強個性であり、万能的で無敵でもある。ただし、ストレス耐性と胃薬が必要である『完結』 作:サルスベリ
真面目な話にどうしてもなってしまうものだろうか。
ギャグってどういうものを言うのか。
誰もがプッと笑える話って何なのか。
色々と考えてみた結果、暴走すればいいって結論にでるわけですよ。
そんな風味ですので、はい。
四月も過ぎた今日この頃、皆さまはいかがお過ごすですか?
なんて真面目な挨拶から始めてみました、田中・一郎です。
今、非常に空気が重いんですよ。
もうめっちゃくちゃ、重い。まるで鉛、いやこの感触はオリハルコンか。触ったことないけど。
原因は一つだけ、爆豪君とデク君がカウンターに座ったまま無言なんですよ、もう険しい顔して無言なんです。
普段だったら、もっと色々な話をしてくるんですけどね。
今日は何があったんだろう。
「・・・雄英に入学して、最初の授業か」
「おお、月日が経つのは早いなぁ。え、で、これ?」
俺が親指で二人をさすと、弔は大きく頷いた。
ということは、雄英で何かあった。いや、まさかって俺は反論しかけて思い直す。いや、あの入試で二人を狙い撃ちした雄英だから、何かしたんじゃないか。
まさか、根津校長とオールマイトが二人に対して何か罰則でも。いや、そういうことする人たちじゃない、って思いたいけど。
「調べるか?」
コナンがそっと提案してくれたことに、俺は頷きかけて。
「私が先生として来たぁぁぁぁ!!!」
「原因、知っている人が来たから教えてもらおうぜ」
クールに決めて言ってみた。
すっごい寒い目で皆が見てくる。いいじゃん、たまにはカッコつけさせてくれよ。
「すまない、田中少年、死柄木少年、少しの間、店を借りてもいいかね?」
「構いませんよ、オールマイト。そちらは?」
弔の声に、オールマイトは少しだけ脇にそれて、背後にいる人物を手で示した。
「こちら、相澤先生だ。二人の担任だよ」
ガタンと爆豪君とデク君が立ち上がり、先生を見つめた。
ちょっと、険悪な雰囲気なんだけど、えっとどういうこと?
原因の発端は、二人の個性について。
雄英の初日、他がオリエンテーションとかやったり、授業の説明とかしている中で、運動テストしたらしい。
各自の運動神経を計測して、これからの授業活動の参考にするって。
うん、これだけ聞けば普通の学校みたいに聞こえるけど、これに『個性を使って』って着くと、さすがヒーロー校って思えるよ。
で、カウンターの雰囲気がさらに重い。
殺気交じり、怒気交じり? いや、爆豪君とデク君のほうは必死に抑えているようだけど、相澤先生の雰囲気がとてつもなく冷たい。
「初めまして、1年A組の担任をしている相澤・消太といいます。噂の『第三勢力』のトップ、田中・一郎さんですね?」
「はい?」
え、待って、ちょっと待って。何それ、第三勢力って何? え、俺って一大勢力に数えられているの。
まっさかぁ、そんなわけある・・・・かぁ。
俺は今までの出来事をすべて思い出して、頷くしかなかった。
「なるほど、肯定すると? 貴方達の目的をうかがっても構いませんか?」
「目的ねぇ」
え、普通に穏やかに生活したいってだけですよ。もう本当に、毎日が平穏なら俺はそれでいいのに。
「話すことはない、ということですか?」
「それはね」
え、あれ、なんで相澤先生が鋭く見てくるのさ。え、俺の言葉が悪かったの、素直に言えばよかったの。だって先生って話せる雰囲気じゃないでしょうが、その険悪な気配を引っ込めてからにしてよ。
オールマイト、どうにかして。
俺が期待を込めて見つめると、彼は小さく首を振った。
あれ、無理ってことね。
「一郎に話があるなら、俺を通せ」
「君は?」
「死柄木・弔。ここのシェフだ」
一瞬、二人の目線が火花が散った気がした。気のせいだよね、そんな一触即発って雰囲気じゃないよね。
ここは、平和な飲食店、普通に穏やかな午後なんだからさ。
「弔、落ち着けって、それじゃ話ができない」
「けどな」
「大丈夫だって。相澤先生、俺達の目的が知りたいんですか?」
よっし、ここは俺が一肌脱ぎましょう。
「それもありますが、二人の『訓練の内容について』も伺いたい」
「二人のね」
そっちとなると、コナンを呼ぶしかないか。あれ、でもコナンに説明させると相澤先生が『子供が』とか言わないよね。
えっと、そうなると俺が言うしかないか。
「二人の訓練については、各自に任せているので。理想とするヒーローにするために、色々と教えたみたいですよ」
「そこです。貴方は、二人に『能力を制限しろ』と命じましたか?」
「はい?」
え、そんなこと言った気はないけど。
「待ってくれ先生! あれは俺たちが勝手にやってることだ!」
うぉ?! 爆豪君、いきなり怒鳴らないでくれよ、びっくりした。
「そうです! 僕とかっちゃんで決めたことなんです!」
デク君まで熱くなっちゃって。あれ、となるとそこで先生と激突したの、なんで、あれ個性も使った運動テストだよね?
制限って何?
「勝手に『個性を使わず』にテストを受けたというのか? 合理的じゃないな」
「合理的がすべてじゃねぇ。ロジカルだけを追い求めても、結果的に救えないことの方が多いだろうが。理屈だけで世界を回せるほど、この世界はシンプルに出来てねぇだろうが」
爆豪君?! 口調口調! 相手は先生なんだからせめて敬語を使って、お願いだから。
「合理的判断によって被害が少なくなることはあります。けれど、人間のメンタルにおいて合理的判断は特に被害者に対して、絶対的な圧迫感を与え、かえってトラウマを深く印象付けることもあります」
デク君、冷静に語っているようで敬語を使っているけど、その目線はちょっとまずいって。なんでそんなに睨むように見ているのさ。
本当に何があったの、二人とも。他人に対して、そんなに辛く当ることってなかったじゃないの。
「確かにそうだが、合理的判断は常に事態を効率よく進める。非効率的な動きによって救える命の数が少なくなることもある」
「救える命の数じゃねぇ! 絶対に救うんだよ! 全部な!」
「最初から救えないことを念頭において活動するのが合理的判断なら、僕らには必要ありません。全部を救う、そのための力ですから」
「非合理的で非現実的だな」
「最初から逃げ腰になった奴が何言ってんだよ!」
「先生は合理的合理的と、物事の基準を語っているようで、合理的って言い訳をして逃げているようにしか聞こえません」
お~~い、二人とも熱くなるなって。相澤先生も口調は平坦だけど、何かムキになってないか。
「なるほどな。だから、お前達は個性を使わなかったってことか?」
「使っただろうが!」
爆豪君、ちょっと落ち着こうか。今にも噛みつきそうな顔してるの、止めようね。この人、先生だからね。
「ああ使ったな。あれで全部じゃないだろうが、違うか、『シンガー・ボマー』?」
挑発的な目線を向ける相澤先生に、爆豪君の怒りが上がった。スッと立ち上がって拳を握る。
めちゃくちゃ怒っている。でも思考は凄く冷たい。
「先生、その名前は俺達が名乗ったもんじゃない」
「そうらしいな」
「だから、だ。先生、その名前は俺たちにとって『
二人がそれを誇りにしているのは知っている。自分で決めたんじゃない、多くの人が二人の姿を見て決めた名前は、二人にとって自分達がヒーローである証みたいなもの。
多くの人の願いが詰まった、大切な宝物だ。
でも、ね。
「爆豪君、それは駄目だ」
「けど一郎さん!!」
「確かに君たちの勲章みたいなもんだ。だからこそ、それは『君たちの自由にできるもの』じゃない。多くの人が口にできるもので、それを誰がどう使っても君たちが怒る権利はない。もしあるなら、それが悪用された時だけ」
気持ちも解る、爆豪君が怒ったのは、自分が安く見られたことでもなければ、弱く見られたものでもない。
『
「多くの人が想いを重ねた名前は、同時に皆のものでもある。それは、相澤先生にも権利がある。君が怒る筋合いじゃない」
冷たくて辛いことを言っているようだけど、これは超えてはいけないことなんだよ、爆豪君。
君たちが勝手に決めたことを、決意は固いことを示すために。
「?! 解りました」
グッと唇を噛んで、爆豪君は席に座った。
「先生、お願いしますから、子供を煽らないでください。貴方だってまだ現役のヒーローでしょうが」
まったくもう、これってオールマイトの役目じゃないのかな。なんで俺が言うことになってるのさ。
「貴方は二人からかなり信頼されているようですね」
「二人はいい子ですから。俺なんかのことをかなり慕ってくれていますよ」
「だから、利用した、と?」
あれぇ~~~何でそうなるかな?
あ、待った!!
「おまえ、死ぬか?」
「彼方へ飛ばしてあげましょうか?」
「雑種が」
「面白いことを言う人ですね、消えますか?」
「へぇ~~~次元の挟間に落としてやろうか?」
「無慈悲な死を与えてやろう」
待った、本当に待ったおまえら!
「コナン!」
「じゃますんなよ、マスター。こいつは、超えちゃいけない一線を越えたんだよ」
「ちょっと待った! なんでおまえまで怒ってるんだよ! 何時ものジョークとして流そうぜ!」
なんで全員がフル装備で相澤先生を囲んでるのさ?!
何時の間にオールマイトと爆豪君やデク君を店の端に飛ばしたの! 本当に待って! ただの冗談、ほら冗談。
「よっし、落ち着こうか、皆」
ヤバい、俺の後ろで艦娘達が全員艤装を纏っているのが解る。トッティちゃんとトルテ君も種族全部を連れてくる気になっている。
不味い、本当に不味い、ここで全力戦闘になったら。
「個性が消せない?」
「残念ながら、おまえの個性で消せるほど、小さな能力を持った奴はここにはいないぜ、『イレイザーヘッド』」
こ、コナンがマジギレしている。え、なんで、待って、どうして。ギルもエルも、ソープもアインズも、なんでそこまで怒っているのさ。
弔と黒霧はそんな気がしていました。俺への忠誠心って高すぎません?
「話中、俺と相澤先生のお話の最中だから、全員撤収。命令」
念を押して告げると、全員が顔をしかめて舌打ちして退いてくれた。良かったぁ、一応まだ提督としての命令権が生きてた。
「とりあえず、利用したことないですから」
「・・・・・あれだけの人員がいながら、爆豪と緑谷に何をさせたいんですか?」
「二人が望んだことをそのまま叶えられるように、俺達は手助けしただけです。ヒーローとして、助けてと言ってくる人達を救えるように。ただそれだけですよ」
「まさか、本当にそれだけだと?」
嘘はついてない。本当のそうなんだよ。
「相澤先生、気が済んだかね?」
オールマイト、もっと速く動いてくださいよ。なんで俺が寿命を縮めるようなことになってんですか。
「すまないね、田中少年。相澤先生がどうしても君に質問したいと言ってきかなくてね」
「質問って、俺の目的とか?」
「いや、爆豪少年と緑谷少年の件だよ。二人は今日のテストでコスチュームも艤装も使わなかった」
あ、そう言うこと。だから制限って話になったわけね。
「貴方が二人に言いくるめたのかと疑いました。二人の能力は素晴らしいものがある。確かにあの個性を使わなくとも、今日のテスト結果は二人の独走状態でした。しかし、私から見たら」
「手を抜いているように見えたってことですか?」
「はい。事件は常に危険と隣り合わせだ。手を抜いていいとか、手加減してどうにかできるなんて甘いものじゃない」
なるほどね。そっか、そっか。
「それでもし二人に危険が及んだからって考えたわけですね、相澤先生」
ハッと、爆豪君とデク君が目を見開いた。
まだまだ二人も甘いな。救う相手の心も救えるように、なんて頑張っていてもこういったことで人生経験の差が出てくる。
「二人とも、相澤先生は天の邪鬼なんだよ。言ってること、やっていること、その根っこのところには、『二人が大切で仕方がない』って想いがある。見抜けないようじゃ、まだまだヒーローには程遠いな」
と、カッコつけてみた。うん、これだけなら俺ってあの人達を目指せるかなって思うんだけど。無理かな、無理だよな。
「先生、悪かったよ」
「ごめんなさい、先生。僕たちはまだまだ未熟でした」
素直に頭を下げる二人に、相澤先生はどうにも少し照れたような顔をしていた。
「とにかく、二人に何も言ってないんですね?」
「もちろん。俺達はデク君と爆豪君が『無茶なヒーロー活動して死なないように』鍛えたつもりです」
「なるほど」
小さく頷き、相澤先生は小さく頭を下げた。
「どうやら私の勘違いのようです。申し訳ありません」
「いえいえ、先生ならそう思って仕方ありませんよ。どうか、二人をお願いしますね」
「はい」
そう答える相澤先生は、確かに『教師の顔』をしていた。
うん、オールマイト以外にもこんな人がいるなら二人はいい経験を積めるだろうね。
店を後にして、四人は歩く。丁度、帰り道は全員が一緒だったからと歩いている途中で、相澤がふと思い出したように口にする。
ずっと気になっていたことを。
「そういや、なんで使わなかったんだ?」
今になって思い出したように口にした言葉に、爆豪とデクは真っ直ぐに彼を見つめ答えた。
あれは、『自分達のための力じゃないから』と。
爆豪のコスチュームも、デクの艤装も、どちらも願いの結晶。多くの嘆きを知った存在が、絶望も慟哭も、地獄の底のような現実を見てきた人たちが、それらを砕いて自由を与えてくれるヒーローに憧れて、そんな存在になってほしいと願いを込めて贈ってくれたもの。
「だから、決めたんだ」
爆豪は右手を握り締める。赤と黒のブレスレットが、淡く光を放ちながら揺れる。
「この力を使うのは、『誰かの助けてに答えるため』だけにしようって」
デクは胸元の船のペンダントを握り締める。緑色の輝きを灯したそれは熱く鼓動を繰り返す。
自分のための力じゃない。誰かの絶望の檻を砕き、自由を守るための力だから、どんな状況になっても、例え自分達が死ぬことになっても『自己のため』には使わない。
「理想だな。理想すぎる、非合理的だ」
「けど、譲れねぇ。これだけは譲りたくない。何があっても、絶対に譲れねぇんだ。理屈じゃない、馬鹿げているのは解ってる」
「僕とかっちゃんの『力』は、無尽蔵に使えば誰にだって負けません。たぶん、どんな相手にも勝てます。だけど、それは同時に僕達の心を『染めてしまう』から。だから、支点が必要なんです」
「好き勝手に使う力は暴力だ、先生。誰も彼も傷つけて、最後には自分さえ殺してしまうかもしれねぇ。だから、線を引いた。どんなに感情的になっても、どんなに苦しい時でも見失わないために」
「僕たちが、ヒーローが護るものが解らなくならないように。例え、闇の中でも、眩しい光の中であっても、見つけることが出来るように」
二人はそれぞれの『
『
「非合理的すぎる。おまえらはそれでいいと本気で思っているのか? それで倒れたら? 護りきれずに死んだらどうする?」
不機嫌な顔で相澤が告げると、二人はお互いに顔を向け会って笑った。
「そんときゃ、デクが助けるさ」
「かっちゃんがいるなら大丈夫ですよ」
「二人が倒れたら?」
さらに言葉を重ねると、今度は二人は真っ直ぐに相澤を見つめ、拳を突き出した。
「取りこぼしなんてしねぇし、させねぇ。そのための『シンガー・ボマー』だ」
「『グリーン・シップ』の航路に、倒れるってことはありませんから」
だから、負けません。もし倒れることになっても、悔いはありませんから。そう望んで進んだ道です。
瞳に宿った決意は、相澤にそう告げている。
そして、その背を見せ続ければ後に続くヒーローが必ず現れます。ナンバーワンに憧れた自分達のように。
「まったく、非合理的の塊だな、お前らは。明日から、厳しく教えてやるぞ」
「はい!!」
元気のいい返事を受けて、相澤は顔を戻し再び歩き出した。
「嫌いじゃないな、そういった考え」
小さくポツリと呟いた言葉は、淡く街の中へと溶けて行った。
もう、暴走すれば全部解決さ。どうだい、サルスベリのギャグは?
何処がどうギャグなのか、解らない?
安心してくれ、俺もさ。
といった風味でお届けしました。