強個性であり、万能的で無敵でもある。ただし、ストレス耐性と胃薬が必要である『完結』 作:サルスベリ
真面目な話を挟んだ、かなり真面目にやったと自負している!
さて、今回てすが趣味趣向は人それぞれ。
今回の目標は『全滅!』って風味です、はい。
ガタガタと全身が震える、もう俺は駄目かもしれない。
どうも、田中・一郎です。
「おい、英雄王、生きてるか?」
「フ、名探偵こそ呼吸をしているか? 貴様が死んだら誰がなぞ解きをするというのだ?」
「言ってくれるぜ。誰のせいだと思ってんだよ?」
俺の左右で、昔から頼もしい二人が、同じように膝を抱えてガタガタ震えている。
「フ、このギルガメッシュ、間違いなど犯さぬ、と信じていたかった」
「泣くなよ、頼むから泣かないでくれ。おまえは何時だってかっこいいじゃないか!!」
なんで俺は英雄王の号泣を見なくちゃいけないんだよ! いつだって自信に溢れてたおまえが! 大胆不敵に笑っていたギルが! 今は小鹿のように震えているんだぜ、笑えてくよ。
「コナン、何とかしてくれ。もうお前しかいないんだ」
「俺に振るなよ、マスター。頼ってくれて探偵冥利に尽きるってもんだけどな。『あれ』は俺じゃ勝てない。解ってるだろ?」
哀愁を背負っているようなコナンに、俺は唇をかみしめて小さく頷くしかない。
ああ、そうか、俺達は最終兵器を起動させてしまったんだな。
もうアインズも沈んだ。ガイコツなのに、真っ赤に染まって倒れた。
エルは真っ先に吹き飛んだ。もう豪快に赤い液体をまき散らして。
ソープは崩れ落ちるように血の海に沈んで行った。
お、俺達だけなのか? もう止められないのか?
「田中少年」
「オールマイト! さすがナンバーワンだ!! 生きて・・・」
助かったと俺が見た先で、何時もなら豪快に笑って力強くポーズを決めるヒーローが、血の海に沈んで行った。
「すまない」
「お、オールマイト!!! なんで貴方はナンバーワンじゃないか!」
「私も、『男』だったということさ」
フッと笑った彼は、そのまま沈んで行った。
まさか彼も、いや待ったオールマイトと一緒に爆豪君とデク君もいたはずだ! まさか、フル装備で立ち向かった二人も沈んだと?!
「一郎」
「弔! 戻ったのか?! 廻はどうした!?」
確か一緒に他のルートを探していた、と俺が顔を向けた先で弔は血だらけだった。その隣には治崎・廻が、ぐったりとした姿でいた。
「お、おい」
「すまない、一郎君」
小さな声で答える廻は、そのまま血の海に落ちた。
「俺もここまでみたいだな、一郎、楽しかった」
「弔、待てよ、おまえまで逝くなよ!」
「黒霧も先に沈んだ、後は任せた」
寂しそうに笑った弔も、ゆっくりと血だまりに倒れた。
もう後がない、やるしかない。
「ギル、コナン、行くぞ」
「よかろう、ここが我の死地となろう」
「いいぜ、地獄の底まで付き合ってやるよ」
頼もしいな、俺はこいつらがいればなんだってできる、そう思えるさ。
「逝くぜ!!」
そして俺は駆けだした。
どうしてこうなってしまったのか、それは三時間前にまで遡る。
その日は雲一つない青空だった。
寒くもなく熱くもない、春の昼下がり。ちょっと眠気を誘うような陽気の中で、『ラ・エンテル』は貸し切りで二人の合格祝いをしていた。
「よかったよ、二人とも」
「ありがとうございます。これから誰にも負けずに勝ち続けてやるぜ!」
「絶対に諦めずに突き進みます!」
うん、いい顔するなぁ。落ち込んでいたのが嘘のように、真っ直ぐ前を向いている。
俺も土下座したかいがあったな。
「ロボットの修理は僕がやりますから大丈夫ですよ!」
「あ、うん、エルってそういう情熱はすごいし技術も信頼しているけど、どっから資材を持って行った?」
「もちろん、鎮守府からです」
「てめぇ」
当然のように答えるエルに、俺はゲンコツを作ったけど、悪くないよね。こいつは最初に話を通すとか、やる前に書類提出するって頭はないんかい。
「二人の門出に我が歌を聞くがいい!!」
「待ってましたアインズさん!!」
すげぇ、アインズが立ち上がって歌い始めた瞬間に、最前列に爆豪君がいる。めちゃくちゃ速かったんだけど、あれって何?
「あ、かっちゃんは『ジェットエンジン』を再現できたそうです」
「へ?」
「はい、燃料を『爆発』させて推力にしているなら、俺にできないことはないって言って」
「あ、そう」
そっか、そっか。前に爆豪君、デク君がどこを目指しているか解らないって弔や俺に言っていたけど。
十分に君も何処を目指しているか解らないから、大丈夫だよ。君たちは間違いなく幼馴染だから、どっちもどっちだ。
「最大がマッハ六までしか上がらなかったって嘆いていましたよ」
「うん、本当に何処を目指しているのかな」
「できれば『ビックバン』まではやりたって言ってましたよ」
君は本当に何処を目指しているのさ、爆破の個性で宇宙創造ってできるわけない、ないよね、出来ないよね? これで爆豪君が宇宙を作ったら、俺はオールマイトにどう言い訳していいか解らないよ。
「僕も負けられないなって思って」
「思って?」
「妖精に相談したら、『ゴッドハンドクラッシャー』と『ゴルディオン・ハンマー』のどっちがいいって聞かれました」
おう、怖い。なんだろう、なんでその二つの選択肢しか持って来なかったのか、後で聞こう。妖精達の拳の一撃の最高ランクって、『オベリスク』だったんだなぁ。
で、もう一つは艤装の主機に備わっている、『勇気をエネルギーに変える緑色の石』繋がりかな?
「俺、次にオールマイトに会ったら『スマッシュ』されそう」
「安心しろよ、マスター。きっと最高の一撃を用意してくれるさ」
「コナン、俺のピンチを救うための謎解きをしてくれ」
「無茶言うなよ」
名探偵でも、この危機は回避できないかぁ。
俺が嘆いていると、店のドアが開いた。
そこからが、悲劇の始まりだなんて、その時の俺は気づけなかった。
デク君と爆豪君の合格祝いだからって、俺達だけじゃ味気ないので、ヒミコちゃんにも声をかけた。
最近、ネットアイドルが大人気で、街を歩くと人ごみができるとか、人だかりができて警察が動くなんて話もあるくらいに。
「こ、こんにちは」
だから黒霧に迎えに行ってもらったんだけど。
「こんにちはヒミコちゃん」
「お邪魔します」
深々とお辞儀する彼女の頭に、違和感があった。あれ、なんでそれをつけているかなぁ。
「なんで猫耳?」
「お、男の人は好きらしいので。後はパーティといえば、猫耳ってネットで」
誰だ、純真無垢なヒミコちゃんに余計なことを教え込んだのは。
グッジョブって言ってやるよ。今日のヒミコちゃんはロングスカートなんだけど、上着が巫女っぽいのでよく猫耳が映える映える。
くっそ、可愛い。
「ふきゃ?!」
「大丈夫か?」
「と、弔クン、ガードです、私のライフを護ってください」
ク、やはり弔か。おまえは俺とヒミコちゃんの間に立つな!
「一郎、客がもう一組だ」
「え、誰? あれ、廻じゃん!」
店の入り口から入ってきたのは、治崎・廻。最初は治崎さんって呼んでいたんだけど、『師にさん付けで呼ばれるのは気後れする』って言われて、呼び捨てになったんだけど、師って何?
死じゃないといいな。
「お招きとのことで参上いたしました、我が師よ」
「いや、なんでそんな古風な言い回し?」
「ちょっとふざけただけだ。さて、紹介しよう」
そう言って、廻は彼女を紹介してくれた。
「エリだ」
おう、シット。
俺は思わず、呆けてしまった。そこにいたのは、まさに天使。
白い髪と純白の翼を背負った、天使。可愛いとか可憐って言葉が霞むくらいに、幼く儚く美しい少女だった。
「こんにちは」
「はい、こんにち・・・・は?」
で、猫耳。あれ、なんで猫耳?
「さすが我が師、気づかれましたか? 今回のエリちゃんのコンセプトは『マジ天使エリちゃん! 猫耳をつけて可愛さ天元突破!』です」
あ、そう、うん、可愛いね。可愛いんだけど、いきなりそのテンションはどうなのさ。しかも、コンセプト以外はすげぇ冷静って。
「この可愛さはまさに宇宙一! 世界を超えて人を超えて! 天使を超越した我がエリちゃんの可愛さはもはや女神レベル! 古のあらゆる美の女神を超えた美しさと儚さは! 世界を革命させる!!」
あ、相変わらず絶好調だな。
「弔君!! 私は髪を染めます!」
「落ち着け、ヒミコ」
「いいえ! 落ち着けません! あの目! あの感情! あれを向けられるなんて許せません! 確かに可愛い、もっと言えば可愛いしギュッと抱きしめたい! 天使って言葉を否定する要素はあの子の何処にもない! しかしです!!」
「ヒミコ、それは止めろ」
う、後ろでなんだかヒミコちゃんが暴走している。
「でも!! 女の子として可愛いで負けたくありませんから! 絶対に退けない戦いはここにあるのです!」
「落ち着け、ヒミコ、おまえはそれをどうするつもりだ?」
「猫耳をもっと映えるために髪を解きます!」
「え?!」
思わず振り返った先、ヒミコちゃんが髪を解いて、さらさらと綺麗な髪が風に踊っていて。
フ、なんだ楽園がそこにあったのか。もう天使とか女神とかどうでもいいさ、可愛い、その言葉だけで十分じゃないか。
「あう」
「いいもの見せてもらったぜ、ヒミコちゃん」
俺は思わず親指を立てた。
「はうぅぅぅぅぅぅ」
「オーバーヒートか」
「なるほど。それは我がエリちゃんへの宣戦布告と見た!!」
「おまえも落ち着け、廻」
すっげぇ絶叫して腰を折って天上へと叫ぶ廻に、冷静に突っ込みを入れる弔だった。
俺はもう立ってられなくて壁に背中を預けているけど、もう任せていいよね。
あ、デク君が顔が真っ赤だ。あれはヒミコちゃんの髪解きを直視したな。
爆豪君は、ヒミコちゃんとエリちゃんを交互に見ているな。猫耳が珍しいって顔しているね、解るよ、君の気持はよく解る。猫耳って、日常的に見れるものじゃないからね。
「勝負だ! ヒミコとやら! どちらが猫耳をつけるにふさわしいか!」
「望むところです! 私こそが猫耳マスターであることを教えてあげます!」
「ククククク、おまえごときが猫耳マスターを語るなど笑止千万! 我がエリちゃんのキング・オブ・猫耳の前に沈むがいい!」
なんか、ヒートアップしているな。
俺はその時そんなことを思っていた。
そう、それこそが悲劇の引き金だった。
「控えよ!」
一括だった。すげぇ王のオーラと滅茶苦茶なカリスマの気配に、室内にいた誰もがそいつを見た。
ギル? と、ユニコーンだと?!
「待てよギル!!」
慌ててコナンが止める! さすがな行動力だ! 俺も今回は気づいた!
咄嗟にエルとソープも動く、アインズも魔法を展開しようとしていた。
だが、すべてが遅かった。
「よく聞くがいい! 雑種ども!! これこそが!!」
「よせぇぇぇぇぇぇ!!!」
「止めろギル!!」
「これこそが『真の猫耳!』、唯一絶対なる王としての猫耳だ!!」
そして、ギルは禁断の『艤装』を使ってしまった。
ユニコーンの艤装スロットの五つ目の装備を。
「にゃ~~ん」
そして、店の中に静寂が訪れた。
「逃げよ! 逃げるのだ!!」
真っ先に飛び出したアインズは、『超位魔法』を展開。直撃させて威力を拡散させる寸前で崩れ落ちる。
「さ、さすがはこの私を一度は完全に沈めた威力だ。ふ、フフフ、まだこの私に恐怖を刻むとは」
「アインズ!」
「逃げよ!!」
グッと俺の体が掴まれた、気づけば何故かギルが俺を掴んで、コナンまで俺を掴んでいた。
「誰でもいいからオールマイトを呼べ! あいつなら!」
誰かがそんなことを言っていた。
エルが突撃していった。目を閉じていたから、見ないようにしていたのかもしれない。でも、ダメだった。
「やはり、僕も男だったんですね」
彼はそういって沈んだ。
「二度目でも威力が変わらない。流石だよ」
同時に飛び込んだソープも、そう言って倒れた。
後は混乱だ、もう誰が何処にいるか解らない。
必死に逃げても店の中は狭い。どうやっても立ち向かうしかない。
やがて、オールマイトが応援に来た。
「なるほど、解った、田中少年」
「オールマイト」
「大丈夫さ、何故って? 私が来た!」
かっこいい、あんたはやっぱりナンバーワンだ。
「俺も行くぜ、オールマイト」
「あの威力です、数で対応した方がいいでしょう?」
爆豪君とデク君も立ち上がった、それにオールマイトは少し迷っていたようだが、大きく頷いた。
「では行こうか、有精卵ども!」
「おう!!」
「はい!!」
元気よく向かって言ってくれた。何とかしてくれる、どうにかしてくれるって思っていたんだ。
俺はそれにすがりたいだけかもしれない、でもダメだった。
そして、皆が血の海に沈んでいる。
もう後はないから、俺はギルとコナンと突撃していった。
大丈夫、三人もいるから誰か辿り着けるはずだ。
「にゃ~~ん」
「に、にゃ~~~ん」
「にゃ~~~」
俺の目論見は儚くも砕け散った。
なんでだよ、どうしてなんだ。
「ここまでかよ、ちくしょう」
コナンが墜ちた。
「我の唯一の失敗だったな」
ギルは立ったまま意識を失った。
どうしてさ、なんで『三人』になっているのかな?
最初はユニコーンだけだったじゃんか。あの最終兵器、ゴスロリメイド服猫耳装備はユニコーンだけだったはずだ。それがなんでヒミコちゃんとエリちゃんまで着ているのかな、あれ色が違っているから複数もあるの、なんだよそれなんで三人ともちょっと頬を染めて、恥ずかしそうに笑っているのさ。
猫のポーズをして恥ずかしいのね、うん、君たちの気持ちは解るよ。でもその恥ずかしいが、男にとってはクリティカル・ダメージになるって知ってくれないかな、もうね恥ずかしいけど一生懸命にやっていますが、可愛くて可愛くて。
誰か一人でも堂々としていたら、俺は立ち向かえたかもしれない。
でも全員がちょっと恥ずかしがって、照れながらのポーズなんてどういうことなんだろう。
もうダメだ、ユニコーンだけだったら耐性ができているんじゃないかなんて、馬鹿な考えだった。
「フフフ、天使の翼がないほうが威力が高いとは。私もまだまだ未熟だな」
「俺も楽園が見えた、明日からコックとしての技量が上がりそうだ」
俺の後ろで鼻から赤い情熱を流して倒れている廻と弔が呟いている。
「私はヒーローだ、ヒーローだが、その前に男だったようだ」
オールマイト、それは仕方ないんだよ。
「クソがぁ、可愛いが最強なのかよ」
爆豪君、それは仕方がない。しょうがないんだよ。
「こ、これを使えばヴィランも救えるかも」
デク君、そんなことしたらヴィランが死ぬよ。
「一郎さん、私も人間だったようです」
黒霧、おまえも鼻があったんだな。お前は今、ブラックじゃなくてレッドだぜ。
く、クソ、どうにかしないと、そろそろ全員が死にそうだ。
「あ・・・・」
その時、ユニコーンが気づいて小さく頷いた。
瞬間、俺の第六感が盛大に叫んだ!! 言わせては駄目だ、と。
「待て!」
「にゃ~~んだよ、お兄ちゃん」
ブハ!?
そして、俺は倒れたのでした。
「にゃーんです、お兄ちゃん」
ぐぉ。
「にゃ~~~んです、お兄ちゃん?」
ああ、もうまさかに三連撃をもらうなんて。ふ、ヒミコちゃんにお兄ちゃんなんて呼ばれたよ。
「我が人生は幸福でした」
もう俺にはこれしか言えないよ、じゃあな。
「田中少年、あの装備は危険だ。二度と使わないように」
「はい、オールマイト」
絶対に使うか、本当に死ぬじゃんか。
「・・・・・・オール・フォー・ワンに使ったら、倒せるんじゃないか?」
小さく、オールマイトが呟いたことは、俺は死ぬまで誰にも言わなかった。
暴走特急、もう止まれない、猫耳戦争にゃーでございました。
人の趣味は人それぞれですが、可愛いで戦争が止まればいいな。
『可愛さのあまり全滅しました』風味でお送りしました。