強個性であり、万能的で無敵でもある。ただし、ストレス耐性と胃薬が必要である『完結』 作:サルスベリ
ハイテンションで暴走中、そんな毎日を過ごしていたら早死にするな、なんて思っている今日この頃です。
頭空っぽで行き当たりばったりなのに、気がつけば伏線はっている自分がいる。回収できるかなんて考えないですが。
結構、ネタが尽きずに書き続けている自分に驚いています。
短編って何話までなんでしょう?
そんなわけで、予想外のことって予想外だから驚くよねって風味でお送りいたしますです。
自重って言葉を忘れると、痛い目を見るのが世間一般の常識。
どうも、田中・一郎です。
「すみません」
「え、いや、まあいいんだけどさ。俺は関係ない、わけじゃないけど、頑張るのは俺じゃないからさ」
俺の前で、二人の少年が土下座中です。
曇り空の午後、ランチタイムが終わった時に爆豪君とデク君が飛び込んできて、なんか土下座しているんだけど。
話を聞くと、どうもコスチュームを壊してしまったらしい。
え、あれが壊れるってどんな状況?
「ヴィランがそんなに強敵だったの?」
「はい、個性が特殊でした」
「次やったら負けねぇ」
へぇ~~そんな個性の敵がいたんだ。あれ、待って、君たち待った。
「危ないことしないでよ、お願いだから」
オールマイトにまた怒られたり、警察に呼び出されたりするの、俺なんだし。
あれ、でもさ、なんで俺が関わっているって思われてるのかな? まあ、俺が関係していても呼び出されて注意で終わるのは、きっとギルとコナンが色々とやってくれるおかげなんだろうけど。
まあ、そっちはあの二人に甘えるとして。
「どんな相手だったの?」
「体が大きくて全身が黒くて、力もありました」
「個性が能力がはっきりしなくて、周りにも人がいたら爆発が上手く使えなかったんです」
「え? 二人かがりでダメだったの?」
うわ、予想外。まだヒーローじゃないとはいえ、二人の能力はかなり高いはずなのに。
もうノリノリなアインズやエルが鍛えたり、弔と黒霧まで付き合ったりして、二人の戦闘に関しての能力は上がっているし、他の面でも色々と教えているから、そこら辺のヒーローに負けないくらいは実力があるはず。
コナンが『まあ、大丈夫だろ』って言っていたから、俺は疑ったことはないんだけど。
「どんな相手・・・・・」
「おい、お前ら」
あ、コナン。そんな怖い顔してどうしたんだよ?
「なんで『脳無』と戦ってんだよ?」
「脳無って言うんですか?」
「あのヴィラン、脳無って言うのかよ。次は必ず倒します!」
「はい! 僕も負けません!」
お~~い、君たちね。脳無ってあれだろ、オール・フォー・ワンが作った複数個性の強敵。
え、そんな相手に戦いを挑んだの?
「泣いている人たちがいたんです」
「けがしてた奴らもいた。だから譲れなかったんです」
う、まあその状況じゃ仕方ないか。でも、あの人もまだまだ諦めてなかったんだなぁ。
「チ、あいつもしぶといな。また作ってんのかよ」
「コナン、しぶといって何? え、また会ったの? いつ、交戦したのさ?」
「ちょっとな」
おいおいおい、何かしたのか、またやり合ったのか? 俺への報告がないんですけど、何時ですか、前の『最強最善最高の魔王を刈ってくる』ってそのことか、ねえ名探偵?
「とにかく、危ないことすんなよな」
「コナンく~~ん? 俺への説明がまだなんですけど? 活動記録とか提出させるぞ、この野郎」
「じゃ、また書類仕事やるか、マスター?」
ク、不敵に笑いやがっておまえってやつは。俺が書類仕事ができないとでも思っているのか、おまえらに仕込まれた技術はまだまだ健在だぜ。
「いいんだな、マスター?」
しかし! 出来ることとやりたいって気持は別ものだ!
「解ったよ、今回は見逃すよ、コナン。でも、次の時にはきちんと言えよな」
「了解だ、マスター」
絶対におまえ、またあっても言わないだろう。
長い付き合いだから、コナンが言ってこないことは予想できたけど、俺に言わないってことは『言わなくていいこと』か、あるいは『言いたくない』って考えているんだろうけど。
俺が知ると俺に負担がかかるとか、そんな余計な気遣いはいらないんだよ、名探偵。
まあ、俺もコナンに言わないことあるけど。
元々の推理力の差で、バレることが多いけどな。
「だけど、一郎さん、コスチュームの裏機能なら教えておいてくださいよ」
はい、爆豪君、何の話?
「助かりました! いきなりドリルとか出た時は驚いたけど、あれで何とかできました!」
「俺の方は槍でした。着弾した時に爆発したんで、使い難くて」
え、デク君がドリルで、爆豪君が槍? そんな機能、俺は知らないけど。
「コナン?」
「あ~~~あの愉悦王やりやがったな」
ギルかぁ、そっかそっか。
「誰ですか!? 僕らの艤装とコスチュームを魔改造したの?!」
「本当だよ! この宝具をつけたのは誰?!」
エルとソープが怒鳴りこんできて、俺は頭を抱えたのでした。
「おまえらのじゃないだろうが、バーロ」
「いいえ! これは僕らの作品です! ならば改造する時に一言はあるべきでは?!」
激怒しているね、エル。そりゃ、自分の作品が勝手に弄られたら、怒る気持ちは解るんだけどね。
「エ~~ル~~~く~~~ん」
「ひゃ?! な、なんですか、一郎さん?」
「俺の鎮守府の資材を勝手に使ったり」
「ギク!!」
「俺の鎮守府を勝手に変形合体恐竜やロボにしたりしたの、誰かなぁ?」
「そ、それは・・・・」
「それは?」
「きっとロボット愛にあふれた誰かであって僕じゃありません!」
ひ、開き直りやがったな、てめぇ!!
おまえがやってにやらかす度に俺がどんだけ軍令部とかに怒られたか、おまえは解ってないんだろう!
「おまえなぁ! 少しは自重しろよな! それに今回は二人が助かったんだから、いいじゃないか」
「よくありません! 僕がやるはずだった魔改造を!」
「やるつもりだったの!?」
あれ、なんで俺じゃなくてソープが驚いているの? あれ、エルだけの暴走だったってわけか。
「もちろんです!」
「よかった、僕だけじゃなかったんだね」
何故か、ほっと安堵して設計図を広げるソープ。それを見て、目をキラキラと輝かせるエル。
「いいですね! これなら二人のコスチュームは次元を超えます!」
「ふふふ、いいね、やろうか。今度こそ、脳無『程度』には負けないように」
「はい! 無双して勝って!」
「人々を護り奮い立たせるヒーローに!」
「二人をするために!」
エルとソープはそう言って、がっしりと手を握り合って、そのまま戻って行った。
おう、不味いぜ、二人ともハイテンションの暴走状態だ。
「爆豪君、デク君」
俺は二人に顔を向けてから、土下座した。
「ごめん、今後は『何が飛び出しても驚かないで』」
「一郎さん」
「貴方も苦労してるんだな」
ふ、ふふふ、二人の優しさが身にしみるぜ。
「おい、愉悦王」
「なんだ、名探偵? 先に言っておくが、我は爆豪に褒美を与えたにすぎん。奴の歌は我の心を慰めるからな」
「へぇ~~~それはどっちの意味で、だ?」
「無論、愉悦よ」
後ろでギルがすっごいいい調子で笑ってるけど、俺は振り返らない。爆豪君の歌が『音痴』じゃなくて、ギルの心を楽しませたことは解るけど、俺は振り返って問いかけない。
だって、今振り返ったらさ、俺が対象にした何かが起きそうだから。
「フ、学んだな、マスター。しかし、だ。我の愉悦が、我だけで終わると、本当に思っているのか?」
「ま、まさか、ギル」
「フ・・・・フハハハハハ!! 無様よな! 貴様は勘違いをしているようだ!!この家にあるコスチュームは『幾つか』?」
おまえまさか!?
「黒霧と弔の奴にも細工したのか?!」
俺は思わず振り返ってしまった。
「遅いわたわけ! 我が今まで何もしていなかったと?」
まさか、こいつは前から? 嘘だ、俺はギルが何かしてないかと、確認したはずだ。二人のコスチュームには細工がなかった、なかったって確認を。
そこで俺は気づいた。最後に『してない』と結論を出したのは、俺じゃなかったことを。
「ま、まさか?」
「察したようだな、マスターよ。貴様以外の全員が既に愉悦部の同士! つまりこの家のすべては我が愉悦の結果よ!」
「貴様ぁぁぁぁぁ!! ギルガメッシュぅぅぅ!」
「いいぞ! 実にいい顔をする! やはり貴様は道化の相応しい!」
「何をした?! 何を仕込んだ?!」
「フ」
そこでギルは小さく笑い、その後に真顔になって顔の前で手を振った。
「いやなにもしてない」
「へ?」
「いくら我でも、そこまでは外道ではない」
「え、ないの? あれ、今の会話は何?」
「あまりにマスターが必死な顔をしていたのでな、AUOジョークで場を和ませようとしたまでだ」
皆さん、聞いてください。
うちのギルって、こういう奴になったんです。
愉悦のためにがんばることもあれば、人に優しくすることも覚えたんですよ。
その方法が、場違いとか、今そこってツッコミ待ちのボケに見えても、本人にとっては優しさらしいですよ。
俺、もう泣いていいよね?
「デク、爆豪、基本的に『うち』はこんな感じだからな」
「あ、はい」
「ウス」
俺は呆れながらもフォロー入れるコナンを、頼もしく感じました。
もう寝込みたいよ、本当。
爆豪君とデク君のコスチュームは、その後にエルとソープが頑張って修復して本人達に渡しました。
なんか、『再生可能』とか言っていた気がするけど、俺の聞き間違いかな?
「なるほど、脳無か」
現在、ディナーの後。黒霧の店に来たオールマイトに、とりあえず報告しておきます。
「ええ、二人が接触したみたいですよ」
「私のほうにも報告は上がっている。複数の個性を持つ強敵と。私自身はまだ接触したことはないが」
「デク君の艤装も半壊していました」
「な?! 緑谷少年の艤装が、なるほど。私の攻撃でも傷一つ付かなかったあれが、半壊するほどの攻撃力か」
オールマイト、難しい顔しているな。
そりゃそうか。デク君の艤装を壊せる攻撃力ってことは、大半のヒーローが一撃で戦力外、あるいは死亡することだってあるから。
「解った。後でヒーロー協会を通して脳無の情報は流そう。無理して戦うことなく、とも伝えよう」
「はい。その時は、こっちでやりますから」
「すまない、田中少年。また借りを作るな」
「オールマイトには、普段からご迷惑をかけていますから、これくらいは」
本当に、毎回毎回、ね。俺の戦力が動くたびに、オールマイトが呼び出すって彼が壁になって、他からの追及を反らしてくれるんだろうね。
国の上の方に話を通しても、現場では『そんなの知るか』って反骨精神の人は多いと思うし。
「私のほうこそ助けられているよ。私一人では救えない人も多い、しかし君たちの力があれば救える人は多くなる。正式に感謝できないのが、辛いところだが」
「感謝は貰っていますよ」
助けた人からの『ありがとう』で、俺達は十分だ。ヴィランとヒーロー、そのどっちでもない、グレーゾーンに俺達はいるからな。
だから、それだけでいいって俺は思って、素直にそう告げるとオールマイトは苦い顔をしていた。
「称賛も栄光もなく、助けた人からの感謝のみか。この先、君たちの存在が大きくなれば、国家が動くかもしれない」
「そうですね。だから、できるだけ穏便にやります」
「しかしだ。君たちはそれでいいのかね? 本来なら、君たちが正式にプロ・ヒーローになればもっと多くの称賛を受け取れる。多くの資金も手に入る。もっと大きく手を振って、活動できるのじゃないかね?」
「かもしれません。でも、俺は・・・・そういったしがらみは苦手なんですよ」
権力を得て、出来ることが増えていくのは確かにある。
でも同時に『できたことができなくなる』ことだってあるから。俺は軍令部総長までなったから、それを知っている。一個人、一提督時代はすんなりできたことが、多くの人に話を通して、色々なところから許可を貰ってからでないと動けないもどかしさも。
大切なことだってのは解るけど。これが民主主義だって理解はしている。
でも、それで救えなかった命を見て来たから。
「君は自由だな」
ちょっとだけオールマイトは、目を細めて俺を見ていた。
馬鹿にしたような様子もないから、これってなんだろう? え、まさか羨望とかじゃないよね。ナンバーワンが、まさかねぇ。
「私にはできないことも、君たちはできるのだろう。動くたびに、誰かを救う度に思ってしまうことがある。もっと力があれば、もっと素早く動ければとね」
「オールマイト」
「人は、人に出来ることしかできない。多くの人を救うために多くの人の協力がいる。私は確かに他の人よりも多くのことができる、けれどそれだけだ。嘆いた人すべてを救うことはできない。解っているんだが」
オールマイトはそう言って、目線を下げた。彼の前に置かれているカクテルに注がれた視線は、グラスではなく何処か遠くを見ているように思える。
この人はナンバーワンなんだな。常に前を走ってきた人で、だからこそ救えなかった多くのものを見てきた。
でも笑っている。かっこいいほどに笑顔で『私が来た』って言い続けているのって、ひょっとして。
そう言って周囲に示さないと、自責の念で潰れそうだからか? まさか、そんなことないだろ。
「すまない、湿っぽい話になってしまったな。私は今日は、相当酔っているようだ」
「たまにはいいんじゃないですか」
顔を上げたオールマイトは、何時もと変わらない笑顔でいた。
でも、その瞳にちょっとだけ涙が滲んでいたような。
俺の気のせいだよな。
もう寝ますと一郎が去った後、オールマイトはただ静かにカクテルを飲んでいた。
救いたい人たちがいた、救えない人たちがいた。
そんなことが頭の中で流れ、やがて最近になって知った自らの師の家族のことを思い出す。
家族すべてがなくなっていた、個性による暴走の結果かもしれないが、事件は未だ解決されずにいる。
ただ、孫が生き残っている可能性がある。彼を見つけ出して保護して、その後にどうすればいい。
事件は起きた、彼が生きているとすればもう成人間際だろうか。
何を言えばいいか、何を伝えればいいか。オールマイトは答えを出せず、グルグルと考え込んでしまう。
「つまみにどうぞ」
「あ、すまないね、死柄木少年?」
珍しい人物から差し入れに、オールマイトは少しだけ固まってしまう。彼は酒のつまみは造らないのではなかっただろうか。
「俺もようやく吹っ切れました」
「そ、そうか。何か心境の変化でもあったかね?」
「ええ。オールマイト、『志村・転狐』は貴方を恨んでない」
ビクッと彼の体は震えた。
「貴方だって人間だ、救えない人はいる。その結末は、あいつが招いたものであって、貴方が責任を感じるものじゃない」
「まさか君は?!」
「俺は死柄木・弔ですよ、オールマイト」
立ち上がり呼びかける彼に、弔はゆっくりと語りかける。
「だから、これは独り言だ。『志村・転狐』は貴方を恨んでないし、あの結末を仕方なかったなんて割り切ってない」
「しかし!」
「だから俺はここにいる。罪を償うなんて気持ちはない。でも、失ってしまった命の分、それ以上の命と誰かを救います。俺の料理で多くの人を笑顔にして、多くの人に『今日も生きていて良かった』と思わせるくらいに」
弔は穏やかに語りながら、何時もの仮面を顔につける。
「『ザ・ハンズマン』は、嘆きや絶望の檻を崩壊させて、人々の自由を護ります。だからオールマイト、貴方はそのままナンバーワンでいてください。貴方が『後を譲ってもいい』と思えるヒーローに出会えるまで」
「志村少年」
「だから、俺は死柄木・弔ですよ、オールマイト」
仮面を外し、微笑しながら、弔は店の奥へと戻って行った。
「そうか、君はそうしているのか」
小さく呟き、オールマイトはカクテルに手を伸ばす。
彼は罪を償うのではなく、罰以上の何かを世界に返そうとしているのか、ならば自分は彼の言う通りにしよう。
ナンバーワンであり続ける。次の世代が追いかけて、自分を超えるヒーローに成長するまで。
「『ウィスパー』だったかな」
「はい、『自らの心の声を聞くためバーでは声を潜めて話せ』。そういうカクテルですよ」
確かに、とオールマイトは黒霧の言葉に頷いた。
今は自分の心の声が、よく聞こえそうだ。
随分と長い時間、飲んでいたようだ。ほろ酔い気分となって店から出たオールマイトは、軽く背伸びした。
美味しい酒と美味しい料理を堪能した。明日からは脳無に対して、動きまわる活力を得た。
「お疲れ様、オールマイト」
「コナン少年? もう随分と遅い時間だ、君の姿では補導されてしまうのではないかね?」
路地の暗がりから姿を出したコナンに、オールマイトは別の心配を投げかけたのだが、彼はフッと笑って両肩をすくめた。
「ここの区画の巡回時間は把握しているよ。念のため、アインズもいるからさ」
誰か来たら知らせてくれる手筈が終わっている。そう告げるコナンに、オールマイトは少しだけ怪訝な顔を向けた。
「内緒話、というわけか?」
「ご明察だよ、ナンバーワン。オール・フォー・ワンが転生者狩りをして手にした個性だが、そいつらを使って脳無を強化している。デクの艤装を壊したのはその一体だ」
「何の話だね?」
転生者、その個性がなんだというのか。そもそも、転生者とは何の話なのかオールマイトはまったく解らなかった。
「神様が他の世界で死んだ魂を別世界に転生させる時に、転生特典を与えて生き返らせる、これが転生者さ」
「なるほど。骨董無形な話だが、君が語ると説得力があるな。となると、私達はそれに対応しないといけないと?」
「いいや、そっちは俺たちが何とかした。オール・フォー・ワンの手元にあるのは、今では『この世界』での個性だけだ」
「君たちが?」
「ああ、あいつはやり過ぎた。転生者の個性をあれだけ狩っていれば、大元が出てきちまうからな」
オールマイトには、それが何かは解らなかった。理解はできなかったが、察することができた。
神々が、この世界に降り立つ、ということか、と。
「そうか。また世話になったようだな」
「気にすることないさ。これは『探偵への依頼』でもあったからな」
誰からの、とはオールマイトは聞かなかった。
その代りに彼は一つの疑問を投げる。
「何故、私に?」
「筋を通そうと思ってな。この世界に転生者の情報を拡散させるつもりはないが、それでもヒーローとしての誰かに話を通すべきだ。それが、オールマイトだったって話だよ」
「光栄だと思っておくべきかね?」
少し挑むように笑いかけると、彼はフッと笑って返した。
「違うな。オールマイトこれは『何時ものお礼』さ。マスターによくしてくれたこと、俺達のことをかばってくれているあんたへのな」
「かばっているつもりはないが、君たちのしていることは人のためになっている。それ故に、我々は『見落としている』だけだ」
本来なら速やかに捕縛するべきなのだろう。個性を勝手に使ってはいけない、自らの生命の危機に対しての自己防衛なら許されるのだろうが、彼らの場合はそれに当てはまらない。
誰もが強力な個性を持ち、個性を抜きにしてもその強さは揺るがない。
「それでもさ、ありがとう『ナンバーワン』。あんたがそこにいてくれたことを感謝するよ」
肩をすくめた後、優雅に一礼したコナンは、話は終わりだと背を向けて歩きだす。
「一ついいかね? 依頼があったから君たちは動いたのかね?」
ピタリと、コナンは足を止めて、顔を上げた。その視線の先には、夜空に輝く月があった。
「俺達は、『イレギュラー』だ。本来なら世界にないはずの存在。俺たちがいたから救えたものもあれば、俺たちがいたから失ったものもある」
因果応報、すべての物語は繋がっており、何処かで切れるものではない。原作というものを大切にした転生者もいたが、結局は破綻してしまっていた。
当然のことだ。物語とはそこにいる人物だけで描かれたものだ。そこにまったく違う何かをつけ足せば、それがどんなに小さなものでも物語を、まったく別の何かに変えてしまう。
「本来なら排斥されるべき存在。それを、大切にしてくれたあんたらへの、せめてもの恩返し、だからかな?」
彼は振り返り、そう微笑んで再び歩き出した。
「恩返しか。それは私の方だよ、ありがとう」
すでに誰もいない路地に向かって、オールマイトは深々と頭を下げた。
「お帰り」
「ただいま、なんだ気づいてたのかよ?」
戻ってきたコナンを出迎えて、俺は飲み物を手渡した。
「俺を誰だと思ってるんだよ? おまえらのマスターだぜ?」
「そうだったな。マスター、話してきたけど、止めなくて良かったのか?」
「コナンが決めたんなら、それでいいんだろ、頼りにしてるぜ、名探偵」
「まったくおまえは昔っから、俺に投げっぱなしだよな」
「信頼の証だって」
気楽に笑ってみせると、コナンは呆れながらも笑った。
「これからもよろしくな」
「ああ、こちらこそだ」
そう言って俺達は乾杯と口にした。
最初に書くとき、『よっし、デク君と爆豪君の訓練と強敵との遭遇、後は雄英受験の前段階にしようか』だった。
書き終わったとき、『あれ、なんだか重い話になってないか? あれ、プッと笑えて頭空っぽはどこいった』になっていた。
うん、なんか色々と迷子になっている気がしてきました。
なんてこと風味でお送りしました。