強個性であり、万能的で無敵でもある。ただし、ストレス耐性と胃薬が必要である『完結』   作:サルスベリ

12 / 51
 


 デク君、艦娘化!

 いや違うか、デク君艤装装着形体誕生。これで彼は無個性じゃなくなったぞ、下手なヴィランなら叩き伏せるだけの戦力を手にしたわけです。

 力を手に入れたら、何をしますか。

 人に自慢しますか?

 異性にモテたいですか?

 世界征服しますか?

 ヒーローしましょうよ!

 その前に、大切なものがありますよね?

 といった風味な話になっていますよ。






掛け声って大切だよね、気合いが入るよね

 

 金属の心地いい音って、妙にカッコイイって思う瞬間って、ありませんか。え、ない? あ、そうですか。俺だけなのかなぁ。

 

 どうも、田中・一郎です。

 

 デク君、ついに無個性のまま個性を持った相手を下す。

 

 相手が何の個性を持っていても、けが一つなく傷一つなく圧倒。もうね、無双ですよ、無双。だって、艦娘の艤装って『艦艇と同じ』なんだぜ。

 

 人型サイズに縮小されているから、威力も装甲も落ちているんじゃないのって誰もが考えるよね。

 

 とんでもない。霊的な何かが重なった結果、軍艦時代の装甲と火力が倍加している場合のほうが多い。

 

 しかも、デク君が適合したのは土佐型。空母とか、戦艦じゃなくね、『超超超弩級戦艦空母・土佐』のだからね。

 

 七百メートル以上の船体に、五十二センチ三連装が二十四基。飛行甲板二つに魚雷まで搭載した、化け物軍艦。

 

 重力子機関の有り余るエネルギーがクライン・フィールドを強固にして、超重力砲の直撃を平然と受け流すって、もう何してんのこいつらって装備なんですよね。

 

 俺の昔の知り合いが、『てめぇ、超戦艦五隻分の装備じゃねぇかよ。ミラーリングどうした、おら?』とか言うくらい、キチガイな性能なんですよね。

 

 あ、ミラーリングって次元のはざまに攻撃を反らすことで、防御する『絶対防御』の一つらしいんだけど。

 

 デク君がいくら頭がよくでも、量子コンピュータには勝てないので搭載してないはず。

 

「超位魔法!」 

 

「ミラーリング・システム!」

 

 あれぇ~~~なんだか普通に使っているけど、何で?

 

 え、搭載してないのよね? 搭載したって話は知らないけど。

 

 俺だけ、俺だけがまた知らなかったの?!

 

「コナン!! どういうことだよ!?」

 

「あのな、マスター」

 

 そこで俺を見るコナンの目は、呆れていました。笑っているんだけど、眼は確実に『こいつは、またかよ』って言っていました。

 

「あいつら、霧の艦艇みたいなもんだろうが」

 

「だからってデク君じゃんか!」

 

「妖精さん達はいないと思ったのか?」 

 

「くあ?!」

 

 わ、忘れていたぜ。妖精さん達だよ。今もデク君の汗を拭ったり、艤装の中で整備したり、デク君のコスチュームのところどころにひっついて、補修している妖精さん達を忘れていたぜ。

 

「量子コンピュータ並らしいぜ。一人一人が」

 

「俺達、デク君に何をあげたんだっけ?」

 

「武器庫だな」

 

「そっか、そうだよなぁ」

 

 凄いいい顔で訓練しているデク君を見ながら、俺は笑うことにした。

 

 俺、オールマイトに殺されるかもしれないなぁ。あ、でも大丈夫か。あの人はヒーローだから、許してくれるさ。

 

 うん、きっとそうだ。

 

 フラグじゃないよ?! 本当にそう思っているだけだからな!

 

「マスター」

 

「な、なんだよ、コナン。なんで俺の肩を掴んで・・・・」 

 

 なんだか優しい声で俺の肩を掴んだコナンを見るために振り返ると、訓練場の入口に立っている金髪筋肉のヒーローがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の個性、『手のひら鎮守府』は、かなり応用がきく能力だ。他の世界の知識を収めた資料室やら、作戦を考えるための会議室、それから資材倉庫や艤装の整備工廠。

 

 それにエルとソープの怪しい研究所や、アインズの野外ステージ。物資の精製場とか。

 

 簡単に言うと、皆が考える鎮守府、あるいは軍事基地みたいなものがそっくりそのまま異世界にあって、必要なものを必要な時に取り出せるってこと。

 

 逆に、目印をつけておけば、そこに『入っていける』から、よく弔とか黒霧は訓練場で個性訓練しているんだけど。

 

 たまぁに、外では被害が出るから訓練できないってヒーローが、訓練場を使っているんだけどね。

 

 そう、噂のナンバーワンとか。

 

「いいかね、田中少年?」

 

「もうちょっと待ってください、オールマイト」

 

 説明乙、現実逃避してんだよ。解ってるだろうが。

 

「私も、大人だから待つとしよう。しかし! 根気強い私でも、限度があるのを忘れないでくれないかな?」

 

「は、はい。もちろんです」

 

 ク、怖い。本当に怖い。こんな恐怖を最近は、何度も味わっていないだろうか。しかし、この怖さはあれだ。ギルを召喚して二年後、あいつが楽しそうに笑っている時に、『英雄王、俗世に染まる。プ』って笑った時以来だ。

 

 うん、あの時のギルは凄い残念そうな顔の後に、笑顔でエアを抜いたんだよな。本当、天地を切り裂いたとか、原初の地獄を作り出したって一撃は、凄い威力だったよ。

 

 俺、よく生きてたなぁ。

 

「田中少年?」

 

 ふぅ、そろそろ向かい合うとするか。

 

「どうぞ、オールマイト」

 

「よろしい・・・では」

 

 その日、俺は彼がナンバーワンだと改めて知ったのでした。っていうか、怖いよ、なんだよあれ。お説教だけなのに、死ぬ思いだよ。なんで俺ばっかりこんな目に合うんだよ。

 

 俺が悪いのか、俺がダメなのか。俺が罪深いからか、あれか何回も転生しているから幸運が逃げているのか。

 

「ギル~~~幸運を上げる宝具かして」

 

「マスター、幸運とは自分でつかみ取るものだ」

 

 お説教が終わった後、俺は速やかにギルに泣きついた。そろそろ、俺は限界かもしれない。

 

「解った」

 

「待て! 貴様は何をしようとしている!?」

 

「え、令呪を使って」

 

「令呪を思い出したと?! ま、待て話せば解る」

 

 フフフフ、ギルぅ。おまえの令呪への耐性が落ちているのを、俺は思い出したんだぜ。

 

 今のおまえは令呪の強制力に逆らえない。しかも、俺の令呪は神様特典で強化されている。

 

 『神様クラスでも大丈夫さ』と、いい笑顔で言った神様に、俺は感謝しているのさ!

 

「待て、待つんだ、マスター! 何をするつもりだぁぁ?!」

 

「令呪を持って命じる! ギルガメッシュよ!」

 

「貴様ぁぁぁぁ!!」

 

「俺に幸運くれ!」

 

「は?」

 

 何を呆けているんだよ、ギル。いいから俺に幸運くれよ、絶対にその手の宝具、持っているだろ。いいからよこせ、俺に幸運をくれよぉぉぉ!

 

「マスター、それは不可能だ」

 

「え、何で?」

 

「おまえの幸運は転生と我とコナンの召喚、アインズ達を招いたこと、鎮守府を強化し、絆を多くの者と結んだことで使い果たした。増加はしない」

 

「え?」

 

 あれ、なんだろ、ギルの姿が歪んでいる気がする。え、あれ、そうなの。俺ってもう幸運が上がらないの。

 

 は、はははは、おかしいな、俺は立っているはずなのにさ、今すぐに意識を失いそうだよ。眠いのかな?

 

 お休み。

 

「田中少年」

 

「はいオールマイト?!」

 

 怖?! な、なんだ俺は何をしていたんだ?! え、待った俺はギルに令呪を使って、使って。

 

「何があったんだろう?」

 

「戻ったか。ならばよろしい。では、話を続けよう」

 

「え、オールマイト。お説教は終わりなのでは?」

 

 続くの、止めてもうダメだよ。俺のライフをマイナスにするつもりですか? 

 

「いやお説教ではなくな。緑谷少年の装備のことだが、防御はかなり高いと聞いたが?」

 

「そりゃ、軍艦の装甲ですから」

 

「なるほど。では」

 

 ではって・・・・・・・はい?

 

「私の攻撃を受けられるかな、緑谷少年?」

 

「お、オールマイト?! もちろんです!」

 

「では行くぞ!」

 

「はい!!」

 

 え、あれ、何してんだろ、あの二人? え、待って、オールマイト。なんで初対面のデク君に攻撃、え、全力。

 

「ちょ!?」

 

 そして、俺は衝撃で弾き飛ばされたました。

 

 ここ、俺の個性の中なんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハーハッハッハッハ! いやすまないね。重装甲の防御と聞いて思わず試してしまったよ」

 

「いえ! 僕も憧れのオールマイトと試合できて嬉しかったです!」

 

「そうかそうか」

 

 目の前で笑い合う二人を見つめ、俺はそっと右手を握り締める。

 

「エル、俺は今ならデスザウラーを完全に使える気がする」

 

「え、はい。使うんですか?」

 

「ああ、使える気がする」

 

 沸々とわき上がるこの感情はなんだ。この全身を締め付けられるような、それでいて何もかも切り裂きたいようなこの気持ちは。

 

 俺は、そうか、そう言うことか。この感情は。

 

「まさに愛だ」

 

「ちっがぁぁぁう!! 弔おまえはなぁ?!」

 

「違うのか?」

 

 え、そこできょとんと見るの、弔クン?

 

「愛なのか?」

 

「あ、愛ですか?」

 

「そこ! オールマイトとデク君! 違うから俺は普通に女の子が好きな男の子だから!」 

 

「不純異性交遊はヒーローとして認められないな」

 

「オールマイト!! なんでそんなに真顔で問い詰めてくるんですか?!」

 

「いや、君の周りには美少女ばかりだからね」

 

 美少女? え、誰のこと?

 

 あれ、と周りを見回して俺はエルとソープが手を振っているのを見て、慌てて首を振った。

 

「あいつら男ですから!!」

 

「何を言っている、田中少年。もちろん知っているぞ」

 

「じゃ誰のことですか?!」

 

 艦娘か?! 彼女達ならば美少女ばかりだから納得だけど。

 

「彼女のことだよ」

 

 オールマイトが指さした先、何故か猫耳をつけた『トッティ』君が。 

 

「え?」

 

「彼女は女性だろう?」

 

 驚愕の事実、エイリアン『トッティ』君は、実は『トッティ』ちゃんでした。

 

「え?」

 

「マスター、おまえまさか知らなかったのか?」

 

 コナンが呆れた顔で見てくるので、俺は小さく頷いておいた。

 

「はぁ、あいつ『エイリアン・クィーン』だぜ」

 

 あ、確かに女性でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訓練が終わり、デク君は艤装を解除した。パッと光って艤装が消えて、彼の首元にペンダント形の船がぶら下がっているんだけど。

 

「完璧に使いこなしているな」

 

「ありがとうございます、弔さん」

 

「ああ、後はあの訓練だな」

 

 え、あれ、何か残っていたのか。 

 

「一郎、とても大切な訓練が残っているんだ」

 

「とても大切な? でも、艤装は使えてますし、展開も問題ないので。後となると」

 

 デク君も困惑しているな。俺もそうだよ。艤装が使えているんだから、問題ないんじゃないのか。

 

 あ、戦闘訓練か。あれは確かにまだまだ経験値を積まないとだめだよな。 

 

「一郎、戦闘訓練じゃないぞ。あんなのは戦っていれば自然と身につくものだ。実戦こそ訓練に相応しい」

 

「え? え?」

 

「死柄木少年は、時々かなり無茶なことを言うな」

 

「弔ぁ」

 

 真顔で言っているから、本気なんだよな。確かに弔って実際に戦って経験値を稼いで、実戦で成長するタイプなんだよな。

 

 だからって頭脳派のデク君にそれを押し付けるなよ。

 

「解んねぇのかよデク!!」

 

「かっちゃん?!」

 

 うぉ!? え、爆豪君、どっから来たの?

 

「駅前で歌っていました。俺のロックな魂が、今日は駅前で歌えと告げていたので」

 

 ビシッと決めた彼の横顔は、とてもかっこよかったです。

 

 でもさ、それってロック・シンガーとしてだよね、ヒーローとしてはどうなのさ。

 

「パトロールも兼ねていましたので」

 

「俺の心を読まないでくれないかな、爆豪君」

 

「一郎さんは顔に出やすいですよ」

 

 年下に断言されました、泣いていいよね。

 

「それで、だ。デク」

 

「う、うん、なにかっちゃん?」

 

「次の訓練って言ったら、決まってんだろうが。俺達がヒーローになるのに必須な」

 

 凄い気迫だ、爆豪君はこの訓練にすべてをかけているみたいだな。そんなに大切な訓練が残っていたのか。

 

「そうだな。君たちには雄英に入るための試験勉強を・・・」

 

「ヒーローに大切なのは『変身の掛け声』と登場ポーズだ!!!」

 

「しっかりと行って・・・・へ?」

 

 珍しいものを見てしまった。オールマイトが間抜けな顔しているけど、こんな状況に出会えるなんて。

 

 うんうん、そっか、掛け声と登場ポーズ、はい?

 

「かっちゃん」

 

 ほら、デク君も呆れているじゃないか。爆豪君の手を握って、キラキラした眼を向けて。あれぇ~?

 

「そうだよね! 変身と登場ってヒーローのだいご味だよね?!」

 

「解ってきたじゃねぇか、デク。そうだ。俺達に足りないのはそれだけだ」

 

「いや、ヒーローには資格があってね」

 

「そっか、そうなんだ。よし頑張って考えないと!」

 

「へ! 俺が先だデク!」

 

「負けないよかっちゃん!」

 

「だから、君たちね」

 

 気合の乗った少年二人を前に、いくらナンバーワンでも立ち向かえなかったみたいですね、オールマイト。

 

 俺はそっと彼の肩に手を置いたのでした。

 

「田中少年、最近の若者はどうしてこう人の話を聞かないのか」

 

「オールマイト、それを言ったら年寄りですよ」

 

「そうか、私も年をとったということか。後継者を探さないとな」

 

「だから雄英の教師をやるんでしょう?」

 

「そうだな。その通りだ」

 

 フッと遠い目をするオールマイトの背中は、何処か悲しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試行錯誤を繰り返した爆豪君とデク君は、その後に見事な変身の掛け声と登場ポーズを完成させることになった。

 

 うんうん、見事だって言っておくよ。なんだか、ソープが凄い興奮して食いついていたし、アインズも滅茶苦茶絶叫していたけど。

 

「マスター、我も久しぶりに考えてみたくなったぞ」

 

「俺もそろそろ新しくするか」

 

「え?」

 

 はい、なんでギルとコナンが乗っているのさ。

 

「私もやりましょう」

 

 黒霧、待っておまえは待ってくれ。

 

「俺もやろうかな」

 

 弔、なんで仮面を見つめて微笑んでるんだよ。なんだよ、何があったんだよ、お前ら。爆豪君とデク君に触発されたのか、え、待って。その全員で俺を見るのはやめてくれよ。

 

「一郎、共に決めポーズまで完成させよう。おまえならやれるさ」

 

「がんばりましょう、一郎君」

 

「ふ、二人して優しく言っても俺はやらないからな!」

 

 その後、俺の周囲にはいかにかっこよく変身の掛け声から登場、最後の決めポーズを決めるかまでが、ちょっとしたブームになったのでした。

 

「はっはっはっはっは! 私が来た!!」

 

「オールマイトまで。なんでそこまで染まったんですか?」

 

「いや、田中少年。私はプロ・ヒーローとして、このスタイルをずっとだね」

 

「はぁ、ずっと信じていたのに」

 

「待ちたまえ! 何か君は勘違いしていないかね!? 私はプロ・ヒーローだからこそ!」

 

「オールマイト」

 

「その憐れんだような瞳は止めてくれないか?!」

 

 ああ、今日も世界は平和みたいだねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄い暗闇に、光は灯されない。

 

「いい個性だ」

 

「か、返せよ、俺はそれを・・・・」

 

「フフフフ、君は転生者だね? この君の個性は私が使わせてもらよ」

 

 足元に転がった少年を見下ろし、彼はそれを握り締める。

 

「オールマイト、君に見せてあげよう。残酷なまでのヒーローという者をね」

 

 『オール・フォー・ワン』はそれを腰に巻き、手を添える。

 

『祝福の時、来たれり!!!』

 

「なるほど、これはいいものだ」

 

 闇の中、さらに深い闇が鼓動を始めた。

 

 

 

 

 

 






 転生特典は個性、ということは個性を奪われると、こうなる。


 主人公の力を使うヴィランって燃えますよね?

 という風味ですを。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。