あれ、爆豪の個性ってヒーローものの登場シーン再現できんじゃね?』とか思った私は悪くない。

 ロック歌手になれそうなヒーロー衣装だな、とか思った私は悪いと思う。

 という話です。

 気の迷いがなければ、次の話は『デク君、武器庫化計画』になります。

 的な風味の話でした!




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