強個性であり、万能的で無敵でもある。ただし、ストレス耐性と胃薬が必要である『完結』 作:サルスベリ
二月のイベントが終わった。
残りは入学イベントまでまっしぐらだ!
なんて考えていた時期が私にもありました。
凄い重要なこと、忘れていました風味です。
世界は何時だって冷たい、どんな状況であっても、相手が誰であっても、例え幸福の最中であっても、現実の非情さを刻みつけてくる。
「ダメだ、エリ」
治崎はゆっくりと膝をつき、彼女の目線に合わせる。
「モンスターは封印されるべきだ、解るな?」
「で、でも」
「ダメだ」
少し強めに伝えると、彼女は小さく俯いて頷いてくれた。
「すまない、エリ。だが、どうしても、ダメなんだ。『オヤジ』にこれを見せるわけにはいかない」
彼女が持っているものを受取、厳重に封筒に収める。
絶対に渡すわけにいかない。何があっても隠し通さなければ。もしこれでオヤジに嫌われることになっても、絶対にだ。
「治崎、何してんだ?」
ビクッと体が震えた。どうしてここにいる、今日は会合があって遅くなるはずじゃないか。
「なあ、おまえ何を持っているんだ?」
「お、オヤジ」
ゆっくりと振り返り、悟られないように背後に隠して立ち上がる。
「いえ、何も」
「そうか。おまえ、俺に隠れて何か『シノギ』してんじゃないだろうな?」
「まさか、俺はオヤジの道を歩いていますよ」
「・・・・・エリちゃんは?!」
「マジ天使!!」
間髪入れずに答えると、オヤジは満足そうに頷いた。
「解った、信じてやろう」
ホッと安堵し治崎・廻は一礼して立ち去ろうとした。
「ところで、おまえさん、エリからバレンタインのチョコは貰ったのか?」
「もちろんです。トロフィーにして飾ってあります」
「そうか、俺は額縁に入れたぜ」
満足そうにうなずく二人、傍らから見たら完全に変態だったが、本人達は至って真剣だった。
「なら、次は・・・・・」
オヤジの言葉に、治崎は一気に血の気が引いた。
馬鹿な、忘れていただと。自分としたことが失態だ。ありえない、まさか自分がそんな些細なミスを犯すなど。
そして、彼は再び世界を呪った。
いい日、旅立ち。
ああ、まったくチョコが貰えないバレンタインが終わった。終わってしまったんだ、なんてな!
フフフフ、どうも皆さん、田中・一郎です。
俺が一個も貰えないって思った? まさかぁですよ、俺はきちんと貰いましたよ。
誰にだって? 誰だと思う?
艦娘だよ、いいだろ、家族チョコだよ、この野郎。
「チィ」
「一郎、これをやる」
「見そこなうなよ、弔。俺は施しはうけん!!」
「そうか・・・・・ヒミコの気持ちは届かないか」
「なんだって?」
小さな声で言うなよ、気になるじゃないか。まったくさ、コナンの魔法の言葉も効果ないし。ヒミコちゃんにはあれからずっと避けられるし。
踏んだり蹴ったりだな。
今日は平和な一日で終わるといいなぁ。
「我が師よぉぉぉぉぉぉ!!!」
儚い願いだったなぁ(泣)。
いきなり扉を蹴破る勢いで入ってきた廻に、俺は泣きながら顔を向けたのでした。
「どうした?」
「弔、おまえさ、店の扉半壊してんだけど?」
なんでそんなに冷静なのさ? 店、壊されてんだぞ?
「廻があれだけ焦っているなら、何かあったんだろう」
おまえの優しさ、時々さ、本当に心配になるんだよ。なんでそんなに優しいわけ。
「我が師よ!! お聞きください! どうかこの愚かな弟子に教えを!」
「いや、俺は君を弟子に取ったつもりはないから」
「三番弟子に慈悲はないと?!」
「いや、一番も二番もないから」
「爆豪とデクがそうなのでは?」
へぇ~~~何時からそうなったのさ。
マジで顔を傾げて疑問を浮かべる廻に、俺は盛大に突っ込みを入れたくなった。でも、入れたら負けな気がするので止めた。
「それよりもです!! 私は失敗しました。由々しき事態です、取り返しのつかない失敗を、私は!!」
「え、はい、何があったの?」
なんか焦っているけど、こう言う時の廻って焦る理由がエリちゃん関係だから、今回もそうじゃないかな。
「申し訳ありません。私は、私は『ひな祭り』を忘れていたのです!」
「なんだと?!」
え? あれぇ~~なんでそこでギルが激怒して立ち上がるかな。さっきまで店の一角にソファーなんて置いて、のんびりうたた寝してたじゃないの。
弔、あれは怒っていいと思う。お客さん達も、『ギルさんじゃ仕方ない』って言ってくれたからいいけど、営業妨害で怒っていいと思います。
怒らなかったけど。
「貴様! 今、何と言った?!」
「英雄王、私はもはや取り返しのつかない失敗を」
「貴様ぁぁぁぁ!! 失敗だと?! 貴様はここで死ぬか?!」
「お、御許しを。私はモンスターの封印に全力をかけていたのです」
「モンスターだと?」
「誠に遺憾ですが、他に形容のしようのない『あれ』です」
え、何、あれって何さ。
俺が疑問を浮かべる中、激昂していたはずのギルの怒りがさらに上がり、やがて蒼白になった後、小さく肩を落とした。
え、マジ、ギルが止まったの?
「ク、我は何も言えぬ。納得は出来ぬが、理解はできる」
「はい。私も納得などしていません。しかし! あれは世界を壊す存在、まさにモンスターと呼ぶしかないと」
「無常とはこういうことを言うのか。英雄王である我が、こうも引き下がるしかないとは」
「世界は冷たいものです。それは貴方が最もよくご存じのはずです」
「虚しいな」
「はい」
ギルと廻が項垂れているんだけど、何の話なんだろう。
「弔、何の話か解る?」
「ああ、あれは恐ろしいモンスターだからな」
「恐ろしい?」
え、そんなのいたかな? 俺が知らないけど、皆は知っているってことか。何時の間にそんな恐ろしい存在と戦ったのさ。
「恐ろしかった。誰もが血の海に沈んでしまったのだから」
「え、それってまさか」
「ああ。『猫耳』だ」
そっか、そうだよなぁ、うんうんよく解ったよ。あれはモンスターって言うしかないよな。
「話を戻して。廻さ、雛祭りがなんだって?」
「はい、実はエリのひな人形を用意していません」
え、あれ、今が二月の月末だから、そろそろ飾らないといけないんじゃなかったっけ?
俺の鎮守府じゃ、艦娘達が気合入れて飾ったから。もうね、鎮守府の入口に三十メートルのお雛様が飾ってあるわけだ。
見た目がひな人形だけど、俺は騙されない。あれは絶対にエルが関わっているロボットだ。
しかも、雛壇まであるから、鎮守府の建物が小さく見えるったらもう。
「治崎・廻よ。貴様それでも同盟の末席にいる者か?」
鋭い眼光で睨みつけてくるギルに、治崎はその場で膝をついた。
「申し訳ありません」
「言い訳はいい! 今すぐにどうにかせよ。できなければ、貴様は除籍とする」
「そ、それは! お待ちください英雄王! 私の誓いは未だ衰えることなくあります! 此度の失態を挽回し必ずや我が信念を示してごらんにいれます」
「ならん!!」
うわ?! え、え、ギルの本気の一喝だったんだけど、そんなに重要なこと。いや待った、その前に同盟って何?
「ギル、あのさ、何の同盟?」
「決まっている、『紳士☆同盟』だ」
へぇ~~~~紳士ね、そっかそっか。あれ、紳士?
「自らが愛でる存在を見護り、自らが敬愛する存在を育て、その行く末を見守る。高貴にして清廉潔白、ただただ愛し見守る、そういった紳士達の同盟です、我が師よ」
え、そうか。廻が胸に手を当てて誇らしげに語るんだけど、それってつまりあれだよな。
「ちなみに、合言葉は?」
「フ、我は『ユニコーンに殉じ、ユニコーンに生きる』」
「私は『エリちゃんのための天使であり女神という言葉』です」
あ、解った。いいや、もうその話は終わり。つまり、変態紳士同盟ってことね。よく解ったよ、うん。
「ちなみにだが、この同盟の参加者は多い」
「へぇ~~」
あれ、でも誰なんだろう。エルとかソープは違うし。
「ちなみに僕は『ロボット娘は可愛いに決まっている』です!」
「『可愛いは正義、幼子に勝利を』にしてみたから」
「裏切り者どもがぁぁぁぁぁぁ!!」
なんで普通にエルとソープも同盟に入ってるんだよ! 絶対に違うって信じてたのにさ!
「アインズは違うよな?」
「残念ながらな」
本当に悔しそうにつぶやくギルに、ホッと俺は安心した。
「あいつは歌のために生きる求道者だからな」
予想通り過ぎて、逆に安心できるって、俺もかなり精神的に危ないのではって思ったよ。
「『息子が可愛過ぎて、怖い顔してメディアを遠ざける』」
「え、誰それ?」
「本名では登録しておらぬが、確か『エンデヴァー』と名乗っていたな」
た、確かナンバーツーのヒーローでヒールとかヴィランじゃないかって、言われている人がそんな名前だったような。
きっと同姓同名で別人だよ、きっとね。
「我が師よ、どうか私にエリのためのひな人形を授けてください」
「治崎!!」
ギルの怒声が飛ぶ中、彼はゆっくりと膝を折り、頭を床につけた。
「貴様、そこまでというのか?」
「もちろんです、英雄王。私のプライドも、未来も現在も、過去さえも。すべてをかけても、エリのためにひな人形を手に入れる。全部をかけて、命さえもかけても。それだけは私は譲れない」
「そうか、どうやら我の目が曇っていたようだ。貴様は今も立派な紳士だ。見事、『
「英雄王、解っていただけましたか?」
「ああ、この王の中の王が認めてやろう。貴様はまさに紳士に相応しい、と」
「おお!!」
あ、うん、そっか、そうだね。
「なあ、弔、俺が変なのかな?」
これって何の茶番って思っているんだけど、弔。あれ、弔がいない。
「廻、少し待っていろ。俺の包丁に不可能はない」
「すまない、弔。おまえの気持ち、確かに私が受取、必ずエリに届ける」
「フ、そんなに上等なものじゃないさ。けどな、俺はおまえの熱意に答えたい。おまえの
「ありがとう」
「がんばろうな」
嬉しそうに笑う弔に、廻は大きく悲鳴のような歓声を上げたのでした。
あれ、これって俺が悪いのか。冷たいのか。
必死に努力した。寝る間も惜しみ、食事も惜しんだ。絶対に退けない戦いに身を投じたことを後悔していない。
誰もが苦しい表情一つせず、ただ黙々と自分に出来ることをしていた。
ただ一つの目標のために。
次は君の番だと告げるために。
一人の少女のために作り上げたものは、全員が満足の出来るものばかりで。
治崎・廻はそれを手に、真っ直ぐに立ち向かう。
理不尽に、世の中の冷たさに、世界の過酷さに。
大丈夫、君は愛されていると伝えるために。
「エリ、待たせた」
「どうしたの?」
「ひな祭りを知らないか。すまない、私は君に教えてなかったようだ。世界には女の子が主役になれる日がある。それを教えていなかったようだ」
優しく手を握り、そっと案内した先にあったのは、絢爛豪華なお雛様。
英雄王さえ宝物庫を開き協力した人形たち、死柄木・弔渾身の食べられるお雛様も添えられた部屋へと案内し、廻はエリの背をそっと押した。
「さあ、今日の主役は君だ。存分に楽しむといい」
「あ、ありがとう」
「フフフ、礼は不要だ。これが私たち『紳士』の役割なのだから」
満足そうに頷き、廻は指を鳴らす。
スッと室内に入ってきたのは、お手伝いさん達。手に持ったのは桐のタンスに入った着物。
「さあ、エリ。これに着替えて私に見せてくれないか? 世界で最高に可愛く天使な君のひな祭りを」
「はい・・・・・・でもいいの?」
「もちろんだ。女の子が主役の今日、君が着物を着るのを邪魔する者はいない」
自信を持って答える廻に、少しだけエリは戸惑いつつ周りを見て、そしてギュッと服の裾を握った。
「でも」
「サイズを心配しているのか? きちんと君に合わせてある。それとも、色合いが気になるのか? 複数の配色の着物も用意してある。好きなものを着るといい」
「違うの」
「何が違うのか?」
廻は戸惑い、彼女の前に片膝をついて目線を合わせた。
エリは服の裾を握ったまま俯いていたが、やがて顔を上げて真っ直ぐ見てから口を開く。
「今日、2月28日だよ」
「・・・・・・・・・・私も詰めが甘かったなぁ」
そうして彼は志半ばで倒れたのでした。
「あの馬鹿が」
組長は一人、自分の部屋で治崎・廻のことを呆れたように告げる。
最高のタイミングでひな祭りを祝うつもりだったのに、先走って勘違いして暴走した結果、エリに余計な気を使わせた。
まったくもってあいつは詰めが甘い。
「それに、な。俺にはエリの可愛さの耐性があるんだぞ。今更、『猫耳』程度で揺れるかよ」
会長の手には治崎・廻が封印したはずの封筒があった。
ゆっくりと中から引き出されるのは、一枚の写真。あの時、大騒動になった時の猫耳を映したものだが。
「・・・・・まったく」
写真を眺め、会長は軽く笑った。
「治崎、おめぇは俺のことをよく理解しているぜ」
猫耳程度で揺らがない。
しかし、だ。その写真に写っていたのは、『猫耳だけじゃなかった』。
「まさか、メイド服たぁ恐れ入ったぜ」
そして彼は血の海に沈んだのでした。
「田中少年、最近エンデヴァーが優しいのだが、何か知らないかね?」
「ごめんなさい」
「いや、君の土下座が見たいわけじゃないんだが」
「すみませんでした」
「何があったというんだ?」
俺は後日、オールマイトからの質問に、速やかに謝ったのでした。
入学編前に、やっておきたいひな祭り事変!
女の子は無敵の日って誰かに言われて、なら『エリちゃん無双』にしなくちゃって思ったけど、ギャグにしなくちゃって使命感に染まって。
結局、エリちゃんに罪はないから治崎に染まってもらった。
ザ・勘違いアンド暴走って風味でございます。