強個性であり、万能的で無敵でもある。ただし、ストレス耐性と胃薬が必要である『完結』   作:サルスベリ

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 間に合いません(泣)

 山ほど書きたいことあるのに、時間がない。 

 というわけで、二月の大イベント、男が泣いて鳴いて、なく日?

 バレンタインデー風味の話、です。





小さくても、今にも消えそうでも、それでもつないでいく

 

 

 

 寒い、って感じじゃないけど、暖かいって日でもないなぁ。

 

 どうも田中・一郎です。

 

 今日は珍しく、弔と黒霧と買い物ですよ、買い物。

 

「お酒に合う料理ですか。弔も随分と丸くなりましたね」

 

「言うな、黒霧。なんだその保護者みたいな顔は?」 

 

「いえいえ、成長したなぁっと」

 

「止めろ、俺の保護者はそっちだ」

 

 なんで俺を指差すかな、弔クン? おまえの保護者したことなんて、一度も、あれ一度、二度かな、あったなぁ。

 

「ちなみに、俺の保護責任者の名前は『田中・一郎』になっている」

 

「おいてめぇ!! 同年代! 同い年!」

 

「ああ、同姓同名の誰かだろうな」

 

 無理あるだろ、それ。誰も突っ込まないのかよ、誰か違法だなんて言ってくる、ことないかぁ。

 

 ギルがいるだろ、ソープだろ、エルだろ。いざって時はアインズが精神系魔法使うだろうし。

 

 うん、捕まらないといいなぁ。

 

「あの!!」

 

 呼ぶ声に、俺は振り返ったけど、弔と黒霧は振り返らなかった。

 

「これ受け取ってください! 死柄木・弔シェフ!」

 

「あ?」

 

「黒霧さん! 何時も美味しいお酒ありがとうございます!」

 

「はい?」

 

 ようやく振り返った二人の両手に、多くのハート型のお菓子が。

 

 あれ、俺は素通り? え、二人は山なのに、俺は誰も来ない?

 

 泣いていいよね。

 

「そうか、バレンタインか」

 

「なるほど、もうそんな時期ですね」

 

 山のようなチョコを抱えた二人は、しみじみとそんなことを呟いているんだけど、俺は言いたい。

 

 ちょっともうかなりの勢いで言いたい。

 

「妬くなよ、一郎」

 

「そうです。貴方の魅力はもっと違うものですから」

 

「妬いてない。そもそもだ、バレンタインってなんだよ?」

 

 あれか、ウィスキーの一種か?

 

「・・・・・は?」

 

「え?」

 

「はい?」

 

 あれぇ~~俺、おかしなこと言ったかな?

 

 え、あれ、知らないとおかしい話? 一般常識なの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世の中にはバレンタインデーというものがあるらしい。

 

 好きな異性に気持ちを伝えるために、チョコを贈るとか。チョコの甘みと恋の甘さをかけたとか、恋心がとろけるチョコに似ているとか。

 

 色々あるらしいのですが、最近はお世話になりましたって意味でも贈ることがあるらしいです、はい。

 

「ってわけでだ。欲しいのかよ、マスター」

 

「丁寧な説明、ありがとう、コナン。欲しい」

 

 もちろんです、女の子から貰えるなら貰いたい主義ですから。

 

 俺って、モテたことないからなぁ。

 

「一郎ってそうなのか?」

 

 弔、意外って顔するな。

 

「あ~~~~」

 

 コナン、そんな呆れた顔するなよ。

 

「悪かったな。俺は貰えないよな」

 

 クッソ、イケメンが恨めしい。

 

「そんな情けない顔するなよ、マスター。いいことを教えてやるよ」

 

 その時、俺はコナンから魔法の言葉を貰った。これを女性に言えば、貰えるらしい。 

 

「宝くじ並みの確率でな」

 

「苦笑いか、名探偵。いいのか?」

 

「弔はあれで成功すると思うか?」

 

「一人か二人、成功するだろうな」

 

「あ~~あの二人か」

 

 なんだよ、誰だよ。まったく、俺を除け者にして話しやがって。

 

 クッソ、失敗するなら、絶対にくれそうな子にやってやる。

 

「こ、こんにちは」

 

「ヒミコちゃん!! ギブ・ミー!!」

 

 丁度いいところに! これならば。だけど、ヒミコちゃんの善意を利用したようで、ちょっと罪悪感がわき上がるけど、彼女なら。

 

「ふぇ」

 

「あれ~~」

 

 真っ赤になって出て行っちゃった。

 

「チョコレートって言いきれなかった」

 

 失敗か、次だ次。

 

「コナン、俺は今、恐ろしいものを見た気がする」

 

「奇遇だな、弔、俺もだ」

 

「天然だな、一郎」

 

「あいつが真面目にやったら、スケコマシでも通用するんじゃないか?」

 

 うっさい、後ろの年中モテ期の馬鹿二人。おまえらの後ろにある段ボールの中、チョコレートだって知ってんだよ。

 

 なんだよ、なんで二人はモテてるんだよ。チックショウ、俺ばっかりないのかよ。黒霧も貰っているし。 

 

「フ」

 

 ソープなんて男が群がっているんだぜ。あれってチョコレート貰っているんじゃなくて、チョコレートを献上されているように見えるな。

 

「さあ、僕の相手は誰ですか?!」

 

 エルの奴なんて、ロボットの箱を貰っているし。え、チョコを渡してロボットのプラモを貢いで貰っているって。おまえ、最低だ。

 

「よかろう! 私の歌を聞くがいい!!」

 

 アインズなんてアイドルのコンサートに見えるさ。

 

 で、最大のモテるイケメンは、な。

 

「助けてくれ、マスター」 

 

「今日の一面は、『英雄王、チョコによって撃墜』かな?」

 

 一トントラック三台分のチョコレートを獲得した、ギルかな。あ、でも、ギルを撃墜したのって、ユニコーンの手作りチョコだから。 

 

 タバスコ入りの。

 

 愛は赤いから、赤いのを入れないとって思ったらしい。

 

「ク、我のユニコーンへの愛が、これを食せと言っている。しかし、我の本能が『愉悦のために行け』と言っている。だが!! 我の王の矜持が『止めよ』と叫んでいる!! 我はどうすればいいのだ?!」

 

「いや、リア充は死ね」

 

 もうなんだよ、こいつは。なんでそんなに愉悦に生きたいのかな、それともユニコーン関係ならばすべて押し通すつもりなのか。

 

 はぁ、俺もチョコ、欲しいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不意討ちだ、ずるい、決意が一気に消えた。

 

 トガ・ヒミコは路地裏で必死に息を整える。

 

 昨日まで頑張った、何回もシミュレーションしたのに、何度もくじけそうになった意思を奮い立たせて、ここまで来たのに。

 

 不意討ちにも程がある。あんなに真っ直ぐに、あんなに真剣に、あんなに情熱をこめて向けられた想いに、全身が竦んでしまいそうになって、感情が爆発したから逃げてしまった。

 

「一郎くぅん」

 

 小さく名を呟いただけで、全身が燃えるように熱い。もう感情が抑えきれない、想いが溢れて止まらない。

 

 もっと触れたい、もっと見つめたい、もっと話したい。もっと温もりを感じて、その血に触れて、暖かい心臓の音に身を沈めたくなった。

 

 チョコも頑張った。一郎が喜んでくれるように頑張って作った。素材から厳選して何度も失敗して、授業中も頑張って、必死に作ったのに。

 

 先生に、『あなたにも春がようやく来たのね』とか怒られるのじゃなく、祝福されたのは意外だったが。

 

 今は一郎だ。他のことを考えて感情を抑えよう、このチョコを渡して今度こそ想いを告げよう。

 

 たった二文字だ。日常的な会話に比べたら、簡単な二文字を言えばいいだけ。チョコを渡しても通じるはずだ、何度も思考を繰り返し、何度も練習したのだから大丈夫。

 

 そっと扉を開けて、挨拶して、チョコを差し出して、たった二文字を言えば終わる。 

 

 なのに、だ。それなのに、扉を開けた瞬間に崩れた。

 

 『ギブ・ミー(君が欲しい)』。

 

 瞬間、全身から炎を噴き出したような錯覚に陥る。彼は何と言った、何を欲しいと言ったのか、思い出して否定して、もう一度と思い出して、彼女はその場に崩れ落ちる。

 

 限界だ、もう無理だ。もう抑えきれない、自分からじゃない相手から言われたことだ。抑えなくていい、我慢しなくてもいい。 

 

 これは『田中・一郎』からの想いだ。

 

「こうしてはいられないわ、トガ・ヒミコ」 

 

 よっしと立ち上がり、自分に言い聞かせる。

 

 一郎が求めているならばすぐに行動だ。速やかに対応しなければ。

 

 まずは戻って全身にチョコを塗ってこよう。

 

 いいや、全身にリボンを巻いて『プレゼントです!』の方がいいだろうか。

 

 どっちだ、どっちならば一郎は喜ぶだろうか。

 

 思考を繰り返す、今までの彼の考えと動き、意思の流れから最高の選択肢はどれだと考えて。

 

 やがて、ヒミコは止まった。

 

「おい、一郎はチョコレートって繋げようとしたからな」

 

「弔君、私もそこに辿り着きました」

 

「なら良かった」 

 

「はい。なので、これから裸になってチョコを全身に塗ってラッピングしてきますね」

 

「どうしてそうなった?」

 

 心底、残念なものを見る顔になった弔に、ヒミコは小さく首をかしげたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はぁ、チョコが貰えないなって考えていたら、正午を過ぎたよ。今日も平和な日々だといいなぁ。

 

「私が、段ボールを持ってきたぁ!!!」

 

「あれ、オールマイト?」

 

「よかった、田中少年、爆豪少年と緑谷少年はいるかね?」

 

 まあ、いますけど。

 

 ランチタイムが終わったから、店のカウンターテーブルで予習復習してますよ。MITの試験内容を。

 

 うん、おかしい。何してんの、二人とも。

 

「二人にヒーロー協会から届けものだ」

 

「俺たちに?」

 

「なんですか?」

 

「チョコレートだ。『シンガー・ボマー』と『グリーン・シップ』に助けられた人達からの感謝のしるしだよ」

 

 へぇ~~。たくさんあるな、これだけ多くの人を二人は助けたってことか。いいこと、なのかな。まあ、オールマイトが持って来たから、『大目に見るぞ』って意味でも有るんだろうけど。

 

「あいつか。歌いながら多くを救っている奴だろ?」 

 

「船の個性か。誰なんだろう、僕も参考にしないと」

 

「あれぇ?」

 

「なにを言っているんだ、二人とも?」

 

 え、あれ、なんだか、話がかみ合ってないんだけど。あれ、二人のことだよね、え、あれぇ? 

 

「ああ!」

 

 コナン、何か知っているのか?

 

「二人から名乗ったことないだろ?」

 

「え? まさか、二人は知らないってこと?!」

 

「シット!! そうなのか?!」

 

 うわぁ~~当たりだよ。二人とも、固まっているし。疑問しかない顔をしているから知らないんだなぁ。

 

「はぁ、お前らのことだよ」

 

「はぁ?! なんスかそれ!?」

 

「ええ?! 僕たちのことなんですか?!」

 

「いやいやありえねぇだろ! 歌って爆破してヴィランを倒して救助してだから! 俺の個性と同じでもっとすげぇ奴だって思っていたのに!」 

 

「船の個性だから艤装の扱いのヒントになるかもって! 何度も映像を確認しようとしていたのに!?」

 

「俺のことかよ?!」

 

 爆豪君、頭を抱えてます。

 

「僕のことだったなんて!!」

 

 デク君、膝をついて嘆いてます。

 

「そ、そうか。なるほど、知らなかったかぁ」

 

「俺達も知っているもんだと思っていたからな」

 

 オールマイト、ちょっと呆れてません?

 

 コナンも溜息つくなよ。俺も知っているものだと思っていたから、言わなかったから同罪だろうけど。

 

「そ、それじゃ二人とも、これを受け取りたまえ」 

 

 仕切り直してオールマイト持ち上げた段ボールには、それぞれに手紙とチョコレートが入っていて。

 

「なんか、上手く言えねぇけど」

 

 爆豪君、なんでそんなに俯いているのさ。胸を張りなって。

 

「僕も上手く言えませんけど、こそばゆいっていうか、その」

 

 デク君、それは解るけどね。

 

「君たちが助けた人たちからの感謝だ。他の誰でもない、君たちだから受け取る資格がある。本来なら、渡すのは『不味い』のだろうけどね。今回は特別だ。さあ、『ヒーロー達』、人々からの気持ちを受け取ってくれたまえ」

 

 オールマイトに言われて、そっと手を伸ばした二人は段ボールを持った。

 

「重いな。本当に重いぜ」

 

「うん、凄く重い。こんなに気持ちが詰まったものなんだね、かっちゃん」

 

「ああ、デク、俺達はこんなに多くの人たちに感謝されるような、そんなヒーローやれてたんだな」

 

「うん、そうだね」

 

 二人とも泣いてるな。そっか、二人とも初めてか。感謝の言葉を受けたことはあっても、見える形で『ありがとう』を受け取ったのって初めてだったんだ。

 

「懐かしいな。私も最初のファンレターは、胸にこみ上げたものさ。良かった、助けられて、自分はヒーローをやれていたんだ、とね」 

 

「へぇ~~~ナンバーワンにもそんな時があったのかよ?」

 

「ハハハハ! それはそうだ。救えなかった時、挫折しそうになったとき、そんな時に支えてくれたのが、こういった『助けた人からの感謝』だからね」

 

 なるほどね。ヒーローでも人間だから落ち込んだりしたこともあるだろうし、止めたくなることもあった。

 

 でも、それでもと前に進めたのは、こういう気持ちを受け取ったからか。

 

「君たちの原点、『オリジン』になるかもしれないね」

 

「オリジンか」

 

「僕たちの原点」

 

 二人は段ボールを見つめて、そんなことを呟いていた。

 

 うん、きっと二人の原動力になってくれるよ。誰かの助けてに答えて、絶望を砕くヒーローをやる二人ならさ、『ありがとう』を力に変えられる。

 

「よっし、俺も悩んでないで頑張るか」

 

 チョコレート貰えなくても、今日も元気に頑張りましょうっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暴走しそうなヒミコを宥め、何とか言いくるめて、弔は店へと戻る。後ろをついてくるヒミコは、手に持ったチョコを嬉しそうに眺め、うっとりした危ない表情をしているが、見ないようにしよう。

 

 原因は、一郎にあるのだから彼に責任を取ってもらおう。

 

「お母さん、あのねあのね!」

 

 店に戻る途中、ケーキを持った母子が前から歩いてくる。何処かのケーキ屋さんによった帰りだろうか。

 

 子供の方に見覚えがある。前の時、脳無との一戦の時に見かけたような。

 

「どうしたの?」

 

「私ね、料理人になる!」

 

「ええ?」

 

「私の個性は、ヒーローになれないけど、料理人には向いているって言ってたから!」

 

「まあ、そうね」

 

「だからね! あの『お手手のヒーロー』みたいに、『誰かを護れるヒーロー』になりたいの!」 

 

 ピタリと、弔の足が止まった。ああ、そうか、守った人達の中にいたのか、と何となく思い出す。

 

「それで、料理人なの?」

 

「うん! 私の料理で『みんなの心を護るヒーロー』になるの! いっぱいいっぱい美味しい料理を作って、皆の悲しいを吹き飛ばすの!」

 

 元気に答える子供に、母親は『それじゃがんばらないとね』と答えていた。

 

「あ! シェフのお兄ちゃんだ! 私も料理人になるからね!! お兄ちゃんみたいにみんなを笑顔にできる料理人になるから!!」

 

 元気に手を振ってくる少女に、弔は自然と手を振り返した。

 

 母親は小さく頭を下げて、『また伺いますね』と告げてくる。

 

「また美味しいごはんを食べに行くからね!」

 

「ああ、待ってる」

 

「きっとだよ!! それで私の料理もいつか食べてもらうからね!」 

 

「解った」

 

 笑顔でバイバイと手を振る親子を見送り、弔は再び歩き出す。

 

「よかったですね、弔君」

 

「・・・・ああ」

 

 短く答える彼の言葉に乗った感情を、ヒミコは読み取れなかった。でも呟いた彼の横顔は、何処までも澄み渡るように笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分が守れたもの、護れなかったもの。

 

 足を止めてしまうこともあった、ダメだと考えたこともあった。

 

 限界だと、もう無理だと、動けないと感じたこともあった。

 

 でもそれでも、一歩でも前に、もっと先にと動き続ける。

 

 自分のためなら動けなくても、誰かのためなら動けるから。 

 

 『ありがとう』、その一言で動ける。限界の先に、そのもっと向こうへ。

 

 人々は、ヒーローに守られているのかもしれない。

 

 だが、ヒーローは誰が護ってくれるのか。限界を感じ、ダメだと歩みを止めて挫折しかけても、ヒーローは『護ってくれる存在』によってその先に進める。 

 

 ヒーローが護ってきた人たちのありがとうの感謝の心が、今日も危険と隣り合わせのヒーロー達を護り続けるから。

 

 だから、彼ら・彼女らは今日も危険の中に飛び込める、誰かの助けてに真っ直ぐに向かっていける。

 

 感謝の気持ちを、自分の原点を、オリジンを魂に抱きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 







 最終回、のような終わり方ですが、短編時の最終回はこんな形で終わらせるつもりでいました。

 内容をちょっと変えて、連載になったので『一話分』にしてみました。

 ヒーローが人々を護り、人々の気持ちがヒーローを護る。だから前に進んでいけるんだ、的な考えでございます。

 サルスベリの作品は、すべて共通して最終話から書いていきますので、使わないのはもったいないなぁと感じて、バレンタインに合わせて内容を練り直してみました。


 間に合わなかったけど!

 という風にもったいないから使ってみた風味でした!



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