強個性であり、万能的で無敵でもある。ただし、ストレス耐性と胃薬が必要である『完結』   作:サルスベリ

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 ついに来ました、ヒロアカ入試試験話。

 はっちゃけてもいいし、ギャグにしたいけど、これをギャグにしたらヒロアカって言えない気がした。

 なんて考えても、サルスベリなので色々と迷走して爆走しての結果です。

 入試試験って大変だよね、風味でお届します。








誰かの声に応え、その限界を超える

 

 

 それは、雄英の入試の少し前の話。

 

「試験内容の変更かい、オールマイト?」

 

「はい」

 

 根津校長の言葉に、彼は大きく頷いた。

 

「今になってどうして?」

 

「今年の受験生に二人、問題があります」

 

 彼の言葉に、根津は机に出された資料に目を落とす。

 

 他の先生方も配られた資料の中、二人のところで止まっている。

 

 緑谷・出久、無個性と『・・・・』。

 

 爆豪・勝己、個性『爆発』と『・・・・』。

 

 二人の入学は雄英にとって、マイナスになる可能性が高い。どの先生も口に出さないだけで、不安やあるいは忌避さえ感じているかもしれない。

 

「確かに問題児ですが、オールマイトが言われるようなことはないと思います」

 

 相澤先生は、問題とは感じているが『危うい』とは感じてないらしい。確かに今まで二人は無許可でヒーロー活動のようなものをしている、個性を厳しく制限、あるいは明確な法によって誰もが傷つかない社会を形成している現在において、この二人はそれを破っていることは明白だ。

 

 しかし、だ。この二人が『本当にあのヒーロー』なのかどうかは、実は他からの情報では知れ渡っていない。

 

 『グリーン・シップ』、『シンガー・ボマー』の二人は、自分達から名乗ったことはなく、また活動中もどれだけ映像や写真で捕らえようと仮面によって顔は見えず、また全体像は捕らえられても、その顔については常に靄がかかったように映っていない。

 

 だから、二人がそうだと確信を持って言えるものは何もなく、この二人がそうらしいという話だけ。

 

「映像は見ました。ヒーロー免許がないことを抜かせば、この二人のレベルはかなり高い。状況判断能力、戦闘技能、救助対象への対応、どれも素晴らしいといえるレベルです」

 

 褒める相澤の言葉に、誰もが疑問を投げる。彼がここまで生徒を、もっと言えば生徒になる前の学生を褒めることは、珍しい。

 

 彼は、誰よりもヒーロー活動の危険性を知っているし、命が簡単に消えることを理解しているのに。

 

「だからこそさ、相澤先生。二人は『法律を暗記している』」

 

「そこまでですか?」

 

 驚きは室内にいる誰もだ。まだ中学生の段階で、あそこまでヒーローとしての知識や技術を持っているのに、そこに加えて法律までとは。

 

 オールマイトは知っていることを話す。もちろん、二人があのヒーローであることも含めて。

 

 緑谷と爆豪を鍛えたのは、田中・一郎一派。ヒーローでもヴィランでもない、第三勢力。誰もが知っているわけじゃないが、知っている者は知っている最大勢力。構成人数は不明、個性も不明。目的も不明ながら、行っていることは人助けが大半なので、今まで『見落とす』ことにしていた組織。

 

 組織なのかなぁと内容を知った根津が頭を抱えていたこともあったが。

 

 二人を鍛えたのは、そういった集団。何を考えたのか、彼らは全力だった。本当に傍で見ていたオールマイトが、軽く引いて止めようとしたくらいに、全力で鍛えていた。

 

 知識、技術、経験。短時間で効率的に二人を鍛えるために、それでいて学校に影響がないようになんて、いっそのことそのやり方をマニュアル化して、全国のヒーロー学校に配りたいくらいに、見事な手腕だった。

 

 知識は法律を始めとして、医療、介護技術、災害時の対応、各種危険物への対応等など。二人が資格試験とか受けたら、もう各種資格を一発合格できそうな勢いで。

 

 技術は実際にエルやソープが徹底的に叩きこんだ。素材さえあれば、パソコンが組めるとか、遊具ができるとかレベルじゃない、素材があれば要塞くらいはできそうなくらいに、多方面に渡って。

 

 経験は戦闘時のものから災害発生時まで。死ぬ恐怖さえも経験として叩きこんだ訓練は、二人に土壇場での状況判断能力を上げている。

 

「それはすでに雄英に入学して学ぶレベルを超えている」

 

 驚愕に染まった相澤の声は、この場にいる先生たちの内心を語っていた。

 

 学ぶべきことなどないのではないか。誰もがそう思う中で、オールマイトだけは違っていた。

 

 二人が育っていくのを傍で見ていたからこそ、二人が現在の社会において決定的に足りないものを理解していた。

 

「それはなんだい、オールマイト?」

 

「はい、二人に足りないのは、『歯止め』です」

 

「そうか」

 

 答えに誰もが疑問を浮かべる中、根津だけは解った。いや相澤も解ったように厳しい目で資料を見ている。

 

「二人には、『そこで止まる』といった考えがありません」

 

 彼ははっきりと、しかし悔しそうに答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はるうらら、隣は何をする人ぞ、なんて言葉が昔にあったなぁ。受験シーズン真っただ中、皆が頑張っている中で、田中・一郎はのんびりです。

 

「たわけが」

 

「おう、今日もギルは容赦ないなぁ。いいじゃん、試験の一つや二つは落ちてもさ」

 

 人生、一つだけが正解じゃないからね。色々な道があって、それを選んでいくこともあるさ。

 

「あのな、そういう問題じゃないんだよ、マスター」

 

「え、コナンまでそっち? いいじゃんいいじゃん、失敗くらいあるさ」

 

 むしろ失敗のない人生なんて、ないわけだよ。俺だってそうだし、皆だってそうなんだからさ。失敗から学んで、次に生かせばいいわけだよ。

 

「生かせそうにないからだろ、バーロ」

 

「え、そこまで致命的なこと? 別に『雄英だけがヒーロー校』じゃないじゃん」

 

 うんうん、そうだよね。別に日本や世界には、他にもヒーロー資格を得られる学校はあるわけだからさ。そこだけを目指して頑張るのは違うと思うわけですよ、俺はね。

 

「このままじゃ、二人は試験に合格できないって話だよ」

 

「え、まだ足りないの?」

 

 ウソだろ。あれだけやってまだ足りないって、雄英ってどんだけレベルが高いんだよ。

 

 デク君も爆豪君も、徹底的に鍛えてたじゃない。エルとソープが武器を持っているなんて久しぶりに見たし、アインズはあの豪華な杖を持っていくらいだよ。

 

 しかも、ギルが鎧を纏って『エア』を抜いていたなんて、久し振りに見た気がするけど。

 

 知識だってガンガン詰め込んでいたし、六法全書も暗記したんだよね、二人。資格を取らせてないだけで、模擬試験とか全問正解してたじゃないの。

 

 チートを俺は疑ったね!

 

「でもさ、試験は終わったんだよね?」

 

 俺は覚悟を決めて、闇を背負っている二人を見た。

 

 もう、何があったんだって思ったよ。

 

 最初に店に飛び込んできて、『すみません』って土下座するんだもん。俺は初めて見たよ、ジャンピング土下座。

 

 良かったぁ、店にお客さんがいない時間でさぁ。

 

 あれ、返事がない。え、二人ともそこまでショック。

 

「土下座のまま動いてないんだけど、気絶してないよね?」

 

「も、申し訳なくて」

 

 やっとデク君が答えてくれたけど、顔をあげてないし。爆豪君はもう答えてもくれないし。

 

「そこまで気にしなくても」

 

「俺達のために色々してくれた、一郎さん達に申し訳がたたねぇ。こんなんはロックじゃねぇ」

 

 お~~やっと爆豪君が動いた。え、あれ、えっと。

 

 顔を上げた爆豪君は、号泣していた。

 

「マジで何があったのさ?」

 

「二人を狙った試験内容だったって話だよ」

 

「え? 高校の受験で特定の生徒を狙うって、どんだけ酷いの雄英って」

 

 えげつないな。確かに試験って本当に合格させる気あるのって時もあるけど、大抵は生徒を確保しなければいけないから、ある程度のレベルに抑えられているはずなのに。

 

「この二人だから、だろうな」

 

 コナンが意味深に言っているけど、俺には解らないんだけど、どういうことなんだよ?

 

「試験内容は例年通りで、実技試験の時になんかあったらしい」

 

「へぇ~~~」

 

「まあ、予想はつくけどな」

 

 さすが名探偵。これだけの情報で推察するなんて、すげぇよ。で、何があったのさ?

 

「たぶん、試験にマイナス点の『内容があった』か」

 

 ビクッと二人が震えた。え、そんなのあるのか。いや実技試験じゃマイナス点ってあるか。

 

「それか、『ヴィランを助けた』か、だろ?」

 

「なんで解るんですか?!」

 

「試験結果を見てたんですか?!」

 

 おう、怒涛の勢いでデク君と爆豪君がコナンに迫ったけど、そう言うこと?

 

 え、何か間違ったの? マイナス点は解るけど、ヴィランを助けたらダメって何で?

 

「ヴィランは基本的に倒すか、あるいは捕獲が前提条件だからだろ?」

 

 あっさりとコナンは二人の突進をかわして、俺の隣に来た。

 

「ふん、たわけどもが。敵を救おうなどと」

 

 ギルぅ~~お前ね。呆れて見た俺の視界には、とても嬉しそうに笑っている英雄王がいた。

 

 あ、これ愉悦じゃない。

 

「よくやったって褒めてやればいいじゃん」

 

「馬鹿を言うな、マスター。我の褒め言葉など、簡単に出ると思うなよ」

 

「お~~い」

 

 口調と表情があってないぞ、愉悦王。

 

「で、具体的にどんな内容だったのさ?」

 

 二人に問いかけても答えは戻ってこなくて。ギュッと拳を握って唇を噛んで、めちゃくちゃ悔しそうだし。

 

 えっと、これってどうなるんだろ?

 

「こんなこともあろうかと!!」

 

「映像を手に入れておいたよ!」

 

「出たな、技術系の自重を忘れた馬鹿二人」

 

 エルとソープが決めポーズを取りながら、映像を持ってきた。

 

「見てみるか」

 

 今まで黙っていた弔の提案に、俺達はそれを見ることにしたんだけど。

 

「弔、何してたんだよ?」

 

「料理を作っていた。試験が終わって腹が減っているだろうからな。人間、空腹だとマイナスな思考にしかならない」

 

 すげぇ、この状況でそんなこと考えられるなんて、おまえくらいなもんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 映像は試験開始から始まった。

 

 プレゼント・マイクの開始合図は、いきなり開始。準備の時間がないっていうのが気になったけど、確かに現場に出たら『これからやります』なんて掛け声はないよな。

 

 でもさ、団体行動なら声かけあってやるから、『行くぜ』とかあるんじゃないかなって思うんだけど。

 

「反応はいいな」

 

「フ、あの程度この二人なら造作もないことよ」

 

 コナンの褒め言葉と、解り辛いギルの称賛に、俺も頷く。

 

 よくあの合図で飛び出せたよな。

 

 あ、爆豪君もデク君もジャージだ。それはそうか、二人のコスチュームは有名になり過ぎたからな。試験で使って色々といわれるのを防いだのか、それとも力のセーブをしたのか。

 

 でも、デク君は艤装の主機は使っているな。足元と腰に少しあるパーツがそれだね。

 

 ちょっと見はゴツイブーツと、腰のポーチくらいにしか見えないからな。

 

「試験内容はヴィラン型のロボットを倒してポイントを稼ぐ、ですか。なるほど、なるほど、ロボットをねぇ

 

「おい、エル、殺気」

 

「おっといけません。僕としたことが、ロボットが倒されていく姿に怒りが抑えきれませんでした」

 

 こいつは本当にロボットが絡むと自重がなくなるよな。このまま映像を見ていて暴れ出さないか。もっと言えば、雄英に殴りこみをかけないか。

 

「あれ、この人型もロボットですね」

 

「え、どれ?」

 

「これですよ」

 

 エルが指さす先にソープも食い入るように見て、納得したような顔をした後にちょっと悪く笑った。

 

「なるほど、これかぁ」 

 

「え、なになに?」

 

「そのうち解るよ」

 

 教えてくれよ。なんでそこで『悪だくみ』みたいな顔、するかね。

 

 まあ、今は試験内容か。へぇ~~色々な個性があるんだな。これって何処からの映像?

 

「雄英のデータベースです」

 

「ハッキングしてんなよ、馬鹿エル」

 

「失礼な。ハッキングしてませんよ」

 

「じゃどうやって手に入れた?」

 

「保護者ですが、試験の映像がみたいですと言いました」

 

 そっちのほうが性質が悪いだろうが、身分詐称じゃんか。

 

「育てたので保護者です」

 

 日本語って難しいなぁ。俺はエルの自信満々な答えに、そう思ったのでした。

 

「今、どのあたりだ?」

 

 ここで弔が合流、黒霧もいるな。

 

 デク君と爆豪君には試験内容は辛いものだからって、『手のひら鎮守府』に行ってもらった。で、そこで艦娘達と一緒にお食事中、と。

 

「試験の中盤だな」

 

 コナンの返答に、弔は映像を見た後に大きく頷いた。

 

「二人は落ちるな」

 

「え、もう? 何処でそう判断したのさ?」

 

「ヴィランのポイントだ。ポイントに『ゼロ』と、『マイナス』がある」

 

 確かに。でもさ、マイナスポイントのヴィランって、そう書いてあるだけでイラストも写真も載ってないけど。

 

「簡単なことだ、一郎。二人の態度と二人の『性質』を考えれば、な」

 

「いや簡単って。あれ、ひょっとして俺だけ解ってない?」

 

 え、マジで。なんで全員が頷いてんだよ。あれ、俺だけ。

 

「吹雪も『やっぱりそうなりましたか』って言っていたな」

 

「え、ひょっとして艦娘達全員が?」

 

「ああ。予想していたらしい。二人が落ちる理由は、それしかないってな」

 

 え、えええ。こんなに頑張って色々なことができた二人が落ちる理由って。

 

 俺には解らないけど、全員が頷いているから解り易いことなんだろうな。

 

 あれ、俺以外の知能指数ってかなり高いから、俺は馬鹿だから解らないって可能性もあるような。

 

 泣きそうだよ、馬鹿野郎。

 

 ちくしょうって俺が思っている間も、爆豪君は爆発で、デク君は拳でポイントを重ねて行った。

 

 あ、妖精が一匹、デク君の肩に乗ってる。あれって、時々は指で指示しているから、きっと上空に偵察機がいるな。で、上空から見た映像をデク君と、後は爆豪君に伝えているんだろうな。

 

 時々、デク君と爆豪君の視線が合わさっているから、あれでアイコンタクト取っているんだろうけど。

 

 連携、見事だな。他の生徒は、と。あれ、まだまだ出来てない。ポイント差が大きいな。二人がぶっちぎりの一位と二位で、三位以下と百点差あるんじゃないか。

 

 あれ、でも試験で百点も差がつくほど仮想ヴィランを出すって、おかしくないか。受験生ってまだ素人なんだから、もっと少なくていいはずじゃないか。いくらヒーロー志望でも、こんな数のヴィランに囲まれたら。

 

「危な?!」

 

 今、女の子が瓦礫の下敷きになりかけたけど!! 

 

 咄嗟にデク君が瓦礫を破壊したけど、こんなに危ない試験なの?

 

 あ、あっちでは爆豪君が仮想ヴィランに囲まれた生徒を助けてる。この試験ってなんだろ、まるで『生徒が危険になることを考えてない』気がする。

 

「セコイ手を使ってんな」

 

 コナンもそう思うんだ。

 

「例年とは違う試験だな」

 

「え、弔って前も見たことあるの?」

 

「一応な」

 

 へぇ~~そっか、まるで違うのか。ってことは、デク君と爆豪君が狙われたのって間違いないのか。

 

 オールマイト、何か考えたのかな?

 

 そして試験も終盤。ゼロポイントも敵が二つ出たけど、それもデク君と爆豪君が一撃で葬った。

 

 瞬殺だったな。出現地点に多くの生徒が固まっていたこともあって、瞬時に倒さないと被害が出るって考えたんだろうな。

 

 あれの防御ってかなり硬いって説明もあるし。

 

「あれ」

 

 倒したゼロポイントのヴィランが倒れる。二つとも倒れていく先、人型のヴィランが瓦礫に足を取られていた。

 

 

 

 

 

『助けて』

 

 

 

 

 

 瞬間、俺は二人が落ちた理由を理解した。

 

 そっか、そうだよな。それじゃ無理だよな、二人だから『合格できない』よ。

 

 マイナスポイント、それは『ヴィランを助けること』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぐしゃぐしゃに泣きながらも、食事を口に詰め込んでいく二人に、誰も言葉をかけていない。

 

 必死に頑張っていたことを知っているから。懸命に努力していたことを見ていたから。二人の熱意をよく理解しているから、何も言わないでいる。

 

 やがて二人は嗚咽を堪えるように食事を終えて、そして机に突っ伏した。

 

「受かりたかった」

 

「雄英に行きたかった」

 

「胸を張って『やった』と報告したかった」

 

「皆さんのおかげですって言いたかった」

 

 呟く声に誰も答えず、けれど温かい目で見つめる艦娘達。

 

 知っている。二人の誠実さを、二人が努力家なのを。現状に満足せず、これだけでいいなんて考えなんて浮かぶことなく、もっとと前に進んでいた二人の姿を見守っていたから。

 

 涙が流れ、悲鳴と絶望を噛みしめるような二人を見つめた艦娘達は、それでも何か言わない。

 

「すみません」

 

「何をだ?」

 

 デクの謝罪の言葉に、エンタープライズは強く答える。 

 

「皆さんの期待を裏切りました」

 

 絞り出すように答える爆豪に、彼女は小さく嘆息をこぼす。

 

「期待を裏切られた覚えはないな」

 

「でも僕たちは合格しなかった!」

 

「落ちたんだぞ!!」

 

 盛大に言い放った二人に、誰ともなく艦娘達は笑った。大声で馬鹿らしいというくらいに盛大に。

 

「な、なんで?」

 

「どうしてだよ?!」

 

 

 

 

「馬鹿を言うな!」

 

 

 

 一括はエンタープライズから。そのあまりに迫力に、爆豪とデクは思わず立ち上がっていたが、ゆっくりと力を抜くように座り直す。

 

「私たちが裏切られたと感じた? 馬鹿を言うな。二人ともよくやった、見事だったと褒めたいところなのに、そんな呆れたことを言うからだ」

 

「で、でもよ」

 

「私たちが期待したのは、雄英に合格することじゃない」

 

 穏やかに微笑みながら、彼女は語る。二人をゆっくりと見つめ、一言ずつを届けるように。

 

「私たちが君たちに期待したのは、『ヒーロー』であることだ。誰かを救い、嘆きを砕き、絶望に立ち向かい、強敵に恐れを抱かず」

 

 交互にエンタープライズは二人を見つめる。

 

「圧倒的不利な状況でも諦めず、理不尽な暴力に決して屈せず」

 

 艦娘の誰もが二人を穏やかに見詰めていた。誰もが解っていた、試験に落ちたと聞いた時から、怒るのではなく呆れるのではなく、『よくやった』と褒めるために。

 

「常に勇気を持って立ち向かい、多くの人を奮い立たせる背中を見せ続ける、そんな『ヒーローである』ことだ」

 

 穏やかに語り終わり、エンタープライズはゆっくりと頷いた。

 

「よくやった。私たちは誰もがそう思っている。よくぞ、敵であっても見捨てずに助けようとした。確かに犯罪者は悪だろう、裁かれるべき存在だ。被害者にとっては、消えてくれたほうがいいと願う者もいる」

 

 昔からその手の問題は、人につき纏う。被害者と加害者がいるなら、その恨みの感情は消えることはない。

 

 ヒーローは敵を倒す、正義の味方は悪を決して許さない。

 

 けれど、それですべてが終わることはない。

 

 彼がヴィランとなった理由は何だろう。彼が悪事に手を染めた結果は、どこで彼はそれをしなければならなかったのか。

 

 正義の味方であるならば、正義を執行するだけならば、この世界のすべてを刈り取れば終わる。

 

 それで終わったなら、人などどこにも存在しない、冷たい世界だけだろう。

 

「一郎から聞いていないか? 彼が語ったヒーローこそ、私達のヒーロー像だ。だからこそ、私たちは君達を誇る、例え相手がヴィランであっても、絶望や悲劇の檻に拘束された人の、『自由を取り戻した』」

 

 彼女は語る、いつかに言われたことを。死柄木・弔が目標とした姿のことを、かつて田中・一郎が憧れた背中のことを。

 

 『人々の自由を護る(理想とする)ヒーロー』のことを。

 

「理想だろう、綺麗事だろうな。ヴィランに苦しめられた人たちからしたら、私達の言っていることは嫌悪か、あるいは憎しみの対象になるかもしれない」

 

 しかしと、エンタープライズは続ける。穏やかに微笑みながらも、決意を秘めた瞳を持って。

 

「けれど、その理想と綺麗事を現実にするための、決して逃げない、絶対に退かない、私たちが君たちに期待したのは、そういうヒーローだ」

 

 言葉を止めて、彼女は周囲を見回す。

 

「こんな冷たくて理不尽な世界だ、誰もが理想を追いながらも、何処かで諦めて折り合いをつけてしまうかもしれない。現実的に考えて、これで十分だと思うかもしれない」

 

 艦娘達の視線は二人に注がれる。かつて、戦争を生き抜いた、戦争の中で消えて行った彼女たちは、二人を通して理想を見ていた。

 

「けれど、二人は『そこで止まらないでくれ(絶対に諦めないでくれ)』。理想を現実にしてほしい、綺麗事を体現してくれないか。私達は常にそう思って、お前たちを鍛えていた」

 

 そこでエンタープライズはフッと自嘲気味に笑う。

 

「すまないな、茨の道をお前たちに課してしまったようだ」

 

「そんなことありません!」

 

「皆さんがそう思っているなら僕たちは!!」

 

 涙を流して嘆いた二人は、もうそこにいない。立ち上がり、拳を握った二人は何時も通りに、前を向いてただ走っていく。誰かの助けてに足を止めず、迷わずに突き進む二人だった。

 

「そうか。ならば」

 

 

 

私たち艦娘(嘆いた者たち)から、君たちに願いを託そう。

 

 

 どうか人々の自由を護る存在(絶望を砕く最高のヒーロー)になってくれ。

 

 

「はい!!!」

 

 気合のままに答える二人に、誰もが安心したように笑顔を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が言わなくても、良かったな。

 

「オールマイト、理想すぎますか?」

 

「いいや、そんなことはない」

 

 食堂の入口で、俺は壁に背中を預けて、入口の反対側にて、同じように背中を預けているオールマイトに声をかけた。 

 

「私は怖かったのかもしれない。あの二人が、あんなにもヒーローらしい二人が立ち止まらずに、消えてしまうかもしれないことが」

 

「歯止め。何処かで止まらないと、突っ走ってそのまま消えてしまいそうだからですか?」

 

「ああ」

 

 小さく呟き、彼は天井をみつめたままだ。彼が何を願い、何を思い出しているかは俺には解らない。

 

 だけど、これだけは言える。

 

「爆豪君とデク君は誰よりも強いですよ。誰にも負けないくらいに強い」

 

「解っている」

 

「だからこそ、『貴方(大人)が教えてください』」

 

 ハッとオールマイトが俺を見た。

 

「世の中の理不尽を、限界があることを、冷たく非常な絶望があることを」

 

 いつだって、世界っていうのはとても暗くて冷たくて、嘆きばかりが多いところだから。

 

 だから俺達は理想を語り、綺麗事を思い描く。それを叶えようと必死になって頑張っている。

 

「オールマイト、二人に教えてあげてください」

 

 『二人の前を走る大人(ナンバーワン・ヒーロー)として』。

 

「田中少年・・・・・解った、二人には教えよう。世界の厳しさを、現実の非情さを。そして」

 

 オールマイトは真っ直ぐに見詰めてくる。

 

 安心した、この人なら二人に教えられる。絶対に超えられない壁と絶望を。

 

 そして、それを超えること(プルス・ウルトラ)を。

 

「二人をお願いします」

 

 俺は深々と一礼した。

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、雄英の合格が二人の元に届いたのでした。

 

 でも、俺はねぇ。

 

「それとこれとは話が別と思わないかね、田中少年?」

 

「はい」

 

 雄英の試験の内容、それは問題ないんだけどね。

 

 二人とも、手加減を覚えてくれると嬉しいなぁ。

 

 だって、仮想ヴィランすべて粉砕なんてさぁ、もうやり過ぎって言葉が笑えてくるよ。

 

「田中少年!」

 

「はい、すみません」

 

 俺はその日、雄英の会議室でオールマイト、根津校長に土下座したのでした。

 




 

 職業ヒーローではなく、『ヒーロー』という生き方を教えていくスタイル。

 理想と綺麗事を体現してくれる、そんなこと無理っぽいけど、無理って諦めて挫折するくらいなら、壊れるまで突き進めばいい。

 で、その理想の姿になれる。

 サルスベリがヒロアカを見た時に感じたのは、そういう作品でございました。

 書きたいこと、山積みになって書けないような気がしてきたのですが、短編から長編に切り替えていこうと思います。

 だから、途中で『これで最終回』でも許してください。

 的な見切り発車な風味でお送りしました!




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