強個性であり、万能的で無敵でもある。ただし、ストレス耐性と胃薬が必要である『完結』   作:サルスベリ

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 転生者を狩り、転生特典の個性を奪っていくオール・フォー・ワン。

 変貌していくデクと爆豪に、巻き込まれるようにストレスを感じ始めたオールマイト。

 原作とかけ離れた物語の結末は、誰も知らない。

 だって、筋書きもプロットも、何も考えていない行き当たりばったりだから!

 原作崩壊タグがついているから大丈夫!

 あ、最終話は出来上がっていますのでご安心を。

 今回のお話は、暴走特急乙女がメインです。

 という風味の話でお送りします。







乙女の決意はどっかの超人を圧倒する、かもしれない

 

 

 彼女は考える。

 

 自分に足りないものは何かを。毎日、よく通う喫茶店の何時もの場所に座って、ジッと外を見つめながら手元のアイスティーをストローでかき混ぜていく。

 

 昔はもっと周りなんて関係ないって思っていたのに。

 

 自分以外は異質なんて切り捨てて、周りの戯言なんて気にしたことないのに。

 

 自分は自分。他のことなんて知らない。こんなのは、馬鹿げた話でしかない。普通に笑顔で好きに生きていただけだったのに。

 

 でも、出会ってしまった。見つめていたい、自分だけを見てほしいと心の底から願う人に。もう昔になんて戻れない、周りのことを気にせずにいられない。彼が自分をどう思っているのか、どう見ているのか、ずっと気になっているのに問いかけることはできない。

 

 ストローが渦を描くアイスティーに、一度も視線を向けない。ずっと目線は外に固定されて、小さくため息をつく。

 

 あの店、もっと言えば、田中・一郎が働いている店。

 

 どうすれば彼を真っ直ぐ見れるだろうか。どうすれば、彼とお話しても緊張せずに済むのか。

 

 グルグルと毎日、考える。いっそのこと彼の傍にいて、毎日のように店に通えば耐性がつくのではないか。

 

 よっしと気合を入れて立ち上がりかけて、一郎の顔を思い浮かべて座り直す。

 

 ダメだ。思い出しただけで顔が赤くなって、全身の力が抜けてしまう。もう立ち上がれない、あの声を思い出すだけなのに、自分の体じゃないように熱を持って、心臓がうるさいくらいに音をだしている。

 

「はぁ」

 

 小さくため息をついて、トガ・ヒミコは視線を店の方へと投げた。

 

 一郎君、一郎君と心の中で呟くだけで全身が熱くなって、胸の奥から暖かい気持ちが溢れてくる。前にはこんなことなかったのに、今ではこの気持ちが全身に満ちて、それが心地よくて楽しくて。

 

 でもとても苦しい。彼の傍にいたい、声を聞きたい、香りに包まれたい、彼の血に触れてみたい。全身で彼を感じたい。もっと近くで、もっと触れるくらいの距離で。

 

 願ってみても、体は動かない。こんな気持ちを知られたら、彼はどう思うだろうか。笑ってくれるだろうか、微笑んでくれるだろうか、照れてくれるだろうか。

 

 もしも、もしも彼に拒絶されたら。気持ち悪いと言われてしまったら。そう考えるだけで全身が震えてくる。そんなこと言われたら、生きている自信なんてない。速やかに首を落として死ぬ自身の方が強い。

 

 確かめたいのに、確かめたくない。

 

 もう少し前に出るべきなのに、どうしても一歩が踏み出せない。自分の個性を思い出して、自分の生い立ちを思い返して、彼の近くにいたら迷惑になるのではないかと考えてしまう。

 

 どうして何故、そんなこと関係ない。自分の心がそう呟く、彼を手に入れて彼を自分の傍において、逃げられないように四肢を斬って、体だけ持って帰ればいい。そうすれば、もう彼は自分のもの。

 

 絶対にダメ。彼は皆のもので、一人が独占していいわけがない。彼を独り占めするなんて世界に対しての損失だ。

 

 両極端な意見が自分の中でわきあがり、口論になって体を縛ってしまい、今日もヒミコは店に入ることなく、喫茶店で過ごしていた。

 

「はぁ」

 

 たまに零れる溜息が艶やかで、妙に色っぽい。女子高生の制服を纏いながら、大人の女性も負けるような色香を出す彼女は、近所では密かに噂になっていた。

 

 『ため息の天使』とか。

 

「ああ、一郎君」

 

 そして今日もヒミコは、うっとりした顔で彼の一日を観察するのでした。

 

 相手の感情も状況も関係なく、自らの愛ゆえに相手を追い求め、一時も忘れることなく思い続け、狙い続ける。

 

 人はそれを『ストーカー』という。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒィ?!

 

 な、なんだ? 今、妙な寒気がしたんだけど、何かあるのか。ここ最近、妙に寒気を感じることが多いんだけど、何があったのかな?

 

 今度、ソープあたりにお祓いしてもらうか。それか、ギルに宝具でも貰おうかな。

 

「一郎、具合でも悪いのか?」

 

「妙な寒気がしただけだから、大丈夫だ」

 

「そうか。もうそんな時間か」

 

 え、時間ってなんだよ。俺の寒気って時間で来るの、いやそんなことないだろうが。

 

「弔さ、何か知っているなら教えてくれないかな?」

 

「俺は知らないな」

 

「そっか。そうなんだ、と誤魔化されないからな」

 

 絶対に何か知っているだろ、お前。目線がちょっとそれたぞ、おまえが嘘つく時って、俺から目線を反らすんだよ。昔っからそうだろうが。

 

「気の所為だ。目にゴミが入っただけだ」

 

「俺の思考を読むなよな。まったく、本当に何か知ってるわけじゃないんだな?」

 

「ああ。ヒミコが見つめているだけだ」

 

 はい? えっと、何か言ったようだけど、声がそこだけ小さくて聞き取れないんだけど。

 

「何でもない」

 

「いや、だからさ」

 

 弔に質問しようとして、店のドアが開いた音がして顔を向けた。お客さんが来たから、弔への尋問は後にしよう。尋問だ、絶対に聞きだしてやる。

 

「ヒミコちゃん、いらっしゃい」

 

「お、お邪魔します、一郎さん」

 

 珍しいお客さんだね、今日も可愛いよね~~。これで弔狙いじゃなければ、なあと思うんだけどさ。仕方ないか。

 

 はにかんだ笑顔も可愛いし、頬がちょっと赤いのもいいね。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 はい? え、なんでヒミコちゃんにお礼言われたのかな? あれ、俺って何も言ってないはずなのにさ。

 

「どういたしまして」

 

「ご注文は?」

 

 おい、弔、俺の癒しの時間に割り込むなよ。まったくさ。

 

「おススメで」

 

「解った、大丈夫か?」

 

「私のライフは残り三です」

 

 なんか、二人してコソコソと話をしているけど、小さくて聞こえないんだよ。もっとはっきり喋りなさいよ、弔クン。

 

「一郎、テレビでもつけるか?」

 

「え、いいの? おまえ、店をやっている時はつけないって」

 

「特別だからな」

 

 珍しいこともあるもんだ。弔って食事の時には、味を妨害するなんて考えでテレビはつけさせないんだよな。アインズの歌はいいって理屈は分からないけど。どっちも音と映像で、料理に集中させないような気がするけど。

 

『私の歌を聞けぇ!』

 

「お、フロンティアだ。これ、何の映像?」

 

「街角で発見の歌姫じゃないか? アインズも映っているし、エターナルもいるからな」

 

「へぇ~~~そんな番組があるんだ。あれ、エルとソープもいない?」

 

「あいつらはギターもベースもできるからな」

 

 ウソ、そんな技能があったの。俺は知らないんだけど。

 

「ちなみに、ドラムはコナンだな」

 

「あ、本当だ。確か、『新一形体』だったっけ?」

 

「一日二時間限定のらしいが」

 

 本当に珍しい、コナンがあの形体を使っているってほとんど見たことないんだよな。子供の姿のほうがやりやすいとか、色々なところに紛れ込んでも『ごめんなさ~い』って子供っぽく答えれば、大抵のところは許されるらしいし。

 

 それに、フロンティアとエターナルは姿は『マクロスF』のシェリルと『ガンダムSEED』ラクスだから、歌っている姿は様になっているんだよな。

 

 これも、俺は知らなかったけど、引き当てた時に当時の知り合いが大騒ぎしていたんだけど、あの頃は『へぇ、そうなの』だけで終わってたんだよな。

 

 後になって、戦闘時に凄い焦ったけど。

 

「い、一郎君は、ああいうのが好み、ですか?」

 

「え、いやまあ」

 

 ヒミコちゃんから、珍しく声をかけてくれた。

 

 好みって言えば、どうなんだろう。可愛いとか綺麗とかって思うけど、はっきり言って自分の艦娘だからね。

 

 あの世界では全員と関係を持ったけど。襲われたけど、いい思い出だよ。

 

「・・・・そうですか」

 

「え、あれ、ごめん。まあ、アイドルには憧れるよね」

 

 男なら誰でもさ。

 

「馬鹿だな、一郎」

 

「へ?」

 

 何故か、弔が凄い呆れた顔で見てくるんだけど、何で?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇気を出した甲斐はあった。

 

 ヒミコは内心で狂喜乱舞しつつ、表に出さずにテレビを見ている一郎を盗み見ていた。

 

 ああいうのが好みか。アイドルに憧れるのか。つまり、自分を見てもらうためには、ああいった感じになればいいのか。

 

 そうときまったら、実行あるのみ。

 

「ご、ごちそうさまでした」

 

「うん、ありがとうね、ヒミコちゃん」

 

「は、はい、また、来ますね」

 

 笑顔で手を振る一郎に手を振り返し、ヒミコは店から出て、足を進めていく。次第に大きく足を出して、やがて早歩きになって、最後には走り出した。

 

 一郎の好みは知れた。可愛いと綺麗であり、アイドルのような女性がいいということだ。

 

 つまり、だ。

 

「一郎君に好きになってもらうためにはアイドルになるのが一番!」

 

 清々しい顔で、ヒミコは街を走り抜けた。

 

 目標は決まった、後は手段の選定と結果をもぎ取ってくるのみ。決意の決まったヒミコは、もう止まらない暴走状態。

 

 最後の『アイドルになる』に辿り着くまで、決して止まるつもりなんてない。誰も邪魔させない、邪魔するなら悉くを斬り捨てる。

 

 まずはどうすればいい。アイドルになるには事務所のスカウトに呼び止めら得っるのが一番の近道。

 

 携帯で検索した後、スカウトマンが多い場所へ行く。

 

 足を向けかけたヒミコは、鏡に映った自分を見て、足を止めた。

 

 ルックスは行ける気がする。見た目は上の方だ、と思い込みたい。かっこうは制服、これは駄目ではないか。

 

 いや平日に学生が制服も着ずにいるのは、他の方々にスカウトされてしまうからこのままで行こう。

 

 もし、警察の御厄介になってしまったら、あの一郎にどんな目で見られるか。もしも『え、そういう子』なんて思われた。

 

 想像した未来を思い浮かべ、ヒミコは蒼白になって首を振った。

 

 よし、このままで行こう。汗はかいているが、時間が惜しい。けど、ちょっとお化粧直しをした方がいいか。元々、そんなものはしていないが、身だしなみに気を使うのは乙女の必須。

 

 アイドルになろうとするなら、もっと重要なものになってくるのではないか。

 

 どうするか。お化粧道具はある。鞄の中に一式、そろってはいるが一郎はナチュラル・メイクのほうが反応がいいため、それほどの道具は揃っていない。

 

 何処かで購入するべきなのでは。目的地とは別方向へ足を向けかけて、ヒミコはハッと思いなおす。

 

 違う、目的は一郎に『好きになってもらう』ため。アイドルは最終目標に向かうための手段でしかない。目的を見誤ってはいけない。ここで化粧なんてしたら、アイドルになれたとしても一郎の好みから外れてしまう。

 

 このまま行けば、いや待った、このままではスカウトに捕まるか。決して美人ではない自分が、スカウトマンに認めてもらえるか解らない。

 

 ヒミコはショーウィンドウの鏡の前で百面相を繰り返す。通り過ぎる人たちが見ているのは気にしないし、意識の中に入ってこない。

 

 彼女の頭の中にあるのはアイドルになる、一郎が好きになる、一郎と付き合う、一郎と結婚して子供を産む、という過程だけ。

 

 全力で妄想して老後まで突っ走った後、いやんいやんと首を振って深呼吸をひとつ。もう見ているだけで危ない人、でも鏡に映る表情の二つか三つはちょっと可愛い笑顔のため、そのギャップのあまりに激しさに通行人は足を止めて『あ、可愛い』の後に『あ、猛獣だ』と思って通り過ぎていく。

 

「がんばるのよ、トガ・ヒミコ。貴方は誰のためにやるの、一郎君のため。一郎君のためじゃないの。さあ、行きなさい、羽ばたくのよ、ヒミコ!」

 

 自己暗示完了。鏡の自分に向かって話しかける危ない女子高生がいる、なんてネット上で話題になっているのだが、今の彼女いはまったく関係なかった。

 

 いざ出陣。

 

 ヒミコは決意を秘めて歩きだす。その背中には、ライオンとトラが浮かんでいるように、周囲の人には見えたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランチタイムが終わった俺は、手のひら鎮守府の訓練場にいた。

 

「おまえの絶望も、悲劇も、その苦しい檻も。俺が崩してやる。だからもう泣くな。『ザ・ハンズマン』ここに推参」

 

 スッと地面に降り立ち、回転するように立ち上がりながら、右手を前に突き出す。

 

 うん、何これ。え、弔ってそんなヒーロー名にしたの?

 

「すべての距離が私の前では無意味。悲劇も絶望も、暗黒の彼方へ飛ばしてあげましょう。『ゼットン・ザ・ブラック』参上しました」

 

 黒い霧が立ち込め、その中からゆっくり歩いてきて、名乗りと同時に一礼。右手を胸の前に持ってくる、まるで英国紳士のような一礼でした。

 

 あ、うん、黒霧がいいなら、それで俺は何も言わないよ。

 

「どんな事件も俺が解き明かし真実を救いだす。迷宮なしの名探偵!」 

 

 あ、うん、コナンはセリフが変わっただけで、ポーズは一緒なのね。 

 

「名乗るがいい。貴様の今生の最後の言葉を、高らかにな。特別に我が許してやろう」 

 

 おい、ギル、なんで抹殺前提で登場してんだよ。しかも、すっごいいい笑顔でさ。腕組みポーズは似合っているから、ちくしょうって言ってやるよ。

 

「君たちに恨みはないけど、僕の前に立つなら許しはしないからね」

 

 ウィンク添えても言葉は怖いんだけど、ソープ。しかも、腰を曲げて腰に手を当ててって、凄い色っぽいけど、おまえは自分が男だって自覚ありますか?

 

「ロボット魂に命を燃やして! 世界中にロボット愛を届けるために! 貴方の悲しみロボットで砕きます!」

 

 うん、エルは通常運転だ。やたらとロボットを誇張しているけど、普通だね。なんか『ガシン、ガシン』ってセリフの合間に音がなるけど、気にしちゃダメだよね。

 

「震えよ我が指先! 奏でよ我がソウル! 我のすべての感情のままに! 我が絶唱を聞け! 『ビート・スケルトン』ここにあり!」

 

 予想通り過ぎて、笑えないぜ、アインズ。なんだよ、そのギターを弾いたままのステップは。おまえの本業は、本当にギタリストになったんだな。

 

「ふむ。ではこちらはどうだ?」

 

 あ、アインズが豪華絢爛な魔王スタイルになった。

 

「絶望に染まるがいい! 貴様はこの私! アインズ・ウール・ゴウンの前にいるのだからな! さあ、無様に足掻くがいいぞ!」

 

 完全にラスボスのセリフですね、ありがとうございます。

 

「というわけだ。場を温めておいたぞ、二人とも!」

 

 うん、アインズ、その言い方だと二人が披露しにくいんじゃないかな。

 

 あれ、そうでもない?

 

「変身!!」

 

 おお、空中に飛び上がったデク君が、ペンダントを高らかに掲げて、艤装を纏って着地。左右の主砲塔と装甲が彼の体を隠して、そしてゆっくりと立ち上がると。

 

「誰も悲しませない。僕がいる限り、この世界中の人たちの『航路』は脅かさせない!」

 

 立ち上がったデク君の周囲の装甲が開いていき、右拳を握って突き出す彼が見えた。

 

「『デク』だ。僕の装甲を抜けるものなら抜いてみろ!」

 

「え、ヒーロー名ってそれにしたの?」

 

「はい! やっぱり、一番、これが合っているかなって」

 

 まあ、デク君がそれでいいならいいけど。

 

 そして、ラストが。

 

 爆音が響き渡る、赤、黄色、青、緑といった爆発と煙が流れる道を、彼はゆっくりと歩いてくる。

 

 右手にギターを持って、それを前に回し、弦を一回だけ鳴らす。

 

「俺の歌は嘆きに負けねぇ。俺の力は絶望も悲劇も爆殺してやる」

 

 そこで一際、大きい爆発が彼の背で起こって、煙が一気に天へと流れ出した。

 

「だからおまえらヴィランは俺のステージからとっとと消えやがれ! 『爆撃王』ここにありだ!!」

 

 ギターを持った手を高らかに上げる爆豪君をたたえるように、再びの爆発が周囲に鳴り響いた。

 

「いや、それはおかしい」

 

「な?!」

 

「やはり、爆撃王か」

 

「んだ?!」

 

「やっぱり、もっと違う名前にしようよ」

 

「とぉ?!」

 

 全員からのダメ出しを受けて、爆豪君が沈んでいく。

 

 うん、名乗りも演出も登場シーンもいいんだけど、ヒーロー名がなぁ。どうしても爆豪君のヒーロー名に『これだって』者がなくて。

 

 まあ、デク君のほうも全員が納得してないんだけど、彼は譲らないからな。

 

「という具合なんですけど、どうでしょう、オールマイト?」

 

 俺は隣で難しい顔で黙っているナンバーワンに話を振ってみたんだけど、黙ったままで考え込んでるんだよな。

 

「・・・・全員に言っておかないといけないことがある」

 

「はい?」

 

「ヒーローは免許が必要だ。無免許は犯罪に当たる」

 

 え、嘘。この世界ってヒーローするのに資格が必要なの? え、まさかぁと思って全員を見ると、『解ってます』と頷いているから、俺だけ知らなかったのかぁ。

 

 またかぁと思いました。

 

「プロ・ヒーローの『オールマイト』としては、認められない」

 

 そりゃ、そうでしょうね。

 

「しかしだ! 一人の男として! ヒーローとしてならば! 見事な名乗りだったと言わせてもらおう!」

 

「え、はい」

 

 なんか、凄い勢いで立ち上がって、笑顔で笑い始めたよ、この人。本当に大丈夫かな、どっかで頭でも打ったんじゃないの。

 

「ところで、皆は雄英を受けるつもりはないかね?」

 

 真顔で語るオールマイトに、デク君と爆豪君以外の全員が首を振ったのでした。

 

「そうか、有望なヒーローがいるのに、残念で仕方ないよ」

 

 ちょっと悲しそうに項垂れるオールマイトは、背中に哀愁が漂っていました。

 

 まあ、俺達は非合法でも、なんでも人助けするだけだし。いや、待った、ヒーロー活動しないから、これは爆豪君とデク君につき合ったノリだけだから。

 

 絶対にもう危ないことはしないし、させないからな。

 

 よっし、決意したぞ。

 

「そう言えば、一郎、こんな話を知っているか?」

 

「なんだよ、弔。また俺を苦しませる話か?」

 

「いや、違う。ヒミコがネットアイドルになった」

 

「え?」

 

 あれぇ~~ちょっと信じられない話を振られましたよ。え、誰が何になったって? え、あの純情で恥ずかしがり屋のヒミコちゃんが、何だって?

 

「対人恐怖症を克服したらしい。一郎限定の」

 

「え、そうなんだ」

 

 そっか、そうなんだ。最後に何か付け足しがあったみたいだけど、深くは聞かないでおこう。

 

 頑張れ、ヒミコちゃん。俺はここから応援しているぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、俺は彼女の配信を見ることになって。

 

『は~~い、こんにちは、ヒッミッコちゃんよ~~~』

 

 画面の中でミニスカの和服を着た、ウサ耳つけたヒミコちゃんが笑顔で手を振っていた。

 

 うん、なんだろう、応援してはいけない気がしてきたぞ。

 

 誰か俺に教えてください。

 

 清純のようなヒミコちゃんは、いったい誰がどうして、こんなことになっているのか。

 

 彼女は何処へ行こうとしているのでしょうか?

 

 

 

 

 

 




 

 今回の話の元ネタ、『ユー●ューバー・ヒミコ』って面白そうじゃね、という妄想から来ています。

 好きな相手に振り向いてもらうためならば、アイドルさえなってやろうと考える彼女の、明日はどっちだ。

 乙女は暴走機関車と同じでしょ、なんて昔の知り合いが言っていたので、そんな感じになりました、という風味でお届けしました。



 ちなみに、爆豪の登場シーンですが、最初の妄想の時は瓦解する世界の中を歩いてくるオーマジオウのような感じを想像して、『え、これはやり過ぎじゃ』とか思ったのでやめました。





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