強個性であり、万能的で無敵でもある。ただし、ストレス耐性と胃薬が必要である『完結』 作:サルスベリ
誰の矜持と信念か。
爆豪?
デク?
それともヒーローの?
田中・一郎?
いいえ、違いますよ~~風味です。
声が響き渡る。
巨大なヴィランが蹂躙する訓練場の中に、彼らの怖さに負けないほどの大きさで歌声が蹂躙していく。
一つの声に一生分の情熱を叩きつけるように。
たった一音に全身全霊の気合を込めるように。
彼の歌は、叫び続ける。
爆豪・勝己、いや『シンガー・ボマー』のギタリストとしての腕は、まだまだ未熟だ。小さい頃に音楽スクールに通っていたこともあったが、本格的に始めたのはつい最近。
アインズと比べたら、その技術差は明確。同年代のギタリストと比べても、拙い部分が目立つ。
よく言えば荒々しい、悪く言えば粗が目立つ。
けれど、だ。
耳郎・響香は、その歌声を知っている。彼が活躍する場で、彼が現れた事件現場では必ず流れていた歌。
癒すのではなく、包み込むのではない。スッと体の中に入ってきて、そして不安を砕く。怖いや苦しい、悲しい辛いといった感情を爆破して、空いた隙間を埋めるように心の中の『何か』を膨らませる。
テレビ越しでは解らなかった。
彼が助けた人たちが誰もが、泣いていた人たちも、小さな幼子でさえも、真っ直ぐに前を向いていたことが、とても疑問だった。
彼が膨らませたのは、爆破するように押し上げたのは『勇気』。誰の心にもある、誰もがヒーローになれる気持ちを、彼は押し上げる。暴力的なほどの爆発力で、心のすべてを埋め尽くすように。
「そっか、こんな気持ちなんだ」
ギュッと胸の前で拳を握る。
彼が歌うのには意味があった。彼は無駄に歌うのではない、彼は『ここに俺がいる』と示すために、『絶対に助ける』と広く伝えるために歌う。
そして歌に負けないほどの爆破の奔流が、脳無を吹き飛ばす。問答無用、容赦の欠片もない攻撃の余波は、不思議とA組のところにまでは届かない。
風も光も、圧力も、彼の支配下。響き渡り共鳴し合う音さえ、彼の動きに合わせて踊る。
まさに、ロックのステージ。
暗い感情を吹き飛ばし、前を向けとエールを送る『シンガー・ボマー』の情熱的なヒーローとしての姿を生で見て、誰もが魅了されていた。
目の前にある恐怖を忘れ、ただ前を向いて笑顔を浮かべて、彼の背中を見つめ続けた。
黒鋼の城が、浮かぶ。
叩きつけるような恐怖が、先ほどまで心の底まで蝕んでいたのに、今では感じなくなった。
物理的な装甲が、精神的な何かを防ぐなんてあるわけがない。けれど、理論的な説明がどれだけ積み重ねようとも、目の前のこの装甲を超えることはない。
暴力の前に屈さず、攻撃の嵐に怯むことなく、一歩も退くことのない鋼鉄の牙城。
絶望の海にありながらも、それはまったく揺らがずに往く。
難攻不落、絶対無比、あらゆる攻撃を前にして少しも揺れることない船体が、ゆっくりと前に進んでいく。
その背中を見つめると、不思議と震えが止まった。不安はある、怖さもあるのに、何故か『大丈夫だ』と背中を支えられたような気がした。
切島はその背中を涙を浮かべながら見つめていた。
あの時と変わらない。ニュース映像で見た通りの背中だ。小さくて、とても弱そうなのに、見ていると『決して崩れない壁』のように思えてくる。
揺るがない、通さない、決して逃げない。言葉で語ることはなくとも、その背中は雄弁に語る。
轟は、ただその背中を見つめていた。
こうなりたいと、強く願う。こうでありたいと、誰かを護れるヒーローとはこういったものだと心に刻みつけられていく。
「大丈夫だから、皆はそこにいて」
振り返った彼は微笑んでいた。
穏やかに優しく、見ているだけで不安なんてないような気持になってくる。ここにヴィランがいて、まだまだ数が増えているのに、もう怖いなんて思えない。
『グリーン・シップ』。存在感だけで、人を支える鋼の戦船。
彼は一歩一歩と進む。ヴィランからの攻撃を受けながらも、後ろの一発の攻撃も通さずにすべてを受け止め、さらに前へ、と。
相澤は、初めて二人の姿を見た気がした。
生徒ではない、ヒーローとしての二人の姿を。
一本の筋が通った、どころではなかった。映像で見るよりも鮮明に、彼らの体を多くの願いが支え、その力を倍加させている。
不安を払え、後悔に飲み込ませるな、誰かの悲しみを拭え、そして絶望を砕け。
爆豪の、いや『シンガー・ボマー』の歌が響く。ヴィランを前に歌うなんてと考えていたのが、間違えだった。彼は歌うことで多くの人を鼓舞し勇気づけていた。同時に、『自分が来た、もう大丈夫だ』と高らかに叫ぶために。
緑谷の、『グリーン・シップ』の装甲が見える。攻撃の嵐の中でも、絶対に埋もれない、沈まない装甲を見ているだけで何があっても『大丈夫』だと信じられる。
二人の訓練記録は見た、見事だと思った、これがあれば誰もがヒーローとして活動しても死ぬことはない、簡単に消えるようにいなくなることはない。そう思っていたのに。
違う、まったく違う。あの訓練があるから二人は強くなったのではない、二人だったからこそ、あの訓練で強く慣れた。
絶対に曲げなかった、絶対に譲らなかった。二度と振り返らなかった。真っ直ぐ前に、目指すものへ辿り着くために二人は妥協をしなかった。他の誰かが同じ道を進んだとしても、何処かで『これでいい』と区切りをつけてしまうことを、二人は『その先へ』と突き進んで行って、あの姿を手に入れた。
圧倒的な力を見せつけながらも、見ている人に恐怖ではなく勇気を与えるヒーローの背中を。
「なるほどな」
小さく噛みしめるように相澤は呟く。
自分達の後輩は、こんなに凄い奴らだったのか、と。
同時に教師として、二人の『危うさ』をしっかりと感じ取った。
オールマイトは、二人の姿を見て拳を握った。もう止められない、こうなった二人を止めるのは自分でも難しい。後はヴィランが消えるか、助けてと嘆く人達がいなくならないかぎり、二人は何処までも戦い続ける。
傷つこうと、体がバラバラになろうと、絶対に止まらない。命を燃やして、自分のすべてを捧げるように戦っている、そんな二人が何処かへ消えてしまうのではないか、オールマイトはそう思えてしまう。
何時からか、二人の戦う姿を見ていると、そう感じてしまうようになった。
「ナイトアイ、君もこんな気持ちだったのか?」
かつての自分のサイドキック、彼が傷だらけになりながらも事件へ向かう自分を止めたのは、この喪失感故にか。
今更、気づいたとして彼に何を言えばいい。どうすればいい、かつての自分の姿を爆豪と緑谷に重ね、かつての自分の友人を今の自分に重ね、オールマイトは拳を握って今を見つめていた。
訓練場はすでに一方的な戦いになっていた。
脳無の攻撃は二人に届かない。爆破の壁と装甲に阻まれ、A組には届かない。砲撃と爆撃が先生二人から遠ざける。
「デク!!」
「侵食魚雷、三連射」
爆豪の合図と同時に、艤装から噴煙が上がる。次々に漆黒の渦を発生させる魚雷の着弾の合間を縫うように、爆豪が急接近。
脳無に叩きつける爆破の威力は、前の時とはまったく違う。右手の槍の一撃に、脳無が吹き飛ぶ。相手の防御など関係なく、防御の上から叩き潰す威力の一撃に、脳無は成すすべなく沈んで行った。
「そこ」
そして緑谷の正確な射撃が脳無に炸裂。直撃した瞬間、砲弾内部の液体が脳無に降りかかり、そして硬化。相手を絡め取り拘束する砲弾が、正確に脳無を無力化していく。
先ほどまで一方的だった戦いは、瞬く間に逆転していった。
「これで!」
「終わりだ」
そして、最後の脳無は倒れた。
「終わりか、デク?」
地面に降り立ち右手を振って槍を『消した』爆豪に、緑谷はしばらく周りを見回して頷く。
「周辺に敵影はないよ。念のため、もう少し偵察機は出したままにしておくけど」
「解った。じゃ、あっちだな」
爆豪は真っ直ぐに先生二人とクラスメートを見つめる。
「そうだね」
緑谷も同じように見詰めて、どちらともなく歩き出す。
「言い訳、考えてるか?」
「非常事態における緊急回避とか?」
「馬鹿か、てめぇは。そんなんヒーローに適応されるかよ」
「じゃあ、反省文で許してもらおうか」
「仕方ねぇか」
「だといいね」
「じゃ、やるか」
「そうだね、やろうか、かっちゃん」
爆豪と緑谷は同時にため息をつき、そして同時に田中・一郎直伝の必殺技を使うことにした。
「すみませんでした!!!」
土下座、である。
な、なんか、色々と飛ばされた気がする。
「オール・フォー・ワンの拠点はここだな」
まあ、いいか。田中・一郎だ、今はかなり怒っているからこで勘弁な。
「誰もいない倉庫街だね。良かったよ、周辺被害は物資だけだね」
ソープ、それは良かったになるのか?
「だって使うんでしょう?」
「ああ」
使う、使ってやる。今回ばかりは、あいつは許せる気がしない。
「いいんだな、マスター?」
「コナン、俺はもう決めた。あいつは、『生かしておけない』」
ケンカ、売られたってわけじゃない。俺自身に何かされたなら、まあいいかで許してやっても良かった。
でも、だ。でも、廻やエリちゃんを巻き込んだのは、決して許してはいけない。あんな小さな子が、泣きながら『ごめんなさい』なんて謝るなんてこと、あっていいはずがない。
「解った」
「我も出よう、いいな、マスター?」
「頼む、ギルガメッシュ」
俺が見つめつつそう告げると、相手は軽く笑うことなく真顔で頷いていた。
最初から『エア』とか使わないよな。全力で行ってもらいたけど、そんなことしないよな、ギル?
だってあいつは、そんな一撃で終わらせるなんて、『優しいこと』で許してやるつもりはない。
「最初に半径五キロを封鎖結界で覆って、その後に艦娘達を突撃。目標施設を粉砕する。後は出てきたところを」
「蹂躙戦だ」
コナンの説明を、俺は遮って命令を伝える。
「おい、マスター?」
「蹂躙戦だ、コナン。『抹殺』しろ」
「・・・・・・解った」
悪いな、コナン。今回は、手加減してやるつもりないんだよ。前の時は見逃したけど、今回は総力戦やってでも仕留める。
出来ればこんな物騒なことしたくなかった。でも、あいつは三度もこんなことをした。もう許してやれる段階じゃない。
許してやれる、か。俺も上から目線で何を言っているのやら、俺の戦力だって一般人からしてみれば、同じような暴力じゃないか。
「コナン、俺も行くぞ」
「私の出番もありますよね?」
弔、黒霧、おまえらは残ってほしいんだけどな。
「一郎、まさか除け者にしないよな?」
「そんな寂しいこと、言いませんよね、一郎さん?」
「解ったよ、おまえらも巻き込むからな」
「当たり前だな」
「当然でしょう」
まったく、こんな『重荷』背負うことないのにさ。本当にいい奴らだよな、俺はいい友人に囲まれて嬉しい限りだ。
「作戦はいいな? 本当にいいんだな、マスター?」
最後のコナンの念押しに俺は頷いて、命令を口に出す。
「作戦、開・・・」
「待ってください!!」
は?
え、あれ?
「なんでヒミコちゃんが鎮守府にいるのさ?」
「入れてもらいました!!」
あれぇ~~ちょっと待った、あまりに意外な乱入者に俺が混乱しているんだけど、誰か説明して。
「一郎君、そんなことしてはダメです!」
あ、はい。
は?! い、いやいやいやいや、なんでヒミコちゃんがこんな迫力で迫ってくるのさ。何その顔、気合、怖いんだけど。
「一郎君がやろうとしていることは絶対にダメです。そんなことしたら、後で絶対に後悔しますから!」
「え、いやでもね」
「デモじゃないです!!」
ち、近いって! なんで一メートル以内に入ってくるのさ! 君はもっとお淑やかで静かな子じゃなかったっけ?
男に触れるくらいに迫るんじゃありません!
「一郎君は感情的になり過ぎて戻れなくなっているんです! よく考えてください、そんなことしたら多くの人に迷惑がかかります! 普通を望んで毎日が平穏に暮らすって願っている一郎君なら、そんなこと絶対にしません!」
「いや俺だってしたくないけど、でもあいつがいたら」
「したくないならしなければいいじゃないですか!」
「あいつがいるとまた誰かが苦しむからさ」
「苦しんでいればいいじゃないですか!!」
「ちょ、ヒミコちゃん、近いって!」
「近いからなんですか?!」
触れる、息がかかる! じゃなくて!
「苦しんでいるのを見過ごせって言うのか?」
「見過ごせなんていいません! 一郎君がやらなくていいって言っているだけです!」
「なら見過ごすとの同じだろうが!」
な、なんだか俺も怒りを感じてきたぞ。なんでヒミコちゃんにお説教されているのかな。俺が悪いのかよ。
「違います! ヒーローがいます! 彼らが何とかします!」
「何とかしますって、今やらないとだめだろうが! ヒーローがあいつを捕まえるまでに何人の犠牲者が出ると思っているんだ?!」
「犠牲者が出たからなんですか?! 犠牲者が出るから一郎君が犠牲になるんですか?!」
「俺が犠牲になるってなんだよ! 俺はやりたいからやるんだ!」
「いいえ!! 絶対にいいえです! 一郎君はそう思い込んでいるだけです!」
な、何でこの子は人のことなのに言い切るかな!
「俺がやりたいからやるんだよ! ヒミコちゃんは黙ってろ!」
「いいえ黙りません! 一郎君が自分を傷つけようとしてるのは見過ごせません! 一郎君を傷つけるのは誰であっても私が許しません! 例え一郎君本人であってもです!」
「何でそうなるんだよ! 第一、何の権利があってそんなこと言うかな!」
「権利なんて知りません! 私が言いたいのは一郎君がそんなこと望んでないことだけです!!」
「だからなんで俺のことをそう言えるんだよ! 君に俺が何が解るんだよ?!」
「解ります! 毎日見てますから! 一日だって忘れたことないです! 一郎君のことなら私が解らないことなんてないです!!」
「なぁ?! 変態かよ! なんだよそれ!?」
「変態じゃありません! 私は!!」
「私はなんだよ?!」
「私は一郎君が大好きなだけです!!!」
「なんだそれは?! 大好き・・・・・・・え?」
はい、え、なんて?
あれぇ~~なんか、ヒミコちゃんが真っ赤な顔で止まっているけど、なんて俺は言われたのさ。
「コナン! 俺は」
「はい撤収~~~ごちそうさま」
「ちょ待って! みんな、待って!! この状況で俺を一人にしないで!!」
なんでそんなに簡単に皆は離れられるのさ?!
勢いは大切だ、何かの本に書いてあったのを静かに思い出す。そんなことで言えるはずがないと溜息を嘲笑をしたことを、トガ・ヒミコは小さく心の中で謝罪した。
勢いは本当に大切だ。
今まで言えなかったことが、すんなりといえたのは嬉しい反面で、女子としてそれはどうなんだろうと思ってしまう。
ムードは大切なのではないか。
状況は良くないのではないか。
一郎が怒っていたのを知っている。何があったかは聞いていたし、怒るだろうなと予想付いたけど、その後の行動は彼らしくないと思った。
いくら傷つけられたとしても、一部の組織が壊滅させられたとしても、彼の個性をすべて使って戦争を仕掛けるなんて、平穏と日常を愛する彼らしくない。
きっと、彼は怒りで理性を見失っているだけだ。
知り合いが傷つけられて、それで何も見えなくなっているだけ。
だから来た。彼が自分自身の個性で彼を傷つけないように。
来たのだけど、ケンカ腰になってしまい、珍しく激情している彼につい感情的になってしまって。
変態とはあまりに酷いではないかと思う。確かにやっていることを客観的に見れば変態だ。自覚したくはないが、変態にしか見えないが、それでも変態と当人に言われたら怒りたくなる。
自分は誰にでもそんなことするほど、軽い女ではない。初めて会った時からずっと見つめて、ずっと追いかけて、ずっと想っていたのに、それはあんまりではないか。
沸々と再び怒りが渦巻くが、それを深呼吸して抑えつける。
今まで彼と話すと口が動かなかったのに、今は滑らかに動く。
今まで彼に見つめられると体温が上がって動けなくなったのに、体は熱くても動くことは動く。
これが脳内麻薬が出過ぎて感覚がマヒしている状態かもしれないが、チャンスなのに変わりはない。
深く呼吸を整える、ゆっくりと吸って吐いてを繰り返し、両手を胸の前で組み相手を見上げる。
今日のメイクは決まっているか、それは不安で仕方がないがやるしかない。
服装は大丈夫か、香水はつけてないが、それは今までも使ってないから。
髪型は乱れてないか、走って来たから乱れているかもしれないが、整えている時間が惜しい。
何度も練習した、鏡の前に立って何度も妄想した。
その結果を今こそ、彼に届けよう。
全身全霊の、すべてをかけて。
「田中・一郎君」
「は、はい?」
彼は戸惑いながらも、姿勢を正してくれた。
やっぱり、と心の中で呟き、そっと告げる。
「私、トガ・ヒミコは、貴方が好きです」
人生で最高の笑顔を添えて、精一杯の勇気を込めて。
どうよ!!!
第二話からのすべてがここまでの伏線よ!!!
全部この告白のために書いていたのさ!!
サルスベリ渾身の一作だぁぁぁぁ!!
すみません、嘘です、本当に勢いでやっているだけです。
というわけで、ヒロインタグをつけないと風味でした。