強個性であり、万能的で無敵でもある。ただし、ストレス耐性と胃薬が必要である『完結』   作:サルスベリ

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 前回、なんかやたらと重い話になってしまった。

 プっと笑えるか、呆れるかのどちらかを目指して頑張ります。

 もっと短くあっさりと読める、喉ごし滑らかを目指して。

 今回は、艤装を受け取ったデク君の日常を描いてみようと思います。

 忘れてませんか?

 艤装は妖精がいるんですよ。それが身近にあるってことは?

 なんて風味の話です。







 日常って毎日ってことだけど、ちょっと異常な日々も毎日と続けば日常なんだよね

 

 

 緑谷出久の朝は、実は早い。

 

 朝日が昇ると同時にとか、目ざましが鳴った瞬間に目が覚めるではなく、頬に軽く触れる気配で彼は目が覚める。

 

「あ、おはよう」

 

 薄く眼を開けてみると、そこには手のひらに乗るくらいの小さな存在、妖精がビシッと敬礼していた。

 

 出久が艤装を受け取ったときに出会った彼ら、あるいは彼女達はこうして毎日、彼が起きたいと思った時間に起こすのでした。

 

「うん、今日は『一つ目』で起きたから」

 

 ビシッと敬礼する妖精とは別の方向に、出久はゆっくりと顔を向けた。

 

 そこには主砲から弾薬を抜く妖精たちや、飛行甲板に並んだ航空機を格納庫に戻す妖精たち、あるいはミサイルや魚雷を発射管から戻している妖精たちと、色々な妖精たちがいた。

 

 全員が、出久の視線に対して一度は揃って敬礼して、再び作業に戻っていく。

 

 彼は思う、『良かった、今日は朝からお部屋の修復しなくて、済んだ』と。

 

 今日は幸先がいいようだ、これならトレーニングも上手くいくかもしれない。

 

 ホッと安堵している出久だったが、彼自身は気づいていない。朝から目覚まし代わりに砲撃されたり、爆撃されたりすることが異常なことも。朝から部屋を修復しないで済んだことに安堵している自分がいることも、それが普通じゃないことも気づかない。

 

 着替えを始める出久の後ろで、妖精たちが『ニヤリ』と笑っていたことを彼は知らないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖精たちにとって、緑谷出久は『よく解んない』存在だった。

 

 最初に艤装と一緒に『配属』した時、彼は艤装に適合するのに艤装の扱いを知らず、また装着できたのに艤装への指示や妖精への指示も出来なかった。

 

 艦娘なら生まれた時からできたことができない、それなのに艤装が使えるよく解らない存在、それが妖精たちから見た緑谷出久という少年。

 

 田中・一郎提督からのお願いもあったから、妖精達は仕方なく従っているだけだった。

 

 その彼らを変えたのは、艤装を貰ってからひたすら、ただ直向きに訓練を繰り返す出久の姿。

 

 上手くできなければ何度でも。何万回でも繰り返す。できたことは今度は、完璧にどんな状況でもできるように反復訓練を怠らない。

 

 愚直なまでに真っ直ぐに、ただ我武者羅に訓練する彼の姿に、妖精達は強く胸を締め付けられた。

 

 これが新しい主だ、これが彼なんだと。

 

 同時に思う、『あ、この子、何処かで止めないと死ぬまでやる』と妙な焦燥感に駆られたが。

 

 その一件があってから、妖精たちは出久に心から従うようになった。

 

 彼らも心があるから、出久の気持ちは痛いほど解る。個性社会で無個性でヒーローを目指し、諦めろと周囲から言われてもあきらめなかった彼の一途さ、こうと決めたら曲げない頑固さ、それは妖精たちが知っている『昔の軍人たち』に通じるものがあったから。

 

「もうちょっと」

 

 だから妖精たちは妥協しない。ギリギリのラインを見極め、出久が潰れるか潰れないかの瀬戸際まで追い込んで、後はきっちりと終わらせる。 

 

「うぎゃ?!」

 

 首筋に砲撃して気絶させて。

 

「・・・・・デク、おまえはすげぇ奴だよ」

 

 白目を向いて煙にまみれながら倒れる出久に、爆豪はポツリと呟いた。

 

 何度目だろうか、彼が妖精達の止める声ではなく、止める『攻撃』で倒れていくのを見るのは。

 

 やり過ぎ、無個性に爆発を向けて殺しかける、なんてことも平然とやれる爆豪から見ても、妖精達の出久に対する突っ込みというか、『いいから訓練止めなさい』攻撃は、度を越している。

 

 主砲のゼロ距離射撃なんて、元々艤装を持っている艦娘でさえ、訓練でやらない。

 

 接近さえない艦娘ばかり揃っているのが、田中・一郎の鎮守府なのだが、爆豪はしらないので、『あれが普通か?!』と軽く戦慄していたりする。

 

 こうして、出久は砲撃を受けて気絶して、後は艤装の妖精たちが出久を運ん行くのだが、出久の家族は心配しないのだろうか。

 

 爆豪はちょっと気になって様子を見に行ったことがあったが、しなければ良かったと後悔したのだった。

 

「今日もお疲れ様」

 

 すでに異常さを異常と感じないほどに繰り返され、それが当たり前に感じ始めてしまった出久の母の姿と、敬礼して何時も通りと運んで行く妖精達の姿に、爆豪は軽く震えが来たのだった。

 

 とはいえ、出久を止める手段は過激ではあるものの、それ以外では妖精たちは彼に対して素直に従っている。

 

 指示を聞き、願いに応え、想いを叶えるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうも、遅いごあいさつでごめんなさい、田中・一郎です。

 

 今日は俺の個性の『手のひら鎮守府』からお送りしています。

 

 現在ですか、現在は。

 

 爆豪君とデク君対、うちの最強艦娘が戦っています。模擬戦ですよ、大丈夫ですから、もうね妖精さんパワーで傷一つなく訓練場から出てくるから安心してください。

 

「あっぶねぇ!!」

 

「かっちゃん!!」

 

「避けろよデク! この人のナイフはマジで死ぬぞ!」

 

「うん!!」

 

 はい、なんか見事に二人がダンスを踊っているようですがね。ははは、なんだろ、なんであの子はあんなに刃物の扱いが上手いのかな。

 

「大丈夫ですよ。ちょっと『痛い』か、『死ぬ思い』するだけですから」

 

 穏やかに笑うのは、チート過ぎるうちの艦娘の中でも滅茶苦茶チート染みてバグって性能を持っている女の子。

 

 見た目、中学生くらい。田舎にいそうな素朴そうな外見なのに、逆手に持ったナイフと二連装の主砲、それに彼女を中心に『空中を進むモーターボート』みたいな独立艤装。

 

 うん、なんか独立艤装の主砲が五十二センチ三連装『電磁併用』になったらしいけど、俺は知らない。あれ、見た目が完全に大和型戦艦みたいで、後部の第三主砲がVLSになっていて、対空兵装がレーザーとか訳が解らないものなんだけど、俺はもう見ないことにした。

 

「どっちにしろ痛いじゃないですか?!」

 

 あ、爆豪君とデク君の声が重なった。

 

 いや~~~あの二人って呼吸ぴったりだよね。もう訓練で組ませると、面白いほどにお互いの動きがはまるはまる。

 

 一対一だと彼女はナイフ一本で相手しているのに、二人だと艤装フル装備で挑むからね、デク君と爆豪君の二人が組むと技量がどれだけ上がるかよく解るよ。

 

「マスター、そろそろ現実逃避は止めろよな」

 

「コナン、もう少しだって。今日はもうちょっと現実を見たくない」

 

 止めてくれよ。俺はもっと平穏に暮らしたいの。なんだよ、あいつら、この世界に来て練度が上がったって、どういうことだよ。

 

 改三って実装されてないって話は、何処に行ったんだよ?

 

「吹雪・壊参か」

 

「コナン、頼むからデータを俺に見せるなよ。最初の頃だって艤装スロットが怖いものばかりだったんだから、あんな状況じゃもっと見たくないからな」

 

「ああ、俺もできれば見たくなったぜ。けどな、見ないとダメだろ?」

 

 ク、逃げられないのか。 

 

 仕方ない、覚悟を決めよう。

 

「デクぅぅぅ!!」

 

 あ、デク君が捕まった。うわぁ~~あの艤装、前よりも防御力が上がったのに、一撃で細切れだよ、十六分割だよ。

 

「第一スロット、『直視の魔眼』」

 

「あ、そこは変わってないのね」

 

 安心したよ、いや安心しちゃダメだろ。だから、吹雪のナイフは容赦ないんだよな。あの艤装、また修理ってなったらエルが怒らないかな?

 

「第二スロット『複合戦略級攻撃システム』」

 

「え? 何それ?」

 

 はい、俺の知らない単語なんですけど。

 

「第三スロット」

 

「え、待って、なんで流すのさ?!」 

 

「『防御貫通絶対ダメージ』」

 

 は、ははははは。え、それってスキルって言いません? ねぇ、艦娘の艤装のスロットにスキルって入るの、え、防御貫通の絶対ダメージって何。

 

「第四スロット、『武芸百般・極み』」 

 

「あ、うん、そうだね、吹雪ってなんでも武器が使えたよね。って! おまえ本当に駆逐艦か?!」

 

 思わず叫んだ俺は悪くない。元々、吹雪は何処か異常だったけど、それがこの世界に来て各段に上がったね。

 

「あ」

 

「遅い」

 

 デク君が倒れたことに気を取られた爆豪君に、吹雪の右の回し蹴りが決まって、彼も地面に倒れた、と。

 

「まったくもう! 二人とも気を抜き過ぎですよ! だからあんな『脳無』程度に後れをとるんです」

 

 プンスカと怒っている吹雪は、年相応に幼く可愛いのだけれどね。

 

「あれの片付け、誰がやるんだろうな」

 

「は、ははは、誰かやるだろ、誰か」

 

 呆れて半眼で見つめるコナンに、俺はそう答えて帰ることにした。

 

 訓練場、半壊。地面に頭から埋まった爆豪君と、艤装を細切れにされた後に殴って飛ばされたデク君。 

 

 うん、かなり怖い訓練場だ、あれで妖精さんパワーが働いてなかったら、二人とも生きてないね。

 

「あれ? 妖精さん、白兵戦の訓練ですか?」 

 

 え、なんて? 

 

 俺は背を向けていた訓練場へ振り返ると、デク君の艤装妖精さん達が、手に銃を持って吹雪に向かって言っている途中だった。

 

「はい! ならば吹雪も頑張ります!」

 

「第二ランドだな」

 

「訓練場全壊にならないといいなぁ」

 

 俺はそんなことを神様に祈る、ことはなかったよ、本当だよ。神様に祈ったら、『お前の個性くらいおまえでどうになしろ』って怒られそうだからね。

 

 そして後日、俺は訓練場が消滅しかけたことを、妖精さん達からの報告で知ったのでした。 

 

 本当、うちの吹雪って駆逐艦なのかな?

 

 艤装スロットに『ゴジラ』入っている電や、『イデオン』装備できる榛名が全力で訓練しても壊れることないのに。

 

 資材、足りるといいな。あ、なんだろ、お腹が痛いや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆豪は考える。幼馴染は、いったい何処へ向かっているのかを。

 

 艤装を与えられて無個性でもヒーローをやれている。

 

 彼が本気でヒーローを目指しているから、その魂にロックを感じたから田中・一郎に頼みこんで艤装を作ってもらったのだが。

 

「俺は速まったかもしれねぇ」

 

 思わずそう考えてしまうくらいに、彼は思い悩んでいた。

 

 強くなってはいる。個性がとか艤装がとかではなく、精神的にも肉体的にも強くなっていて、背中を任せると頼もしいと感じるくらいには、認めてやってもいいと思えてしまう。

 

 しかし、だ。同時に彼の周囲にいる妖精たちの存在に、ちょっとだけ怖くなってしまう時がある。

 

 昔は自分もデクに対して個性を向けていた。容赦なく攻撃したこともあったが、それでも無意識に『外す』あるは威力を落としていたのに。

 

 あの妖精たちに『容赦』の二文字はないのかもしれない。

 

 やり過ぎに対して、主砲で攻撃するか。しかも、ヴィランさえも吹っ飛ばす威力を持った主砲を、ゼロ距離で放つものか。

 

 いや、やらない。いくらヒーローを目指しているとはいえ、今の彼はまだ中学生。体が出来上がっていない時期から体を鍛え続ければ、いずれ大人になった時に障害としてでてくるかもしれない。

 

 もしかして、妖精達はそれを知らない。教えてもらっていないのか。

 

 いやそれはない。田中・一郎はそれほど浅慮じゃなかった、その彼についているコナンって少年も、思慮深く知識が豊富だ。知らないはずがないし、訓練の時には何時もいるから危なくなったら止めてくれる。

 

 はずだろう。 

 

 爆豪の頬を、汗が一筋、流れおちた。 

 

 まさか、止めないことはないよな。やれるだけやってダメなら潰れても、なんてことを考える人たちじゃない。もし、そういった人たちなら最初の頼みに動かなかったはずだ。

 

 それに、アインズもいる。彼の魔法は、まさに神の奇跡のようだ。少しのけがなら瞬く間に再生してもらえる。

 

 もしかして、それがあるから歯止めを忘れているのか。まさかそんなことはないか。

 

 爆豪は無意識にギターを握りしめ、かき鳴らす。

 

 悩んでも仕方ない、ウジウジと考えるのはもう止めたはずだ。今の自分はロックに生き、ロックのように突き進み、そしてロックのように激しくヒーローをやる。

 

「なんだ、単純じゃねぇか」

 

 ギターを弾いていると、不安とか後悔なんてすぐに消えてしまう。後に残るは明確な決意と、うるさいほどに叫んでくる自分の心のみだ。

 

「明日は負けねぇ」

 

 最後に小さく呟き、爆豪は不敵に笑った。

 

 ギターを丁寧に置き、彼はベッドへと入り眠りにつく。

 

 そこでふと思う、やはり気になる。

 

 自分の幼馴染はいったい、どこへ行こうとしているのか、あるいは行かされようとしているのか、と。

 

 悩んでも仕方がないか、と爆豪は割り切って眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日もダメだったなぁ」

 

 自室のベッドに寝転がった出久は、深くため息をついて体の力を抜く。

 

 吹雪の攻撃を回避できる自信はあったのに、実際に対戦してみると手も足も出ない。前に比べて艤装の扱いは慣れており、妖精たちとも意思の疎通ができてるのに、だ。

 

 まだまだ自分は弱いな。

 

 ちょっと暗くなりかけた出久の顔に、ぴしゃりと冷たいものが一つ。

 

「ひゃ?!」

 

 悲鳴をあげて体を起こせば、ベッドの横から艤装が伸びていて、その上に冷たいジュースが乗っていた。

 

「ありがと、落ち込むなってこと?」

 

 ジュースの隣にいる妖精はドンと自分の胸を叩いている。

 

 自信、もて、大丈夫やれる、前より強くなった。無言で見つめてくる妖精の言葉が、不思議と出久には聞こえてきた。

 

「ありがと」

 

 お礼を言ってジュースを口にする。ほどよい甘みに体の疲れが少しだけ取れた気がした。

 

 何のジュースと出久が問いかけようと顔を向けると、そこには妖精たちがいなくて代わりに『参考書』が置いてあった。

 

「受験勉強か」

 

 妖精が『雄英合格当たり前、やるなら首席!』と旗を振っている。相変わらずこの妖精達は手厳しい。 

 

 自分に無茶はさせない、でも無理してでも実力を上げさせる。それは戦い方でも、勉学でも同じだ。あらゆることに手をのばさせ、すべてを平均点以上に引き上げようとしている。

 

 矛盾しているように見えて、妖精達の中では明確な線引きが出来ているようだ。ならば、出久のすることはただ一つ、妖精たちに胸を張れるようなヒーローになること。

 

 頑張るか、と彼は机に向ったのでした。

 

「痛い」

 

 間違えると、対空砲が飛んできて後頭部を襲撃するのは、妖精達なりの励ましだと出久は思う。

 

 しかし、だ。

 

「待って! それは待って!!」

 

 止めても無駄だ、妖精達の眼はそう語っていた。

 

 すべての主砲に徹甲弾を入れて、狙いを定めてくる妖精たちに、出久は思うのでした。

 

 『彼らの信頼が、とても重い時がある』と。

 

 そして、今日も出久の部屋からは攻撃の大音響が響いてくる、のです。

 

 

 

 

 

 

 









 最近、思い浮かんだネタはメモに残すことにしています。しかし、サルスベリは飽きっぽい性格をしているので、メモには簡単なことしか書いてありません。

 今回の話のメモですが、『デク君と妖精の華麗なる日々(爆撃と死線、鬼の吹雪)』と書いてありました。

 私はいったい、何を考えていたのでしょうか?

 そんな風味の話でした。




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