強個性であり、万能的で無敵でもある。ただし、ストレス耐性と胃薬が必要である『完結』 作:サルスベリ
前話の内容、ヒミコの矜持が今の一郎は間違っていると感じて止めに走り、ヒミコの信念が自分の気持ちを伝えるんだと背中を押した。
で、一郎捕縛。
今回は、めでたしめでたし、ということで終わるわけがない、波乱あってこその一郎でございます風味の話!
人生において、最大の幸運はなんだろう。
どうも、田中・一郎です。
現在、ラスボス前、いざ殲滅戦だ、戦争屋の戦い方を教えてやろう、俺の怒りに震えて眠れってかっこつけたら、我が店の癒し系が突撃してきました。
もう別人ってくらいに勢いよくカチコミしてきて、あまりに理不尽なこと言われたから怒鳴り返したら、告白されました。
はい、今ここ。何を言っているか解らない?
大丈夫、俺も解らない。
だ、誰か。いやコナン達は撤収してないだとぉ?!
なんだあいつら! なんで竹藪とか木の衣裳とか着てるんだよ!
コナンが竹藪なのはいいとして! その黄金に輝いているのはギルか?! ギルなのか?! 英雄王が木の役って、色々な方面に怒られないか?!
そっちの『現在、僕は水たまり』って看板かかげてるのエルだろ?!
ソープぅぅ!! おまえなんで噴水のヴィーナス気取ってんだよ! 似合ってんだよ! 止めろよな!
「一郎君」
「は、はい!!」
ヤバい、不味い、今はヒミコちゃんのことだけ考えよう。えっと、告白されて告白があって、告白だとぉ!!
待って待って!! そりゃ俺は転生者! 何度も人生をやっているから奥さんの一人や二人、あれいたっけ?
あれぇ~~待った待った! 最初の時に艦娘全員に『夜戦しようぜ! 淑女だからな!』されてから、誰かと結婚した記憶がない!?
え、待った、実質的な告白はこれが初めて? え、艦娘は女の子だから、彼女達の告白はカウントしていいはず!
でもあの時は提督だったから、最初から愛情プラス五十くらいあったような。
「一郎君!」
「はい!!」
ヤバい、考えがまとまらない。だってヒミコちゃんだぜ、俺が知る限り艦娘も合わせても上位に入るほどの美人なのに可愛いって、二つの要素が見事に混ざり合った美少女だよ。
その子が俺のこと大好きって、そんな夢みたいなことがあっていいはずない。
と、弔、お前何かしただろ。なんでおまえは屋台を出してんだよ。そこに並んでんの、ヴィランじゃないか。
おいこら! 最前列で焼きそば食ってんのは、オール・フォー・ワンだろうが! なにを和んでんだよ! 俺達はそいつを殺しに来てんだぞ!
「貴様は次の時に、死穢八斎會が殺してやる」
廻ぃぃぃ!! 何、隣に座ってビールを握り潰してんだよ! その横の男の人、オヤジさん? あれ、組長じゃないの!?
「次は負けねぇ」
「フフフ、何度でもエリちゃんを狙っていくからね」
「殺すぞG」
「いいねぇ~~」
な・ご・む・な!!
頼むからもっと殺伐とした戦場らしい空気で戦ってくれ! 間違っても一列に地面に座ってビール飲むような仲じゃないから!
「一郎君?」
「はいぃ!!」
不味い! 本気で不味い! ヒミコちゃん泣きそうじゃんか。男らしくない、こんな可愛い子に告白されて、戸惑っているのは男らしくない。
「解りました、もう一度、言います」
「え、待って!」
「いいから聞いてください!」
「はい!!」
もう一度、もう一度か。よっし、田中・一郎、ここは男らしくヒミコちゃんの気持ちに答えて『はい』と言うんだ!!
言うんだぞ!!
場所の空気が静まり返る。今まで騒いでいた、あるいは酒盛りしていた連中すべてが息を飲み、静かに成り行きを見守る。
ヒミコはゆっくりと息を吸う。まだ脳内麻薬は流れ続けて、もう感覚が解らなくなってきた。
今までの緊張感が嘘のように、スラリスラリと言葉を言えそうだ。今なら何でも言える、彼を見つめてとびきりの笑顔で何でも言えそうだ。
こんなチャンスは二度とない、だから思いっきり言おう。
「田中・一郎君」
ヒミコが言葉を紡ぐ。その小さな声には、妙に色っぽい何かがあって、見ていた男たちはゴクリと唾を飲み込んだ。
その中に、個性を奪うラスボスもいたようだが、周りは誰も気にしていない。
「私は」
一言一言、間違えないように告げる少女の姿は、儚げでか弱く、それでも凛として立つ意思を感じさせる。
まるで華のように、立てば雛菊、座れば牡丹、歩く姿は百合の華。あらゆる華のように雅な彼女に、男たちは自分達の欲望を掻き立てられ。
同時に、そんな彼女の想いを一身に受ける男に嫉妬の目線を向けた。
その中に、かの英雄王は当然に含まれない。黄金の木になりながら、そっと目元をぬぐう。ようやく、彼にも春が来たと。我が事のように喜んでいた。
「トガ・ヒミコと」
先ほどの告白の繰り返し。もう一度、念を押すために声を出す彼女に誰もが頑張れと声援を送る。
しかし、とある名探偵は首をかしげた。あれ、言葉が違うような、と。
顔を真っ赤にして、真っ直ぐに見詰めた少女に対して、田中・一郎は決意を持って見つめ返す。
今度は絶対に間違えないように、すでに口の中に『はい』と待機させて、懸命に想いを告げた少女に答えようとしていた。
「結婚してください!!!」
「はい喜んで!!」
そして、二人の絶叫が響き渡り。
「はぁぁぁぁ!?」
大勢の悲鳴が街を揺らしたのでした。
「いきなりそこかよ?!」
コナン、思わずツッコミで地面を踏み締める。
「うむ見事だぞ! トガ・ヒミコ! 貴様は雑種からレベルアップしてやろう!」
英雄王、ノリノリで黄金の木を破裂させ、周囲一帯を黄金の紙吹雪で満たす。
「いやいや待った待った!」
ようやく気付いたソープが右手をスナップ、見事なツッコミを入れる。
「そうですよ!! まだ交際期間とか恋人期間があるじゃないですか?!」
エルのツッコミは、明後日の方向へ飛んで行った。行方不明なので、探さないように。
「よかろう!! この私! アインズ・ウール・ゴウン自らが祝福の歌を奏でようではないか!!」
最早、祝いたいのか、歌いたいだけなのか解らないアインズは、早々にギターを持ち出して奏で始める。
「そうか、ヒミコが俺の『母』になるのか」
弔、場違いな感動に震える。
「おめでとうございます、ヒミコさん、ようやく貴方の想いは届いたのですね」
真っ直ぐに称賛を贈る黒霧は、そっと目元をハンカチでぬぐった。
「素晴らしい! 見事な告白だった!」
そして、本来の田中・一郎が『殺す気でいた』オール・フォー・ワンはスタンディングで大きく拍手、ついでに振り返ってギャラリー達を盛り上げ、全員でスタンディング、一斉に拍手喝采を行ったのでした。
うわぁ、カオス。
あれぇ~~~待って、俺は何を言われたの。えっと、ちょっと落ち着こうか。
「はい、これに署名をください」
「あ、はい」
えっと、確かオール・フォー・ワンが死穢八斎會を襲って壊滅させて。
「次にここにハンコを」
「あ、うん」
で、エリちゃんが泣いているから、俺が怒って全軍を率いてあいつのアジトに襲撃をかける前に、俺の『手のひら鎮守府』の鎮守府内の会議室で作戦を確認して。
「両方とも未成年なので証人のサインと判子が必要なので」
で、いざ作戦開始って時にヒミコちゃんが止めに入って、色々と怒鳴り合いになって告白されて。
「私のほうはちょっと気不味いので、この場合はオールマイトに頼みましょうか?」
「さすがにオール・フォー・ワンじゃ無理だよなぁ」
「その前にだが、私を縛っている鎖は特殊なものなのだろうか? 先ほどから個性が使えないのだがね?」
「『天の鎖』に『アンドロメダ』の鎖だろ、それと巨人の鎖にバインド系魔法と封印系の魔法縛だから逃げられねぇぞ」
あ、なんか簀巻きになったラスボスいるけど、まあいいや。
廻がゴミを見下ろすような眼で見ているけど、エリちゃんの教育に悪いから止めようねぇ~~。
「はい、我が師よ」
考えを読まないでくれない。
えっと、それよりも今は。ヒミコちゃんに告白されて、それで。
「はっはっはっは!! 私が証人になりに呼び出されてきた!! って、オール・フォー・ワン?!」
「やあ、オールマイト。いい簀巻き日和だね」
「何があったんだ?! いやその前に、何をしたんだ、田中少年?」
お、俺に聞かないでください。
「オールマイト、ここに署名と捺印ください」
「トガ少女? 何々? そうか、そうか・・・・・・ホワイ?!」
「ください、ね?」
「オーライ、任せなさい」
うわぁ、オールマイトがすげぇ震えてサインしてハンコ押してる。あれ、足元に転がっているオール・フォー・ワンがガタガタ震えているんだけど、何でだろう。
あれぇ~~よく見ると、周り中、男は全員が震えているんだけど、何があったのかな。
「というわけで一郎君!」
「は、はい!!」
あ~~凄いいい笑顔したヒミコちゃんが、ハートを飛ばす勢いで振り返っているけど、何があったの。その手の紙はなんだろうね?
「早速、市役所に行きましょう!!」
「あ、うん、そうだね」
「はい!!」
元気いいなぁ、可愛いなぁ、そうかこの子が。
俺の嫁さんかぁ。
ハートと音符が乱舞しているヒミコちゃんに手を引かれて、俺はそのまま市役所に行ったのでした。
あ、うん、そうだね、俺って十八歳にはなっていたんだね。ヒミコちゃん、十六だったの、へぇ~~そっかそっか結婚できるね。
人生の墓場へようこそ、なんて言葉が聞こえてきたよ。
「というわけで!! 今日から私は田中・ヒミコになりました!!」
「え、トガじゃないの?」
「結婚しましたので!」
あれから、色々とありましたよ。もうね、見事に縄抜けしたオール・フォー・ワンとヴィラン達は、一斉に姿を消しましてね。
「発信機、心臓に打ち込んでおいたからな」
「脳細胞にもナノマシンを入れておきました」
「魂にアンカー打ち込んでおいたよ」
コナン、エル、ソープが容赦なく『今ここオール・フォー・ワン』装置を作ったので、あいつが何処にいるか手に取るようにわかるのです。
ヤバい、俺は今あいつにかなり同情している。おまえは、俺を敵にまわしただけにしておけばよかったんだよ、なんでこいつらの怒りを買うようなことしたんだよ。
「ついでに、我の宝具も使っているからな。あいつが逃げられる可能性はゼロだ。良いぞ、マスター、結婚の祝いにこの玩具をくれてやろう」
うわぁ~~ギルが絶好調で笑っているよ。そんなラスボス系玩具なんていらないから、もう見逃してやろうよ。なんか可哀そうになってきたよ。
「一郎さん、何があったんですか?」
「うん、デク君、世界には不思議なことがあるんだよ。君も女の子の扱いには注意しなよ」
「マジで何があったんですか?」
「爆豪君、君はモテるだろうから、余計にね。きちんと女の子に誠実にならないと、後ろから刺されるよ」
二人は俺の言葉に疑問を浮かべていたようだけど、これは先人としてきちんと教えておかないとね。
「大丈夫です!! 一郎君は女の子の扱いはきちんとしています。私が保証しますから!」
「あ、ありがとう、ヒミコちゃん」
「はい!」
あ、可愛い。本当にキラキラ笑顔で見てくるんだよね。でもさ、なんで片手に包丁を持っているのかな?
「料理を教えてもらっています!」
「ヒミコは筋がいいからな」
「まだまだ弔君には負けます。でも一郎君への愛情では私のほうが上です!」
「フ、俺と一郎の絆はおまえに負けない」
「私の愛情も負けません!」
バチバチと、火花が散っているな。本当に、なんでこの二人はそこで張り合うんだろう。
男と女の時点で、勝負にならないでしょうに。
「そういえば、どうするのだ?」
「何をだよ、アインズ?」
思い出したように、ギターの調整をしていたアインズが、こちらをじっと見ていた。
「結婚式だ」
「はぅ?! このヒミコ、一世一代の失敗をしました。考えていませんでした?!」
あ、ヒミコちゃんが崩れ落ちた。
「そうです、油断していました。婚姻届を出したから、夫婦になったからと油断していました。ヒミコの馬鹿、どうしてそこで気づかないの」
「いや、ヒミコちゃん、まだ間に合うから。大丈夫だから」
「新婚旅行も行きたかったのに」
「大丈夫だって」
あ~~落ち込んで泣いている姿も可愛いなぁ。本当、この子が俺の嫁かぁ、世界って不思議なことで溢れているな。
「ごめんなさい、一郎君、私は妻失格です」
「大丈夫だって。そのうちさ、そのうちに行こうよ」
「でも初夜の後に結婚式ってやっていんですか?!」
「あ・・・・・・」
すっごい大声で言ったヒミコちゃんは、自分が言った内容が頭の中で流れたのか、煙を出して固まった。
そして俺はゆっくりと回りを見回して。
「え、終わったの?」
コナン、ギル、エル、ソープ、アインズ、弔、黒霧が言ってきたことに対して、小さく笑った。
「終わったよ、やったよ! 悪いかよ! こんな可愛い嫁さんを貰って手を出さないってことあると思うか?! 俺だって男なんだよ! 一緒に寝ましょうね夫婦なんだから! なんて部屋に入ってこられて我慢できると思うか?! ヒミコちゃんなんだぞ! こんな可愛い子が隣に寝て理性を保てる男がいたらそいつは人外か! 男として終わっている奴だよ!」
「夫婦ならいいんだろ、何を焦ってんだよ、マスター?」
「だったらなんだよさっきのおまえらの反応?!」
「いやぁ~~てっきり緊張のあまり手を出せなくて二人して気絶したんじゃないかって」
は、そんなわけあるか。俺だってその手の経験がないわけじゃないんだから、こんな可愛い嫁さんに手を出さないわけないだろ。
「そっかそっか。で、『オッズはどれだ』?」
は? コナンなんて?
「初日に初夜、大穴だな」
ギル、おまえ、なにを。
「うわぁ、誰も賭けてませんよ」
エル、楽しそうだな。
「だって一郎が初日に手を出すなんて、誰も予想してないよ」
ソープ、ため息つくな。
「ふむ、案外に男だったということか」
アインズ、それはどういう?
「あ~~そっか、そっか」
なるほどなるほど。
「おまえらは人の夫婦生活で賭けごとしてんじゃねぇぇ!」
「ヤバい! マジギレだ! 逃げろ!!」
「コナン! おまえどうせ主犯だろう!」
「さすがだぜマスター! 名探偵になれるぞ!」
「待てコラァァ!!!」
こうして俺は、店と自宅だけじゃなく、街中を舞台にした盛大な鬼ごっこをすることになったのでした。
「はぁ、田中少年、君も奥さんを貰ったのなら、もう少し静かに暮したらどうだね?」
「すみません、オールマイト」
後日、お約束のように俺は彼の前で土下座したのでした。
告白して付き合っていちゃいちゃ、そんなのかけないと思うサルスベリは、いっきに結婚に行きました。
いや、ヒミコの暴走なら、告白のやり直しを勢いのままにやって、結婚までいこそうだなぁと。
そんな馬鹿馬鹿しいランチキ騒ぎ風味でした。
よっし、次からはもっとランチキで頭空っぽの話に戻そうっと。