強個性であり、万能的で無敵でもある。ただし、ストレス耐性と胃薬が必要である『完結』 作:サルスベリ
萌えに命をかけた前話の後に、何を書くかでメモ帳確認。
あ、こんな話を考えていたんだと、思いつつ『あれ、内容が思い出せない』ってことになりました。
よし、ニュアンスから全力で行くぜ、風味で突撃します。
人生って予想外のことは多々ある。
転生している自分が言うのだから、信憑性があるでしょう。
どうも、田中・一郎です。
「一郎、現実逃避は止めておけ。おまえのためにならない」
「と、弔」
すっごい形相の弔がね、俺の背後に立っているんだよ。もうね、手に持った包丁が凄味を増しているのさ。
「さ、殺意は人を堕落させるって昔の偉い人が言っていた」
「そうか。俺はどちらかといえば、復讐は正当なる権利の方だな」
「なるほど、なるほど。止めておけ、弔、俺が本気になったらおまえだって叶わないさ」
ク、強がって見せるさ。いくら弔でも、俺に本気で勝とうなんて考えていないはずだ。そうさ、こいつは何時だって俺を立てる。
立てる? あれ、弔に立ててもらったことってあったかな?
「今日は強気だな、一郎。『これ』で俺に勝てると思っているのか?」
冷たい顔で包丁を持つ弔に、俺は妙な寒気を感じた。
怪しく輝く刃物に、血走った目。こいつ、どんな追い込みをしてきたんだ、まさか本当に目覚めた、と?
「いいぜ、弔、来いよ」
俺は包丁を持ち上げ、できるだけ精一杯の笑みを浮かべる。
「ああ、やろうか」
「来いよ、弔」
そして俺達は包丁を持って、砥石に向かった!!
「今日こそ一郎を超えて見せる、何時までも包丁研ぎでおまえに負けるなんて、俺の料理人としてのプライドが許さない」
「フ、いいかげんに学びたまえ、弔クン。君は絶対に俺の前に走らせない、俺の包丁こそ銀河一の切れ味よ!」
「超えてやる!」
フはははは! まだまだ甘いわ!!
「なあ、ギル。平和だな」
「そうだな、コナン。ところで、あの二人は我を笑い殺したいのか?」
「英雄王を笑いで撃墜した、最初の人間かぁ」
なんか、後ろでコナンとギルが笑い合っているけど、俺は無視した。今はこの包丁に魂込めて! そうだ、この刃先を見つめ、声を聞いて、鋭く軽やかに磨く。
一か所だけじゃない、丁寧に全体的に、先から鋭く細く、食材の細胞を傷つけないような切れ味のために。
料理の腕じゃ弔に負けても!! 包丁の研ぎ方で負けるわけにいかないんだ!
「俺は絶対にその背中を超えてやる!」
「まだまだおまえに負けないよ弔!」
「超えてやる一郎!!」
「かかってこいや!」
「望むところだ!」
燃えるぜ! この一本の包丁に、俺のすべてをかけてやる!
「その気になれば、世界さえ支配できる男が包丁のためにすべてかけたよ」
「ククククク!! フハハハハ! 止めよ、一郎! 貴様、我を笑い殺す気だな! 我が財を自由にしてよいと言って! 最初に望んだのが『じゃ安眠できる枕』と言った貴様の間抜けな顔を! 我に思い出させるとは!!」
「あ~~~あれはなぁ。本当、世界のすべての財が入っている蔵を得て、最初が『安眠できる枕』ってなぁ」
「よいぞ! 良いぞ道化よ! 踊るがいい! いや止めよ! やはり止めるがいい! 我の腹がよじれる!!」
「今日も平和だなぁ」
うっさいそこの外野!!
キラリと光った包丁を両手に持って、吹雪は無言で鋼鉄を裁断しました。
「どっちだ?!」
「当然、俺だろう?」
「今回は俺も自身がある」
「・・・・・勝者、爆豪君」
はい?
「おっしゃぁぁぁ!! しゃあ!!」
「か、かっちゃん! なんで包丁研ぎなんてしているのさ?!」
うん、デク君、俺が言いたい、なんでそこで俺らに混じってやっていたのか、そもそも、なんで混ざっているのか、何時からやっていたのか、色々と疑問があるんだけど、なんで爆豪君?
「甘いな、デク。これもヒーロー活動だ」
「はい?」
「いいか、俺達ヒーローは助けての声に答える。それがどんな状況でも、どんな場所でもだ」
あ、うん、そうだね。でもさ、君たちがやっていることは、非合法なんだよね、まだ免許持ってないから。
だから、できればもっと穏便にね、もっと静かにさ。
いや待った、その前になんでヒーロー活動で包丁研ぎ。
「解んねぇのかよ、デク」
「え、え?」
「だからおまえは駄目なんだよ。いいか、デク、もしも『料理人が困っていた』ら、おまえは無理だって答えるのか?」
はい? あれ、何それ、え、どういうこと?
「包丁がなくて困っていたら? 切れない包丁で困っていたら? おまえはそんな人の助けてに、『無理です』って答えるつもりか? てめぇ、それでもヒーローか?!」
「かっちゃん、そんな無茶なことを」
「無茶じゃねぇ!! やればできるんだよ! だからやるんだよ!!」
いや、それは無茶苦茶だって。爆豪君、勢いで乗り切ろうとしてない? ねぇ、君の言っている状況ってとても限定的だと思うんだけど。
「弔、そろそろ復活してくれ」
「俺は負けた、爆豪に負けた」
膝をついて泣きそうな弔に、俺は声をかけながらも『え、このカオスどうすればいいの』なんて思っていたりする。
「できないなんて弱音だ! 言い訳を探してんじゃねぇよ! やれよ、デク、おまえだってヒーローだろうが」
「か、かっちゃん、僕は」
少し悔しそうにうつむいたデク君は、そのまま吹っ飛んだ。
あれぇ~~。
「俯いてんじゃねぇ! 弱気になって逃げる理由を探すなよ! 俺達はヒーローやるんだろうが! ヒーローは絶対に諦めねぇ! 逃げねぇ! 退かねぇ! おまえは艦娘の皆にそう誓ったんだろうが!」
「・・・・そうだ、僕らは誓ったんだ。ありがとうかっちゃん」
「解ればいいんだよ、やるぞ、デク」
「うん!!」
がっしり手を握り合った二人は、そのまま包丁研ぎにまい進していった。
「甘ぇんだよ!! なんだその持ち方は!!」
「ご、ごめんかっちゃん!」
「気合入れろ! これは料理人の魂だ、俺達ヒーローにとってのコスチュームに匹敵するんだぞ!」
「解ったよ!」
うん、何だろう。俺は何を見ているのかな。
というよりもだ、また俺はこの言葉を言うしかないな。
誰か俺に教えてください。
爆豪君とデク君が何処へ行こうとしているのでしょうか?
「一郎、俺はちょっと日本刀の鍛冶師に弟子入りしてくる」
「はい?」
なんだか復活した弔が、そんなことを言い出しました。
「二人の熱意に負けている。俺はもっと色々な知識を仕入れないと、料理人としてやっていけない」
「え、あれ、待って、ちょっと待った弔」
なんで日本刀の鍛冶師、それが包丁とどう繋がるのか、俺には解らないんだけど。
「幕末に廃刀令が出た時、日本刀の鍛冶師達は包丁を作り出したという。ならば、彼らに弟子入りすれば今以上に料理のための包丁が砥げるはずだ」
自信を持ち、拳を握って宣言する弔。
うん、逆光になって凄くいい顔で宣言しているから、ドラマのクライマックスの主人公に見えるんだけどさ。
言っていることは、とても意味不明なんだよね。
「逝ってくる」
「待てよ弔! おまえ言っている感じが違う気がするんだけど!」
「心配するな、一郎。俺は必ず戻ってくる、絶対だ。だから、行かせてくれ」
「悟った様な顔してるやつの何処を信じろと?!」
ダメだ、今こいつを行かせたら、絶対に変な風に曲がって戻ってきそうだ。例えば、包丁にうっとりした視線を向けるとか。
自分で想像して怖くなってきた。うっとりした眼で、包丁に頬ずりしながら愛称を口にする弔。
あれ、それはそれで絵になるような、ならないような。
「大丈夫だ、ここにギルから貰った地図がある。ここに行けば、包丁を立派に研ぐ人物がいるらしい」
「え、はい?」
えっと、冬木? どこ、そこ?
「おい、ギルガメッシュ、あれってあの場所じゃないか?」
「ほう、さすがだ、コナン。あの贋作者ならば弔を立派な研ぎ師に育てるだろう?」
「どっちかっていうと、投影魔術使いにしそうだけどな」
「なるほど。では弔が無事に能力を得たら、我が宝物庫に案内しよう」
「おまえらちょっとは責任感じて止めようか!?」
なで後ろで楽しそうに笑っているんだよ、ギル! コナンも止めろよな! 後、宝物庫を簡単に開放するんじゃないよ、英雄王!
「笑止! 我の宝物庫をどう扱おうが、我の自由よ。それにな」
「それに、何だよ?」
「我は良い言葉を知った。『そのほうが面白かろう』という言葉をな!!」
「アインズぅぅぅぅぅ!!」
ここでまさかのあいつが原因なんて!
最近はギルが原因が多かったから忘れていたけど、アインズもかなり愉悦に染まってそういったことが多くなってきたんだった!
「呼んだか、一郎!!」
「お前ギルに・・・・・はい?」
あれ、今日のアインズは服装が。あれ、白い鉢巻に青い羽織、それに白いエプロンって。あれって魚屋がしているようなエプロンに見えるんだけど、何があったの?
「フ、ククククク、気づいたか、さすがだ一郎。いや、マスターと呼ぼう!」
「え、あれ、アインズ? どうした、何時ものギターは何処に行った?」
「ふははははは!! 今の私はナザリック大墳墓の主でも! 流しのギター若大将でもない!」
な、なんだって?! あのアインズがギターを持っていないなんて! 何があった、といよりなんで包丁を持ち出した?
「今の私は! 流離の包丁研ぎ師! この腕の冴えを見るがいい!」
「え? はい?」
「ちょっと待ったぁぁ!!」
うぉ!? え、エル? え、なんでおまえはシェフみたいなかっこうしているんだよ。
「チッチッチ! 一郎さん、今の僕はロボットではなく包丁を愛する流浪の料理人兼研ぎ師! この包丁の輝きにひれ伏しなさい!」
あ、うん、いい輝きしているね。でもさ、その輝きってみたことあるんだけど、何の金属を使ったのかな。
まさか、だよね。
「あれってボーキサイトと鉄鋼ですね」
「ありがと、吹雪、そっか、そうだよね。おいこらエル! 書類どうした?! 申請書はどこいった?!」
「奇跡の一刀のためには些細な犠牲です!」
「犠牲じゃねぇぇぇぇ!!」
おまえ! ボーキサイトと鉄鋼を集めるのに、どんだけ苦労すると思ってんだよ! ただでさえ資材は集めるのが大変なのに!!
「みんな、少し騒ぎ過ぎじゃないの?」
「ソープ! おまえだけは・・・そうだよなぁ~~~」
もういいや。
振り返った先にいたソープは、まさに板前さんって服装でした。
「この僕を差し置いて、包丁のことを語るなんてね。一郎に研ぎを教えたのが誰か、忘れたの?」
「確かにソープに習ったなぁ」
「なんだと!?」
あれ、アインズ、知らなかった。
「一郎さんの師匠!?」
爆豪君、食い付き良すぎ。
「ソープ、俺に秘儀を授けてくれ」
「弔!! 土下座ってなんで?!」
それが一番、驚いたよ!
「ちょっと待ったぁぁ!」
「コナン! そうだよな、おまえがいて」
期待して振り返った先、コナンは包丁を片手に持っていた。
「探偵としての俺の洞察力なら、包丁研ぎなんて簡単なものさ」
「言ったね、コナン、僕と勝負しようか?」
「望むところだ、ソープ。今度こそ、決着をつけようぜ」
ニヤリと笑うコナンに、怪しい笑顔を向けるソープ。
そして俺は、笑うしかなかった。
「マスターよ、貴様はよくやった。我が認めてやろう」
「ギル、おまえも悪のり・・・してない?!」
「たまには、貴様の苦労を労うのも、良いと思ってな」
すげぇ優しい笑顔で語る英雄王に、俺は不覚にも泣けてきた。
「さあ、存分に味わうがいい、これが王の労いよ!!」
「ギルガメッシュぅぅぅ!!」
「フハハハハハ堪能せよ! 噛みしめるがいい!」
「おまえだけだよ! おまえだけが!」
ああ、いい奴だよ、本当におまえはいい王様だ。毎回、そうであって欲しいのに。
なんてこと、幻みたいに優しいギルガメッシュの労いを受けて、全員が大騒動になった日の翌日。
俺はあいつの愉悦を甘く見ていた。
「なあ、コナン、あの『一位』に輝いた黄金の包丁はなんだ?」
「ギルの奴、宝具を使いやがって」
「あ、うん、解った」
包丁と研ぎ石に原点なんてあったんだなぁ、なんて俺は思いつつ胃を抑えたのでした。
今回の話のメモ帳、『包丁挽歌』。
というわけで、何事もなくありふれた午後の一幕でした。
最初は無理かなって思ったけど、包丁だけの話題で一話とか埋めてみました。
やっぱりさ、最高のヒーローは何がっても『無理だ』なんて口にしないから、爆豪君とデク君は色々な技術と知識を得てもらわないと。
という言い訳風味の話でした。