強個性であり、万能的で無敵でもある。ただし、ストレス耐性と胃薬が必要である『完結』 作:サルスベリ
このお話は、何度も転生しながらも普通を求める田中・一郎と、彼に巻き込まれた形の転生特典の方々と、現地で巻き込まれた愉快な仲間達の、日々のランチキ騒ぎを描いたものです。
プッと小さく笑える話であって欲しいなぁって思って、フワッとした感じで書いています。
そんな気分です。
近いからこそ、解らないことは世の中にはある。普段から当たり前のようにあるから、大切だってことに気づかない。
そういうことってあるよね。
どうも、田中・一郎です。現在朝の六時です、目が覚めました。もう条件反射のように体を起こして、気がついたら目覚ましを止めていました。
うん、身にしみた軍人生活って、何度も転生しても抜けないんだよね。俺、元帥までなったから、軍隊生活がかなり長かったんだ。
もう一度、寝るか。
寝れたら苦労しないって。
仕方ないので起きて廊下を歩いて、階段を降りる。俺達の家って実は五階建てのビルにあります。一階部分と地下が店で、他は住居的な何か。
時々、爆発したり怪しい匂いがしたりするけど、住居。本当に俺の同居人ってマッドがつく科学者とか技術者しかいないんじゃないかな。
あ、弔と黒霧はまともだ。あの二人はすっごいまともだ。俺の転生特典で来た連中と比べると、すごい普通の連中なんだよな。
「・・・・・・」
普通だよな、俺、自信がなくなってきたよ。なんだろ、なんでこいつは卵を見つめたまま、微動だにしないのかな。
「・・・・・・今日はスクランブルエッグだな」
「うぉい!」
フッと笑った弔に、俺は思わずツッコミを入れてしまった。いや、俺は悪くない。キッチンで光を浴びえて、卵を持っていたこいつが悪いんだ。
あっぶねぇ、なんか見た目は美形だから、どっかの芸能人って思うところだった。
「目玉焼きの方がいいのか?」
「いや、そこは任せるけど。なんで見つめてたのさ?」
「卵の声を聞いていた」
はい?
え、今こいつ、何を言ったのかな? え、真顔、真顔ですぜ皆様。冗談抜きの真面目百パーセントで、言い切りやがりましたよ。
「俺は今、卵の声を聞いていた。こいつがどんな料理になりたいか、聞いていただけだ」
「あ、そう」
「コーヒーでいいか?」
「もらうよ」
反射的に答えると、すぐに俺の前にコーヒーカップが。うん、いい香りだ。
「あれ、何時の間に?」
「さっき淹れておいた」
「さようで」
俺はコーヒーを口に運びながら、弔の背中を見つめる。うん、こいつのスーパーチート染みた料理スキル、そこから派生して未来予知を手に入れたんじゃないかな?
料理限定の。
いやだって、俺がコーヒー頼むってどうして解るのさ。昨日はココアを頼んだし、その前は水だったから。
「おまえの考えくらい読めるさ」
「え? いや、それは、あれか?」
「あれだな」
え、どれ。どれのことだ。親友として同居人として、家族としてはこいつの場合ないだろうから。
「あ、ライク的な?」
「ラブ的だな」
俺は右手に個性で出現させた艦娘の大和の艤装を握り締めていた!
「弔?! 俺は普通に女が好きだぞ!」
「俺もそうだ・・・・・・・ばぁか」
てめぇ、そうやって振り返ってにやりと笑う弔は、すっごいいい絵になっていて、ちょっと悔しかったりする。
いきなりだけど、俺の個性は鎮守府。そこにいるのは艦娘はもちろん、妖精もいる。でも、絶対にいるはずの大淀、間宮、明石はいない。俺の鎮守府は特殊だったから、あの三人の艦娘は着任したくないって拒否されたから。
その変わり、珍獣みたいな二人と、もっと規格外な化け物がいるわけなんだけど、それはおいおい。
朝食が終わった俺は、店の掃除を始めた。
弔は厨房で鼻歌を歌いながら仕込みを最中だ。最初はディナーだけだったこの店も、今では小さいながらもランチをしている。
評判いいらしいけど、俺としては信じられない気持で一杯だ。
「ふむ、いい音色だ」
だってさ、ランチ時に店の片隅でギター弾いている奴がいるんだぜ。
「弔、今度はディナーで歌わないか?」
「止めておく。俺の歌は人に聞かせるものじゃない」
「もったいないな」
笑いながらギターを鳴らすのは、白くて細い指。うん、本当に解らないよな、こんな奴がギターを奏でている姿を目当てに、この店に来るやつもいるって言うんだからさ。
「フフフ、弔と私の合唱が待ち遠しいな」
「俺は料理だけがしたいんだよ、アインズ」
「そう言うな」
丁寧に断られているのに、このガイコツは諦めていないらしい。
はい、俺の転生特典のおまけその三、のようなもの。ギルとコナンに続いて俺が鎮守府時代に拾ったガイコツ。
アインズ・ウール・ゴウンって魔王みたいな奴なんだけど、何故かこいつは普段はギター片手に若大将スタイルで歌唱している。
なんでか、最初に会った時からずっとなんだよな。
「どうしたマスター殿?」
「いや、マスターって呼ぶなよ。この店のマスターは弔なんだから」
「は?」
「え?」
あれ、俺、間違ったこと言ったかな? え、だって料理を作っているのって弔じゃないか。俺は手伝ったことないし、ウェイターの真似ごとしかしてないよな。
「ふむ、私としてはサーヴァントがそう呼んでいたから、マスターと呼ぶ癖がついただけなんだが」
「俺はこの店のオーナーが一郎だから、マスターって呼ぶんだと思っていた」
「え? あれ、俺がオーナー?」
あれぇ、弔が真面目に頷いている。え、俺の名義だったの? え、まっさかぁ。俺は書類を書いてないぜ。
「コナンがやっていた」
「あの名探偵!」
思わず拳を握って立ち上がった俺だが、よくよく思い出してみれば鎮守府時代に書類仕事はあいつに丸投げ、俺はサインだけしていたから、俺のサインや筆跡を真似るなんてできて当然。
「悪いのはマスター殿だったな。昔の悪癖が今の自分の首を絞める」
「ク、昔の俺め。呪ってやる」
アインズの正論に、俺はギュッと拳を握った。
「は?! 出来たぞ! 『呪われよ! 世界中を呪ってやろう! 過去の俺よ呪い殺されるがいい!』だ!」
「・・・・・・・・昼間のランチで歌う曲じゃないな」
「弔、そこは怒っていいと思うぞ」
「いやアインズが嬉しそうだからな」
「おまえ、なんでそんなに優しくて穏やかな性格になったんだよ」
最初の頃、癇癪持ちだったじゃないか。
「人は変われるんだ、一郎」
「あ、そうだね、はい」
穏やかに笑う弔に、何があったかは聞かない。俺がほとんど知っているし、もっと無茶苦茶な状況があったのも知っているから。
超位魔法と次元回廊と崩壊と乖離剣の全力解放って、ぶつかると世界くらい軽く消し飛ぶんだぜ、知ってた?
「はぁぁぁぁぁ」
時間は少しだけ進んで、ランチから少し経ったくらい。今日も商売繁盛、お客様大勢。
そんなわけない、ありえないくらいに入ることはないけど、誰も来ないって日はないのが、この店のおかしいところ。
だってウェイターがプレデターとエイリアンと、時々の俺と真っ黒な黒霧って店だよ。普通に考えて誰も入りたくないでしょう、そんな中に来るって人の感性を疑うね。
時々、店が忙しい時は全員が裏方に回って、表が艦娘の大和と吹雪に、電とかになるけど。エンタープライズやイオナやコンゴウとか入れて頑張っているけど。
あ、アズレンやアルペジオも俺の鎮守府に配属になったことあるから、そっちの艦娘もいるんだよ。それだけじゃないけど。
その時は店が異常な盛り上がりになるから、できれば使いたくないけどさ。
とまあ、そんなことは置いといて。
「なんで溜息なんですか、オールマイト?」
「ああ、すまないね。実は来年から雄英の教師をすることになってね」
「え、ヒーロー引退?」
オールマイトが現場を離れるなんて、どんな心境の変化なんだろ。一生、現場一筋って感じなのに。
「いや、ヒーローは続けるが、現場をよく知る教師が入ったほうが、いずれヒーローとして世の中に出る生徒達の励みになるとか、そういった話があって断れなかったんだよ」
「ああ、なるほど」
へぇ~~世の中は色々と考えているんだ。なるほどなるほど。
今の世界はヒーローとヴィランの二極化らしいし。
「・・・・まあ、そこに不確定勢力が入ってきたんだが、大丈夫だろう」
「まあ、暴れるつもりありませんから」
オールマイトと弔が何か呟いているけど、なんだろう。まあ、いいか。俺に話が来ないってことは、俺には関係ないだろうし。
「個人で世界の総戦力を超えるか。夢幻だと信じたい」
「まあ、あいつですから」
「本当に頼むぞ、死柄木少年」
「あいつに何かない限りは全員が動くことはないですよ」
あれれ~~なんだか危ない話してないかな? ちょっと聞き取れないところもあったけど、全員が動くとか言ってない?
止めてくれよ、俺の鎮守府が最大稼働なんしたら、ヴィランとヒーローの両方から狙われるって。
「で、オールマイトは何をため息ついてるんですか?」
「あ、ああすまないね、田中少年。実は私に教師が出来るか不安があってね」
「見事に世界に教えを振りまいているのに?」
グサっと何かがオールマイトに突き刺さったような気がした。
あれ、俺は地雷を踏み抜いたかな?
「お、教えを振りまいているかね?」
「いやだってナンバーワンでしょ? その言葉の一つ一つが教えみたいに広まっているじゃないですか。それを見本にしてヒーローに憧れた子供たちが育ってるんだから、もう立派な教師じゃないですか?」
「ああ、確かに」
お、弔の同意してくれた。そうだよな、誰もがオールマイトに憧れてヒーローになろうと頑張っているんだからさ。これはもう、知らないうちに誰かを教えているようなもんじゃんか。
「大丈夫ですって! 何時もみたいにやればいいですから」
「何時もみたいにかね?」
「はい! 『私が来た』って!」
カッコイイよな。あのセリフを最初に聞いた時はビビっときたよ。誰もが悲しんでいる中、笑顔で駆け付けるヒーロー。
うん、俺の知っているヒーローたちと同じだった。嵐のように現れて嵐のように去っていく。見返りを求めない、戦いの時だけ現われて、傷だらけになりながらも戦いを収めて去っていくなんて、すっごいヒーローらしいヒーローだったからな。
「そうか。そうだな。ありがとう、田中少年。私はやってみるよ」
「その意気ですよ、オールマイト」
ちょっとだけ背筋が伸びた彼に、俺は精一杯に笑って見せた。
ニカって笑うオールマイト、普段から気づかなかったけど、この人ってやっぱり美形だよな。ドラマになったら二枚目俳優が演じられるくらいに、美形だったんだよな。
ははは、三枚目は俺だけか。
俺はそっと店の隅で涙をぬぐったのでした。
ランチが終わって店を閉めた後、俺は弔と一緒に買い出しに出ていた。
「牛肉が切れた」
「はい?」
「買い物に行くぞ」
「おうさ」
なんて言葉で連れ出されまして、商店街へと歩いていくわけなんですけど。
うん、解っていた。解っていたんだけど、弔って黙って歩いていると美形なんだよね。
朝のことで再確認したけど、こいつって黙って歩いていると、芸能人クラスの美形なんだよ。
色は白いし、シェフやっているから髪型にも気を使っているし、ちょっと目つきが悪いけど、そこは『鋭くて素敵』って言われているからさ。
「なんだ?」
「ちょっと俺のコンプレックスを味わっているだけ」
「坊主にするとか?」
「いや! そこが俺のコンプレックスじゃないし!」
なんでだよ!? なんで俺が坊主になるんだよ! せめて七三くらいに収めてくれよ!
「田中・一郎って坊主じゃないのか?」
「どこのアイデンティティですかねそれ?! 世界中の田中・一郎に謝れ!」
「申し訳ない」
「直球で返すなよおまえ! なんで真っ直ぐに土下座に行くかな?!」
「おまえが『人間の謝意を示すには土下座が一番』だって言っていたからな」
お、俺かぁ。昔の俺はもう弔に常識を教えるために、無茶苦茶やったからな。あの例の先生の影響か、『俺偉い、俺が最高』的な中二がかかる病気な時期もあったから、もう必死でしたよ。
「冗談だ」
「頼むから真顔で冗談を言うな、頼むから」
ニカって笑う弔に、俺は全身で脱力した。
はぁ、確かに黙っていれば美形なんだけど、話してみると親しみやすい奴なんだよな。
「あ、あの」
「あ?」
「何でもないです」
初対面の人以外には。あのさ、女子高生が話しかけてきたんだから、もうちょっとフレンドリーに対応してあげて。
「善処する」
「どっから持ってきた、そのセリフ。なんでおまえ、敬礼しながら言った?」
「ギルがこう言えば一郎が喜ぶって言っていたからな」
「やっぱりおまえか愉悦王!!!」
俺は力の限り叫んだのでした。
弔って、傷がなければ美形だよね、って誰かに言われた。
補足説明として、田中・一郎の鎮守府はできた当初からちょっと規格が外れていまして、艦これなのにアズレンと蒼き鋼のアルペジオだけじゃなくて、軍艦ならばなんでも建造可能となっていました。
マクロスとかガンダムとか、艤装の中身も色々あったりします。
例えば、電の艤装の中身がコロニーレーザーとかゴジラとか。
大和の艤装スロットに『宇宙戦艦ヤマト』が入っていたりとか。
そんな鎮守府が、彼の転生特典『手のひら鎮守府』です。